意思決定の質を高めるには、どうすればいいか。心療内科医の鈴木裕介さんは「自分の気持ちが、自分や他人を傷つける行動につながりやすいタイミングがある。
勢いのまま突っ走ったほうがいいときと、そうすべきではないときを冷静に見極めたほうがいい」という――。
※本稿は、鈴木裕介『頭の中のひとりごとを消す方法』(池田書店)の一部を再編集したものです。
■感情の信頼性を見極める方法
自分の感情が信頼できるときと、そうでないときを見極める技術を高める方法について、マイケル・D・ヤプコの戦略が非常に役に立ちます。
具体的には、次の5つのポイントがあります。
感情の信頼性を見極めるポイント
1/「自分の気持ちがあてにならないことがある」という前提を受け入れる

2/自分の気持ちをある程度、明確にする

3/「気分で決めていいこと」と「そうでないこと」を区別する

4/とにかく行動したら、気分が変わることもある

5/すぐに態度を決めないほうがいいときを見極める
1/「自分の気持ちがあてにならないことがある」という前提を受け入れる
自分の気持ちが常に正しいとはかぎらないと理解することが重要です。
直感や第六感が役に立つこともありますが、多くの場合、直感がうまく機能するケースは、そのことについて何万時間という単位の鍛錬を積み、合理的な思考を極めた人においてのみです。
自分の気持ちを疑うことなく、何でもかんでも「自分の感じたことだけが真実だ」と思い込んでしまうと、冷静な判断ができなくなるおそれが大きくなります。
■「悔しい」「悲しい」「さびしい」どの感情か
2/自分の気持ちをある程度、明確にする
自分の感情をある程度、明確に言葉で説明できるでしょうか。
「なんかいい感じ」「悪い感じ」だけではなく、「なぜそう感じるのか」「どんなふうに感じるのか」を具体的に言語化する練習が必要です。
たとえば、同僚の大抜擢の知らせを聞いたときに、素直に祝うことができなかったとします。
それは、自分以外の人が選ばれたことによって、「自分は選ばれなかったんだ」「いつも自分は選ばれない」というネガティブ思考から反すうに入ってしまったのではないか。
胸のあたりがもやもやして、嫉妬が入っているけれど、その奥には悲しみや怒りがあるかもしれない……といった具合に、です。

もちろん、すべての感情を明確に言語化できるわけではありませんし、「言葉になりきらない気持ち」はそのまま大事にされる必要はあります。
しかし、すべての感情がまったくもってあいまいなままだと、自分がその感情にどう対応したらいいのかという判断がつきませんし、適切な対応方法も見つかりません。
「悔しい」のか「悲しい」のか「さびしい」のかで、その感情に対処するためにやるべきことは変わってきます。
それに自分の感情があいまいなままでは、それを他人に伝えて理解や共感を得たり、ヘルプを求めたりすることも難しくなるでしょう。
負の感情を抱いてしまうこと自体は、決していけないことではありません。何かしらの出来事に対し、相応の感情を抱くのはごく自然なことです。そうした自然な感情を超えて増幅した分を調整するために、意識的に感情のラベリングを試みるのは重要な技術です。
■強い感情に煽られたときは要注意
3/「気分で決めていいこと」と「そうでないこと」を区別する
「良薬、口に苦し」という言葉がありますが、単純に自分の気分だけで決めていいときと、気持ちはいったん置いておいて、効果や効能、将来のことなどを考えてよくなるほうを選ぶべきときがあります。
「AランチとBランチ、どっちにしよう」は気分で決めても問題なさそうですが、自分の病気の治療方針や治療薬をどうすべきかは気分で決めるべきではなさそうです。
たとえば、健康やお金に関すること、仕事や重大な人間関係にまつわることなど、自分にとって重要な選択はたとえ今の気分にそぐわなくても、得られる効果や将来的な利益をよく考えてから決めたほうがよいでしょう。
ですから、強い感情に煽られて何かを決断し、行動しようとしているときこそ、「これは今の気分で決めていいことだろうか」と、ちょっと踏みとどまって考えてみるとよいでしょう。
■意思決定の質が大きく下がるのはこんなとき
4/とにかく行動したら、気分が変わることもある
気分と行動は、とても深く関連しています。
「まず動くことで感情を変える」という考え方があります。これは行動活性化といい、心理療法においてベースとなるものです。行動によって、気分が“あとから”ついてくるということです。
抑うつを抱える人は、その気持ちを変えるために行動を起こすよりも、落ち込んだ気持ちをいつまでも反すうし、その気持ちに“浸る”傾向があります。
反対に、抑うつになりにくい人は、気分が落ち込んでいるときに楽しい映画を見たり、友人と話したりといった行動をとりやすいものです。
ある程度、体力と気力の余裕が保たれているのであれば、気持ちの整理がつかなくても、まず動き出してみるとよいでしょう(動く力がまったく湧かないほど余裕がないときは、このかぎりではありません)。
5/すぐに態度を決めないほうがいいときを見極める
自分の気持ちが、自分や他人を傷つける行動につながりやすいタイミングがあります。
落ち込んでいたり、逆に妙に高ぶっていたり、体調が悪かったり、あるいは月経周期などによっても、意思決定の質が大きく下がるときがあります。
そういう“やばいタイミング”のとき、会ったばかりの人と過度に親密になったり、まったく信頼できない人物やあやしい仕事の依頼に対して「運命だ!」と感じて、全力で突っ込んでいってしまったりします。
人生において勢いは大事ですが、勢いのまま突っ走ったほうがいいときと、そうすべきではないときを冷静に見極めたいところです。
「今の自分は、ちょっとかかりすぎているかもしれない」「冷静に判断できるコンディションではない気がする」と気づいたら、勢いで即決せず、いったん保留です。
一晩おいてみたり、その内容についてもう少し詳しくリサーチしたり、第三者に相談したりするなどのアクションをとりましょう。

急にせり上がってくる不安や怒りなどを感じ、それを他者にぶつけてしまいそうなときは、ぜひこの5つのポイントを意識して、感情の「増幅分」を自覚できるようになりましょう。

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鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。

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(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)
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