仕事の効率を高める方法はあるのか。精神科医の久賀谷亮さんは「日常の中で『何かに注意を向ける』だけのシンプルなトレーニングを行うと、脳を休めることができ、仕事のパフォーマンスを上げることができる」という――。

※本稿は、久賀谷亮『最高の脳リカバリー法 からっぽ瞑想』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■長時間座らなくても「瞑想」はできる
忙しい現代人にとって、「瞑想」という言葉はどこか特別な響きを持つかもしれません。静かな部屋で背筋を伸ばし、長い時間座り続けなければならない――そう思っている人は多いでしょう。
しかし、実際には瞑想にそれらの決まりはありません。正しくやるとか、決まった時間はないのです。
ハードルはいくら下げてもいい。まずは、それをマインドセットしてから、基本の「からっぽ瞑想」を始めていきましょう。
瞑想のコツはたった1つ、「何かに注意を向ける」だけ。注意を向ける対象は、音でも体の感覚でも何でもよいのですが、もっともベーシックでとり組みやすいのは「呼吸に注意を向ける」方法でしょう。
いわゆる「呼吸瞑想」と呼ばれるものです。姿勢は、座っても立っても構いません。椅子に腰かけているなら、足裏が床に触れている感覚を意識するのがいいでしょう。
立っているなら、重力で足にかかる圧を感じてみてください。
■基本の「からっぽ瞑想」のやり方
目は閉じても、視線をやや下に落としても、やりやすいほうでかまいません。あなたのやりやすい「注意を向ける対象」と「姿勢」が決まったら、次からいっしょに始めていきましょう。
その場でとりやすい姿勢をとり、目は閉じるか、視線を落としてやや半目に。背筋は伸ばし、肩の力を抜きます。手のひらは上下どちらに向けてもOK。
1.瞑想をする姿勢を定めましょう。
床や椅子に座る。仰向けになる。静かに立つ。なんでもOK。
2.注意を向ける対象を決める。

「呼吸」なら呼吸が出入りする鼻腔や膨らんだり沈んだりする胸に意識を向ける。「音」なら雨が降る音や街の喧騒、虫の声などに集中。静かな音楽をかけてもいい。
「体の感覚」なら床に触れている足の裏や椅子に触れているお尻の感覚に注意を向ける。お香やアロマをたいてその香りに集中してもいい。
3.時間は決めても決めなくてもOK。
30秒でもかまわないので、できるときにできるだけの時間やればいい。「5分間」など時間を決めたいときはタイマーをかけておこう。
■「すぐに気が散る」のは失敗ではない
私のクリニックで瞑想を始めてもらったとき、一番多い相談が、「集中し続けることが難しくて、すぐに気が散ってしまいます……」というものです。
瞑想を始めると、たいてい横やりが入るものです。スマホの通知が鳴ったり、誰かの声が聞こえたり。そのたびに気が散ってしまいますね。

もしくは、仕事で気になっていたことや明日の予定、心配事など、次から次へと雑念が湧いてきたりもするでしょう。
しかし、瞑想中の雑念は、決して悪いものではありません。多くの人は、「雑念が浮かんでしまったら、瞑想は失敗だ」と考えがちですが、それは違います。
雑念が出るのは、自然で健全な脳の働きです。脳はもともと「次はどうする?」「あのときは……」と考え続ける器官だからです。
瞑想は雑念を完全に消し去る練習ではなく、雑念に「気付く」練習です。
瞑想中に雑念が浮かんだことに気が付く⇔その雑念を静かに確認してそっと手放し、再び最初に定めた対象に集中する。この繰り返しこそが、瞑想の練習そのものです。
■ネガティブ思考から脱却できる
スポーツ選手が日常から地道に練習しているからこそ試合で力を発揮できるように、マインドフルネスも日常的に練習を重ねてこそ、ストレスの場面で自然に効果が発揮できるようになります。
例えば、私たちは何か失敗をしたとき、「なんで自分はこんなにダメなんだろう……」と自分を責めたり、落ち込んだりします。それが過度になれば、ストレスで体を壊したり、うつ病を発症したりしてしまいます。
しかし、先のような「雑念に気付く⇔集中する」といった瞑想を繰り返していると、「今、自分はネガティブな考えを持っているな」と気が付くことができるようになります。

ある考えが体の内側にあると、自分で気が付くことが難しくなるもの。しかし、考えを体の外にとり出すことで、その存在に気が付くことができて、それを外側から冷静に観察できるようになるといったイメージです。
この感覚が定着すると、失敗したときにも自分で自分を過剰に責めることがなくなり、ネガティブ思考のループに陥ることもなくなります。そしてまた、時間が経てば立ち上がることができるようにもなるでしょう。
■歯磨きと同じくらい「気軽」にやればいい
瞑想はある意味、「生き方を変えるトレーニング」であると、私は考えています。
疲れ切った脳を休めると同時に、脳を疲れさせやすい「心の癖」を変えていくもの。結果、生き方そのものを変える練習になるというわけです。
私自身、瞑想を毎日行っていますが、それをさぼると「心のノイズ」が脳にたまっていくような感覚があります。逆に、瞑想をした日は頭がクリアになって、その日の診療や執筆などに集中できます。
つまり、瞑想は脳疲労をとるだけでなく、「次に力を発揮するための準備」にもなるのです。だから、完璧にやる必要はないので、できれば毎日、長く続けてもらいたいのです。歯磨きと同じぐらいの感覚が、私はちょうどいいと考えています。

やればすっきりして気分がいい。やらないとなんだか気持ちが悪い。日常生活の中で、そんな感覚でとり入れられるようになれば、大成功です。
そのとき、瞑想は皆さんにとって、人生の質そのものを変える生活習慣になってくれるはずです。
次に、朝・昼・夜それぞれに習慣化しやすい「からっぽ瞑想」の実践シーンを紹介しますので、取り入れやすい方法を見つけてみてください。
■朝――電車やバスの中で「呼吸」に集中
シートに座る。もしくは立っていてもOK。目は閉じても、開けたままでもかまいません。
鼻から息を吸い込み、口から静かに吐き出します。呼吸の流れを1分間感じとる。もしくは、電車やバスの走行音に注意を向ける。
通勤中に行えば、「心のノイズ」がからっぽになり、脳のパフォーマンスが高い状態で仕事のスタートが切れます。

■昼――ランチ後の眠気には「足の裏」を意識
午後は眠気やだるさが出やすい時間帯。ここで1分程度の短い瞑想をとり入れると、脳がリフレッシュされて午後の仕事の効率が高まります。
静かに椅子に座り、足の裏に意識を向ける。重力で床に押し付けられている感覚をただ感じる。
たったこれだけで仕事に適した集中モード「セントラルエグゼクティブネットワーク」に脳がセットされ、午後のプレゼンや打ち合わせのパフォーマンスがぐんと高まります。
■夜――帰宅後に「聞こえてくる音」に集中
一日の終わりは、脳疲労のピーク。心身の緊張がなかなかとれないでいると、睡眠の質も悪くなります。
自分の呼吸やエアコンの音、外から聞こえてくる風音や虫の声などの中から対象を1つ選んで耳を傾けることに集中する、ベッドの中の瞑想で脳をリセット。脳疲労が解消され、スムーズに入眠できるようになります。

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久賀谷 亮(くがや・あきら)

医師/医学博士

イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わる。2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。著書に『世界のエリートがやっている最高の休息法』 (ダイヤモンド社)などがある。

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(医師/医学博士 久賀谷 亮)
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