老化の起こるメカニズムは何か。同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一さんは「最新の研究で細胞の年齢を計測しようと『メチル化年齢』を計測すると、100歳以上の百寿者に近づくほど、暦年齢よりメチル化年齢が若かった。
また、糖尿病患者のほうが早く老化することもわかっていて、病的な老化の正体は糖化だといえる」という――。
※本稿は、米井嘉一『糖と脂で体は壊れる 疲労、病気、老化の原因「糖化」の正体』(池田書店)の一部を再編集したものです。
■明らかになってきた老化スイッチの正体
遺伝子の老化パターンへの切り替えをできる限り後ろ倒しにし、健康寿命を延伸させるには、生活習慣の改善が重要であり、老化も生活習慣病のひとつです。
老化の原因の9割が生活習慣である理由は、遺伝子も生活習慣の影響を受け、変化するためです。この遺伝子の変化を「エピゲノム変化(エピジェネティクス)」といい、老化スイッチへの切り替えを誘発します。
ここからは少し専門的な話になりますが、近年明らかになってきた老化の最新研究について説明します。
エピゲノム変化は本来、遺伝子のDNAの一部であるシトシンと、遺伝子を調整するヒストンタンパク質が、メチル化や脱メチル化を起こす生理的な(正常な)反応です。
ヒストンタンパク質のどこにメチル化が起きるのかというと、ヒストンタンパク質を構成するリジンとアルギニンというアミノ酸があるのですが、これらはふたつのアミノ基(水素原子2、窒素原子1で構成される分子)を持っており、ひとつはペプチド結合(ほかのアミノ酸とくっつく)に使い、もうひとつは余っているので、その他の物質と反応を起こしやすい性質を持っています。
ここにメチル基が結合すればメチル化が起こり、ヒストンタンパク質の性状が変化して、DNAの働きが制御されます。
■糖化による病的な老化の正体
DNAでも同様に、塩基のひとつであるシトシンがメチル化して、生理的な(正常な)反応としてエピゲノム変化が起こると、不要なタンパク質が生成されなくなるなどの制御がかかります。
ここからは、おそらく実際に起こっている可能性が高いと考えられるのですが、ヒストンタンパク質のリジンやアルギニン、DNAのシトシンのメチル化を起こす部位に、アルデヒドも結合するのではないかと推測しています。
アルデヒドが関与することで、糖化やカルボニル化、メチル化を含めた広い意味での非生理的な(異常な)エピゲノム変化が起こり、遺伝子が病的な老化パターンに切り替わるものと考えられます。

そう考えると、生活習慣の乱れによって、エピゲノム変化が起こって病的な老化が進行するというストーリーの辻褄が合います。ここでもやはり、先の記事でお伝えしたアルデヒドが黒幕として関与していたというわけです。そして、これこそが糖化による病的な老化の正体といえます。
実際にDNAにホルムアルデヒドを反応させたらメチル化したというかなり昔の研究報告もあり、ほかのアルデヒドもDNAに反応しないはずがありません。
ほかにも、エピゲノム変化のアルデヒドの関与については、脱メチル化というメチル基が分離する反応があるのですが、このときにシックハウス症候群の原因にもなる有毒なホルムアルデヒドが遊離するという事実もわかっています。
■百寿者に近づくほど、暦年齢より細胞の年齢が若い
最近は細胞の年齢を計測しようという試みで「メチル化年齢」というものを計測しています。DNAのメチル化=エピゲノム変化を細胞の老化を測る基準として利用しているのです。
上の図はメチル化年齢=エピゲノム年齢を計測し、暦年齢と比較したところ、100歳以上の百寿者に近づくほど、暦年齢よりメチル化年齢が若いことがわかります。また、糖尿病患者と糖尿病ではない人のメチル化年齢を比較した研究では、糖尿病患者のほうが早く老化することがわかっています。
これらのことからも、やはり生活習慣の乱れによって糖化ストレス(=アルデヒドの暴走)の負荷が高い状態になると、非生理的なエピゲノム変化を早め、病的な老化を進めてしまうといえるでしょう。
■AGEsがたるみやシワをつくる
弾力のある肌を構成しているのは、コラーゲンです。コラーゲンは三重らせん構造のタンパク質であり、コラーゲンそのものが糖化によって硬く変性してしまうと、弾力がなくなって肌のハリがなくなってきます。

また、複数のコラーゲンをエラスチンというタンパク質が橋かけしてつなぎ、クッション役を果たしています。このエラスチンが糖化してAGEsに置き換わると、クッションが効かなくなり弾力がなくなってしまうのですが、糖化の影響が進んでいくと、やがて肌がたるんでしまいます。
このように、皮膚を形成するタンパク質が糖化によって弾力を失い、たるみが生まれてくると、それが戻らなくなってシワをつくる原因になるのです。さらに、AGEsは黄褐色に変色するので、肌が黄ばんで透明感がなくなってきますし、シミの原因にもなります。
肌の色素をつくる細胞が、メラニンという色素をつくり、それを角化細胞という皮膚の大部分を占める細胞が吸収します。
その吸収したメラニンを細胞内部の核の上に被せて「メラニンキャップ」という防御構造が形成されるのですが、このメラニンの帽子が細胞核を紫外線の酸化ストレスから守る役割を果たしているのです。
しかし、微小な粒子構造をしているメラニンが、糖化によって凝集して大きくなってしまうと、それがシミの原因になります。メラニンキャップが糖化し、防御機能が低下すると、紫外線の酸化ストレスによって遺伝子が損傷しやすくなるため、皮膚がんの発生リスクも上がってしまうのです。
■糖化ケラチンの影響で乾燥肌に
また、皮膚の表面を守っているのは、ケラチンというタンパク質です。ケラチンは、体の表面を覆っているタンパク質で、髪の毛や爪などもケラチンで保護されており、免疫システムの一翼を担う役割も果たしています。
しかし、このケラチンもほかのタンパク質と同じく、糖化ストレスの影響を受けるリスクがあります。ケラチンが変性して「糖化ケラチン」になると、皮膚の表面に常在する黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が増え、逆に肌にポジティブな効果をもたらしてくれる「美肌菌」が減ってしまうのです。

悪玉菌が増えると、たるんだシワの内側や首、脇の下、足の間といった肌のポケットに「バイオフィルム」というネバネバした薄い膜が形成されるようになります。このバイオフィルムが保護ドームのような役割を果たす形になり、その内部で悪玉菌が増殖してしまうのです。
しかも、このバイオフィルムも糖化産物なので、本来の免疫機能を果たさない偽物です。糖化ケラチンが増えていくと、外からの侵入を阻止するブロック機能が低下するため、感染症などにかかりやすくなってしまいます。
また、ケラチンは、外側からの異物の侵入をブロックするだけでなく、内側からの水分の蒸発を抑える役割も果たしています。そのため、糖化ケラチンが増えていくと、肌が乾燥しやすくなってしまいます。
肌が乾くと異物が入ってきやすくなり、アレルギー反応を起こすリスクも上昇。そのため、乾燥肌が、アトピー性皮膚炎を生み出すきっかけになるともいわれています。そして、実はその原因に糖化がある可能性もあるのです。

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米井 嘉一(よねい・よしかず)

同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授

1958年東京生まれ。武蔵高等学校卒業、慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。1989年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。
2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、糖化ストレス研究会理事長、(公財)医食同源生薬研究財団代表理事。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。主な著書に『アンチエイジングは習慣が9割』(三笠書房)、『若返りホルモン』(集英社)など多数。

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(同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授 米井 嘉一 イラストレーション=平松 慶)
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