脳と体の老化を防ぐには、何をすればよいか。同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一さんは「脳内で指先や手先の細かい作業に使われる神経領域は、ウォーキングのような全身運動で刺激される領域と同じくらいの大きさがある。
大きな全身運動と細かい手作業を両方やることによって、脳神経全体を刺激することができる」という――。
※本稿は、米井嘉一『糖と脂で体は壊れる 疲労、病気、老化の原因「糖化」の正体』(池田書店)の一部を再編集したものです。
■1日の生体リズムに合わせて生活する
時計遺伝子の25時間周期のプログラムによって、体内時計がコントロールされていますが、前述したように、地球の24時間周期とのズレを調節するためにリセットが必要です。そのためには、しっかり朝食を摂り、朝日を浴びること。
朝から時計タンパク質が生成され始め、夜9~10時頃にピークになって、そこから減っていくというサイクルが生体リズムをつくっています。生活のベースをそのリズムに合わせることが、余計な糖化を起こさず、病的な老化を抑制するのです。
そのリズムは、自律神経のリズムなどともリンクしており、朝から交感神経優位に切り替わって活動性が上がり、夕方から夜にかけて副交感神経が優位になって、休息モードに切り替わります。
食事や睡眠のタイミングといった生活行動が、これらのリズムから外れると、ホルモン分泌のバランスが乱れたり、食後の血糖値が余計に上がったり、代謝が低下したり、体の生体機能にさまざまな影響が出てきます。
ですから、朝起きて、しっかり3食を摂りながら、昼間は活発に動き、夜11時までには心身を休めて就寝するというメリハリのある生活を適正なリズムで送ることが大切なのです。
■ベッドの上でスマホ、パソコンは絶対ダメ
質のよい睡眠に欠かせないのが、メラトニンという睡眠と関係が深いホルモンです。脳の奥にある松果体(しょうかたい)という部位でつくられ、「天然の睡眠薬」とも呼ばれています。
メラトニンは、光の明暗で分泌のスイッチが切り替わるため、夕方頃から分泌が始まり、起床して朝日を浴びることでストップします。
前述した生体リズムがリセットされるのも、メラトニンの分泌の停止が関係しており、朝日を浴びることが、夜のメラトニン分泌を正常に機能させるための大切な儀式ともいえます。
したがって、夜の就寝時には明かりを消して真っ暗にすることも大事。ベッドの上でスマートフォンを操作したり、パソコン作業をしたりするのは、メラトニンの分泌を妨げることになります。
就寝の1時間前には、そうした行動は控えるようにしましょう。
■ノンレム睡眠とレム睡眠は5サイクルが理想
夢を見ている浅い眠りを「レム睡眠」、ぐっすり深い眠りを「ノンレム睡眠」といいますが、人間は、このふたつの睡眠を交互に繰り返しながら眠っています。
浅いレム睡眠の脳波であるシータ波から、深いノンレム睡眠のデルタ波に切り替わり、再びシータ波になるというサイクルを繰り返しますが、このワンセットは平均すると90分ほど。重要なのは、入眠から3時間ほど経過した2サイクル目の終わりに、成長ホルモンの分泌がピークに達することです。時間帯も重要で、夜に眠らないと成長ホルモンは大量に分泌されません。
この睡眠サイクルの理想は、5サイクルと考えます。90分×5=7時間半に相当しますが、成長ホルモンの分泌や生体リズムの調整などを考慮すると、それくらいの睡眠時間が適切といえます。難しい場合は、せめて4サイクル(90分×4=6時間)を目指しましょう。
■睡眠の質と糖化ストレスの関係
睡眠の質は、糖化ストレスにも深く影響します。
普段睡眠不足気味の人に対し、11時間寝た後と3時間しか寝ていない場合の朝食後の血糖値を調べたところ、3時間睡眠の場合のほうが血糖値の上昇が高くなりました。このことからも睡眠不足は、血糖スパイクを起こしやすくすると考えられます。
また、睡眠ホルモンのメラトニンは睡眠中に脳内のAGEsを分解する作用があり、糖化や酸化ストレスから脳を守る役割も果たしています。
このほかにも、睡眠不足になると、善玉のHDLコレステロールが減少したり、食欲を抑えるホルモン「レプチン」が減少して食べすぎを誘発したりするなど、睡眠は抗糖化生活に大きく影響するといえます。
一方、副腎皮質から分泌される「コルチゾール」というストレスに反応するホルモンは、成長ホルモンの分泌を抑制するので、就寝前にストレスになるような嫌なことは考えないようにしましょう。
■細かい手作業で神経系を刺激する
神経年齢に弱点がある場合は、神経を刺激するような習慣が必要です。神経も筋肉や骨と同じく、使わなければ減っていく運命にあるからです。
ウォーキングのような全身運動でも運動神経を使うので脳神経を刺激できますが、脳内の神経の体積を見ると、全身の大きな運動で刺激される領域と、指先や手先の細かい作業で使う神経領域は、同じくらいの大きさがあります。指先の動きは繊細なので、脳内でも大きな領域を占めているというわけです。
そのため、もし神経年齢に弱点があるとするならば、全身運動と細かい手作業を組み合わせて実施することが効果的です。大きな全身運動と細かい手作業を両方やることによって、脳神経全体を刺激することができるからです。
具体的に脳神経の刺激に有効な手作業は、「文字を書く」「絵を描く」「楽器を弾く」「麻雀やゲームをする」といった、手を細かく動かしながら頭を使うことならなんでもOK。
外に出かけて友人と趣味に興じるのも、脳にとってよい刺激になるでしょう。

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米井 嘉一(よねい・よしかず)

同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授

1958年東京生まれ。武蔵高等学校卒業、慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。1989年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、糖化ストレス研究会理事長、(公財)医食同源生薬研究財団代表理事。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。主な著書に『アンチエイジングは習慣が9割』(三笠書房)、『若返りホルモン』(集英社)など多数。

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(同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授 米井 嘉一 イラストレーション=平松 慶)
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