■日本では「媚びすぎ」評価が飛び交った日米首脳会談
ホワイトハウスで開かれた日米首脳会談での高市首相のトランプ大統領に対する振る舞いをめぐって、日本とアメリカの評価は大きく分かれた。
日本では、「あれは媚びすぎではないか」「見ていて不快だ」といった違和感が広がった。トランプ氏の真珠湾ジョークに反論しなかったことは「弱さ」と受け取られ、繰り返された賞賛の言葉は「媚び」と映った。さらに、抱きつくようなハグやディナーでの親密な振る舞いは、「一国の首脳としての品位を欠く」とする批判も少なくなかった。
しかしトランプのアメリカでは、この振る舞いは全く異なる意味を持つ。
むしろ賞賛されたと言ってもいい。
英語圏の報道やSNSの反応を見ながら、その背景を考えたい。
■NYタイムズ「高市首相は魅力という戦術に頼った」
ニューヨーク・タイムズは、「魅力と抑制を駆使し、日本の首相はトランプの怒りをほぼ回避」という見出しで、初のホワイトハウス訪問を「ほぼ無傷で乗り切った」と伝えた。欧州の同盟国が浴びせられてきたような非難を避けつつ、米国内のエネルギー事業への最大730億ドルの投資など、協力分野を強調した点を認めている。
また首相がトランプ氏を繰り返し称賛し、「世界に平和をもたらせるのは、ドナルド、あなただけだと確信しています」と語ったことについては、「彼女はこれまでも一貫して用いてきた“魅力(charm)”という戦術に頼った」と指摘している。
外交問題評議会のシーラ・A・スミス氏も「彼女はこの瞬間に何が求められているかを理解し、それを実行した」と述べ、この会談を日本にとって成功と位置付けている。
ここで重要なのは、これらが「媚び」ではなく、戦略として説明されている点である。
■称賛を強める「戦略」で軍艦派遣を焦点化させなかった
英ファイナンシャル・タイムスは、トランプ氏が公の場で軍艦派遣を迫る可能性を、日本政府が懸念していたと報じている。その上で、日本側が「高市首相はトランプ氏への称賛を強める方針である」と説明していたことを伝えた。
賞賛と大規模な投資・経済協力の提示を組み合わせることで、日本が軍艦派遣に消極的である点から、会談の焦点とならないようにする判断があったと報じている。
実際、会談では軍艦派遣は大きな議題とはならず、こうした点も含めて、高市首相が「無傷で乗り切った」と評価される一因と考えられる。
■対トランプで有効な「好き嫌いを超えた戦略」
日本人が感じる違和感の背景には、「どう振る舞ったか」という意味での品位の問題がある。
外交は国家の格を示す場でもある。強い相手に対しても一定の距離を保ち、対等に見えることが重要であり、それが損なわれたと感じられたとき、人々は違和感を覚える。
しかしトランプのアメリカでは、その評価軸は、品位ではなく成果へと大きくシフトしている。
トランプ氏はしばしば「まるで王のように振る舞っている」と批判されるが、その背景には政権や共和党内で、公然と異を唱えるのが難しい現実がある。反対すれば、次の選挙で勝てないばかりか、支持者から激しい攻撃を受けることもある。そのため、過剰とも言える称賛が常態化している。
ヴァンス副大統領の「トランプはアメリカ国民の意思そのもの」、ステファニク下院議員の「現代史で最も強い大統領」、キャリー・レイクの「この国を救えるのは彼だけ」など、例を挙げればきりがない。
もちろんこうした発言に不快感を覚える人も少なくない。
しかし対トランプ氏の場合、それは単なる媚びではなく、相手の性格と力関係を踏まえた戦略として読まれる。
少なくともアメリカの報道や反応を見る限り、「好ましい振る舞いかどうか」ではなく、「目的に対して有効だったかどうか」の判断なのだ。
ある中国系アメリカ人は「彼女の立場としては、ああ言うしかなかったと思う」という感想を共有してくれた。この言葉はまさに「好き嫌いを超えた戦略」を端的に表している。
■「真珠湾ジョーク」でも動じなかった高市首相
象徴的だったのが真珠湾ジョークだ。
トランプ大統領は記者から、「イラン攻撃を事前に同盟国に知らせなかったのか」と問われ、逆に「ではなぜ日本は、真珠湾攻撃を事前に知らせなかったのか?」と切り返した。
ニューヨーク・タイムズによれば、高市首相は目を見開き、質問をした日本人記者のほうを見た。腕を組んだまま、発言はしなかったと伝えた。
日本側では、歴史に関わる発言に対してその場で言葉を返さなかったこと自体が、対等性を守れなかったように映った。
しかしアメリカで問題視されたのは、高市首相の反応ではなく、トランプ氏の発言のほうだった。
戦後80年を経て、日米関係の価値が多くの人に共有されている中で、現職大統領がこのような歴史を持ち出すことに対し、SNSではむしろ「アメリカ人として恥ずかしい」などの批判の声が目立った。
■相手の弱点を突くのはトランプの常套手段
実際、トランプ大統領が相手の弱点や歴史問題を突きつけるのは、珍しいことではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領の服装を揶揄したことは記憶に新しい。南アフリカのラマポーザ大統領の目の前で、自国内での「虐殺」のビデオを見せた。ドイツのメルツ首相との会談では、アメリカがナチスドイツからフランスを解放したノルマンディー上陸作戦を持ち出した。
ワシントン・ポストは、トランプ氏が各国首脳との対立を常態化させていると指摘する。テレビ中継される会談を、同盟国に対して圧力をかける機会へと変えているという。また同紙は、各国首脳はライブ配信される場での対立がもたらすリスクと、大統領との関係を改善できる可能性とを天秤にかけざるを得ないとも伝えている。
こうした構図の中で、相手に心理的な圧力を与えること自体が、交渉の一部として機能していると見ることもできる。
しかし高市首相は結果的にこの挑発に乗らず、感情的な対立を避けた。この対応は、アメリカの文脈では「相手のゲームに巻き込まれなかった」という意味で、うまく切り抜けたという評価につながる。
もっとも、ここにはもう一つの現実がある。トランプの真珠湾ジョークは明らかに相手へのリスペクトを欠く発言であり、「品位のない振る舞い」と批判されるべきものだ。
■飛び跳ねる高市首相は「キュート」
日本で批判を集めた高市首相の「振る舞い」は、主流メディアではほとんど論点にならなかった。
トランプ氏に対する飛びつくようなハグ、互いに腰に手を回しながら歩く後ろ姿、夕食会で踊るように喜びを表現する姿。こうしたビデオや写真に対し、むしろ強く反応したのはMAGA(トランプ支持者)のSNSだった。
インフルエンサーのローラ・ルーマーは、「彼女はなぜこんなにキュートなの」というコメント付きで、トランプ氏と並んで映る写真を投稿した。
ホワイトハウスのレビット報道官は、2人が腰に手を回して歩く写真に「この写真大好き。日本も大好き」とコメント。
140万人のフォロワーを持つMAGA Voiceは踊る高市氏の写真に「日本の首相は私の大好きなリーダーの1人」と表現した。
こうした反応は、日本のリーダーに対しては異例だ。
逆に、批判する声はほとんど見かけない。
■アメリカの「振る舞いは個人の自由」という価値観
背景には、「振る舞いは個人の自由」という価値観がある。アメリカ社会では、媚びる男性もいれば、セクシーな魅力や親しみやすさを武器にする女性政治家もいる。
むしろ、それを批判することのほうが、「こうあるべきだ」という規範の押し付けと受け取られる。特にリベラルな価値観の強い文脈では、女性に対して「その振る舞いは不適切だ」と言えば、それ自体がミソジニーと見なされるリスクすらある。
一方で、アメリカが強く反応するのは別のポイント、同盟国に対する侮辱や、力関係の乱用という「リスペクトのなさ=品位のなさ」である。だからこそ今回批判の対象になったのは、高市首相ではなくトランプ氏の発言のほうだった。
ただし、トランプのアメリカでは、品位よりも成果が優先されるという現実もある。
■男社会でもまれてきた高市首相ならではの「技術的振る舞い」
そこで際立ってくるのが、その現実に対応した「振る舞い」だ。
ある意味、日本が戦後一貫してアメリカに対して相対的に弱い立場に置かれてきたからこそ、力関係を前提に振る舞いを調整するという発想自体は、日本にとって決して新しいものではない。
さらに、日本社会の中でも、特に男性中心の権力構造の中で働いてきた女性にとっては、強い相手に対して関係を維持しながら立ち回ることは、理想ではなく現実である。
つまり、それは「媚び」ではなく、構造的な上下関係の中で機能する一種の技術とも言える。
もう1つ興味深いのは、今回の高市首相の振る舞いは、「何を考えているかわからない日本人」という従来のイメージを、ある程度払拭した側面もあることだ。これまで日本の外交は、曖昧さや慎重さゆえに「本音が見えない」と受け取られることも少なくなかった。
しかし今回は、高市氏がトランプ氏に対して明確な賞賛と好意を示し、関係構築の意思を可視化した。
特にMAGA支持者は「トランプが好きか嫌いか」で相手を判断する。だからこそ高市氏は「わかりやすい仲間」として受け入れられたのだ。
■失点は避けたが、今後この関係が持続するかが課題
では、この会談は成功だったのか。短期的に見れば、高市首相は大きな失点を避け、トランプからの好感を得たという意味で、一定の成果を上げたと言える。しかし長期的に見れば、評価はまだ定まっていない。
冒頭のニューヨークタイムス記事は、日本のエネルギー依存や今後の軍事的負担の可能性に言及し、「成功が長続きしない可能性」を指摘している。
今回の会談に先立って英語圏メディアでしばしば語られたのは、「日本がアメリカの同盟国として、決定的な価値を示すことができるか否か」だった。
つまり、問われたのは「どう振る舞うか」ではなく、「何を提供できるか」である。エネルギー、安全保障、投資といった具体的な領域において、日本が同盟国としてどのような価値を持つのか。それが試されるのはまだまだこれからだ。
今回の会談で高市氏が世界に示したのは、トランプ時代の外交において何が通用するのかという「文法」だった。
その中で今回明らかになったのは、同盟のゆるぎなさと同時に、交渉の主導権は依然としてアメリカにあるという冷徹な現実でもあった。
振る舞いだけで乗り切れる段階は、すでに終わりつつある。問われているのは、その現実を理解した先に、日本がどのような「他に代えのきかない価値」を提示できるかである。
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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
NY在住33年。のべ2,000人以上のアメリカの若者を取材。彼らとの対話から得たフレッシュな情報と、長年のアメリカ生活で培った深いインサイトをもとに、変貌する米国社会を伝える。専門分野はダイバーシティ&人種問題、米国政治、若者文化。ラジオのレギュラー番組やテレビ出演、紙・ネット媒体への寄稿多数。アメリカのダイバーシティ事情を伝える講演を通じ、日本における課題についても発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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