日本マクドナルドホールディングスの2025年12月期の連結決算は、フランチャイズ店を含めた全店売上高が8886億円、最終利益は339億円でいずれも過去最高となった。何度も値上げを実施しているが、なぜ客離れが起きないのか。
淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は「マクドナルドの売上規模の大きさは競合他社を圧倒している。安定的な集客が見込めるのは、商品そのものの魅力だけでない“巧みな戦略”をとっているからだ」という――。
■全店舗の売上高、過去最高「8886億円」
日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の業績が好調である。2023年以降、3期連続で増収増益を達成しており、2025年12月期連結決算は、売上高4166億円(前年同期比2.7%増)、当期利益339億円(6.1%増)と、いずれも過去最高を更新し、経営の強さを象徴する結果となった。
ここで注意すべきなのが、マクドナルドの売上構造である。連結売上高は4166億円だが、フランチャイズ店舗を含めた「全店売上高」は8886億円に達する。これは全国のマクドナルド店舗で消費者が実際に支払った総額を示している。
日本では、マクドナルドの多くの店舗はフランチャイズ方式で運営されており、本部は店舗からロイヤルティ収入を得る構造となっている。つまり、売上高4166億円は本部の収益を示す数字であり、全店売上高の8886億円は実際に店舗で消費者が支払った総額を意味する。
このフランチャイズモデルは、店舗投資の負担を分散しながら全国に店舗網を拡大できるという利点がある。同時に、本部はブランド管理や商品開発、マーケティングに経営資源を集中させることができる。この仕組みこそが、マクドナルドが巨大な外食チェーンとして成長してきた基盤と言える。

つまり、マクドナルドは約9000億円規模の巨大な外食市場を実質的にコントロールしている企業なのである。この規模の大きさは競合他社と比較すると際立っている。
■巨大ネットワークを背景にした“規模の優位性”
たとえば、モスバーガーを展開するモスフードサービスの売上は約960億円(2025年3月期決算短信)であり、バーガーキングの国内市場規模は575億円前後(2026年3月6日 食品産業新聞社ニュースWEB「バーガーキングが止まらない」)と推計される。単純比較では、マクドナルドはモスバーガーの約9倍、バーガーキングの約15倍の市場規模を持つことになる。
この規模の差は、単なる売上の違いではない。マクドナルドの場合、約3000店舗(2026年2月時点3026店舗)という巨大なネットワークを背景に、食材の大量調達や物流の効率化が可能になっている。(日本マクドナルドホールディングス「IRセールスリポート」)さらに、テレビCMなどの広告投資も全国規模で展開することができるため、広告効果も高まる。このような“規模の優位性”が、競合他社には真似しにくい強力な競争力となっているのだ。
経営指標で見ると、本業の稼ぐ力を示す営業利益率と経営効率の高さを示す自己資本利益率(ROE)はどちらも12%台後半に達し、外食企業としては高い水準にある。直近の3年間ではいずれも10%超えを果たしていることから、マクドナルドが少ない資本で効率的に利益を生み出していることが分かる。
(参考:「日本マクドナルドホールディングス[2702] 決算発表や業務・財務情報」日経電子版)
■「商品」と「価格」の巧みな戦略
この結果を織り込む形で、2026年3月には株価が7800円を超え、3カ月前から比較すると1500円以上も上昇している。株価上昇は、投資家がマクドナルドの安定した収益力を高く評価していることを示している。
営業利益率やROEが高水準を維持していることに加え、外食産業の中でも景気変動の影響を受けにくいビジネスモデルを持つ点が評価されているのだ。
それでは、外食産業全体が原材料高騰や人手不足といった課題に直面する中で、マクドナルドはなぜこれほどまでに安定した成長を続けているのだろうか。
その理由を端的に言えば、「商品戦略」と「価格戦略」の二つに集約される。特に近年のマクドナルドは、この二つを巧みに組み合わせることで来店客数と客単価の双方を伸ばすことに成功している。
マクドナルドの好調を支える第一の要因は、期間限定メニューによる集客力の高さである。マクドナルドは年間を通じて数多くの期間限定商品を投入している。たとえば、「月見バーガー」「グラコロ」「てりたま」などは、すでに季節の風物詩として定着しており、発売時期になるとSNS上でも大きな話題となる。
この戦略の重要なポイントは、単なる新商品ではなく、“毎年のイベント”として顧客に認知されている点にある。つまり、消費者にとっては、「今年もこの季節が来たから食べよう」という習慣的消費を生み出しているのだ。
■値上げ成功の背景に“お得感”
これはマーケティングの観点では非常に強力な仕組みであり、毎年確実な来店動機を作り出すことにつながる。つまり、期間限定メニューは、“集客エンジン”として大いに機能しているのである。
さらにマクドナルドは、テレビCMやSNSを活用したプロモーションを大規模に展開することで、期間限定商品の認知を一気に拡散させる。
決算説明会の資料などから読み解くと、マクドナルドの広告宣伝費は年間で約230~250億円に達すると推測される。また、公開データなどの情報から分析すると、モスバーガーとは約7~8倍、バーガーキングとは10倍以上の差があると思われ、競合を圧倒している。この“宣伝力”が、商品戦略の効果をさらに高めている。
(脚注:数値は筆者の独自推計)
好調を支える第二の要因は、価格戦略である。2025年3月、マクドナルドは約4割の商品で10~30円の値上げを実施した。(日本マクドナルドホールディングス「価格改定のお知らせ」2025.3.10)一般的に外食業界では値上げは客離れを招くリスクがあるが、結果として同社のフランチャイズを含む売上は年間で7.2%伸びている。これはブランド力の高さを示す象徴的な出来事と言える。
値上げが成功した背景には、“価格以上の価値”を顧客に感じさせる仕組みがある。たとえば、アプリを活用した店舗ごとのクーポン配信や、バリューセットの価格設計などにより、消費者は依然として“お得感”を感じやすい。つまり、値上げがあっても体感的な負担が小さい構造になっているのだ。
■「セルフオーダー」「モバイルオーダー」で回転率向上
また、店舗オペレーションの効率化も見逃せない。特にここ数年で急速に普及したのが、セルフオーダー端末やモバイルオーダーだ。
これらのデジタルツールは単に注文方法を変えただけではない。実は店舗の回転率を高め、収益性を改善する重要な役割を果たしている。
ハンバーガーチェーンのビジネスは、「売上=客数×客単価」という実にシンプルな式で成り立っている。客数を増やすためには、店舗の回転率が重要になる。つまり、同じ席数でも、どれだけ多くの客を短時間で回せるかが売上と利益を左右するのだ。
では、マクドナルドと競合2社との回転率はどれほど違うのか。業界データや店舗観察、平均滞在時間などをもとに推計すると、平均の客席回転数(1席1日)は、マクドナルドが20~25回転、モスバーガーが10~15回転、バーガーキングが15~18回転となる。
同じ席数の店舗でも、回転率が2倍近く違えば、売上ポテンシャルも大きく変わる。セルフオーダー端末やモバイルオーダーの普及は、回転率の向上につながり、人件費の抑制にも寄与している。これにより、利益率の改善が実現されているのだ。
■「高品質路線」のモスバーガー
日本のハンバーガー市場は、三つの競争戦略が併存する構造になっている。マクドナルドは巨大な店舗網と効率的なオペレーションを武器にした「コスト優位」を、モスバーガーは食材の品質や安心感を重視する「差別化」を、そして、バーガーキングは、ボリュームのある商品と大胆なプロモーションによって特定の顧客層に訴求する「集中」戦略をそれぞれ取っている。
この三つの戦略の違いが、日本のハンバーガー市場の競争構造を形作っているのだ。
この競争構造を詳細に検証してみると、まず、マクドナルドの戦略は、競合であるモスバーガーとは対照的である。モスバーガーは「高品質路線」を掲げ、注文後に調理するアフターオーダー方式を採用している。野菜を多く使ったメニューや、国産食材へのこだわりなど、品質の高さがブランドの核となっている。
しかし、この強みは同時に弱みにもなり得る。注文後に調理する方式は提供時間が長くなり、回転率が下がる傾向がある。結果として店舗当たりの売上を大きく伸ばすことが難しい構造となる。また、マクドナルドほど大規模な広告投資を行うことも難しく、話題性の面ではやや劣ることになる。
では、モスバーガーの強みとは何か。それは、“ブランドの信頼性”にある。健康志向や品質重視は消費者から支持を得ており、価格競争に巻き込まれにくい。つまり、マクドナルドが「規模とスピードのビジネスモデル」であるのに対し、モスバーガーは「品質とブランド価値のビジネスモデル」と言える。

■「ボリューム路線」のバーガーキング
もう一つの競合であるバーガーキングは、近年日本市場で存在感を高めている。バーガーキングの特徴は、直火焼きのパティによる“ボリューム感”と“肉の存在感”にある。特に主力商品であるワッパーは、他チェーンにはない食べ応えがあり、若い男性層を中心に人気を集めている。
バーガーキングは、大胆なプロモーションを行うことでも知られている。割引キャンペーンやユーモアのある広告など、SNSで話題になるマーケティングを展開している。これによりブランド認知を拡大している。
ただし、店舗数の少なさは依然として大きな課題である。マクドナルドが約3000店舗規模のネットワークを持つのに対し、バーガーキングはまだその10分の1程度に留まる。つまり、ブランドの勢いはあるものの、顧客アクセスの面では依然として大きな差があるのだ。
マクドナルドの最大の強みは、単なるハンバーガーチェーンではなく、「巨大な外食プラットフォーム」として機能している点にある。全国に広がる店舗網、強力なサプライチェーン、そして、フランチャイズモデルによる経営効率――これら三つが組み合わさることで、他社には真似できないスケールメリットが生まれている。
■マクドナルドは“業界でも特異な存在”
さらにデジタル化の進展も重要である。モバイルオーダーやアプリクーポンは、顧客データを蓄積する仕組みとしても機能している。これにより消費者の購買行動を分析し、より効果的なマーケティングを行うことが可能になる。外食企業でありながら、データ企業としての側面を強めていると言える。
外食業界は今後も原材料費や人件費の上昇といった課題に直面する可能性が高い。その中で重要になるのは、ブランド力とオペレーション効率の両立である。マクドナルドはこの二つを高いレベルで実現している点で、業界の中でも特異な存在となっている。
モスバーガーは品質路線、バーガーキングはボリューム路線といったように、それぞれ差別化と集中を図っているが、いずれもマクドナルドの規模には及ばない。つまり、日本のハンバーガー市場は、依然としてマクドナルドを中心に回っている構造と言える。
では、マクドナルドの成長は今後も続くのか。短期的には、期間限定メニューとデジタル施策の組み合わせにより、安定した集客が続く可能性が高い。また、都市部だけでなく、郊外型店舗やドライブスルーの強化も成長余地を広げている。
ただ、長期的には、健康志向の高まりや食の多様化など、新たな消費トレンドへの対応が求められる。植物由来の代替肉やサステナビリティへの取り組みなど、外食業界全体で重要になるテーマにどう対応するかが、次の成長の鍵となるだろう。
■「集客」と「収益改善」が同時にできる強み
マクドナルドの強さは、単なる価格の安さやブランド力だけではない。商品開発、広告戦略、店舗オペレーション、デジタル化、そして、フランチャイズモデル――これらすべてが組み合わさることで、巨大な経営システムとして機能している点にある。
期間限定メニューによる集客と、適度な値上げによる収益改善。この二つを同時に実現できる企業は多くない。だからこそ、マクドナルドは売上と利益の双方で過去最高を更新することができたのだ。
日本のハンバーガー市場は、今後も競争が激化するだろう。しかし、現時点では、その中心に立つのはやはりマクドナルドだ。モスバーガーやバーガーキングとの戦略の違いを見れば、その強さの構造がより鮮明に浮かび上がってくる。
この巨大ブランドが次にどのような戦略を打ち出すのか。外食業界のみならず、日本の消費市場全体にとっても注目されるところである。

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雨宮 寛二(あめみや・かんじ)

淑徳大学経営学部教授

淑徳大学経営学部教授。ハーバード大学留学時代に情報通信の技術革新に刺激を受けたことから、長年、イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、企業のイノベーション研修や講演、記事連載、TVコメンテーターなどを務める。日本電信電話株式会社に入社後、中曽根康弘世界平和研究所などを経て現職。単著に『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮社)、『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』『サブスクリプション』(いずれもKADOKAWA)など多数。新著に『経営戦略論 戦略マネジメントの要諦』(勁草書房)がある。

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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)
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