※本稿は、藤井薫『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■人材マネジメントに関心が薄い企業の特徴
社員の年齢層にかかわらず、人材マネジメントが効果的に行われている企業とそうではない企業に二分されるのではないかと筆者は考えています。これまで多くの企業の人事部と接してきましたが、各社の取り組みには、かなりのレベル差があるというのが実感です。
筆者の独断ですが、次の7項目のチェックリストの中に二つ当てはまるものがあれば、その企業の人材マネジメントに対する取り組み姿勢はかなり怪しげです。三つ当てはまれば、即、人材マネジメントに関心が薄い企業だと言ってよさそうです。
□ 本部、事業部レベルの組織編成が直近10年間変わっていない
□ 等級制度、評価制度、給与制度が基本的に直近10年間変わっていない
□ 人事担当役員または人事部長が直近10年間変わっていない
□ 自分の直属上司が直近10年間変わっていない
□ 身近に抜擢登用された人がいない
□ 身近に社内公募やFA制度などでの異動者がほとんどいない
□ 新卒採用者数の減少や若手の離職が目立つ
組織や人事制度は、経営環境や戦略に応じて変化するものです。直近10年間で、組織や人事制度に影響を及ぼすレベルの環境変化や戦略の見直しがなかったとは考えづらく、ここにチェックがつくようなら、経営の不作為を問うべきかもしれません。
人事担当役員や直属上司が変わらないというのは、一概に問題だと言えない面もありますが、やはりマンネリのリスクは避けられません。また、上司部下の関係が10年間変わらないというのは、上司も部下も10年間同じ立場で仕事をしているということで、両者とも大きく成長していないということです。
■良質な「ミドルパフォーマー」の転落
また、「人と人との組み合わせの妙」を追求していない点が気がかりです。拙著『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)で詳しく解説していますが、標準的な人事評価成績を受けている「ミドルパフォーマー」(つまり、ふつうの会社員)は各部門の基幹戦力として機能しており、戦力として「問題がない」がゆえに人事異動の対象になりづらく、所属部署に塩漬けにされて専門性の拡大深耕の機会を十分に得られないため、40代半ばを過ぎるとローパフォーマーに転落していくリスクが高くなります。
さらに、メンバー構成が固定されていると、「人と人との組み合わせの妙」が発揮されません。
抜擢登用については、若手の話をしたいわけではありません。「適所適材」、すなわち、年齢などにこだわらず、各ポジションの要件にふさわしい人を配置しているかどうかに関するわかりやすい例が若手の抜擢だということです。「年齢にこだわらない」という意味で、本来、適所適材は50代社員、60代社員の配置においても基本になる考え方です。
■人事部の力量が問われる
社内公募やFA制度などは、本人の意思を重視する手挙げ異動施策です。昨今のキャリア自律推進の流れの中にあって欠かせない施策になっており、もはや制度の有無ではなく、実効性が問われています。周囲に何人かは手挙げで異動した人がいるというくらいでなければ、制度が十分機能しているとは言えません。
また、ジョブ型人事制度の導入に伴ってキャリア採用主体に舵を切る企業がでてきたとはいうものの、いまだ新卒採用ニーズは衰えず、少数を奪い合う激戦が続いています。
もちろん、採用は事業の魅力をはじめとする企業の総合力の反映であるとはいうものの、人事部の力量が問われます。初任給の引き上げだけで採用できるわけもなく、時代に即したキャリア開発施策などが欠かせません。応募者はその会社の人材マネジメントが3~5年くらいの「中期」スパンで、自分の将来にメリットがありそうかどうかを見ています。
若手社員も同じです。
昨今、強調されている「人的資本経営」という言葉を持ち出すまでもなく、人材は企業価値創出の中核です。そもそも人材マネジメントに対してホンキで取り組んでいる企業とそうでない企業に分かれている気がしてなりません。
さて、あなたが勤めている会社はいかがでしょうか?
■半数以上の企業が60代給与の引き上げを検討
60歳になると給与が3割下がるのが当たり前、そのような状況の中、60代の給与を引き上げる動きが注目されています。いくつか例を挙げてみます。
・住友生命保険:2026年度から60歳以降のシニア社員についても、部長級の職務を担う人材は中堅層と同様に最大1.5倍の給与を支払う仕組みにする
・バンダイ:2025年4月から61歳以上の定年後再雇用社員の待遇を改善。概算年収を58%引き上げる
・日本航空:2024年10月に再雇用制度を改定。これまでは再雇用後の年収は4~6割減っていたが、新制度では再雇用後も現役社員と同じ水準になる
・損害保険ジャパン:2024年10月に60歳以上の再雇用者について人事制度を刷新。制度の見直しにより、再雇用者の賃金は最大30%上昇する
実はこのように、60代社員の給与を引き上げた企業、引き上げようとする企業は少なくありません。
直近5年(2020年4月~2025年3月)において、60代社員の年収を引き上げた企業が25.7%あります(図表1)。
そして、今後給与を引き上げる予定の企業は22.4%で、引き上げを検討中の企業を合わせると56.3%と過半数に達します。
■60代社員の処遇方法は3つに分類される
全体を俯瞰すると三つのグループに分類できます。
60代社員の年収を直近5年以内に引き上げた企業が4分の1、引き上げ予定または検討中の企業が半数強、検討していない企業が4分の1弱という状況です。それらの割合は60歳定年企業も65歳定年企業もほとんど変わりません。
状況を精査すると、直近5年以内に引き上げた企業と今後引き上げ予定・検討中の企業とは、大きく特徴が異なります。
【60代社員の給与を直近5年以内に引き上げた企業】
年収を10%程度引き上げた企業が最も多く、全体の6割弱を占めます。引き上げ幅の平均は17%です。調査データから簡易的に推計すると、従来、60歳時に年収が平均43%下がっていた企業が平均17%の引き上げを行い、現状では年収低下率が平均26%になっているというイメージです。直近5年間に年収を引き上げていない企業の年収低下率は平均28%なので、従来、年収低下率が大きかった企業が年収を引き上げて、平均的な低下率になったということです。
【60代社員の給与を引き上げ予定または検討中の企業】
今後引き上げを予定・検討中の企業の年収引き上げ幅も、10%程度とする企業が4割と最も多く、平均では19%アップです。しかし、直近5年以内に引き上げた企業とは大きく異なる特徴があります。60歳時の年収低下率が大きい企業よりも、あまり年収が下がっていない企業のほうが年収を引き上げようとしています。
■60代社員の処遇格差は大きく広がる
全体では引き上げ予定・検討中の企業は56.3%ですが、60歳の処遇見直し時に「年収は上がる・ほとんど変わらない」企業では7割近く、「10~20%程度下がる」企業では6割強が、引き上げを予定・検討しているのです。
調査データから簡易的に推計すると、60歳時の年収低下率平均25%の企業が平均19%の引き上げを行い、今後は60歳時の年収低下率が6%になるイメージです。そのような企業が半数以上になるということです。
今後、年収引き上げ予定・検討している企業と、そうでない企業との60代社員の処遇格差は大きく広がっていきます。
60代社員のモチベーションの状況も変わってくるはずです。
60代を「明日はわが身」ととらえる50代後半社員にも看過できない影響がありそうです。給与が上がる会社に勤める人には朗報ですが、そうでない会社に勤める人からすると、自社施策への不満が高まり、さらにモチベーションが低下することにもなりかねません。前項で指摘した通り、企業の人材マネジメントに対するスタンスは二分されています。これも、その端的な事例です。
60代社員の年収引き上げは、60代社員過剰感のループを断ち切ることに繋がっていく、注目すべき変化です。
しかし、直近5年で引き上げた企業と今後引き上げ予定の企業年収引き上げ基準は、「全員一律」が3割強を占めます。全員一律で引き下げてきたので全員一律で引き上げるという考え方も一理あるものの、企業は継続勤務60代社員を評価するためのデータをすでに十分蓄積しているはずです。
年収引き上げ自体は望ましいことですが、全員一律基準での引き上げは、人材不足に対する量的対応であり、依然、個々人を見ているわけではないという課題感は残されたままです。
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藤井 薫(ふじい・かおる)
パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員
電機メーカー人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、ソフトウェア開発企業にて取締役タレントマネジメントシステム事業部長を務める。2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て20年4月より現職。メディアへの寄稿も多数。著書に『人事ガチャの秘密』『ジョブ型人事の道しるべ』(ともに中公新書ラクレ)。
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(パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員 藤井 薫)

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