※本稿は、粂田将伸『起業の方程式』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■売上を増やす3つのドライバー
売上を10%、20%増やすのではなく、2倍、10倍にするには何をすればいいのでしょうか?
アメリカのマーケティング・経営コンサルタントのジェイ・エイブラハムは、『ハイパワー・マーケティング 「卓越」のビジネスを築く21の原則』(ダイレクト出版刊)で、売上を増やす3要素を挙げています。
1 クライアントの数を増やす
2 平均クライアント単価を上げる
3 購買頻度を高める
本書ではこの概念を簡略化し、「売上を増やす3つのドライバー」として以下のように定義します。
1 顧客数
2 単価
3 リピート
それぞれの要素を足し算するのではなく、掛け算していくところがポイントです。
たとえば、クライアントの数が100社、クライアントの単価(1社あたりの平均販売額)が100万円、クライアントのリピート(購買頻度)が年1回の会社の場合、3つの要素を10%ずつ増やしていくとどうなるでしょうか。
Before
100社×100万円×年1回購入
=売上1億円
After
100社×110%×100万×110%×年1回購入×110%
=売上1億3310万円
もともと売上が1億円だったのが、33.1%増え、1億3310万円になります。
それぞれの要素を26%ずつ増やせば、売上は2倍になります。
100社×126%×100万×126%×年1回購入×126%
=売上2億3万7600円
■毎年10%を8年続けると9.85倍になる
では、売上を10倍にするには、どうすればいいでしょうか?
それぞれの要素を1年間で2.16倍ずつ増やせば10倍になりますが、さすがに1年で売上を10倍にするのは現実的ではないと思います。
100社×2.16×100万×2.16×年1回購入×2.16
=売上10億776万9600円
1年ではなく、数年かけて売上が10倍になることを考えてみましょう。
「顧客数」「単価」「リピート」それぞれを毎年10%ずつ増やした場合、8年目に売上が9.85倍になります。毎年20%ずつ増やした場合は、4年目に8.9倍、5年目に15.4倍になります。
3つの要素を毎年20%増やしていくのはチャレンジングだとしても、毎年10%ずつであれば可能性を見い出せないでしょうか?
3つの要素を毎年10%増やすようマインドシフトしていけば、その掛け算が指数関数的に売上を増やしていきます。
以降、「顧客数」「単価」「リピート」を増やす方法を解説していきます。
■顧客数を増やす
顧客数を増やす第一歩は、見込客が自社と出会う「認知・接点」をいかに作るかです。
お金がないスタートアップが効率的に見込客との接点を作るには、何をすればいいのでしょうか?
■紹介からのインタビューで接点をつくる
信頼を伴った顧客獲得ルートである「紹介」設計は、資金もブランド力も限られる初期段階では、広告や飛び込み営業よりも営業効率が高いです。
自分の知人がXとして、Xに知人のYを紹介してもらい、さらにYに知人のZを紹介してもらえないか試してみましょう。
まず、ビジネス上のこれまでの知り合い、友人、株主、銀行、税理士、仕入れ先、コミュニティといったXをリスト化します。
そして、「当社サービスの関連する課題をもっている人がまわりにいらっしゃいませんか?」とXに質問し、もしいたらご紹介くださいと依頼します。
紹介依頼を受ける人は、紹介文を作るのに手間がかかってしまいます。そのままメールなどで転送可能な紹介文を事前に作っておき、紹介依頼者に渡すと、紹介の実行率が格段に上がります。
Yには、「セールス」ではなく「インタビュー」という形で依頼するのがポイントです。セールスは「売上のため」「自己都合」と見られがちなのに対し、インタビューは「売り込まれない」「考えや経験をシェアできる」という潜在的な期待があるからです。
知り合いのXならば信頼関係でインタビューを受けてくれるかもしれませんが、知り合いでないYにインタビューを依頼する場合、なんらかの特典が必要です。
インタビュー特典の例
B向け
・成功事例集、失敗事例集、業界レポート、ノウハウ資料、最新トレンド
・書籍プレゼント
・調査結果の先行共有
・自社サービスの試供品
C向け
・食事券やカフェバウチャー、Amazonギフト券(家族、友達紹介特典)
・ミール招待(インタビュー後の食事)
・オリジナルグッズ(ノート、ボトルなど)
・自社サービスの試供品
B向けC向け両方に使える工夫
・選べる特典形式にする(「A:業界レポート」「B:書籍」「C:慈善団体に寄付」から選択など)
■年間230程度のランチチャンスの活用も
インタビューの依頼をするのではなく、「ランチをしませんか?」と言って、毎日お昼にアポを入れるのも効果的です。土日祝日を除くと年間230回程度のランチチャンスがあります。ランチタイムを見込客との接点構築に有効活用できます。
Yにインタビューを実施したときに、同じ課題を抱えている知人、ビジネス上の取引先、知り合い=Zがいないか聞いてみましょう。もしいれば、同じ方法で紹介を依頼し、接点を広げていけます。
インタビューは、一見すると単発の人脈の橋渡しにすぎず、スケールしにくいやり方です。それでもやるべき理由は、営業色を抑えつつ、見込み客と自然に接点をつくりながら、生の声から課題や利用シーンを把握できる点にあります。
これにより、机上の仮説検証を超えて隠れたニーズや競合が見落としている不便を発見し、商品開発の差別化要素や改善点に直結します。さらに、顧客の言葉をそのままマーケティングコピーに活かせるだけでなく、「自分の意見が商品に反映される」という参加意識を生み、初期ユーザーをファンとして巻き込むことも可能です。
結果として、課題解決の提案がその場で受注や先行購入につながるなど、開発と販売を同時に推進できる強力な手法となります。
特典プログラム、成功体験を共有したくなる仕掛け、あるいは紹介の声が自然に広がるタイミングでのフォロー設計などを導入すれば、紹介は「思わぬ広がり」から「再現性ある見込み客獲得のエンジン」へと進化します。
■自社にない顧客基盤をもつところと提携する
自社単独ではリーチできない顧客基盤を獲得する方法として、提携があります。
○代わりに売ってもらう
とある企業は、広告代理店から出資を受け、戦略的に営業代理店へ通常の手数料率よりも高い費用を払い、一気にシェアを獲得しました。
また、自社サービスを他社の商材ラインナップに組み込み、併売してもらう方法もあります(地方銀行が法人向け口座開設パッケージの中に、自社のクラウド会計ソフトを組み込み提供するなど)。
○共同でマーケティングする
代わりに売ってもらうのではなく、共同でマーケティングする形の提携もあります。
● 共催セミナー/イベント → 双方のリードを共有。顧客獲得効率が高い
● コンテンツ連携 → ホワイトペーパーやケーススタディを共同発行
● クロスマーケティング → 既存顧客への相互紹介やバンドル販売
代わりに売ってもらうモデルは、短期的に販路を広げやすい反面、代理店へのインセンティブ次第で代理店が十分に動かないリスクや、顧客接点/ノウハウといった資産が自社に残りにくいという課題があります。
一方、共同でマーケティングするモデルは、手間はかかる一方、マーケティング資産を相互に共有・共創することで、ブランド力や顧客基盤を育てることができる可能性があります。ただし、その成果が自社に積み上がるか、相手に積み上がるかは、提携の設計次第です。
曖昧な口約束を避け、責任範囲や品質基準、データの取り扱いを明文化しましょう。これにより、解釈のズレを防ぎ、トラブルの予防線となります。
■トラフィックに便乗する
見込客が集まる場所に行って接点を作る「トラフィック便乗作戦」も有効です。
Airbnbは創業初期、短期滞在ニーズが集まるCraigslist(地域に根ざした掲示板サイト)の巨大トラフィックを活用するため、宿泊施設のオーナーが掲載情報を自社サイトに登録すると、その情報をCraigslistにもワンクリックで投稿できる仕組みを開発しました。
広告費に大きく依存せずに、Craigslistに掲載される宿泊物件情報を通じて自社サイトに宿泊したいユーザーを獲得でき、大きな成長につながりました。
とあるスタートアップは、創業初期に当時業界No.1企業の潜在顧客が抱えていた課題や悩みに答える記事を大量に作成しました。SEOで上位表示されることで、その記事から自社への購買に至る導線を作り、業界No.1のポジションを築くきっかけになりました。
多くのトラフィックが発生している業界No.1企業の顧客の課題や悩み、その顧客が何を検索して流入しているかを研究し、見込客を流入させる仕組みを作った好例といえるでしょう。
トラフィックのある場所はネットに限りません。有名大学の正門前で、アンケート回答者にモバイルバッテリーを配り、新卒求職者のリストを獲得したHR系企業の例もあります。
トラフィックが集まる場所を探すには、以下のような方法があります。
● Similarwebなどを使い、競合の流入チャネルを分析する
● Googleキーワードプランナー、検索トレンド、SNSのハッシュタグを分析する+KWTOOLなどを使う
● FacebookグループやLINEオープンチャットなどのコミュニティを検索
● 業界イベント、資格試験会場、大学前など「属性が集中している場」を調べる
■自社発信する
自社での発信は、即効性に乏しい場合もあるものの、定期的に継続することで潜在顧客基盤を作ることができます。おもな認知接点は以下になります。
● 自社Webサイト・ブログ
● 公式SNS(X、LINE、YouTubeなど)
● メール(メルマガ)
● イベント(ウェビナー)
とある企業は、メルマガ配信と同時にダイレクトメールを郵送し、その中に興味を引くメッセージと動画へ誘導するQRコードを組み込んだところ、想定以上のアクセス増加につながりました。以降、その施策を定期的におこなっています。
接点を1回だけでなく、短期間に、オフラインも含めて複数回持つことで顧客の関心を段階的に高めていくことができます。オンラインのみの接点構築だけでなく、ダイレクトメールが自宅やオフィスに届くようなオフライン施策も連動させるのがポイントです。
とあるフィンテック系企業は、見込客が自ら集まる場所=比較サイトを運営し、潜在的な顧客リストを作りながら顧客の声を聞く仕組みを作り、マネタイズに向けた導線を構築しました。同様の成功を収めたネット印刷企業もあります。
■第三者に発信してもらう
メディアで紹介されることは、第三者の評価として信頼を高め、新たな認知を拡大することにつながります。
多くの企業は広告費の投下と営業の採用に時間とお金を使っていますが、記者やWeb系メディアといった発信者を味方につけることに時間を使っているでしょうか? 広告費に投下する予算が限られるなか、新聞や雑誌の記者、Web系の発信者に自社の応援団になっていただければ100人力です。
まずは自社が扱ってほしいテーマに強い発信者を見つけましょう。リアル媒体の場合は図書館やネットの雑誌読み放題サービスで確認、ネット媒体の場合は関連するキーワードで検索すると有効です。
SNSやブログなどネット系メディアでは、発信者に「いいね」やコメントで積極的にフィードバックし、エンゲージメントを築くことが大切です。連絡が取れる場合は、発信者の関心やニーズに合ったコンテンツを提供しましょう。
直接連絡することが難しければ、Facebookで共通の友人から紹介してもらう、登壇者や対談相手を通じてつながるといった方法もあります。
新聞や雑誌の場合は、まず署名記事を探し、記者名を確認します。
もし共通のつながりが見つからない場合は、一筆箋に署名記事への感想と自社の事業内容、そして新しいサービスが出た際にご報告したい旨を自筆で書き、記者宛に送るのも効果的です。
封筒の表に「署名記事を拝見しました」と朱書きすると、目に留まりやすくなります。1回で返信が来ることは少ないですが、3回ほど繰り返すことで、記者と連絡がとれ、記事化される可能性がぐっと高まります。
記者が求めているのは以下の要素です。
1 新規性 → 世の中にまだ知られていない情報か
2 社会的インパクト → 読者・視聴者に当事者意識を喚起できるか
3 トレンド → 社会の変化の流れに沿った話か
これらを意識して、情報提供をおこないましょう。
記事に掲載された後は、掲載記事の切り抜きとともに御礼の手紙を送ることで、記者との長期的な関係構築につながります。
■広告を出す
広告のメリットは、短期間で狙った見込客にリーチできる点にあります。おもな認知接点には以下のものがあります。
● Web広告(検索、ディスプレイ、SNS、アプリ内)
● マスメディア広告(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)
● 屋外・交通広告(屋外看板、交通媒体、リテールサイネージ)
freeeは、2013年にGoogle検索広告を開始し、キーワード拡張とモバイル最適化で未到達層へリーチしたところ、短期間でユーザー獲得数が2倍以上となり、リリース後1年4カ月で10万超の事業所を獲得しました。
※https://services.google.com/fh/files/misc/google-cs-freee.pdf
広告を活用する際には、広告費を大きく投下する前に、まず費用対効果が合うか小さくテストをしてから、最も効果的なものに広告費を投下していくことが肝要です。
■見込客を増やす6つの打ち手まとめ
スタートアップはリソース(人・お金・時間)が限られるため、すべての打ち手を同時に走らせるのは困難です。そのため、それぞれの打ち手の特性を見極めながら、現段階で最も投資対効果が高いと思われる方法を選ぶ必要があります。
これまで見てきた6つの方法は、それぞれ特性が異なります。
①紹介からのインタビュー
信頼性は高いが再現性が低い。仕組み次第で持続的な拡張力に変えられる。初期フェーズで商品開発と顧客発見に用い、中長期で持続的な顧客導線に活用できる。
②提携
構築に時間はかかるが、再現性/スケール性がある。
③トラフィック便乗
短期的に効きやすく、繰り返すほど認知が積み重なり、仕組み化して継続的に使えるため、中長期にも使える。
④自社発信
蓄積するほど資産になり、中長期の成長に不可欠。効果が現れるのに時間がかかる場合もあり、初期から仕込むことを検討。
⑤第三者発信
信頼性が高く拡散力がある。ただし、自社の実績やコンテンツがある程度必要。
⑥広告
再現性/スケール性があるが、適切なメッセージやターゲティングが整っていないと費用対効果が悪い。安定期やスケール期に向く。
紹介やインタビューで最初の信頼を得て学び
提携や便乗で再現性を築き
自社発信や第三者発信で信用と拡散力を高め
広告で一気に加速させる
それが、成果をあげる可能性を広げます。
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粂田 将伸(くめだ・まさのぶ)
デロイトトーマツベンチャーサポート M&Aアドバイザリー リーダー
スタートアップ支援家、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。外資系メンバーシップコンサルティングファームにて、スタートアップの資金調達・M&A支援を統括。スタートアップ支援関連MVPを4回受賞。証券会社では投資銀行本部法人部門賞を受賞し、5万人規模の金融グループでビジョンを体現する5人のうちの1人に選出される。強みは「マーケティング」「ストーリー」「ファイナンス」の3領域を横断しながら①売上を伸ばす打ち手②財務諸表に表れない魅力の言語化③成長資金の確保(資金調達/IPO×M&Aデュアルトラック)を1本の戦略に束ねること。起業家とともに問いを立て直し、起業からIPO/M&Aまで、企業のライフサイクルに応じてハンズオンで伴走し、多数の成功事例を生み出す。
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(デロイトトーマツベンチャーサポート M&Aアドバイザリー リーダー 粂田 将伸)

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