ビジネスモデルが秀逸なほど周囲との摩擦が起きる。どう立ち回ればよいのか。
アスクル創業者の岩田彰一郎氏は「既得権益者や小売業界との摩擦に頭を悩ませた。しかし『すべてのパートナーは対等であるべき』という信念を貫き通した結果、業績が伸びた」という――。
※本稿は、岩田彰一郎『起業家になる前に知っておいてほしいこと 経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■既得権益者との戦い方
これまでにないビジネスモデルの事業が軌道に乗るのは経営者にとって大きな喜びです。しかし、喜んでばかりはいられません。多くの場合、新たな問題に見舞われることになります。
それは、既得権益を持っている組織からの圧力や抵抗です。
たとえば、競合他社が同様の事業を立ち上げ、ベンチャー企業では対抗できないほどの広告費を投入して、つぶしにかかってくる。こうしたことは、どの業界でもよくあります。
実際には、さらに陰険なことが裏で行われていることもあります。「あの会社と取引をするなら、当社との契約を解除する」などと圧力をかけて、商品の仕入れや卸売りを妨害するようなことです。
こうしたことを仕掛ける人や組織には、いろいろなパターンが考えられます。

1社だけが行っていることもあれば、複数の会社が結託しているケースや、業界団体が圧力をかけてくるケースもあります。業績不振に陥った会社の社員や個人事業主が単独で行うこともあり得ます。
ビジネスモデルが秀逸だからこそ、激しい圧力や抵抗にあうといえるでしょう。
経営者から見れば、「そんな圧力や抵抗には屈しない」といいたくなるところです。
しかし、事業を成功させることを考えると、徹底抗戦だけが正解なのかはわかりません。長期的な視点で判断すると、少しは妥協をしたほうがいいのかもしれません。
どのような対応をするのがベストなのか、いざとなると判断に迷うのではないかと思います。
■絶対にやらなかった「既得権益者の優遇」
アスクルのビジネスモデルも、卸業者さんや小売店さんを介さずに、直接お客様に商品を配送するというものですから、卸業者さんや小売店さんの反発にあうことが予想されました。
そこで行きついたのが、先ほども触れたエージェント制度です。
エージェント制度は、お客様の開拓や与信・回収のコストを抑えるための制度であると同時に、卸業者さんや小売店さんとの共存共栄のための制度でもあります。
既得権益者と真(ま)っ向(こ)うから対決するのではなく、妥協して事業をあきらめるのでもなく、仲間になることを考えたのです。
ただし、エージェント契約をするに当たって、既得権に配慮して条件を優遇するようなことはしませんでした。

たとえば商圏についても、「長くこのエリアで営業してきたので、このエリアは自分たちだけの営業エリアにしてほしい」といわれても、認めませんでした。どのエージェントさんと契約するかはお客様が決めるというルールにしました。
手数料率や支払いサイトも、規模が大きいエージェントさんだから優遇するといったことはせず、すべてのエージェントさんを同じ条件にしました。
■すべてのパートナーは対等であるべき
さらに、アスクルへの注文に必要なカタログは無料で配らず、エージェントさんと制作費を折半したのですが、これについても、特定のエージェントさんに便宜を図ることはしませんでした。
なぜすべて一律にしたかといえば、誰かを特別扱いすれば、それが新たな既得権益となって、他のエージェントさんに必ず不満が生まれるからです。既得権益がなく、新たにアスクルのエージェントとして頑張ろうとしている人たちのやる気を削(そ)ぐことになります。
私は、「すべてのパートナーは対等であるべき」という「イコールパートナー」の考え方を持っています。それを貫き通すことが大切だと考えたのです。
イコールパートナーの方針をチャンスと捉える、チャレンジ精神とやる気のある会社も、どんどんあらわれました。そうしたエージェントさんが営業努力をすることで、大きな売上をあげる事例が次々と出てきました。文具店だけでなく、家具店や食品問屋など、異業種から参入したエージェントさんも好調な売上を見せるようになりました。
■割引販売に対する業界団体からの「猛反発」
ただ、これですべてがうまくいったわけではありません。
エージェント制度に賛同していただいた小売店さんもある一方で、「アスクルに仕事を奪われている」という認識の小売店さんも、依然としてありました。アスクルの初期の広告では、「もう買いに行かなくてもいいね」をキャッチコピーにしていましたから、反感を持つ小売店さんがあったのも無理はありません。
業界団体や一部の小売店さんから「プラス製品を買うな」という不買運動を起こされたり、業界団体からメーカーさんに対して「アスクルには商品を卸すな」と圧力がかかったりしました。
さらに、くすぶっていた火種が、割引販売を始めたことで爆発しました。
お客様のご要望に合わせ、多くの商品の価格を定価の30%引きにしたことで、定価販売をしていた小売店さんは大きな危機感を持たれたようでした。
業界団体に呼ばれて、「このままだとメーカーから商品が入ってこなくなるぞ」「安売りもそこそこにしておけよ」などと直接的に警告されたこともありました。
私だけが反感を買うのであればいいのですが、アスクルやプラスの経営陣や社員にも矛先(ほこさき)が向いたので、私も不安を感じました。その頃、社員からは「電車のホームでは端を歩かないようにしてくださいね」などと冗談めかしていわれていましたが、本心では最悪の事態が起こらないことを祈っていました。
また、一部のメーカーさんから商品を仕入れられなくなると、お客様の欲しい商品を取り扱えなくなりますから、それも痛手です。
■圧力に屈しないが反対派の排除もしない
こうした業界の反発に対して、割引販売をやめるという選択肢もあったかもしれません。しかし、私は事業の方針を曲げるつもりはありませんでした。
とはいえ、敵対するつもりもありませんでした。

もともと私たちは、既存の小売店さんの売上を奪うのではなく、小売店さんにエージェントさんになっていただくことで、共存共栄したいと考えているわけです。ですから、はじめは反発していた小売店さんがエージェントになりたいと希望したら、排除するようなことはしませんでした。
アスクルが成長するにしたがって、反対派から転じてエージェントさんになる小売店さんも増えてきました。
そして、成長を続けるうち、業界からの反対運動は、いつの間にか消えていきました。
この事例は、一見、「既得権益を持つ抵抗勢力と真っ向から対決し、アスクルに賛同するメーカーさんやエージェントさんとだけ取引をした」というように見えるかもしれません。
反対運動があっても、アスクルに賛同してくれたメーカーさんやエージェントさんに頑張っていただけたからこそ、反対派が軟化した側面があるのは事実だと思います。
しかし、繰り返しになりますが、反対運動をしていた小売店さんなどを敵視するのではなく、いつでも仲間として迎え入れるという姿勢を貫いていました。だからこそ、反対派から転じてエージェントさんになった小売店さんが増え、文具業界からの圧力が弱まったのではないでしょうか。
既得権益を持つ勢力に屈しないけれども、排除することなく、仲間に迎え入れる姿勢を持つ。新規事業を行う時は、そんなスタンスでいることが大切だというのが、私の実感です。

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岩田 彰一郎(いわた・しょういちろう)

アスクル創業者/フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO

1950年、大阪府生まれ。1973年、慶應義塾大学卒業後、ライオン油脂(現・ライオン)入社。
「free & free」などのヒット商品を手がける。1986年、プラス入社。1992年、同社営業本部アスクル事業推進室室長。翌年、アスクル事業を開始。1997年、アスクル事業がプラスから分社し、アスクル代表取締役社長に就任。2000年、同社代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。2012年、LOHACOをサービス開始。2019年8月、退任。2019年9月、フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、代表取締役CEOに就任。大手企業のイノベーションの推進およびベンチャー企業のハンズオンによる育成を行う。

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(アスクル創業者/フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO 岩田 彰一郎)
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