■アナウンサー退職ラッシュが意味すること
アナウンサーの退社が次々に報じられ、そのたびに民放テレビ局の危機が叫ばれている。
特にフジテレビは小澤陽子アナ、勝野健アナ、竹内友佳アナの退職が相次いで報じられ、「1年で8人『退職ラッシュ』」「退社ドミノ」「歯止めがきかない」などと危機をあおる記事が続出。2025年の騒動に関連付けて「アナウンサーから見切りをつけられた」というニュアンスの内容が目立っている。
他局でも、日本テレビの岩田絵理奈アナ、ABCテレビの増田紗織アナ、NHKの和久田麻由子アナの退社が報じられたほか、今年1月に良原安美アナがTBSを退社したことも記憶に新しいところ。
はたしてアナウンサーたちに何が起きているのか。また、特に退職者が多いフジは本当に危機なのか。
長年、業界内のアナウンサーと交流してきた経験や直接聞いたエピソードを踏まえて、意外に複雑な退社の理由、その背景、さらにAI化をめぐる実情などを掘り下げていく。
■退社が増えている最大の理由
多くのウェブメディアが「退職ラッシュでテレビ局の危機」などとあおっているが、これらは目先のPV稼ぎが目的であり、あまり実態を知らないのではないか。アナウンサーをめぐる状況はそんなに単純ではなく、一般企業の社員と似たところもある。さらにフジのアナウンサーはむしろ自他ともに「恵まれている」と見られることも少なくない。
年に数回アナウンサーにまつわるコラムを書いているが、記事としてアップされると本人や関係者から「ありがとう」と言われる。
このところ退社が増えている最大の理由は、「アナウンサーたちのワークライフバランスやキャリアプランの意識が高まり、多様化している」から。
かつてアナウンサーの主な選択肢は、「退社してフリーアナウンサーとして勝負するか」「結婚か出産をきっかけに退社するか」「不本意ながら他部署への異動を受け入れるか」の3つと言われていた。逆に40代になってもベテランとして番組出演しているアナウンサーはごくわずか。華やかなイメージとは裏腹に厳しい競争と残酷な現実があった。
■アナウンサーの意識変化
近年、特に増えているのが、アナウンサーに固執しないキャリアプラン。実際、今春に退社が報じられたフジの小澤アナは「自ら何かを創造したい」などとコメントしたように実業家路線が有力視されている。また、昨年6月にフジを退社した岸本理沙アナは当時25歳で「国内外の企業経営に関心を持った」ことを理由にアナウンサーからキャリアチェンジした。
それ以外でも、田中みな実、宇垣美里、森香澄のように女優を含む芸能人を目指したり、ゲーム実況の専門家などに特化したり、取材時などに知り合った企業に就職したり、グローバルな活躍を目指して海外留学したり、難関資格取得の勉強をしたりなど選択肢が多様化。むしろ漠然とフリーアナウンサーになる人は少数派と言っていいかもしれない。
一方、退社を選ばないアナウンサーの中にも「取材現場で学んだものを生かしてキャリアを再構築したい」「他部署でスキルを生かしたい」などと自ら異動を求めるアナウンサーがいる。
20代で“キー局アナ”というポストを自ら手放して退社を選ぶ人が増えたことから、以前より「入社したからにはアナウンサーにこだわりたい」という意識が薄れていることは間違いない。
■一般企業の社員とほぼ同じ感覚
また、仕事のキャリアだけを切り取らず、プライベートを同等以上に重視して退社を選ぶアナウンサーも多い。
事実、退社を明かしたばかりのフジの竹内アナは「子どもとの時間をもっと大切に過ごしたい」と明かし、勝野アナも今年1月に結婚した女性の生活拠点である京都に移住することを明かした。もともと職業柄、不規則な勤務になりやすいところもあって、配偶者や子どもに合わせようとするアナウンサーが増えている。
この1年間でフジを退社したアナウンサーを見ても、西岡孝洋、椿原慶子、永島優美、藤本万梨乃、前述した小澤陽子、勝野健、竹内友佳と、岸本理沙を除く全員が既婚者。心身・経済の両面で安心を得たことでキャリアプランやワークライフバランスを考えやすくなった様子がうかがえる。
この点における感覚は一般企業の社員とほぼ同じと言っていいだろう。
■リスクが大きく、割に合わない仕事
アナウンサーの退社について見逃せない背景がもう1つある。
それは「リスクが大きく、割に合わない仕事」という肌感覚が増していること。難関を突破してアナウンサーになれたとしても、会社員であるにもかかわらず局内外でタレントのような視線にさらされ、若手登竜門の情報番組では未明からの勤務を命じられ、不規則な生活になるなどプライベートもままならない。
さらに新人でも言い間違いなどのミスを厳しく指摘されるほか、体調不良で番組を1日休んだだけでニュース化されるなどのプレッシャーを受け、通勤や食事のときも追いかけられて、ファッション、ヘアメイク、飲食のメニューなども含めて盗撮される。学生時代のことや写真なども発掘され、あることないことを書かれ、家族や恋人を傷つけてしまうことも……。
早朝や深夜の勤務、友人や恋人と休みが合わない、周囲の視線がつらい、外出もままならないなどの理由から若手アナウンサーは入社前に抱いていたイメージとのギャップを感じやすい。実際、話していても「局と家を往復するだけ」「休日は家でドラマかアニメばかり見ている」と自虐的に語るアナウンサーは多く、長年続けていく難しさを感じて退職しても不思議ではない。
■フジテレビは「恵まれている」
アナウンサーたちの感覚や価値観はタレントより一般の会社員に近く、特別な自己顕示欲や欲深さは感じられない。むしろ地味な生活を余儀なくされて控え目な印象の人が多いのだが、仕事環境の厳しさやプライバシーが考慮されないことなども影響しているのではないか。
また、人事異動に関する心ない声もアナウンサーが退社を考える理由の1つ。社内的には「本人のスキルや適性を踏まえた前向きな異動」であるにもかかわらず、記事やSNSに「実力不足か加齢による左遷」と書かれてしまうケースが大半を占めている。そもそも会社員であるにもかかわらず、異動が全国に知られてしまうこと自体つらいところだ。
次に「大量退社」などと揶揄されがちなフジについて。
あまり知られていないが、フジのアナウンサー待遇は決して悪くないと言われていた。業界内では「育休利用者や復帰後に活躍するアナウンサー、他部署に異動して活躍する元アナウンサーは他局よりも多い」という声が聞こえてくる。ここで名前はあげないが、少し調べれば「あのアナウンサーがビジネスパーソンとして活躍しているのか」と気付くはずだ。
また、コロナ禍以降は局も番組もリスク回避の観点から勤務形態を変更。
■「中居問題」の影響はゼロではないが…
フジだけでなくテレビ局にとってアナウンサーは採用・育成してきた財産。難関の採用試験を突破した優秀な人材であり、入社後にアナウンス技術、情報収集力、知名度や好感度などを得たアナウンサーは「出演費の経費削減」という意味でも大切な存在にほかならない。局内で再評価され、「良い関係性を築こう」という姿勢が見られるようになっている。
昨年の騒動が「アナウンサーの退社にまったく影響していない」とは言えないが、よい変化もあった。
編成局の一部署だったアナウンス室が昨年7月に、独立してアナウンス局に昇格。また、アナウンサーと番組サイドの調整を担い、ともにキャリアプランを考えていくマネジメント・プロデュース部が新設された。その変化が本格的に生まれていくのは今年4月以降と言われており、退社しないことで得られるメリットが増えていくのかもしれない。
これらは決してフジを擁護したいというわけではなく、他局や一般企業と比較した上でのフラットな目線。もちろん全員が満足しているとは思わないが、それはテレビ局に限らずどの企業にも該当することだろう。
■アナウンサーのAI化は進まない
最後にアナウンサーを取り巻く報道についてもう1つ掘り下げておきたいのは、よくいわれるAI化の現実。
今回のようなネガティブな記事が出ると必ず「アナウンサーはAIに置き換えられていく」という話が正論のようにコメントされるが、少なくとも現在その選択肢はかなり優先度が低い。
アナウンサーはタレントと同等レベルの注目度や知名度があるほか、好感度が高く局や番組のイメージアップに貢献し、タレントの報酬より安く起用できる。さらに報道への信頼を得るためにも、時に感情が入り交じったアナウンスができる人材が必要であり、少なくとも現段階では「AIは現実的ではない」という。
実際、放送・配信・イベントなどを問わず「タレントを筆頭に出演者がAI化していない」という現実がある。世間の人々がまだ受け入れていないにもかかわらず、コスパがいいアナウンサーをわざわざAIに変えるテレビ局などないのだろう。
繰り返しになるが、アナウンサーの退職者だけが多いというわけではなく、「社員が退社しても毎年新人が入社してくる」「定年まで1つの職種で勤め続ける人が少ない」なども含め、一般企業と変わらない点が多い。
賢明な人なら、ここであげてきたような実情に目を向け、一部を切り取って「大量退社」などと掲げる恣意的な記事に流されないのではないか。
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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。
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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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