■「発情期は月2日」と言われているが…
私は1998年から、アフリカのルワンダやコンゴ民主共和国の熱帯雨林に通い続け、野生のマウンテンゴリラを撮影しているドキュメンタリー作家です。
これまでに数え切れないほどの時間を彼らと共に過ごし、内戦の傷跡が残る森の奥深くまで分け入ってきました。国際的な科学ジャーナルである『Nature』によると、人間とゴリラはDNAの塩基配列が98%以上一致していると言われています。ゴリラという生き物に対して、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「力が強い」「ドラミングで威嚇する」といった荒々しい姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、彼らの社会に深く入り込み、その営みを観察し続けてきた私が目撃したのは、教科書的な知識や一般的なイメージとは大きく異なる、驚くほど繊細で、かつ人間以上に複雑な「性」と「愛」の実態でした。
特に、彼らの発情については生物学的な定説と現場の感覚に大きなズレがあります。一般的に、霊長類学の論文では、メスのゴリラの発情期は月に1回。2~3日と言われています。
また、妊娠中や授乳中のメスはホルモンの関係で発情せず、交尾を受け入れないというのが常識とされてきました。
■「ゴリラは人間と一緒だよ」
著名な霊長類学者であるダイアン・フォッシーが設立したカリソケ研究所の現地研究員やトラッカー(案内人)たちと話をしていると、彼らは口を揃えてこう言います。
「ゴリラは人間と一緒だよ。いつでも交尾できるよ」と。生理的な排卵のサイクルは存在しますが、ゴリラのメスたちはそのサイクルとは無関係に見えるタイミングでもオスを求めます。
例えば、すでに妊娠しているメスや、生まれたばかりの子供におっぱいを含ませている授乳中のメスであっても、オスに対して交尾を誘いかける姿を私は何度も目撃してきました。論文に書かれた記述が、必ずしも野生の真実をすべて捉えているわけではないことを、森のゴリラたちはその身をもって教えてくれているのです。
■ゴリラの交尾はどのように始まるのか
では、実際にゴリラの交尾はどのように始まるのでしょうか。
よくある動物番組では、屈強なシルバーバック(成熟したオス)が力づくでメスを従えているような印象を持つかもしれませんが、現実はもっと繊細で、高度な心理戦が繰り広げられています。
オスが主導権を握る場合、彼らは「ネイ・ボーカリゼーション」と呼ばれる、馬のいななきのような独特な声を発します。この声が「愛の誘い」の合図です。ハーレムのメスたちは一斉に「私かな?」「誰を呼んでいるの?」と色めき立ちますが、オスは特定のメスを見定めて声を上げています。
一方で、メスから積極的に誘うケースも頻繁に見られます。オス・メス問わず異性を誘うこうした行為を、専門用語で「ソリシット(誘惑)」と呼びます。メスのアプローチは非常に多彩で情熱的です。
オスの目をじっと見つめたり、寝ているオスの鼻先に小枝をちょこんと投げたり、あるいは大胆に背中を撫でたりして気を引きます。現地のトラッカーたちは、この愛の駆け引きを「ネゴシエーション(交渉)」と呼んでいます。まさに、お互いの合意形成のプロセスなのです。
面白いのは、メスが見せる「焦らし」のテクニックです。自分から誘っておきながら、いざオスがその気になって近づくと、プイと身を翻して少し離れた場所へ行ってしまうことがあります。そうすることで、オスの狩猟本能を刺激し、関心をより強く引きつけるのです。オスが追いかけてくると、また少し離れる。
まるで人間界の恋愛リアリティショーを見ているかのような、高度な駆け引きがジャングルの奥地で日々行われているのです。
■子供を背中に乗せながら…
私が撮影中に最も衝撃を受けた光景の一つに、子連れのメスによる交尾があります。
ある時、私は背中に小さな子供を乗せたまま、あるいは首に子供をマフラーのように巻き付けた状態で交尾をするメスを目撃しました。子供は母親の背中にしがみつき、何が起きているのか分からずにキョトンとしながら一緒に揺れています。しかし、母親であるメスはそんなことお構いなしです。子供を背負った重みなどものともせず、オスとの行為に没頭しているのです。
この行動は、ゴリラにおける性行為が、純粋な「繁殖のための行為」ではないことを如実に物語っています。彼女たちにとっての交尾は、パートナーとの絆を深めるためのコミュニケーションであり、あるいは純粋な快楽を求めての行為なのかもしれません。
彼女たちは「母親」であると同時に、一人の「メス」としても生きているのです。育児中だからといって、自分の性的な欲求や、パートナーであるオスとの関係性を犠牲にすることはありません。子供が背中にしがみついていようとも、彼女たちは自らの欲望と生存戦略に忠実です。
そこには、私たち人間が勝手に抱いている「母性」の枠には収まりきらない、野生の力強さとリアリズムが存在しています。
■「メス同士の同性愛」はなぜ起きるのか
ゴリラの一夫多妻制ハーレムを観察していると、さらに興味深い行動に出くわすことがあります。それは、メス同士による同性愛行為です。オスに対するのと同じように、独特の表情で誘いかけ、互いの性器を擦り合わせるのです。繁殖には直接結びつかないこの行為には、ゴリラ社会特有の切実な理由が隠されています。
理由の一つは、オスに相手にされなかった時の「代償行為」です。メスがいくら熱心にソリシット(誘惑)しても、オスが疲れていたり、気分が乗らなかったりして無視されることは珍しくありません。そんな時、満たされなかった欲求や寂しさを埋めるかのように、メス同士で慰め合うのです。
もう一つ、より重要な理由として「処世術」としての側面があります。ゴリラの群れは完全な実力社会であり、階級社会です。新しいメスが別の群れから移籍してきた時、彼女はハーレムの中で最下層の地位に置かれます。古参の先輩メスたちからいじめられたり、美味しい食事場所から追い払われたりすることは日常茶飯事です。
そこで新入りのメスは、群れの中で力を持つ上位のメスに近づき、性的な関係を持つことで気に入られようとします。「私はあなたの敵ではありません、あなたに従います」という服従と親愛の情を、性的なスキンシップを通じて示すのです。
これは、いじめを回避し、群れの中で自分の居場所を確保するための、涙ぐましい生存戦略と言えるでしょう。
■なぜゴリラのペニスは小さいのか
ゴリラのオス、いわゆるシルバーバックは、体重200キロ近くにもなる巨体と、圧倒的な筋肉を持っています。しかし、その立派な体格に似合わず、彼らのペニスが霊長類の中でも極端に小さいことはあまり知られていません。
平常時はもちろん、勃起した状態でさえ、その長さはわずか3センチメートル程度。黒い毛に埋もれてしまえば、交尾の直後であっても目視することは困難なほどです。
生物学的な定説では、これはゴリラの社会構造に起因すると言われています。チンパンジーのような「多夫多妻」の社会では、複数のオスの精子がメスの体内で競争するため、より多くの精子を送り込めるよう睾丸やペニスが発達しました。
しかし、ゴリラは一夫多妻制であり、ハーレム内のメスは基本的にその群れのボスとしか交尾しません。精子競争が起きないため、生殖器を大きく進化させる必要がなかったと考えられます。
しかし、サイズが小さいからといって、彼らの「精力」が弱いわけではありません。
なんと4時間の間に14回もの交尾を行ったのです。通常、一度の交尾は短時間で終わりますが、彼は一度挿入した後、抜かずにそのまま交尾を続けることもありました。
メスたちが次々と彼を求め、彼もそれに応え続ける。その姿はまさに精力絶倫です。体の大きさやシンボルのサイズは、必ずしもオスの実力を示すものではありません。メスを満足させ、群れを統率する力強さは、見た目のサイズとは別の次元にあるようです。
■常に前だけを見て生きている
ゴリラの世界には「振り返らない」という厳格な掟があるように思えます。彼らは過去の失敗や悲しみを引きずることなく、常に前だけを見て生きています。その最も極端で、残酷とも言える例が「子殺し」にまつわる行動です。
ゴリラの社会では、群れのボスが交代した際や、別の群れのオスが乗っ取りを行った際に、新しいボスが前のボスの子供を殺してしまうことがあります。これは、授乳中のメスの発情を促し、自分の子供を早く産ませるための本能的な行動です。
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森 啓子(もり・けいこ)
動物ジャーナリスト
1970年代にテレビ業界に飛び込み、情報番組や料理番組に携わる。その後、自然環境を取り上げるドキュメンタリー番組のディレクターとなる。主な担当番組にTBS「新世界紀行」、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」、NHK「地球!ふしぎ大自然」「ハイビジョン特集などがある。1998年にコンゴ(旧ザイール)でゴリラのドキュメンタリー番組を制作。動物の撮影歴は30年以上。ゴリラに魅せられ、アフリカ・ルワンダに居を構えてマウンテンゴリラを撮影する生活を13年間続け、現在はその映像を編集している。
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(動物ジャーナリスト 森 啓子)

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