2026年3月16日、沖縄県辺野古の海域で、修学旅行中の同志社国際高校の生徒が亡くなるという痛ましい事件が発生した。学校側は記者会見で説明を行ったが、その内容に対しては厳しい批判が相次いでいる。
東北大学特任教授で人事・経営コンサルタントの増沢隆太さんは「今回の問題は事故そのものに加え、事故を防ぐための前提が存在しなかったことにある」という――。
■露呈した「安全第一」の欠如と杜撰な管理
沖縄県辺野古の海域で、修学旅行中の同志社国際高校の生徒を乗せたボートが転覆し、女子生徒(17)の尊い命が失われた事件は社会に大きな衝撃を与えました。学校側が開いた記者会見で事故の経緯が説明されましたが、そこで見えてきたものは、学校側の安全やリスクへの認識の低さです。
学校のような公的な組織での事業計画や運営において、常に「安全第一」の意識が共有されていないことは、甚大な危機を招きかねません。沖縄、辺野古の海に修学旅行で訪れた高校生が亡くなるという痛ましい事件は、一気に注目を集め、SNSやネットニュースのコメントは、同志社国際高校への批判で燃え上がりました。
そうした批判は、3月17日に開かれた学校側の記者会見を通じて、安全管理に関する学校としての対応が限りなく杜撰だったことも明らかとなり、的を射ていたことになるといえそうです。
会見で説明された学校側の対応には、事前段階から事故当日の判断、事後対応に至るまで、目を疑うような問題点が山積していました。それぞれの時間軸に分けてその問題点を整理します。
■専門家不在が招いた「丸投げ」の悲劇
【事前段階における不備】
まず、修学旅行という公的な行事で、旅行会社などの信頼できるプロの専門業者を使わず、民間ボランティアのような存在を使った点が挙げられます。事故後に開かれたボートを運航していたヘリ基地反対協議会は、ボランティアで運航していたため、事業ではないこと、そして登録が義務付けられていた内航一般不定期航路事業届出もしていなかったことを、16日夜に開かれた会見で説明しました。
そもそも知床遊覧船事故などで強化された安全管理制度について、学校側は認識しておらず、実態は知己だった船長への「丸投げ」でした。
【事故当日の判断ミス】
事故当日、現場海域には波浪注意報が出ていました。
近くにいた海保はメガホンで注意を促したにもかかわらず、学校側は「警報ではなかった」として、運行の判断を船長に一任しました。
さらに、教員はボートに乗船して引率しておらず、ボートのサイズなどが適正かどうかという判断までもが、すべて現場の船長任せになっていました。
【事後対応の混乱】
事故内容や経緯について情報が錯綜していても、記者会見までにある程度の開示情報整理ができていませんでした。特に安全対策の実態や、保険などの補償についての情報も未確認のまま会見に臨むなど、組織としての機能不全が露呈しました。記者会見では、ボートを操縦した牧師に責任を転嫁しているのではないかという質問もありましたが、会見を全て見て感じたのは、他責というより、高校側は「何も考えていなかった」ということです。
■現場判断も「引率」も放棄した学校の責任
事故原因究明をする以前に、そもそもの運営の計画段階からかなりの杜撰さがあったといえるのではないでしょうか。
同志社国際高校の修学旅行全体の運営は旅行会社に委託していたということですが、事故が発生した平和学習プログラム「船で辺野古を海から見る」の一環として、生徒たちが抗議船に乗船する活動などは旅行会社を通していませんでした。高校の教員と以前から付き合いのあった船長で、今回の事故で亡くなった金井創牧師(71)に直接依頼していたのです。
会見では、金井氏が運営するボートが無登録だったこと、そのため今回の事故での保険や補償については何もわかっていないことも明らかになりました。修学旅行などの大規模な学校行事では、旅行代理店に運営を委託するのが普通です。
こうしたプロへの委託はその分コストがかかりますが、大きなイベントにおいてはきわめて重要なことです。プロとしての運営能力とノウハウを持っていることはもちろん、特に安全面においても重要な意味があるからです。

危機管理においては、ゼロリスクはあり得ません。「事故はあってはならない」はあくまで精神論に過ぎず、現実の危機管理、安全管理であれば、「事故は必ずある」ことが大前提です。だからこそ、プロ業者を委託することで、危険対策を「複線化」する意味があるのです。
イベント事では、どれだけ自分たちがその内容に精通していたとしても、プロにも参画してもらうことで、効率化と安全管理という2つのメリットがあります。
■平和学習に潜む政治リスクと学校のプロ意識
業務に真に精通した担当者は、必ず計画時や予算時にそうしたリスクヘッジも含めた運営を考えるはずです。私も大学で学生を預かる立場にいますが、学校行事においては、自分たち教職員の目が届く範囲、管理ができる範囲を超える規模や内容であれば、必ず外部のプロの業者さんにも運営を依頼しています。
外部委託も含めて事業運営を考えることは、学校などの条件下では当然のことです。同志社国際高校の担当者と学校は、修学旅行という重大な行事において、本当にプロ意識を持っていたのか、その責任が厳しく問われるべきです。
そして事件後、ボートの大きさや波浪状況、運行事業者としての適正な手続きなど、さまざまな疑問の声が上がりましたが、何といっても今回の問題を炎上させた一番の原因は「政治リスク」ではないでしょうか。
修学旅行という学校の公式行事が、「平和学習」という名前で、政治的にはかなり議論を呼ぶテーマに設定されたことには、もともと大きなリスクを伴っていました。
辺野古の基地問題のように、賛否が激しく対立する政治問題において、今まだ意見集約ができているとはいえない「ホットすぎる政治テーマ」だと考えるべきです。こうした中で、一方の意見に与する活動団体の設備である「無届けボート」を平和学習として使うことに、今の環境であれば、もっと慎重になるべきでした。
今回のような事故や何らかのトラブルがあった際には、炎上状態を呼ぶことは容易に想像できます。
■炎上を招いたテーマ設定の盲点
そこまでのリスクを背負ってまで、特定の意見に寄った活動を学習テーマとすることが本当に修学旅行として適正だったのか。これは同志社国際高校が学校として大きく責任を負うべき点です。
どのような意図をもって平和学習のテーマを設定したか、その理由が何であったとしても、その選択がこの上なくリスキーであり、ひとたび緊急事態が起こったならば今回のように瞬時に大炎上するという「リスク評定」ができていなかったことについて、会見においては納得のいく説明がないように私は感じました。
学校として、企画者、決裁者など複数のプロセスを経て実行に移されたはずの修学旅行事業において、学校には危機管理の視点や疑義を差し挟む機能がなかったと言わざるを得ません。
事故発生時だけでなく、学校のレピュテーションリスク(※)や炎上リスクも考えた危機対応ができなかったゆえに、こうした政治リスクを自らが招いてしまったと考えます。

※レピュテーションリスク……企業に対するネガティブ・否定的な評判や噂が広がり、ブランド毀損、顧客・取引先の離反、売上減少などの経済的損失を被るリスク
この日の会見では事件の調査のための第三者委員会設置が報告されました。原因究明は欠かせませんが、問題はこの事件がこのまま何となく収束しそうにないという点です。
事件が政治的色合いを帯びてしまったことで、単なる「学校の事故」とは別扱いで、この先も注目と批判が続く恐れが高いでしょう。政治的リスクの問題点は、同様の事案、似たような政治問題がある度に注目がぶり返す可能性にあります。
■名門校が直面する信頼回復への険しい道
レピュテーションリスクの恐さは、影響が長く残ることです。辺野古基地問題は完全解決にまでまだまだ時間がかかりそうですし、「反対運動への批判」も時としてニュースになります。


全国的な有名大学・学校法人同志社の系列校ということで、受験や入学卒業など、世間の学校行事やイベントがある度に、この事件が蒸し返される可能性もあります。
本事件は単なる系列校の事故ではなく、同志社大学・学校法人本体をも揺るがしかねない大きな問題になる恐れがあります。有名大学のトラブルはネットニュースになりやすく、「同志社」の名が絡んでいるというだけで注目は続くからです。
高校生の人命まで失われたという事実は重く、事態収拾は非常に厳しいものになるでしょう。今から何かできることがあるとすれば、この第三者委員会での対応かもしれません。
事件の原因究明だけにとどめず、政治リスクを正面から取り上げ、会見で述べられた「過去の継続(慣性)による事故発生」という危機管理の欠陥を、根本的に改善することをどこまで厳格に発信できるか。
今回批判を呼んだ、一方的に偏ったといわれている政治的スタンスから決別し、中立で公正な学校教育実現を果たすという「出直し的、過去との決別宣言」まで踏み込むことが、事態の収束には欠かせないのではないでしょうか。

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増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)

東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家

東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」としてNHK・ドキュメント20min.他、数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。
著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。

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(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)
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