■野菜が絶対的に不足する現代の日本人
毎日の食生活を語る上で、野菜や果物が大事だということは、誰でも知っているでしょう。でも、実際は十分に食べていません。なぜでしょうか。
興味深いことに、2023(令和5)年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45540.html)には、「野菜を十分に食べられない事情があるのか」という趣旨の設問があります。その結果、男女ともに「特にない(食習慣に問題はないため改善する必要はない)」と答えた人の割合は、約6割と最も高い結果でした(農林水産省「野菜の日WEBシンポジウム資料」https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/2ibent-111.pdf)。すなわち、自分は足りていると思っている人がいちばん多いのです。
ところが実際の1日の野菜摂取量は、目標の350グラムには平均で94グラム(コンビニのミニサラダ程度の手のひら一杯分相当)届いていません。特に20歳以上では男性262グラム、女性251グラムで、この10年間で男性も女性も有意に減少しているのです。
年代別に見るとさらに深刻で、20代では男性231グラム、女性212グラムと全年代の中で最低水準。国が1日の目標として別に掲げる果物200グラムに対しても、20代の摂取量は44グラムにとどまります。
食事の中でいちばん「組み合わせて食べられていない」品目は副菜、つまり野菜料理です。男性も女性も8割近くが「副菜を省いている」とアンケートに回答しています。
■野菜・果物と脳は無関係ではない
「野菜不足は体の話でしょ」と思っている人に、近年の研究は強い一石を投じています。
たとえば、イギリスの大規模医療データベースを使った研究では、平均年齢62.4歳の9925人の脳のMRI画像データと食生活の関連性の分析が行われました。その結果、生野菜サラダの摂取量が多いほど、脳の神経の情報伝達を担う灰白質の容積が大きかったのです。また、新鮮な果物の摂取量は、記憶・感情に深く関わる海馬を含む特定の灰白質領域の大きさと関連していました(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S105381192300589X)。
日本でも似た方向の知見があります。国立長寿医療研究センターなどが40~89歳の日本人1636人を対象に脳MRI画像で2年間追跡した研究では、野菜・魚・大豆製品が多い「日本食型」の食事を続けていた女性は、西洋食中心の女性に比べて脳全体の灰白質の萎縮が少なかったことが示されました(https://link.springer.com/article/10.1186/s12937-024-00935-3)。
念のため補足しておくと、これらは観察研究で「野菜を食べれば脳が大きくなる」という因果関係が確定したわけではありません。それでも、「食べ物が脳を作る」という可能性が画像検査という具体的な形で見えてきたことには、それだけの重みがあります。
■野菜・果物は子どもの成績に関係
脳の話が出ると、親御さんが気になるのはお子さんへの影響でしょう。野菜・果物の摂取量と学業成績の関連を示す研究が、いくつかの国から発表されています。
ノルウェーで15~17歳の2432人を調べた研究では、果物・ベリーを1日1回以上食べていた生徒は、学業成績の高いグループに入る可能性(オッズ比)が高い傾向にあり、女子で2.09倍、男子で1.47倍でした(https://link.springer.com/article/10.1186/1471-2458-14-829)。
また、カナダ全国調査(6年生~高校3年生、4万7203人)では、そもそも果物・野菜の推奨量を満たしていたのは全体の約10%にすぎませんでした。そして「ほぼ優等」評価の生徒を基準にすると、成績が下がるほど野菜・果物を食べている割合が落ち、成績不良層では推奨量を満たす生徒が約半分となっていました(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/josh.12359)。
ただし「野菜を食べれば成績が上がる」という単純な話ではありません。当然ながら、学業成績は、睡眠・家庭環境・運動・朝食など多くの要素で動きます。少なくとも言えそうなのは、「野菜・果物をよく食べている子どもは、成績が高い傾向があり、それは食事を含む生活全体の質が整った環境と重なっている可能性が高い」ということ。子供達の脳の働きの土台が、日々の健康な食卓にあると考えてもよいでしょう。
■果物をよく食べるとうつ病リスク「3分の1」
成績だけでなく、「気分」との関係でも見逃せないデータがあります。国立精神・神経医療研究センターなどの研究では、長野県在住の40~69歳の日本人1204人を長期追跡し、うつ病発症との関連を調べました。果物を最もよく食べるグループは、最も食べないグループに比べてうつ病のリスクが約3分の1。リンゴ・梨・柑橘類・ブドウ・イチゴなどフラボノイドを多く含む果物に絞った分析でも、半分未満のリスクに減少しました(https://www.nature.com/articles/s41398-022-02166-8)。
つまり、果物をよく食べる人は食べない人に比べて、うつ病にかかる確率が「3分の1」程度に抑えられているという数字です。果物に含まれる抗酸化物質が脳内の炎症を抑え、神経を守る働きをもつことは実験レベルでも確認されています。
なお、果汁ジュースや野菜ジュースを多く飲む人では、この恩恵は確認されないどころか、むしろ、うつ病リスクが上昇するという2024年の研究結果もあります(https://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(24)00123-7/abstract)。コンビニで野菜ジュースを買って「これで野菜の代わりになる」とは、少なくとも研究データからは言いにくいようです。
■長期追跡で判明した認知症リスク3割低下
認知症についても日本発の長期データが特に重みを持ちます。九州大学が福岡県久山町の住民を24年間追跡した「久山町研究」は、世界的にも精度の高さで知られます。60歳以上の1071人を追跡した結果、24年間で464人が認知症を発症。野菜摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて認知症リスクが27%低く、アルツハイマー病リスクは31%低い結果でした(Kimura et al., 2022)。
別の日本の大規模研究(50~79歳の4万2643人を追跡)でも、野菜・果物の摂取量が最も多いグループでは、最も少ないグループと比べて認知症発症リスクが男性で13%、女性で15%低く、緑色野菜が多い女性グループでは21%低いという数字も出ています(Kishida et al., 2024)。
■脳卒中死亡リスクも19%の差
認知症より身近に感じる人も多いのが、脳卒中や心臓病との関係です。厚労省研究班が実施した大規模長期追跡研究のデータがあります。野菜のみの摂取量で比較したところ、1日300グラム以上のグループでは、最も少ないグループ(1日170グラム)に比べて、循環器疾患による死亡リスクが19%低下していました (Okuda et al., 2015)。
さらに別のヨーロッパからの研究でも、野菜・果物の摂取量を1日200グラム増やすごとに脳梗塞のリスクが13%低下し、食物繊維は1日10グラム増やすごとに23%低下するという数字も確認されています(https://academic.oup.com/eurheartj/article/41/28/2632/5748325)。
そして寿命そのものへの影響も報告されています。米国の大規模データを含む2021年の報告では、野菜と果物は合わせて1日5皿ほど食べる人が、もっとも死亡リスクが低いことが示されました。目安としては、野菜を3~4皿、果物を1~2皿です。
ほとんど食べない人(1日2皿程度)と比べると、5皿前後食べる人では、全体として死亡リスクが約13%低く、心臓や血管の病気で亡くなるリスクは約12%低く、がんで亡くなるリスクは約10%低く、呼吸器の病気で亡くなるリスクは約35%低いという結果でした。(https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.048996)。
ここでも果汁ジュースやじゃがいもでは同じ関連は見られず、形のある野菜や果物を食べることが鍵を握っています。
以上、「子どもの脳」「働き盛りの気分と記憶」「老年期の認知症リスクと寿命」といった異なる研究分野が、食卓との関連性を示しています。冒頭で触れた1日100グラム弱の不足分は、野菜一皿と少し。その差がこれほどの意味をもつとしたら、野菜や果物を用意するのが「面倒くさい」という気持ちを少しだけ見直してみる価値があるのではないでしょうか。
子どもには野菜や果物を無理に食べさせるより、「一口だけでも大成功」という気持ちで進めることが大切です。にんじんをカレーに混ぜる、かぼちゃをスープにする、いちごやバナナをヨーグルトに入れるなど、好きな味に少しずつなじませると食べやすくなります。親と一緒に、買い物で選ぶ、洗う、盛りつけるなど食事づくりに参加すると親しみも生まれます。
大人では、完璧を目指さないことが続けるコツです。サラダが苦手なら、具だくさんみそ汁、野菜スープ、冷凍野菜、カットフルーツでも十分です。朝にバナナ1本、昼にトマトを足すだけでも前進です。「苦手だから無理」と決めつけず、食べやすい形を探してみることが、習慣化への近道です。今日から少しずつ、野菜や果物を増やした食事内容へと見直してはいかがでしょうか。
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谷本 哲也(たにもと・てつや)
内科医
鳥取県米子市出身。1997年九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会理事長・ナビタスクリニック川崎院長。日本内科学会認定内科専門医・日本血液学会認定血液専門医・指導医。2012年より医学論文などの勉強会を開催中、その成果を医学専門誌『ランセット』『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』等で発表している。
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(内科医 谷本 哲也)

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