自分の仕事を進めたいのに、メールやチャットに時間を奪われる。解決策はないのか。
エグゼクティブコーチの吉川ゆりさんは「自分の状況を見える化し、いつなら返信できるかを相手に知らせるのがおすすめだ」という――。
※本稿は、吉川ゆり『なぜ、あなたは時間に追われているのか』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■自分の優先順位よりも他人を優先してしまう
自分で決めた優先順位よりも、

人からの依頼・連絡・周囲の空気を優先してしまう
・よくある誤解→「優柔不断だ」

・頭の中の独り言→「今相手に返事しないと悪い」「相手との関係を壊したくない」

・本当の原因→タスクよりも社会的な安全性が優先される

・必要な仕組み→自身のタスクを優先しても、安全・安心が損なわれない仕組み

「自分で決めた優先順位よりも、人からの依頼・連絡・周囲の空気を優先してしまい、気づくと自分の大事な仕事が後回しになっている」という人もいます。優先順位を貫けない、締め切りに遅れがちになるという点で、しばしば「優柔不断だ」などのレッテルを張られることがあります。
しかし、これは決して、意志力や判断力の問題ではありません。背景にあるのは、他者との関係性を重視し、人間関係を大切にしたいという、健全な思いなのです。その欲求を否定するのではなく、関係を守るための「境界線」を、仕組みとして作るのがおすすめです。
仕組み① 即レスをやめるのではなく「見える化」する
このタイプの人は、メールやチャットの即レスをやめるのが苦手です。相手との関係を最優先したいからです。それでも、即レスを続けている限り、自分の大事な仕事に集中できません。このため、ますます自分の仕事が進まないという悪循環に陥ってしまいます。
こうした場合におすすめなのが、「今は返信できないが、いつなら返信できる」という予定を、一旦相手に知らせることです。
自分の状況を「見える化」するのです。
■チャットの自動返信を活用
チャットの場合、SlackやマイクロソフトのTeamsといった代表的なツールには、チャットを送ってきた相手に、自分の状態を自動で返信してくれる機能があります。これを活用し、例えば「企画書作成中。○時以降に返信します」などと文章を設定し、自動返信されるように設定しておくのです。
文章を毎回考え直すと手間になり続かないので、「資料作成中。15時以降に返信します」「データ分析中。16時以降に確認します」といった2~3種類をテンプレートとして用意します。そして、ステータスには終了予定時刻を設定しておきます。
それが、あなた自身の作業を終わらせる目標時間にもなります。
集中時間に入る前に必ずステータスを切り替えて、相手に、集中時間に入ったことを知らせます。同時に通知設定を「通知オフ」にします。すべての通知を完全にオフにするのが難しい場合は、重要なチャンネルだけが例外的に通知されるように設定してもいいでしょう。

■「わがまま」と思われない方法
仕組み② カレンダーで同時に知らせる
周囲を優先することに重きを置く人は、自分の作業を優先することにしばしば罪悪感を覚えるものです。「自分の作業を優先したいと思うのはわがままではないか」「相手に我慢させるのはよくない」という思いに駆られるのです。本来、自身の作業を優先することは、わがままではありません。あなたには、任されている役割があるからです。
「わがままではないか」という個人的な価値判断から逃れるためには、あらかじめカレンダーに「資料作成中、○時以降に返信」などと書き込んで、予定をブロックするのがおすすめです。これにより、「私のわがままで優先する」のではなく、「役割に基づいて対応している」という客観的な軸が生まれます。
相手も「無視されているのではない」と理解でき、返信をもらえることが分かって安心します。相手を大切にしながらも、自分の優先タスクを保護できる、相手との関係を守るための境界線を設定する作業です。
■管理職なら「相談タイム」を設定
仕組み③ 返事のタイミングをチームで決める
管理職の人などは、部下からの相談にすぐに応じなくてはいけないと思っている人も多いでしょう。もちろん、緊急案件にはすぐに対応しなければなりません。けれど、そこまで緊急でもない相談事などは、後から対応してもいいはずです。ここで気をつけたいのは、すぐに返事をもらえないことにストレスを感じる人が出ないようにすることです。
このため、相談や報告のタイミング・ルールをチーム内で合意して、仕組み化しておくことが大切です。
まず、トラブルが発生した、締め切りが近い……など、重要度が高く急ぎの案件については、電話か直接デスクに来て対面で話すことにします。すぐに「緊急案件だな」と分かり、迅速に対応できます。
次に、締め切りが遠い案件の相談、意見の集約や確認、軽微な依頼などは「○時に相談」と決めておき、その時間にまとめて受け付けるルールとします。例えば「毎日15時30分~15時45分を相談タイムとする」などです。
これらの仕組みによって、「空気を読んで反射的に返信する」という個人技から解放されます。緊急は電話、相談はまとめる――基準が共有されているから、即レスしないことが無礼ではなく、合意に基づく行動になります。関係を守りながら、集中が乱れるのを防ぐことができます。
■集中力が落ちる時間に「回復ブロック」
やらなければいけないと分かっているのに、

体や頭が動かないことがある
・よくある誤解→「能力が低い」

・頭の中の独り言→「もう無理」「しんどい」「めんどくさい」

・本当の原因→脳の認知負荷が高すぎる

・必要な仕組み→限界に達する前に回復できる仕組み

「やらなければいけないと分かっているのに、体や頭が動かないことがある」…この背景には「脳や体のエネルギーを守りたい」という本能的な欲求が隠れています。つまり、脳や体が疲れているのです。人間には誰しも休憩が必要ですが、このような方の場合は特に「休む前提」でスケジュールを組むことが大切です。
仕組み① 「回復ブロック」を導入する
休息を「時間が余ったら取るもの」ではなく、「必ず必要なもの」として、会議の予定などと同様に週のスケジュールに組み込みます。
おすすめは「回復ブロック」の設定です。毎日、午後や夕方など、自分がいつも特に集中力が落ちると感じる時間帯に、15~20分の枠をカレンダーに入れておきます。この時間にやることは、深呼吸、ストレッチ、軽い散歩、目を閉じる、コーヒーを一杯飲む、といったことです。交感神経の過度な緊張を緩め、リラックス効果が期待できます。
■有給は1年の最初にカレンダーに記入
「休息の予約」は、エネルギーを守るために大切な方法です。有給休暇も1年の「最初」にカレンダーへ組み込みます。夏季休暇や年末年始とは別に、月に1日、四半期ごとに1日、などのように設定して、休むことを早くから周囲に「宣言」してしまいます。休みを「戦略」として先に組むことで、限界のセンサーが鳴る前に回復でき、大切な仕事に集中しやすくなります。
仕組み② 「思考停止リスト」を用意しておく
体や頭が動かないとき、私たちはしばしば「何をやるべきか」「どのタスクを選ぶか」にエネルギーを奪われています。疲れている状態では、新しい判断や選択は大きな負担になります。そこでおすすめなのが、「思考停止リスト」を事前に用意しておくことです。
思考停止リストとは、その名の通り、疲れていても迷わず取り組めるよう、あらかじめ選んでおいたタスクをまとめたものです。

・迷わずすぐに着手できる

・判断をほとんど必要としない

・万が一失敗しても、ダメージが少ない
これらの条件を満たすタスクだけをリストアップしておきましょう。これらの作業は、売り上げなどの価値を生み出すわけではありませんが、次に集中するときの効率を上げてくれるという意味で、立派な「仕事」です。デスクやロッカーを整理整頓したり、お気に入りの飲み物を用意したりするのもいいでしょう。手や体を動かすことで気分転換にもなります。エネルギーを節約しながら、次の集中のための準備を進めることができます。
■元気で集中しやすい時間は午前中
仕組み③ 一番元気な時間帯に、大事な仕事を行う
人には元気で集中しやすい時間帯と、疲れて集中力が落ちる時間帯があります。例えば、朝7時に起床する人の場合、元気で集中しやすい時間帯は午前中だといわれています。深い集中力が求められる負荷が高いタスク(分析・文章化・企画)などは、この時間に行うようにしましょう。この枠を「集中専用ブロック」としてカレンダーに入れておくことをおすすめします。
集中力が落ちる午後や、連続した会議の後で疲れている時などは、ファイル整理、申請フォーム入力、チェックリスト更新といった機械的な作業を行うのがおすすめです。ルーティンの進捗会議などを午後に設定するのもいいでしょう。重要な決断は、あえて翌日の午前中に先送りします。
「疲れた時間に判断しない」と決めておくことで、迷いが減り、消耗が止まります。

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吉川 ゆり(よしかわ・ゆり)

エグゼクティブコーチ

Mental Breakthrough Coachingスクール代表。社会を変える土台としての「人の変化の構造」を体系化し、経営者・リーダー・医療者・教育者・芸術家など変化を起こす人材を育てている。サンフランシスコ在住、大阪大学人間科学部卒業後、米国に留学し国際行政学修士号取得。ハーバード大学エクステンション・スクールで認知神経科学を履修。米国金融業界にてメガバンクのヴァイスプレジデント、フィンテック企業のシニアディレクターを歴任後、コーチとして独立。現在は国内外の管理職・経営者・専門家に向けて、変容型リーダーシップと人間成長の技術を提供している。

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(エグゼクティブコーチ 吉川 ゆり)
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