東京で家を買うのは、いまや簡単ではない。新築マンションは高騰し、住宅ローン金利も上昇している。
そんな中で発表された「住みたい街ランキング」。だが、実際に家を買う人が選んでいる街は、その順位とは大きく違っているという。いま「買って住みたい街」の上位には、意外な街が並んでいる。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんが読み解く――。
■「住みたい街」の理想と現実
住居費は家計費における最大の支出だ。できれば安く済むに越したことはない。しかし、家賃にしろ住宅ローンにしろ、やりくりでなんとかなる余地がないのが厄介だ。
しかも、不動産の販売価格は右肩上がり、住宅ローン金利も上昇している。一方では賃貸物件の家賃も上がり気味だ。じりじり上がる住居費に頭を悩ませている人は多いだろう。
そんな折、この時期ならではの「住みたい街ランキング」が立て続けに発表された。一つはリクルートの「SUUMO住みたい街ランキング2026」、もう一つがLIFULLの「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング」。

ただし、2つのランキングは集計方法が異なっている。SUUMOは首都圏の居住者を対象にしたアンケート形式で、LIFULL HOME'Sは、ユーザーが問い合わせした物件数を駅別に集計した結果になっている。「住みたい」イメージ優先の街か、現実に家賃や立地を考慮した現実的な街か、という違いだと思えばいい。
■ファミリー層が住みにくくなった東京
ランキング結果に触れる前に、首都圏に住む人の現状を見ておこう。2026年2月に発表された「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」から、それを紐解いてみる。
東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)への2025年の転入者は45万人で、2024年より1万人弱減っている。転出者も33.7万人で、同じく6000人程度の微減だ。東京都だけで見ると転入者は39.7万人、転出者は33.2万人。
東京・千葉・埼玉・神奈川のうち、出ていく人より入ってくる人が多い転入超過数が拡大しているのは千葉県だけ。出ていく人も多いというわけだ。
年代で見ると、よりはっきり見えてくる。入ってくる人数が一番多いのが20~24歳、ついで25~29歳、そして15~19歳と続く。
これは進学及び就職の関係だろう。
逆に、出ていく人の方が多い転出超過数は60~64歳が最も多く、次いで55~59歳、65~69歳となっている。さらに、45歳~49歳も前年と比べて出ていく数が増えているとか。これは首都圏合計の数字だが、LIFULL HOME'Sの資料によると、東京都に絞ると35~59歳及び60歳以上の転出者が増えている。その世代が東京を離れているようだ。
理由の一つは、やはり住居費だろう。都内、特に23区内でファミリータイプの部屋を借りようとすると平均で月20万円を超える。一人暮らしの若者なら利便性重視で都内に住みたいだろうが、ファミリー世帯が教育費も物価も高い東京から出て行こうと考えるのも止むをえない。
■理想が反映される「住みたい街」
では住みたい街ランキングに戻ろう。まず、アンケート回答をもとにしたSUUMOだ。
1位 横浜

2位 大宮

3位 吉祥寺

4位 恵比寿

5位 東京
横浜は9年連続1位、大宮は2年連続の2位となっている。なお、SUUMOは首都圏でも家賃が比較的安くすむ注目の街として、船橋駅(千葉県船橋市)、つくば駅(茨城県つくば市)を挙げている。
船橋の家賃は13.6万円、つくばは9.7万円と確かに割安だ(いずれもカップル&ファミリー向け物件)。
なお、つくば市は人口増加率が全国3位と、移住してくる人が増えているそうで、特にファミリー層の支持が高い。つくばが評価された理由のトップが「教育環境が充実している」ことだ。自然の中に研究機関が点在する“研究学園都市”で、教育移住先としても人気だという。
アクセスはつくばエクスプレスを使えば秋葉原まで最短45分。「住んでみたい」というイメージも大事だが、家賃の安さや子育て環境等の実利を優先する消費者が増えているということか。(出所:「住みたい街ランキング2026 首都圏版」東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県に居住する20~40代男女によるアンケート調査)
■意外な「買って住みたい街」の顔ぶれ
次にLIFULL HOME'Sのランキングだ。こちらには「借りて住みたい」「買って住みたい」の2種類がある。「借りて……」は単身者を含むため、ファミリー色強めの「買って住みたい」ランキングの方を紹介しよう。
1位 湯河原

2位 八王子

3位 八街

4位 不動前

5位 田町
上位に意外な顔ぶれが並んだ。買おうとする以上、短期で住み替えるのではなく、その土地に根を下ろすつもりで選ぶ人が多いだろう。その1位が湯河原(神奈川県)とは驚く。
住むというより訪れる観光地のイメージが強いのは言わずもがな。そもそも「東京」から100km圏で、所要時間約90分の駅が1位を獲得したことは初めてだという。
2位3位も都心から40~50キロほど離れており、郊外エリアだけでトップスリーを占めるのも同ランキングで初だそうだ。SUUMOが注目するつくば市もそうだが、郊外化への流れは確実といえる。
湯河原がなぜ人気なのか。ご存じのように温泉や海といったリゾート要素があること、物件価格も手ごろなことがあげられる。中古マンションが2000万円以内と手が届きやすい。また通勤時間も新幹線を活用すれば東京駅まで1時間弱だ。東京圏に毎日通勤すると考えれば厳しいが、リモートワークが併用できる環境なら悪くない。
そもそも、「買って住む」と、リタイア後もそこに暮らすことになる。老後の住まいが自然豊かな温泉地にあると思えば、これは魅力的だろう。同じような視点か、スキーリゾートである越後湯沢への問い合わせ数も伸びているという。

どうせ都心から離れた場所に家を買うならば、リタイア後に自分が望む暮らしが叶うような場所を先に探す、というのは人生100年時代にふさわしい思考かもしれない。
■都心への距離の近さより、快適に通勤できるかがポイントに
東京都心に通勤する際、時間的な利便性を考えれば職場に近いに越したことはない。とはいえ、都心の物件は高いし狭い。家計にも優しくない。その合理的な解決法として、「距離よりも快適性」という考え方がある。都心から距離はあっても、電車の始発駅であるとか、有料特急が止まる(有料指定席が利用できる)駅で物件を探すというのだ。
LIFULL HOME'Sによると、そうした駅物件への問い合わせは実際に増えているという。
例えば埼玉県の飯能駅。始発が多いだけでなく、全席指定の特急ラビューを使うと池袋まで約50分で到着する。神奈川県の海老名は、小田急電鉄のロマンスカー・モーニングウェイ号で新宿まで約50分となり、千代田線直通の列車を選べば大手町まで乗り換えなしで行ける。
ただし、こうした列車を利用するには、運賃に加えて特急券や座席指定券を買う必要がある。主な私鉄の場合、上乗せになる料金は片道600~650円程度で、往復では1200~1300円。
リモートワーク併用で、一週間の出社日が4日間だとした場合、ひと月換算で2万円程度の自己負担となるが、都心に住む住居費と比較すると安く済む場合もあるだろう。
■自治体・鉄道会社の後押しも
各鉄道会社もこうした需要に応えて、通勤時間帯に有料特急を走らせているが、ロマンスカーやスカイライナー等のゆったりした車両を使い、PCが置ける広いテーブルや車内Wi-Fiを備えるなど、通勤時間を有効かつ快適に過ごせるよう工夫を凝らす。鉄道会社にとっても伸びしろのあるビジネスチャンスだろう。
湯河原は新幹線を使えば都心へ1時間程度のアクセスだと書いたが、実は新幹線通勤に補助を出す自治体も複数ある。その自治体に外から転入(移住)し、首都圏に通勤する人を対象として、新幹線定期券購入に補助金を出すパターンが多い。
栃木県那須塩原市では月額最大1万円×最大5年、栃木県宇都宮市では月額最大1万円×最大3年、長野県佐久市では月額最大2万円×最大2年、新潟県湯沢町では月額最大5万円×最大10年など(2025年度の例)。
自治体によって年齢制限など適用条件があるので、誰でも必ず補助対象になるわけではないが、東京から離れた場所に家を購入する際の後押しにはなりそうだ。
■住居費以外の出費増を忘れてはいけない
特急や新幹線を利用して快適に通勤しながら、「心地よい暮らし」を得られる郊外に住む。LIFULL HOME'Sでは、こうしたトレンドを「こちくら郊外」と名付けた。湯河原への問い合わせが増えているのは、まさにそうした観点によるものだろう。
温泉やスキーが楽しめる地方への移住といえば、リタイア後のセカンドライフに限られると思ってきたが、認識をアップデートしたほうがいいかもしれない。都市部の物件高騰を嫌い、自然豊かな郊外に割安なマイホームを買いたいと望む現役世代がさらに増えてくれば、そうした層向けの分譲開発が進むだろうし、自治体側も移住者向けの補助金を整えて歓迎するだろう。双方にとってウインウインの関係が生まれそうだ。
とはいえ、いきなり地方移住というのは乱暴だ。何度かその土地に赴いて滞在し、生活環境や物価水準、子どもがいるなら教育環境そして医療設備も確かめておきたい。また、地方都市ではマイカー移動が当たり前で、夫婦がそれぞれ1台ずつ所有することも普通にある。
住居費は下がったとしても、これまでなかった車の維持費やガソリン代の負担が上乗せになる点も想定しなくてはいけない。いきなり物件購入を決めるのではなく、一戸建てを借りてお試し移住という方法もあるだろう。
現状では、ファミリー層を中心に、住みたい街が郊外化する流れは止まりそうにない。どこで暮らすかは、大げさに言えば自分と家族の人生を方向付ける要素となる。家を買うこと=老後に重視したい暮らし方を考える機会とも言えそうだ。

----------

松崎 のり子(まつざき・のりこ)

消費経済ジャーナリスト

『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。

----------

(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
編集部おすすめ