■高市発言に中国が猛反発した理由
2025年11月7日の衆議院予算委員会で、高市早苗首相が台湾有事に対する「存立危機事態」の適用可能性について改めて言及した際、中国当局はこれまでにない激しさで反発したが、その後も、現在に至るまで日本に対して厳しく当たり続けている。
高市答弁は、従来の安保法制の枠組みを再確認したに過ぎないものであったが、中国政府が示した反応は、単なる外交的プロトコルを超えた「過剰反応」であった。
なぜ、日本が自国の法的枠組みをなぞっただけの言葉に、中国はこれほどまでに神経を尖らせ、過剰に反応したのだろうか。その背景には、中国が抱く「アメリカを譲歩させた」という万能感と、その裏側に張り付いたある種の「焦燥感」が複雑に絡み合っている。
中国はいま、自らの姿を誤って認識し始めている。その結果、客観的な実力以上に自らを万能と信じる「危険なナルシスト国家」になりつつあるというのが私の意見である。
■「米中雪解け」は事実なのか?
緊張が極限まで高まっていた米中関係は、2025年秋、韓国・釜山で開催された首脳会談によって、表面上は劇的な「雪解け」を演出した。
アメリカは対中関税の大幅な引き上げを見送り、中国はレアアース輸出制限の解除やアメリカ産農産物の輸入再開を表明した。金融市場はこの「ディール」に安堵し、世界の株式市場も一時的に落ち着きを取り戻したかに見えた。しかし、この出来事を単なる外交成果として祝うのは、あまりに近視眼的だ。
本当に注視すべきは、合意文書の中身ではない。中国側がこの結果をどのように自己解釈したかである。
■「アメリカと対等な大国」という自負
現在、中国の政策決定層や共産党直属の研究機関の間では、驚くほど強固な楽観論が支配している。たとえば、「中国はついにアメリカと対等な大国になった」「アメリカの圧力に屈せず、逆に実利的な譲歩を引き出した」などの過剰な自己評価が国内では蔓延している。
実際、中国には、釜山会談を「米中二極体制(G2)の確定」と評価する政治学者も現れている。これは、トランプ大統領がSNSで米中首脳会談を「G2」と表現したことがきっかけだが、中国側がそれを真に受けたのは、肥大化した自尊心が目を曇らせているからだろう。
トランプ大統領は交渉相手をおおげさに持ち上げることを常としており、あくまでトランプ流交渉術の一環だ。ところが、中国はこれを真に受けて「中国の勝利」を叫んでいるのである。
まず、釜山で何が決まったのかを再検証してみよう。合意の柱は次の3点である。
1. 追加関税引き上げの停止
2. レアアース輸出制限の解除
3. 中国による米国産農産物の輸入再開
これらは、2025年に激化した経済対立によって、お互いが課した制裁である。先に仕掛けたのはアメリカであるので、たしかにそれをアメリカ側が引っ込めたというのは、中国にとっては「勝利」にも見える。
だが、これは一時的な止血にすぎず、米中対立の核心である戦略的争点に言及されていない。
■釜山会談は「時間稼ぎ」にすぎない
具体的には、先端半導体の対中輸出規制、AIや量子コンピュータなどの次世代技術覇権、台湾海峡の安定、そして南シナ海における力による現状変更といった問題だ。
これはアメリカの「妥協」ではなく、中国包囲網を強化する時間稼ぎのために先延ばしされただけなのだが、中国側には現実が見えていないのである。
事実、アメリカは会談直後からベネズエラやイランへの介入を強化しており、中国の資源補給路を外側から遮断する「アウトサイド・イン戦略」を着々と進めている。
アメリカは、中国と正面衝突する前に、その周辺を枯渇させるフェーズに入ったと見るべきだろう。釜山会談は「終戦」でも「休戦」でもなく、アメリカにとっては次なる包囲網を完成させるための、冷徹な「一時停止」にすぎなかったのだ。
■「ソフトパワー」で圧倒するアメリカ
中国の「対等論」がいかに脆い幻想であるかは、国際政治の構造を見れば明白だ。
アメリカが保持しているのは、単なる軍事力や経済力といった「ハードパワー」だけではない。ソフトパワーのうち国際社会を動かす「制度的パワー(Institutional Power)」の差が、中国と比べようがないほど大きいのである。
アメリカには、約60カ国に及ぶ同盟・安全保障パートナーが存在する。世界の基軸通貨としてのドル、世界トップクラスの知が集積する大学群、そして世界最大の金融市場。これらは国際秩序そのものを支えるインフラであり、アメリカはこのゲームの「ルールメーカー」であり続けている。
それに対して、中国のパートナーはロシア、イラン、北朝鮮などの独裁国家や強権国家だ。
中国は巨大な経済規模を持ちながら、国際政治の構造の中では依然として「孤独な大国」だと言ってよい。
また、軍事面においても同じことが言える。
中国は急速に軍備を拡張しており、海軍の艦艇数は世界最大規模になった。しかし、中国の軍事優位が成立するのは主に台湾海峡周辺などの近海、いわゆる「第一列島線」の内側に限られる。
中国は特定の海域における「地域軍事大国」ではあっても、全世界にパワーを投影できる「グローバル覇権国」ではない。グローバルな展開力、潜水艦の静粛性、サイバー・宇宙領域の総合力、そして何より実戦経験において、アメリカの優位は揺らいでいない。
総合力での格差を無視した「対等論」は、客観性を欠いた誇大妄想である。
■中国の少子化問題は日本より深刻
さらに中国を苦しめるのは、外敵ではなく自らの内側に潜む構造的な時限爆弾だ。最も深刻なのは、いかなる強権政治でも変えることのできない「人口動態」である。
中国の出生率はすでに1.0前後まで低下した。
日本が直面した高齢化は、国民所得が十分に向上した「先進国」としての悩みだった。しかし中国は、1人当たりGDPがまだ発展途上の段階で、巨大な扶養コストを背負い込むことになる。
これに不動産バブルの崩壊、地方政府の巨額債務(隠れ債務問題)、そして若年層の記録的な失業率が重なる。中国の成長モデルは明らかに転換点に差しかかっており、この「内なる腐食」を前にして、対外的な強気は虚勢に近いものとなっている。
■国益を損なってでも、日本を懲らしめたい
中国が現在、日本に対して仕掛けている経済的・外交的制裁には、ある種の「不合理さ」が目立つ。自国のサプライチェーンを傷つけ、自国の投資環境を悪化させてまでも、なりふり構わず日本を叩き続ける姿だ。
通常、国家間の制裁は「国益」に基づき、コストとベネフィットを緻密に計算して行われる。しかし、現在の中国の行動は、経済合理性よりも「感情的な報復」に比重が置かれている。これはまさに、ナルシシズム(自己愛)が傷つけられた際に発動する「自己愛の憤怒(Narcissistic Rage)」そのものである。
ナルシストは、自分が万能で絶対的な存在であるという幻想を抱いている。
高市首相の「存立危機事態」への言及や、日本の自立的な安保政策は、中国にとって単なる政策の不一致ではない。「アメリカを屈服させた自分たちに対して、格下であるはずの日本が背いた」という、耐え難い侮辱として受け取られる。
■対日制裁の裏にある被害者意識
ここで恐ろしいのは、彼らが抱く「無限に拡大する被害者意識」である。
彼らの論理では、自分たちは常に「正しい被害者」であり、相手は「不当な加害者」でなければならない。日本が正当な防衛権を主張すればするほど、彼らは「中国の平和的な台頭を日本が阻害している」という歪んだ被害妄想を増幅させ、それを「自傷行為に近い制裁」の正当化に利用する。
この件で「中国は自分たちにダメージがあることはやらない」という意見は通らないのである。
この「被害者意識の肥大化」は、論理的な対話や妥当な譲歩では解消されない。なぜなら、彼らが求めているのは国益の調整ではなく、傷つけられた万能感を回復させるための「相手の完全な屈服」だからである。日本への過剰な制裁は、その病理的な自己愛を満たすための儀式と化している。
それでは、これほど多くの懸念材料を抱えながら、なぜ中国のエリート層は「アメリカを妥協させた」「日本は取るに足らない」とまで信じ込めるのだろうか。
■自信がないからこそ強気を装うしかない
その心理的背景は、2008年の世界金融危機(リーマンショック)まで遡る。
もちろん、事実ではない。その後の世界を見れば、AI、半導体、量子技術、金融市場のすべてにおいて、アメリカの技術力や金融力は依然として圧倒的だ。中国の「自信」は客観的なデータに基づいておらず、心理的な未成熟な子どもの「根拠のない自信」に近い。
現在の中国は、巨大な国力と深刻な構造問題を同時に抱えているが、このような国家には「強さと不安が同時に存在する」という特徴がある。歴史的に見ると、このような状況にある国家は外交が強硬になりやすい。
自信があるから強気になるのではなく、将来への不安を打ち消したいがために、強気のポーズを崩せなくなっている。
■ナルシスト国家が世界大戦を招いた過去
国際政治には一つの法則がある。自国の実力を過大評価する国家ほど危険である、というものだ。
第一次世界大戦前のドイツ帝国がその典型例である。ドイツは急速な工業化によって欧州一の強国となったが、同時に自らの国力を過信し、国際秩序を誤認した。その「自信を持ちすぎた大国」が、結果として世界を破滅へと引きずり込んだ。
現在の中国にも、同じ危険が見え始めている。中国はいま、自国の実力以上に世界を動かせると信じ、自らを「うぬぼれた実力者」として振る舞わせている。
問題は、中国が本当に強いかどうかではない。中国自身が、自分を「アメリカを屈服させた覇者」と定義してしまったこと自体が、最大の不安定要素なのである。
「アメリカを譲歩させた」という北京の錯覚が続く限り、彼らの要求はさらにエスカレートし、対立の閾値は下がり続けるだろう。大国の誤算ほど、国際秩序を不安定にするものはない。
私たちは、中国の軍事力や経済力といった目に見える数字だけに注目してはならない。むしろ「中国が自分たちをどう評価しているか」という主観的な認知のズレを注視すべきである。
現在の中国は、いわば「焦燥感に裏打ちされたうぬぼれ」の中にいる。この極めて扱いにくく、予断を許さない隣人と対峙し続けるためには、私たちもまた、甘い雪解けムードを排した、冷徹なリアリズムの目を常に持つ必要がある。
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白川 司(しらかわ・つかさ)
評論家・千代田区議会議員
国際政治からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。『月刊WiLL』にて「Non-Fake News」を連載、YouTubeチャンネル「デイリーWiLL」のレギュラーコメンテーター。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評。著書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック)ほか。
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(評論家・千代田区議会議員 白川 司)

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