■1日で9%急落、金は「安全資産」か
金相場の乱高下が続いている。わずか2カ月前の暴落の記憶は生々しい。
米金融情報サービスのブルームバーグ(2月1日)および米CNBCによると、1月30日に金は1日で9%急落し、過去10年余りで最大の下落幅を記録した。翌取引日の2月2日にも日中最安でさらに10%下げ、都合2取引日で瞬間最大約18%の下げ幅を見せた。
ここ数カ月、稀に見るスケールで急騰と暴落が続き、安全資産の代名詞だった金は今や、最も値動きの読めない資産の一つになった。
一時、金は1オンス5595ドル(約86万7000円)、銀は同121ドル(約1万8800円)と、いずれも過去最高値を更新した。だがトランプ大統領が次期FRB議長に、金融引き締め派で知られるケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名すると、米金利の上昇観測が広がり、ドル高が急速に進んだ。
金利を生まない金はドル高局面で売られやすく、膨れ上がった相場は一気に崩れた。売りは翌週も止まらず、金・銀ともにさらに値を下げた。3月現在、金価格は5000ドル(約80万円)前後まで回復したものの、暴落前の水準にはなお届いていない。
■1500万円を失った主婦
この乱高下の影響を最も受けている国の一つが、中国だ。ある意味では、乱高下の原因を作ったとも言える。
暴落の直前まで、中国の投機筋から大量の資金が金属市場に流れ込み、価格は需給バランスの実態から乖離した投機的な動きが目立った。
中国の国民がこぞって金を買い求めるのは、なぜか。答えは中国共産党の政策にある。中国人民銀行はここ数年、金の保有を急ピッチで積み増してきた。その後を追うように、主婦から若者まで幅広い層が金投資に殺到したのだ。
だが、安全資産のはずの金が、投機に走った人々の貯蓄を焼き尽くしている。急落の衝撃は、中国の個人投資家を直撃した。
杭州に住む42歳の主婦が、友人の勧めで先物口座を開いたのは、暴落のわずか数日前のことだった。ブルームバーグ(2月2日)によると、デリバティブの取引経験は皆無だったという。
この女性が投じたのは、100万元(約2000万円)。
だが直後の急落で、先物取引の担保金にあたる証拠金が不足。ポジションは強制的に清算された。手元に残ったのは約25万元(約500万円)にすぎず、元手のうち75万元(約1500万円)を失った。女性は口座の閉鎖を決めた。一瞬のうちに増えては消えていった資金を、「まるでマカオのカジノに行ったみたいだった」と振り返る。
■オンライン取引所破綻で警察が出動
深圳(シンセン)では2月、取引プラットフォームの崩壊が発覚。数万人が被害を受けた。
金取引の中心地・水貝に拠点を置くオンライン貴金属プラットフォーム「JWR」が突然経営破綻し、投資家の損失総額は100億元(約2100億円)を超えた。
金現物価格の急騰で含み益を得た投資家が一斉に利益確定に走ったが、プラットフォーム側に支払い原資はなく、流動性危機に陥った。週末には数百人が同社オフィス前に押し寄せて返金を要求し、警察が出動する事態に発展した。
香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストは、中国の「金熱狂(gold fever)」に端を発すると指摘している。
崩壊の引き金は、JWRが採用していた「プレプライシング(事前価格設定)」と呼ばれる取引モデルにあったと同紙は分析する。
公認の貴金属取引所を通さず、プラットフォーム自身が取引の相手方となり、将来の金・銀価格について投資家と個別に合意する仕組みだった。SNSで取引の始めやすさと高いレバレッジを宣伝し、個人投資家を大量に集めていたが、同社には十分なヘッジも資本準備もなかった。金価格が急騰して投資家が一斉に換金を求めると、たちまち支払い不能に陥った。
広州を拠点に複数の私募資金調達紛争を手掛けてきた弁護士は、「このような私的投資プラットフォームの崩壊は最近、著しく頻繁になっている」と懸念を示す。
■中銀の買い増しに国民が踊らされた
悲劇の発端は、中国全土を覆った空前の金投資ブームだった。
2025年、中国の金市場はあらゆる記録を塗り替えた。金業界の国際業界団体のワールド・ゴールド・カウンシルのデータによると、中国のゴールドETF(金価格に連動する上場投資信託)への流入額は1120億元(約2兆3250億円、金133トン相当)と、過去最高に達した。
国際的な金価格の上昇などを背景に、金市場に資金が殺到。年末時点の運用資産総額は前年比243%増の2420億元(約5兆1900億円)に膨張した。
金が中国の人々を虜にしたもう一つの理由が、中国人民銀行の動きだ。同行は2025年を通じて毎月、金の購入を公表した。
ワールド・ゴールド・カウンシルは、こうした購入額の公表が個人投資家の購買意欲を刺激し、地金販売の増加やETFへの資金流入につながったと分析している。国家の行動が、そのまま投資シグナルとして受け止められたのだ。
中国が金相場の主役に躍り出たという認識は、ウォール街にも広がっている。米ビジネス誌のフォーチュンは2025年10月、アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏の分析を伝えた。
スロック氏は、中央銀行の購入に市場間の価格差を利用した裁定取引と家計の旺盛な安全資産需要が重なり、中国が金価格の持続的な上昇を牽引していると指摘した。さらにこのペースが続けば、世界の中央銀行の外貨準備で金がまもなくドル建て資産を上回るとも述べている。
■2027年に迫る台湾侵攻説
では、そもそも中国人民銀行はなぜこれほど金を買い続けるのか。背景にあるのは、2027年を睨んだ地政学的な視点だ。
イスラエルのシンクタンクのINSS(国家安全保障研究所)の分析によれば、この年、複数の戦略的な「時計」が初めて同時に針を合わせるという。人民解放軍の創設100周年、習近平国家主席の第3期任期の終盤、そして2028年1月に終了する台湾の選挙サイクルが重なる。
したがって中国当局が、2027年を台湾侵攻の目標時期に据えているとの見方がある。もっとも当局が公式な目標年を宣言した事実はない。だが、CIAのウィリアム・バーンズ元長官は2023年、習氏が人民解放軍に対し2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示したとの情報を把握していると発言した。
有事が現実になれば、欧米は大規模な経済制裁に踏み切る公算が大きい。中国はその事態を見据え、金の準備高を過去最高水準まで積み増してきた。
中国が金を選ぶのは、その「制裁耐性」ゆえだ。米週刊誌のニューズウィークは、金は国内に実物として保管できるため外国政府が凍結しにくく、ドル決済から締め出されても資産価値を守れると論じる。
ただし同誌は、金の購入が戦争計画に直結するわけではなく、関税や技術禁輸など「有事に至らないリスク」への備えでもありうると留保を付けている。
■ウォール街は金の保有に走った
今、金の値動きに対する読みは割れている。
ウォール街では、金を見る目が変わりつつあり、従来よりも重視する投資家が出てきている。長年懐疑的だったJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOでさえ、フォーチュンの対談で、「ポートフォリオに金を組み入れることがある程度合理的な、数少ない局面だ」と認めた。
ヘッジファンド大手シタデルのケン・グリフィンCEOは、金が「かつてのドルのような安全資産」になったと認める。
反対に中国では、金の強気相場に逆張りした投資家がいた。ブルームバーグによると、運用資産50億元超(約1000億円超)のマクロヘッジファンド、上海半夏投資管理中心の創業者である李蓓氏は昨年12月、保有する金をすべて売却した。
金価格は長期の均衡水準から見て割高で、持ち続ける機会コストが高すぎるとの判断だった。中国の大型優良株が強気相場に入る可能性を見据え、資金を株式に振り向けた。2月の下落相場では胸をなで下ろしたことだろう。一方で3月の高騰を受け、心中は穏やかでないかもしれない。
同じくブルームバーグの取材に応じた別の投資家も、暴落前にポジションを段階的に解消していた。2億元(約42億円)規模のCTA(商品先物などを体系的に運用するファンド)を運営する同氏は、「4800ドル(約74万4000円)を超えると理解の及ばない領域で、そこで稼ぐべきお金ではない」「今は投資ではなく投機に動かされている相場だ」と語る。
ウォール街の大物もベテランファンドマネージャーも、金の価値を認める点では一致する。だが彼らが語るのはポートフォリオの分散やリスク管理の世界であり、友人の勧めで先物口座を開いた主婦が足を踏み入れた世界とは根本的に異なる。
■仮想通貨ブームは金へと移った
それでも、金への熱狂は収まっていない。
金銭関連のトラブルを数多く手掛けてきた広州のある弁護士は、絶望する人々にもはや見慣れたという。この弁護士はサウスチャイナ・モーニングポストの取材に対し、「こうした私的投資プラットフォームの崩壊は、最近著しく頻発している」と語る。「2年前はお茶と仮想通貨だったが、今や貴金属だ」
投機の対象は移り変わるが、構図は変わらない。規制の及ばないプラットフォームが高いリターンを約束して個人投資家を引き込み、相場が反転した瞬間、プラットフォームごと破綻して貯蓄が吹き飛ぶ。
相場の急落後も、金を買い求める列は途切れていない。貴金属精製大手ヘレウスのシュペルツェル氏は2月初頭、ブルームバーグの取材で、「特定サイズのゴールドバーは数週間先まで完売している。それでも人々は買い続けている」と明かした。同社がフル稼働で生産を続けるなか、店頭では何時間も並ぶ客が絶えないという。
深圳の地金取引拠点・水貝でも、旧正月前の調整局面を好機とみた個人投資家が宝飾品やゴールドバーの押し目買いに走った。急落すら「買い場」とみなす熱気は、冷める気配がない。
国家が制裁に備えて積み上げた盾としての金を、個人がブームに乗って買い求め、火傷を負う。投機サイクルに終わりは見えない。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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