■再開発はなぜ議論を呼ぶのか
東京ではあちこちで再開発が行われ、その是非がしばしば議論を呼ぶ。注目を集めたものとして挙げられるのは、神宮外苑の再開発だろう。2023年に逝去した故・坂本龍一氏が生前に小池都知事へ計画の見直しを求める手紙を送るなど反対の意思を示したことが話題になったほか、村上春樹氏をはじめとする著名人や多くの市民からも反対の声が上がった。ネット上にも多くの情報が溢れているため、状況を把握している人も多いだろう。
一方で、神宮外苑の再開発を積極的に支持するようなニュースや記事は、さほど多くない印象を受ける。神宮外苑の再開発は、一般的な再開発とはその背景がかなり異なるが、その是非はひとまず置いておき、再開発が行われる背景と反対論が注目を集める理由について考察してみたい。
■「虎ノ門ヒルズ」と「丸の内パークビルディング」の根本的違い
制度上、再開発には二つの定義がある。一つは「都市再開発法」に基づき、土地や建物の所有者等の関係者が共同で行う事業だ。自治体による都市計画決定や再開発組合の設立などの手順を踏んで行われる。もう一つは法律に基づかない任意のもので、地権者とデベロッパー等が合意して進めるものだ。
法定再開発は、都市再開発法に基づく手続きが必要なため手間はかかるが、補助金や税制優遇を受けられる。任意再開発との最も大きな違いは、任意再開発では原則として権利者の全員の合意が必要だが、法定再開発では2/3以上の同意で事業が可能である点だ。
前者の「法定再開発」について、全国市街地再開発協会が発行する「日本の都市再開発(第1~10集)」によれば、令和5年11月末時点で全国で1081件が完了している。件数が最も多いのは東京都で228件と圧倒的だが、一方で佐賀県や大分県(1件)、徳島県(2件)、山梨県(3件)など、実施件数が極めて少ない県もある。
こうした再開発の代表例には、六本木ヒルズ(2003年)、虎ノ門ヒルズ(2023年全面開業)、渋谷スクランブルスクエア(2019年)、都市再生特別措置法を活用したグランフロント大阪(2013年)などが挙げられる。議論が続く神宮外苑のプロジェクトも、都市再開発法に基づいた手続きが行われている法定再開発である。
法定再開発は敷地面積や事業規模が大きいものが多いが、ビルの建て替えといった任意の再開発(法定再開発ではない)でも、目立つものは多い。例えば、丸の内パークビルディング、渋谷ヒカリエ、東京ミッドタウン(六本木)などが挙げられる。
■「利益追求」だけが目的ではない
神宮外苑に関する報道では、再開発が「事業者の利益追求」を主目的としているかのように語られることもあるが、実際はそれだけではない。都市再開発法の第一条(目的)には、次のように記されている。
「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」
もちろん、地権者や事業者に利益がなければ事業は成立しない。しかし法定再開発は、公的な手続きが必要である以上、「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」を図り、結果として「公共の福祉に寄与する」ことが大前提となる。
そもそも土地は私有物とはいえ、有限な資源であり公共性が極めて高い。都市中心部において、限られた公共財である土地を有効活用することは社会的な要請だ。駅前の古い街並みや工場跡地などを再開発することは、土地の有効利用という観点では理にかなっている。だからこそ、法律に「高度利用」という言葉が盛り込まれているのだ。
■日本の街並みと欧米の街並みの違い
もとより法律は万能ではない。そのため神宮外苑の樹木伐採に対する懸念や、景観を破壊するという指摘、葛飾区の京成立石駅の再開発に対する、昭和レトロな街並みが消えることへの抵抗感、街の個性が失われるというような指摘にも一理あるとは言える。
一方で、日本の街並みは欧米とはその成り立ちが大きくことなることにも留意が必要だ。
世界遺産を見れば、その違いがよく分かる。世界遺産には「旧市街」という古い街並みが含まれるものがあり、その件数を見ると、ヨーロッパが圧倒的に多い。
意外に思うかもしれないが、日本の世界遺産には「旧市街」という名称が含まれるものはない。もちろん、京都、奈良などの神社仏閣といった建造物や文化財も世界遺産となっているが、街並みそれ自体が認定されているわけではない。
これは日本が古代から新しい文化を受け入れ、生活様式や建築様式を大きく変化させてきたという文化のあり方が大きく影響している。
■戦後「街を作り変える道」を選んだ日本
神宮外苑は、正式名称は明治神宮外苑であり、その名称通りに明治天皇の遺徳を長く後世に伝える国家事業として1926年に奉献されたものだ。その歴史はやっと100年に届いたところだ。
京成立石駅に至っては、駅の開業こそ1912年と古いが、再開発で残すべき文化だと指摘された呑(の)んべ横丁の誕生は1953年頃であり、その歴史は欧州のような旧市街とは全く違う。
街並みという意味では、地方では金沢や倉敷、飛騨高山、萩といった古い街並みが残っている場所もあるが、大都市で古くからの街並みを残しているのは、京都の祇園くらいだろう。
ヨーロッパでは、第二次世界大戦で旧市街地も大きな被害を受けたが、多くの都市が元に戻す道を選んだ。そして、元に戻した旧市街を新しく再開発することはほぼない。
一方、日本では、太平洋戦争で大きな被害を受けた都市部は、元に戻すのではなく戦災復興都市計画を策定し、街を作り変える道を選択した。
そして、一部の場所では闇市が形成され、権利関係が複雑なまま残っている場所も多い。
簡単に言えば、欧州は「過去の再現と維持」を選び、日本は「未来に向けた作り直し」を選択したわけだ。
だとすれば、現在の再開発は、その延長としての作り直しとも言えるのだ。
■「原風景」ですら変化している
日本の古称に「瑞穂の国」というものがある。意味としては「稲がみずみずしく豊かに実る国」であり、古事記には「豊葦原の千秋長五百秋の水穂国」(とよあしはらのちあきながいおあきのみずほのくに)、日本書紀上には「豊葦原千五百秋瑞穂の地」(とよあしはらのちいおあきのみずほのち)という記載がある。
日本の原風景の一つに、そうした稲作が行われる美しい水田があることは間違いない。
しかし、現在我々が見ている水田の風景は、実は昔からのものではない。例えば、新潟県では見渡す限りの水田の風景が見られるが、これは都市計画法の市街化調整区域や農業振興地域制度、農地法による転用規制などに守られながら、日本全国で行われた圃場(ほじょう)整備事業の結果であり、その風景、景観は実は大きく変化している。
里山や森林にしても、戦後の植林事業でその姿を大きく変えている。
もちろん、変わったとはいえ守るべき原風景であるはずだが、原風景ですら変化しているのが日本という国だ。
■現在の再開発は「総仕上げ」とも言える
日本で戦後、過去の再現ではなく、作り直しが選択されたのには、国全体の経済事情もある。
最近は、日本の世界での地位低下を憂う声も多いが、日本が豊かになったのは、ほんのここ数十年のことに過ぎない。
1960年代から70年代にかけての高度成長期は、決して豊かではなく、バブル期も今に比べると豊かだったとは言えない。
戦後すぐはもっと悲惨で、戦前の街並みに戻すどころか、都市部ではバラックを建てるのが精一杯という時期すらあった。
住宅に関して言えば、戦後のバラックから少しまともな耐震性を持つ住宅になるのは1981年の建築基準法まで30年以上の時間がかかっている。
最新の耐震基準は2000年のもので、ここ20年くらいでやっと100年住める住宅を建てられるようになった。
オフィスビルにしても、米国では戦前から超高層ビルが建てられていたが、日本で最初の超高層ビルは1968年の霞が関ビルディングで、2000年以降のものが全体の2/3以上を占めている。
大都市に超高層ビルが林立したのは、ほんのこの20年くらいのことなのだ。
こうしたことを考えれば、現在行われている再開発は、その総仕上げの段階にあるとも言えるだろう。
そして、これが都市再開発法で「都市機能の更新」という言葉が使われている意味でもある。
■情報選択が難しい時代
ここまで説明してきたことに対して、あまり聞いたことのない話だと思った人もいるかもしれない。
それは、メディアリテラシーとも大きく関係している。
新聞やテレビなどのマスメディアに限らずネットメディアの多くも、商業的なものだ。
そこには当然、利益が上がるかどうかという視点が必ず入り、公正中立なメディアというのは構造上存在しえない。
ネット上にはAIによるフェイクが溢れ、SNSでは自分と同じような考え方の情報に接することが圧倒的に多く、マスメディアも一定の思想と編集方針で報道内容を取捨選択していく。
だとすれば、メディアの情報は公正中立ではない、という前提にたち、自分で情報を集め、取捨選択し、解釈していくしかない。
本稿で扱った都市の再開発もその一例だ。
なにを正しいと思うのか、本当に難しい時代になったものだ。
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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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