■ゴリラの婚活は「音」で決まる
アフリカでゴリラのドキュメンタリー作品を撮り続けて13年。ゴリラはオス一頭とメス複数頭からなる「ハーレム」を形成するのですが、彼らの恋愛におけるオスの役割は、意外なほどシンプルだと感じてます。
彼らの婚活は、まず「音」によって始まります。ジャングルの中で、オスは「ネイ・ボーカリゼーション」と呼ばれる独特の声を上げます。これは馬のいななきに似た「ヒヒーン」というような声で、周囲のメスたちに自分の存在と交尾への意欲をアピールするのです。
また、よく知られている「ドラミング(胸を叩く行動)」も重要な求愛行動の一つです。この音は密林の中で2キロ先まで響き渡るといわれ、遠く離れたメスに自分の居場所と強さを知らせる役割を果たします。
音がメスを引き寄せた後は、視覚的なアピールに移ります。「ストラットスタンス」と呼ばれるポーズがその代表です。手足を突っ張り、背中を美しく反らせて、自分を大きく見せるのです。
ゴリラの世界では、腕が長く、足が短く、背中が引き締まっているオスが「イケメン」とされます。
このように、オスは音で集客し、ビジュアルで性的魅力をプレゼンするという、非常に分かりやすい手順を踏んでパートナーを探します。
■意外と“あざとい”メスゴリラの駆け引き
オスのアプローチが直球であるのに対し、メスゴリラの駆け引きは非常にバリエーション豊かで、人間から見ても「あざとい」と感じるほど巧妙です。
専門用語で「ソリシット(誘惑)」と呼ばれるこの行動には、それぞれのメスの個性が色濃く出ます。最も基本的なのは「見つめる」ことです。ゴリラの世界では、じっと目を見つめ合うことが好意のサインになります。
それだけではありません。寝ているオスの鼻先にわざと枝をちょこんと投げたり、通りすがりにお尻に顔を近づけたり、オスの豊かな胸毛に自分の足を乗せたりすることさえあります。
さらに高等なテクニックとして「焦らし」があります。オスからの誘いを受けて、一度は近くに行くものの、わざと素っ気なく背を向けて離れていくのです。これによってオスの狩猟本能を刺激し、さらに強く自分を求めさせようとします。
現地のトラッカー(案内人)たちは、こうしたやり取りを「ネゴシエーション(交渉)」と呼んでいます。ハーレムにおいては、オスが一方的に相手を選ぶのではなく、メスが主導権を握って交渉し、合意形成を図っているのです。
■「高齢のメス」がモテまくる意外な理由
ゴリラのハーレムにおいて、われわれ人間から見てもっとも興味深い現象の一つが「高齢のメスがモテる」という事実です。
人間社会の常識で考えれば、若いメスの方がオスからの人気が高いように思えるかもしれません。しかし、若いオスが独立して新しいハーレムを作る際、パートナーとして選ぶのは、しばしば母親ほど年の離れたベテランのメスなのです。これには明確な理由があります。若いオスには、群れを統率するための経験と知恵が不足しているからです。
高齢のメスは、長年の経験から「群れのマネジメント能力」に長けています。メス同士の喧嘩を仲裁したり、危険を察知して移動のタイミングを促したりと、若いリーダーを補佐する「女房役」として機能します。
また、ゴリラには人間のような閉経がありません。死ぬまで現役で子供を産み、育てることができます。つまり、高齢メスは繁殖能力を維持しつつ、子育てのノウハウも熟知し、さらには組織運営のスキルまで持っている「スーパーキャリアウーマン」なのです。
特にオスにとって、これほど頼りになるパートナーはいません。場合によっては、ハーレムのなかでオスよりも高齢のメスが力を持つパターンも少なくありません。ゴリラの世界では、若さという一過性の価値よりも、経験と知恵という実質的な価値が重んじられているのです。
■「モテるオスゴリラ」の条件
では、逆にメスから選ばれる「モテるオス」の条件とは何でしょうか。
一般的には、体が大きくて力が強い「強さ」や、子供の面倒見が良い「イクメン」などの要素が挙げられます。しかし、長年ゴリラを観察してきて分かった究極の条件は、意外にも「グルメであること」でした。
マウンテンゴリラの主食は草や木の皮ですが、その中でも特に栄養価が高く、美味しい植物が群生している場所を知っているオスが、圧倒的にモテるのです。具体的にはジャイアントセロリやベリー類、旬のたけのこなどの植物や果物です。
ハーレムには縄張りがないため、森の中を移動しながら食事場所を探さなければなりません。たとえば、ダメなオスは、メスたちを歩かせ続けたのに、食べ物を見つけられないこともあります。一方で、森の音を聞き分け、他の群れがいない安全で豊かな食事場所へと群れを導くことができるオスには優れたリーダーとしての資質があり、メスからモテるのです。
美味しいものをたっぷり食べさせてくれるオスには、自然とメスたちがついていきます。
身体的な性豪であることよりも、群れ全体をひもじい思いにさせない「甲斐性」こそが、オスゴリラの最大の魅力なのです。
■かつては人間も「目」で恋愛をしていた
ゴリラの取材を続けていて最も感動するのは、彼らが言葉を持たない分、「目」で雄弁に語りかけてくることです。人間とゴリラが進化の過程で分岐したのは約800万~1000万年前と言われています。「ヒトはいつ言葉を獲得したのか」というテーマについてはさまざまな議論がありますが、5~7万年前、あるいは20~30万年前からだと言われています。
つまり、人類の歴史の大部分において、私たちもゴリラと同じように、目や表情、仕草だけでコミュニケーションを取っていたはずなのです。
私がルワンダで観察していたあるメスゴリラは、出産した直後に、私の目の前まで赤ちゃんを抱いて見せに来てくれました。彼女はハーレムの中での地位が低く、なかなかいじめられて苦労していた個体でした。
私は撮影しながらずっと彼女のことを心配していたのですが、彼女はその視線を感じ取っていたのでしょう。「もう大丈夫よ、赤ちゃんができたから」と報告するかのように、私の目をじっと見つめてきました。その瞬間、言葉を超えて心が通じ合ったと感じました。
現代の人間社会では、SNSやマッチングアプリなど、文字やデータだけのコミュニケーションが増えています。しかし、私たちの中には、かつて800万~1000万年以上もの間、目で見つめ合い、心を通わせていた記憶が眠っているはずです。
ゴリラの姿は、私たちが忘れかけている「対面して目を見ること」の重要性を、静かに教えてくれている気がします。
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森 啓子(もり・けいこ)
動物ジャーナリスト
1970年代にテレビ業界に飛び込み、情報番組や料理番組に携わる。その後、自然環境を取り上げるドキュメンタリー番組のディレクターとなる。主な担当番組にTBS「新世界紀行」、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」、NHK「地球!ふしぎ大自然」「ハイビジョン特集などがある。1998年にコンゴ(旧ザイール)でゴリラのドキュメンタリー番組を制作。動物の撮影歴は30年以上。ゴリラに魅せられ、アフリカ・ルワンダに居を構えてマウンテンゴリラを撮影する生活を13年間続け、現在はその映像を編集している。
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(動物ジャーナリスト 森 啓子)

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