■トランプ氏が蒸し返した「真珠湾攻撃」
つつがなく終わったようにも見える、日米首脳会談。だがその最中、高市首相が引きつった笑顔を見せる一幕があった。「真珠湾攻撃」を引き合いに出したトランプ大統領の「ジョーク」の瞬間だ。米メディアはこの発言を、会談中最大のニュースバリューとして扱っている。
経緯はこうだ。日米首脳が顔を揃えたホワイトハウスの大統領執務室に、記者の質問が飛んだ。なぜイラン攻撃を日本や欧州の同盟国に事前通知しなかったのか。トランプ大統領は隣の高市早苗首相に顔を向け、笑いを含んだ声で答えた、「奇襲のことなら日本が一番よく知っているだろう? なぜパールハーバーを教えてくれなかったんだ」。
高市氏は笑い飛ばすことなく、口をへの字に結んで傍らの補佐官たちに視線を送ったと、米金融情報サービスのブルームバーグは伝えている。国内でも、「明らかに引きつっていた」「目を見開いた」などと報じられている。
日本の外務省当局者は、その後の非公開の首脳会談では真珠湾の話題は出なかったと説明した。
今回の訪米は本来、アメリカの建国250周年を祝い、桜の苗木250本を贈る友好の場になるはずだった。だが中東での軍事行動を受け、「戦時の大統領」を自任するトランプ大統領が日本に求めたのは桜ではなく軍事支援だったと、米全国紙のワシントン・ポストは会談に先立ち伝えていた。
対イラン開戦後、G7首脳として初めてトランプ氏と対峙した高市早苗首相にとって、「真珠湾」発言はそうした見立てのさらに上を行く洗礼だった。昨年には5500億ドル(現在のレートで約87兆円)の対米投資を公約し、大型エネルギー案件を手土産に携えてなお、同盟国の首相に対し「真珠湾」を蒸し返す。公衆の面前でトランプ氏は、明らかに日本の足元を見ていた。
■日本が米に払う5500億ドルの「用心棒代」
米メディアはどう伝えたか。
AP通信は3月21日東京発の配信で、「日米の高官は通常、真珠湾攻撃について非常に慎重な発言しかしない」と前置きし、トランプ氏がこの慣例を破ったことへの日本側の困惑・不快感を伝えた。
ワシントン・ポスト紙は19日、真珠湾発言を取りあげ、トランプ氏との会談が「予測不可能でしばしば不快」であると評している。NBCニュースは20日、真珠湾攻撃を持ち出したことを「joke」と表現し、批判的に報じた。
そもそも日本は、手ぶらでワシントンを訪れたわけではない。昨年の関税の一時停止と引き換えに公約した対米投資は総額5500億ドル、日本のGDPの1割を超える。
それでもトランプ大統領は満足しない。ブルームバーグによると、同氏は、「日本や他の誰からも必要なものはない」と言い放つ一方、在日米軍約4万5000人の駐留コストを持ち出して、「日本に多くの費用をかけている」と不満をにじませた。
海外主要メディアが高市政権の分析を定期的に求める米公共政策の名門のシラキュース大学マックスウェル行政大学院のマルガリータ・エステベス=アベ准教授(日本政治経済)は、この5500億ドルの公約を「高額の用心棒代」と断じている。
日本の政府にも企業にも、これだけの額を容易に工面する余裕はない。しかも投資先は事実上、アメリカ側が決める。金は出すが、使い道は決められない。それでもなお、次の支払いを求められる。差し出すほどに、日本はかえって足元を見られていく。
■台湾発言が招いた対米依存の罠
高額の投資を約束してなお、「真珠湾」を槍玉に挙げられる日本。日本がこれほどトランプ政権に従順にならざるを得ないのは、高市氏自身が自ら陥った外交的な袋小路のためでもある。
高市氏は2025年11月の国会答弁で、中国が台湾を武力制圧しようとした場合には自衛隊が介入しうると示唆した。米ビジネスニュース専門局のCNBCなどがすでにアメリカでも報じているように、中国はこの発言に猛反発し、報復に出た。
マックスウェル行政大学院のエステベス=アベ氏は、高市氏としてはトランプ大統領に対し、アメリカと共に中国に立ち向かう覚悟を示す狙いがあったと分析する。だが、中国は日本にとって最大級の貿易相手国であり、報復で被った痛手は大きかった。
日本以外のアメリカの同盟国は、中国との関係を強化し、対米リスクを分散する余地がまだ残っている。日本だけが、その道を自ら閉ざした格好だ。
エステベス=アベ氏は、今回の首脳会談を、「東アジアにおけるアメリカ覇権の終焉という物語の重要な一章」だとみる。「アメリカに依存しすぎると属国になる。韓国はこのメッセージを明確に受け取っている」と分析し、対中ヘッジの道を断った日本が、皮肉にもアメリカの他の同盟国に対して「脱・アメリカ依存」を促す反面教師になっているという警告だ。
■トランプは日本より習近平を優先した
日米の「黄金同盟」が、いかに脆い土台の上に立っているか。それを物語る一本の電話がある。
米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルによると、高市氏の台湾発言に中国が激怒した直後、トランプ氏は中国の習近平国家主席と約1時間の電話会談を行った。
高市首相の国内政治上の制約は承知のうえでの控えめな忠告だったが、日本側の当局者はトランプ大統領の姿勢に懸念を覚えた。前月の米中デタント(緊張緩和)を守りたいという思惑が透けて見えたからだ。
日本側がそう受け止めたのも無理はない。中国側の発表によると、習近平氏は、「台湾を中国に返還することは戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」とトランプ氏に強調している。台湾は第二次大戦終結まで日本の統治下にあり、終戦とともに日本から分離された。内容を知る関係者は、この「戦後秩序」への言及を、敗戦国としての日本の立場を暗に突くものだと読み解く。
一方、アメリカ側にとっての主要議題は貿易だった。中国が約束した農産物購入の遅れを問題にしたという。台湾という安全保障上の利益と、大豆という通商上の利益。トランプ氏はその両方を、同じ通話のなかで天秤にかけていた。
通話の順序も見逃せない。
■ホルムズ派遣拒否なら台湾発言と矛盾する
さて、高市早苗首相が台湾発言で自ら招いた対米依存は、思わぬ形で早くもリスクが浮上することになる。2月28日、アメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始したのだ。
トランプ大統領がホルムズ海峡への艦艇派遣を呼びかけるなか、高市首相は国会で、「現時点では艦艇を派遣する計画はない」と明言した。米公共放送網のPBSも伝えたように、最大の壁は憲法上の制約だ。
ほか、派遣を拒む根拠には事欠かない。米外交政策オンライン誌のレスポンシブル・ステートクラフトによると、日本国民の82%がアメリカのイラン攻撃に反対しており、安全保障の専門家の大多数もこれを「違法かつ不当な戦略的失策」と批判している。同誌は、戦闘海域への艦船派遣をめぐる法的・憲法上のハードルも極めて高いと指摘する。
結果としては艦艇を送らない方向で決着しそうだが、日本としてはアメリカが始めた戦争の代償から逃れることはできない。原油輸入の9割以上を中東に頼る日本では、ホルムズ海峡の封鎖で石油価格が跳ね上がり、政府は戦略備蓄の放出に追い込まれた。
高市氏にとってさらに厄介なのは、台湾有事への適用を見据えてきた「存立危機事態」の法理だ。集団的自衛権の行使要件であるが、石油の供給途絶さえ理由に挙げれば、ホルムズ海峡への派遣にも同じ法理を援用できてしまう。台湾のために用意した論理に、高市氏自身が縛られかねない。
■35年前と同じ板挟み
ホルムズ海峡をめぐるジレンマを、日本は35年前にも経験している。
1990~91年の湾岸戦争では、国連決議のもと米主導の多国籍軍がクウェート解放に乗り出し、アメリカは日本にも自衛隊の派遣を求めた。だが海部俊樹首相(当時)は戦闘部隊の投入を拒み、機雷を除去する掃海艇の派遣すら停戦後まで見送った。
日本は兵を出さずに代わりに130億ドル(現在のレートで約1兆9500億円)を拠出したが、血を流さず金で片をつけようとしたとして、「小切手外交」と揶揄された。日本の政界関係者や外交官の多くがこの経験を屈辱と受け止めたと、ワシントン・ポストは伝えている。
あの屈辱を繰り返すまいと、日本は国際安全保障でより大きな役割を担う方向へ動き出した。高市氏を含む自民党タカ派が戦後の平和主義による制約を緩めにかかったのも、湾岸の苦い記憶があればこそだ。
だが皮肉なことに、その先の2026年で待っていたのは、中東の海域での軍事貢献を再び迫られるという、35年前と同じ板挟みだった。
しかも今回は、米海軍の掃海能力自体が落ちており、日本にかかる圧力は前回の比ではない。米外交専門誌のディプロマットによると、米海軍はバーレーンに配備していたアヴェンジャー級掃海艦4隻を退役させ、機雷戦に特化しない新型艦艇に置き換えつつある。機雷除去の専門戦力を自ら手放した格好だ。
イランがホルムズ海峡に機雷を敷設しかねない情勢のなか、アナリストらは米軍だけでは対処しきれないおそれがあると指摘する。そうなれば、米側が海上自衛隊を頼りにするのは当然だろう。世界有数の機雷掃海・探知能力を擁し、1991年の湾岸戦争停戦後にはペルシャ湾へ艦艇6隻・隊員511名の掃海部隊を送った実績もある。
今回の首脳会談で掃海部隊の派遣が具体的な議題に上ったかは確認されていないが、米側が水面下で打診した可能性は十分にあると、ディプロマットは指摘する。
■自衛隊派遣をかわしたのは一定の成果
もっとも、今回の首脳会談を一面的に「失敗」と断じるのは早計だ。日本にとって着実な成果もあった。
高市氏は軍事面での明確な約束を避けつつ、トランプ大統領から、「日本はNATOと違ってステップアップしている」という言葉を引き出した。ディプロマット誌は、法の支配を掲げ、力による解決を否定し続ける日本にとって、アメリカのイラン攻撃と整合性を確保するのは困難な状況であったと読み解く。
高市氏は「法律の範囲内で」行動すると繰り返し、NATO加盟国とは異なる憲法上の制約を盾に、ホルムズ海峡への自衛隊派遣要求をかわした。それでも同盟の結束は保ち、ひとまず会談を乗り切ったと同誌はみる。ただし記事は、問題は最終的にどこまで対応を迫られるかだ、とも釘を刺す。
ホルムズ海峡への自衛隊派遣の代わりに日本は、将来的に軍事力を強化すると約束したのではないか、との観測もある。米公共放送PBSが会談前に、日本は長距離ミサイルの配備加速、トランプ大統領肝いりのミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」への参加、殺傷兵器の輸出解禁といった施策を示す方針だったと伝えている。
いずれもアメリカと軍事面で一体化を深めるが、トランプが求めるホルムズ海峡への即時対応とは性質が異なる。目先の派遣要求はかわした格好だが、日本はこうした施策を進めることで、再び対米依存を深めていくおそれもある。
■「依存の罠」に出口はあるか
高市氏が自ら作り出した「対米依存の罠」に、出口はあるのか。レスポンシブル・ステートクラフト誌が、首脳会談を終えた日本が取り得る方向性を分析している。
同誌がまず挙げるのは、G7のなかでいまなお最も良好なイランとの関係を活かした和平の仲介だ。11月の中間選挙を控えるトランプ政権はイラン戦争の早期終結を望んでおり、日本の仲介を歓迎する素地は十分にあるとみる。
あわせて、冷え込んだ対中関係の立て直しも欠かせないと同誌は論じる。故安倍晋三元首相のスローガンを引き継ぎ、「Japan is back」(日本は戻ってきた)を掲げる高市氏だが、その言葉に中身を持たせるには、同盟国アメリカへの一方的な忠誠だけでは事足りない。
対等に渡り合うためには、中国との関係性をうまく活用することも不可欠だ。当然、観光客の足がパタリと止まった昨今の状況を踏まえれば、中国への過剰依存は大きな問題だ。しかし、一定の関係性を保つことで、アメリカに対する外交カードとして機能する。
エステベス=アベ氏は、対米一辺倒の外交を続けるかぎり、日本の経済的・政治的地位は損なわれていくと指摘する。そのうえで、「最も忠実なアジアの同盟国」が弱体化すれば、アメリカにとっても痛手だと警告する。
日米の双方が共栄する上で、アメリカへの「依存の罠」を避けることは欠かせない。トランプ氏が冗談交じりに放った「真珠湾」発言は、今後の関係性を見つめ直す良い契機になるだろう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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