なぜ大学の運動部では、性暴力や薬物事件が繰り返されるのか。順天堂大学准教授の小野雄大さんは「問題は一部の学生の資質ではなく、勝利至上主義と閉鎖的な組織構造が背景にある。
そこにメスを入れなければ、同様の事件は今後もなくならない」という――。(第1回)
※本稿は、小野雄大『体育会系』(中公新書)の一部を再編集したものです。
■スポーツ名門校の裏側で繰り返された暴行
1990年代後半から特に目につくのが、運動部員による女性へのわいせつ行為・集団暴行事件である。
1997年には帝京大学ラグビー部(部員6名がカラオケボックスで女性に集団暴行した容疑で逮捕、のちに示談が成立し不起訴処分)による事件、日本体育大学スケート部員(部員5名が女性に集団暴行した容疑で逮捕、のちに1名は示談が成立し不起訴処分、未成年だった4名は保護観察処分)による事件と相次いだ。
2000年代に入っても、大学運動部員によるわいせつ行為や女性暴行事件が続発した。大学運動部の事件ではないが、2003年に早稲田大学のイベントサークル「スーパーフリー」による集団暴行事件が起き、その規模から大きく報道された。スーパーフリー事件は、このサークルメンバーを主体に、女子学生をターゲットにした組織的な輪姦・強姦行為が多数行われた事件である。
早稲田大学やそのほかの大学の学生など合計14名が強姦罪・準強姦罪で起訴され、スーパーフリーの代表者は懲役14年の実刑、そのほかの者も懲役10年~2年4カ月の実刑判決となった。この事件をきっかけに、2004年12月に刑法が改正(05年1月施行)され、「集団強姦罪」が新設された。
■京大アメフト部員による集団暴行
2人以上が共同で強姦罪を犯したときに適用し、法定刑は強姦罪(懲役3年以上)より重い懲役4年以上が科される(2017年の改正で集団強姦罪は廃止、「強制性交等罪」に)。こうした罪は、その後、大学運動部員が引き起こす暴行事件でも適用される。その後も大学運動部員によるわいせつ行為や集団暴行事件は続いた。

2004年には国士舘大学サッカー部員15名が15歳の少女に集団でみだらな行為をしたとして児童福祉法違反などで逮捕され、同年に亜細亜大学野球部員も電車内で痴漢行為をしたとして強制わいせつ罪で起訴された。なかでもセンセーショナルな事件となったのが、2005年の京都大学アメリカンフットボール部員による集団暴行事件である。
同部の部員3名が女子大生2名を泥酔状態にし集団で強姦した。3名は集団準強姦罪で逮捕され、1名は懲役4年6カ月の実刑判決、2名はそれぞれ懲役3年・執行猶予5年、懲役2年6カ月・執行猶予5年の有罪判決となった。これを受け、同部もまた公式戦辞退など活動自粛をした。
また、2009年には京都教育大学の複数の運動部員6名が集団準強姦容疑で逮捕される事件も起きている。これらは女性を複数で狙った性犯罪であり、人としてあるまじき犯行であることは言うまでもない。事件のたびに大学運動部の実力偏重主義や倫理教育の必要性が声高に叫ばれるものの、なかなか終わりは見えない。
■SNSで密売に繋がる大学生の危うい日常
2000年代以降はまた、運動部員による違法薬物所持・使用が問題化した。大麻の栽培・所持・使用などにかかわる大麻取締法違反によって大学の運動部員が逮捕・起訴される事件が頻発したのだ。2007年の関東学院大学のラグビー部員が大麻取締法違反で逮捕された事件を皮切りに、23年までに10件の事件が確認できる。
これらの事件は、単独犯は稀で、複数の部員がかかわっているケースが多い。
関東学院大学ラグビー部の事件では、部員が寮内で大麻草の栽培までしていた。また、部員が大麻取締法違反で逮捕された場合、その多くの部が無期限活動停止となり、複数にわたる事件で検挙された日本大学アメリカンフットボール部のように廃部に追い込まれたケースもある。
実のところ、大麻使用・所持の広がりは、大学スポーツ界だけにとどまるものではない。検挙数は2014年から右肩上がりである。2014年から23年までの間に全年齢で3.7倍になるなか、30歳未満は6.6倍、20歳未満は15.6倍である(以上、厚生労働省調べ)。
大学生への広がりに拍車をかけているのがSNSである。SNSを通して違法薬物を入手しやすくなっていることは間違いない。違法薬物事犯は、同時に運動部のガバナンスの問題も浮き彫りにする。
■日大「空白の2週間」に潜むガバナンス不全
日大の薬物事件 警察への通報はなぜ遅れたか」と題する『読売新聞』の社説では、次のように日本大学のコンプライアンス意識の欠如とガバナンスの崩壊を指摘している。
警視庁には昨年以降、〔日本大学運動部〕部員の大麻使用を疑う情報が何度も寄せられ、そうした情報を大学に伝えていたという。だが、大学が寮を調べたのは今年7月になってからで、この調査で学生の部屋から大麻の植物片などが見つかった。さらに不可解なのは、薬物の発見を大学がすぐ警察に連絡せず、2週間も学内で保管していたことだ。
事件の隠蔽を疑われかねない行為で、重大性を理解していなかったと言わざるを得ない。(『読売新聞』2023年8月9日)

日本大学の不祥事が世間の注目を集めたのは、この事件が初めてではない。日本大学アメリカンフットボール部をめぐっては2018年に、部員が試合中に無防備の対戦校選手に背後からタックルして負傷させる「悪質タックル問題」が起き、それを引き金にして日本大学自体のガバナンス問題にまで発展した。
■勝利至上主義の陰に潜む「ムラ社会」の歪み
警視庁の捜査では、疑われた監督の「指示」は認定されなかった。しかし、この事件のために設立された第三者委員会は、運動部を統括する「保健体育審議会」(現競技スポーツ部)が、問題の原因は審議会の事務部門トップだったアメリカンフットボール部監督の「独裁体制」にあったと指摘し、当時の大学理事長がこの問題を放置したとして責任を追及している。
この問題に続く同部の違法薬物事件では、あらためて日本大学の深刻なガバナンス不全が露呈した。日本大学の第三者委員会答申検討会議は改善計画を取りまとめた報告書で、組織の風土を「強固なムラ社会」と表現し、「秘密主義」や「排外主義」がはびこっていることを指摘している。
大学運動部では、暴行事件、不正入試事件、わいせつ事件、違法薬物事件などの不祥事が後を絶たない。これだけ同様の事件が続くのは、その問題の原因が個人の資質だけにあるのではなく、大学運動部に内在する勝利史上主義や、組織の閉鎖的体質、脆弱なガバナンスにあるからだろう。その批判が、大学教育そのものに及ぶのも無理はない。
■広告塔か教育か、大学運動部に問う存在意義
大学運動部が「ムラ」と譬(たと)えられるように、閉ざされたこのムラのなかで、ひとたび規律が乱れると問題が広がりやすい。また、大学運動部OB・OGも含めた強固な仲間意識から、自浄作用が働きにくい。

さらには、強豪部の指導者に学内の権力が集まりやすい。学生も、競技成績がよければ学業は二の次と考える者が大半だ。
問題を未然に防ぐためには、大学当局がしっかりと運動部のガバナンスに関与していくことが重要だ。しかし、現実には、多くの大学はそうではない。特に私立大学にとって大学運動部は、大学の社会的なプレゼンスの向上に直結し、大学名の周知に大きく寄与する可能性を持っている。
このため、全国の高校から有力な選手をスカウトして、強化に力を入れる大学当局は、勝利至上主義を容認し、運動部への強い関与を避ける傾向にある。
だが、大学は教育機関である。大学スポーツもまた、教育活動の一環であるはずだ。大学運動部が起こしたさまざまな不祥事は、高等教育機関の前提となる教育そのもののあり方を問うている。

----------

小野 雄大(おの・ゆうた)

順天堂大学准教授

1987(昭和62)年福岡県生まれ。埼玉県出身。2010年帝京大学文学部社会学科卒業。
12年筑波大学大学院修士課程教育研究科修了。16年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ科学)。早稲田大学スポーツ科学学術院助教、同講師などを経て、25年より順天堂大学スポーツ健康科学部准教授。編著『新時代のスポーツ教育学』(小学館集英社プロダクション、2022年)、共著『これからの体育・スポーツ心理学』(講談社、2023年)、論文“Who is the student athlete?” Sport in Society. 23, 2020.“A study of the worries that emerge in the career selection of Japanese student athletes.” Journal of Physical Education and Sport. 22, 2022

----------

(順天堂大学准教授 小野 雄大)
編集部おすすめ