全国の性風俗店に女性を斡旋する国内最大の違法スカウトグループ「ナチュラル」は、約2000名の構成員がいるとされる。そこには、有名大学の現役学生や出身者も在籍している。
なぜ若者たちはに入るのか。元NHK警視庁キャップで、『捕食 欲望をカネに変えるトクリュウ型犯罪集団「ナチュラル」の闇』(講談社)を書いた清水將裕さんに編集部が聞いた――。(前編/全2回)
■メンバーが組織を「会社」と呼ぶ理由
年間収益は少なく見積もって50億円。メンバーは約2000人。完全歩合制で、トッププレイヤーの月収は1000万円を超える。出来高ランキング、昇給システム、勤怠管理アプリ、研修動画、部署制。これは急成長中のメガベンチャーの話ではない。「最凶のトクリュウ」と呼ばれ、警察が捜査を進めている違法スカウト集団「ナチュラル」の組織運営だ。
捕食』の著者、清水將裕さんは、NHKの報道局などで25年間、主に事件取材と調査報道に携わった記者である。警視庁キャップ、社会部副部長を歴任し、NHKスペシャル「職業“詐欺”」「未解決事件」シリーズなどの制作にも関わった。2024年10月に独立し、メディア関連会社を設立。ナチュラルの取材はその直後から本格化した。

現役メンバーへの接触に5カ月を要した。情報管理が極めて厳しい組織で、外部への情報漏洩には数百万円の罰金が科される。それでも複数のルートからアプローチし、メンバーたちの対面取材にこぎつけた。
取材で最初に印象に残ったのは、言葉遣いだったという。
「取材したメンバーがみんな“会社、会社”って呼ぶんですよ。ナチュラルとは呼ばない。組織としても、犯罪組織にいるという認識を薄めるために“会社”という意識づけをしているんだと思います」
実際、ナチュラルの内部は会社のような体裁で運営されている。
■総務課、プロ課、防衛部…
ナチュラルの内部には、約150人が所属する「本社」機能がある。一般企業同様、業務に応じてさまざまな部署が存在する。
例えば「総務課」は外部関連業務の全般、店舗からのスカウトバック(紹介料)の確認、集金、給料などの対応を行う。「プロ課」は警察への対策を専門に担う部署で、情報収集、組織防衛の方針策定、新人の研修や管理を受け持つ。名称自体が警察を「プロ」と呼ぶナチュラル独特の隠語に由来する。

「防衛部」は、捜査情報の収集や警察内部に協力者を仕立てる極秘工作を行っている。さらに「契約課」(新規契約店舗との交渉)、「アプリ課」(独自開発した闇アプリの運営)、「集金課」(全国数百店舗からの現金集金)、「サポート課」(各種トラブル対応)がある。
清水さんによれば、本社には営業畑で実績を積んだ経験者や、企業で社員の管理・研修を担当していた人物がいて、組織運営の中核を担っているという。ITスキルを持つ人材もおり、X(旧Twitter)上で反ナチュラルの発信をするアカウントへの攻撃や、内部の裏切り者の特定にも動く。
こうした「本社」の約150人が、約2000人の現場スカウトを統括している。
■有名大学の学生たちがハマる経緯
では、その現場のスカウトにはどんな人間がいるのか。清水さんが接触に成功した現役メンバー「佐伯」(偽名)は、誰もが知る有名大学の在学中に、友人を通じて誘われた。
書籍からその様子を一部紹介すると、佐伯は先輩から「おカネ稼げる仕事あるから、ちょっとだけでも顔出しなよ」と言われ、都内のある場所で説明を受けた。飲み屋で相当なご馳走になりながら話を聞いているうちに断りづらい雰囲気になり、「最悪、嫌になったらやめればいいだろう」という軽い気持ちでそのまま入った。同席していた同じ大学の学生3人が、その場でナチュラルに加入している。
佐伯はナンパ経験すらなかったが、歌舞伎町での路上スカウト初日から女性と連絡先の交換に成功する。1カ月後に初めての給料を手渡しで受け取った。
約10万円。4カ月後には月収100万円に達していた。
「ひとり女の子を捕まえるだけで、毎月その女性の稼ぎの約15パーセントが入ってくる仕組み」(清水さん)で、若者にとっては「おいしい仕事」となる。
佐伯のケースは特別ではないという。ナチュラルには早慶をはじめとする有名大学の学生や卒業生が多数在籍していることが確認されている。企業から内定を受けながら辞退し、ナチュラルに残る者もいる。しかも最近は「ナチュラル」の名を隠し、「クリア」「ホワイト」といった偽名で勧誘するため、入った時点では自分がどの組織に所属しているのか知らないメンバーも多いそうだ。
■普通の会社の「タイパ」に耐えられない
なぜ有名大学の学生が犯罪組織を選ぶのか。清水さんの分析はこうだ。
「彼らは別に大金持ちになって豪遊したいわけじゃないんですよ。意外にみんな安定志向。酒もあまり飲まない。
ただ、普通の会社に入って15年、20年かけてようやく昇進して係長か課長か、というタイムパフォーマンスに耐えられない。
会社に入ったって潰れるかもしれないし、給料も上がらないかもしれない。それなら今バッと稼いで、ある程度貯めたら起業するなり別の仕事をするなりすればいい、という発想なんです」
清水さんによれば、彼らはSNSを通じて若くして成功した起業家の姿を日常的に目にしている。一方で、親世代は「30年間停滞してきた」ように映る。上の世代にあまり共感できていない、と清水さんは見ている。
しかもナチュラルでやっていることは、本人たちの感覚では明確な犯罪ではない。女性を風俗店に紹介して手数料を受け取る――職業安定法違反であり各地の迷惑防止条例にも抵触する――が、詐欺をするわけでも強盗に入るわけでもない。メンバーたちは「人材紹介業みたいなもの」と認識しているという。
「ずっとここにいる気はなくて、稼いだら起業するとか別の仕事をやるとか言っている。安定志向の裏返しで犯罪組織を選ぶ。一見理解できないんですけど、実際に話を聞くとそうなっている」
■ナチュラル会長の正体
ナチュラルのトップである会長は、2026年1月に逮捕された小畑寛昭容疑者(41)だ。もともとは「木山」という通称で呼ばれていて、組織内では複数の偽名を名乗っている。

清水さんはこのトップの経営スタイルについてこう語る。
「ヤクザだったら下に任せて、アガリだけで優雅にやっているイメージでしょう。でもこの会長は自らコミットして、ほぼ現場に指示を出している。長時間のハードワークもいとわない。ベンチャー的だなと思いましたね」
2020年には住吉会系暴力団100人超と歌舞伎町で大乱闘を繰り広げた。幹部は「ヤクザがなんぼのもんじゃい」と公言し、SNSで暴力団を煽っていたという。乱闘後、数千万円を支払って和解したとされ、暴力団との共存関係を築いた。これを機にナチュラルは全国の繁華街に進出していった。
当時、警視庁の捜査員はナチュラルをこう見ていた。
「しょせんは若い奴ら中心のスカウトグループ。スカウトなんて学生あがりがイキっているだけだろうくらいに見ていた。現場も上層部も過小評価していた」。
その「学生あがり」が、6年後には年間利益50億円の組織になっていた。
■暴力は「外注」、カネは徹底して現金
清水さんが取材で見たナチュラルの特徴は、暴力と金の扱い方にも表れていた。
まず暴力について。ナチュラルは暴力団のような明確な暴力装置を組織内部に持っていない。例外的に大きなトラブルが起きれば暴力団に金を払って対応を「外注」する。
「暴力の組織をイチから作るのは手間もかかるし人材も必要。だったらお金を払って外注する方が合理的だ、という発想。金で解決できるなら金で解決する。そこは本当に現代的です」
一方、金の流れは徹底してアナログだ。クレジットカードも電子決済も一切使わない。銀行口座を持たず、全国の風俗店からの集金は専門の「集金課」が出向く。給料も路上での手渡し。配車アプリもSuicaも使用禁止。防犯カメラの位置を把握して徹底的に避けながら移動する。
世の中がキャッシュレスに向かう中で、意図的に現金に回帰している。足がつかないためだ。稼いだ現金は金(ゴールド)に換えて保管することもあるという。税金は一切払っていない。
「こっちがびっくりするぐらいの現金主義。会長も逮捕前にホテルに三十何泊分を現金で前払いしていた。今どきそんな客はいないので、従業員も覚えていたそうですけどね」
捜査する側からすれば、口座の記録もデジタルの痕跡もなければ、収益の全体像を把握すること自体が難しい。清水さんは「それが捜査を困難にしている大きな要因だ」と指摘する。
清水さんは、この組織を犯罪集団として告発するつもりで書いたわけではないという。
「ナチュラルを攻撃するというよりは、こういうものを社会が生み出している現状や背景を描きたかった」
ナチュラルだけを叩いて排除しても、また次のナチュラルが現れる。清水さんはそう考えている。では、この問題の根はどこにあるのか。後編では、ナチュラルに「捕食」される女性たちの実態と、清水さんがNHK時代からこの取材に挑んだ理由を聞く。(後編に続く)

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清水 將裕(しみず・まさひろ)

元NHK社会部記者

1973年生まれ、長野県出身。北海道大学文学部哲学科卒業後、1999年NHK入局。報道局社会部で警視庁キャップ、社会部副部長、「おはよう日本」編集責任者を務めた。NHKスペシャル「ひとり団地の一室で」「職業“詐欺”」「未解決事件」シリーズ、事件の涙「たどりついたバス停で」などの取材・制作に携わる。2024年10月独立。著書に『捕食 欲望をカネに変えるトクリュウ型犯罪集団「ナチュラル」の闇』(講談社)。

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(元NHK社会部記者 清水 將裕)
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