中国人投資家による日本の不動産投資はどのような状態なのか。不動産投資家の小林大祐さんは「日本人が最速で挑んでも、中国人富裕層はそれを上回る『現金・満額・即断』で不動産を買い漁っている。
日本人の買い負けはもはや日常茶飯事だ」という――。
※本稿は、小林大祐『インフレ地獄を生き抜く資産戦略』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「億ション」はどのように誕生したのか
東京の地価やマンション価格、特に都心のタワーマンションの価格が高騰している。この価格上昇の裏には、単なる都市開発や需要の話にとどまらない、長期的な経済構造の変化が潜んでいる。
遡れば、日本が「失われた30年」と呼ばれる時代に突入したのは、バブル崩壊が発端だった。円高とデフレという二重苦は、それまでの日本を支えてきた製造業を土台から揺るがした。
素材を海外から仕入れ、それを加工して輸出することで経済を回してきたのに、円高が進行すれば、相対的に日本製品は高くなり競争力を失うからだ。
この構造変化の中で、企業は国内の工場を閉鎖し、製造拠点を海外に移した。
空いた土地、すなわち「遊休地」が都市部に大量発生した。湾岸エリアに建ち並ぶタワーマンションの多くは、こうしたかつての工場跡地、湾岸部の工業地帯に建てられている。
さらに、この都市再開発の波に拍車をかけたのが“規制緩和”だった。
かつて建築制限が厳しかった日本でここまでのタワーマンション等の高層建築が可能になった背景には、明確な国策があった。
建物を上に伸ばして容積率を上げることを認める規制緩和が、東京都内の不動産市場で国内外の投資家が投資商品として熾烈な獲得競争を繰り広げている多くの“億ション”を誕生させたのである。
■中国の富裕層が日本の不動産に目を付けた
政府が掲げた国家戦略のひとつであるインバウンド戦略も追い風となり、海外から観光客だけでなく投資を呼び込もうとする動きも活発化した。これにより、特に中国を中心とする海外の富裕層が、日本の不動産に目を向けるようになった。
中国の富裕層はそもそも中国政府と自国通貨である人民元を信用していない。そのため、お隣の国であり、世界的にも人気の高い隣国日本の不動産が、中国人富裕層の中国政府や中国経済に対するリスクオフ資産となり、莫大な資金流入を促したのだ。
■中国人「海外へ資産を逃がすのは常識」
外資誘導型の都市開発の象徴的存在が、麻布台ヒルズのアマンレジデンス東京である。最低価格20億円、最高で300億円とも噂される超高級マンションだ。
日本人の富裕層であっても手の届く人は限られており、完全に外国人富裕層をターゲットにしたものだ。
こうした高額物件を買いあさっている外資の多くは中国勢だ。前述した通り中国の富裕層は基本的に自国の通貨と政府を信用していないので、中国政府は規制強化しているものの、リスク分散や資産保全の観点から海外へ資産を移すことは、中国人富裕層の間では半ば常識となっている。
新たな資産の避難先として、近くて馴染みのある国、隣国日本の首都である東京都内のタワーマンションが大人気になっているわけだ。
その需要に、パンデミックによるFRBの金融緩和や円安がさらに拍車をかけた。
割安感が出た日本の不動産に、世界のマネーが流れ込んだ。タワーマンションなどの高級物件が「爆買い」され、需給バランスが崩壊し、価格が一気に跳ね上がったのである。
■日本人の富裕層、パワーカップルが郊外へ押し出されている
外資による上流の需要で超都心の高価格物件が高騰し、押し出される形になった日本人の富裕層や準富裕層が周辺エリアに流れ込んで需要を押し上げ、その下にいるパワーカップルや高属性の会社員などがさらに世田谷や目黒などの住宅地から押し出されるというトリクルダウンが拡大している。
こうした経緯を経て東京の住宅は、一般の人たちには手の届かない水準に達してしまっている。
実際、私自身、良いと思える物件に出あっても、買い負けるケースは、実際の不動産市場では決して珍しい話ではなく、むしろ本当に良い物件であればあるほど、その確率は高くなる。特に都心部や準都心の一等地では、「理屈が通るかどうか」よりも、「誰が、どのスピードで、どの条件を出せるか」で勝負が決まる場面が頻発する。
とりわけ、好立地で、かつ土地値比率が高い物件ほど元本毀損リスクが極めて低く、他人資本を最大限に調達して購入することで、自己資金の3倍から4倍規模で堅牢な資産をスケールさせることができるため、資金力のある投資家やプロの業者が一斉に群がる構造になっている。
■「現金・満額・即断」で中国人がかっさらっていく
わかりやすい事例として挙げられるのが、東急田園都市線・駒沢大学駅徒歩7分、物件価格3億5000万円、利回り4.8%、土地値比率100%という、投資家目線で見ても完成度の極めて高い物件だ。立地、価格、利回り、土地値のバランスを考えれば、長期保有を前提とした資産形成において申し分のない条件が揃っており、まさに「元本が毀損しにくく、確実に取りに行くべき物件」だった。
私自身、生活リズムの関係で普段は昼ごろまで寝ていることが多い。その日も例外ではなく、12時に起床し、12時30分に不動産仲介からLINEで物件情報が送られてきた。現地までは車で約10分という距離だったため、すぐに身支度を整えて現地へ向かった。
私は長年の経験から、物件の良し悪しを判断するのに長い時間を要することはなく、現地を見てから15分もあれば、購入するか否かの判断は下せる。
そこで、情報を送ってくれた仲介担当者に対し、この物件は「私が資産管理法人を任されている会員の誰か、もしくは最悪の場合は私自身が買う」、すなわち、確実にこの物件を私、及び会員のいずれかが確実に購入する、ということを明確に伝えた。加えて、空室が1室出ているという情報を受け、その居室を内見したい旨を12時45分の時点で連絡している。この時点では、仲介担当者の調整と売主により翌日に内見を行うという流れが組まれ、少なくとも購入のための土俵には乗れている感触はあった。
しかし現実は厳しい。その日の夕方、他業者から売主へ3億5000万円を満額、しかも現金一括で購入する第三者が現れ、あっという間に物件は持っていかれた。
判断スピード、意思表示、条件提示のいずれも遅れてはいなかったが、「現金・満額・即断」という条件を前に、購入することはできなかった。
■評価額プラス1億円の物件も「現金一括」
同様の経験は他にもある。
たとえば、小田急線・祖師ヶ谷大蔵駅徒歩13分、価格3億6000万円の戸建物件だ。この物件は、私の評価では実力値はおおよそ2億6000万円程度だった。ただし、用途的に最大14台分の駐車場が確保できるという特徴があり、私自身の現在の土地活用戦略や事業計画との相性が非常に良かった。そのため、一般的な評価額を超えてでも取得する意味があると判断し、3億2000万円まで色を付けて購入の打診をしていた。

それでも結果は同じだった。最終的には、中国人投資家が3億6000万円を現金一括で提示し、そのまま購入したというのだ。ここでも買い負けという結果に終わった。このケースも、利回りや収益性といった数字だけで見れば冷静な判断をしているが、現実の市場では、合理性の高さよりも、どれだけ強い条件を即座に出せるかが最終的な勝敗を分ける。
■「中国人に日本人が買い負け」はおなじみの風景
このように、立地や土地値、将来性といった本質的な価値を正しく見極め、迅速に判断できたとしても、現金で満額を即決できる買い手が現れると、物件を取り切れないケースは確実に存在する。
特に近年は、国内外を問わず資金力のある投資家が増えており、「好立地・高土地値比率・元本毀損しない物件ほど競争が激化する」という構造は、今後さらに顕著になっていくと見ている。中国人と競合し現金買いで日本人が買い負けるというのは今や不動産業界の日常的な風景だ。
彼らの買い物は少し前なら都心のタワマンに集中していたが、今は世田谷や目黒の1棟収益物件や戸建てなどで、3億円、5億円という金額の物件にも触手を伸ばしており、外資の中でもトリクルダウンが起きている。
令和バブルとでも言うべき現在の不動産価格上昇は、かつて日本が経験した日本全国の不動産がすべて価格高騰したという従来型のバブル経済期と異なり、一部のエリアに限定されている。2025年には東京23区の新築マンションの平均分譲価格が1億3000万円を超えたことで話題になったが、これは10年前の2倍近い水準だ。
■投資物件に「我が子のような愛着」を持つ日本人の悪い癖
もちろん、平均価格を押し上げているのは都心のタワマンを中心とした高額物件だ。
仮に日本経済が10年間で倍の成長を遂げていればこの値上がりも理解できるが、現実はそうではない。
この日本経済の成長と都心不動産価格高騰との乖離の事実こそが、都心のタワーマンション市場が相対的にバブルであることの根拠である。
このため、今からタワマンを買うのはハイリスクであるし、投資目的で購入したのであれば早めに利益確定のために売却をすべきだ。
6000万円で購入した物件が一時的に1億円の評価を得たとしても、実際に1億円で売れなければ意味がない。8000万円で売れるのであれば利確すべきで、幻のような高値に固執して利確の判断を間違えれば、市場が崩れ始めてから慌てて投げ売りすることになりかねない。
日本人のタワーマンション所有者の多くは投資経験が浅く、的確な売却の判断ができないことが多い。まるで我が子のように愛着を持ってしまい、「もう少し持っていればもっと上がる」と信じて売却を先送りしがちだ。
こういう局面ではあまり欲張って天井を待つのではなく、価格が上昇している間に、より価値の維持しやすい土地や資産へと組み替える行動ができる者が勝者となるのだが、こうした判断ができないのだ。
■「都心タワマンバブル」はいつ弾けてもおかしくない
表面的には何も変化がないように見えても、大きな力は静かに動いているものだ。相場を日常的に観察している者でも、価格形成の背景や、中国からの資金流入、経済事情、中国の習近平国家主席の政策等を理解しなければ、この変動は見えない。
売れ残っている物件の多くは、実は高すぎて買い手がつかない価格帯にとどまっているだけということはままあり、そこに気づかずに「値段が安定している」と誤解している素人は多い。
誤解のないよう補足すると、私はタワマンを買うなとか、何がなんでもすぐに売れと言いたいわけではない。自用目的で、自分がそこに住むことに明確な価値を見出せるのなら何の問題もない。

花火が見えるロケーションや、自宅から見下ろす眺望が生活に対する満足感を大きく上げてくれるのであれば、それはタワマンでなければ得られない価値であり、そこに住む意味は大いにある。
しかし、価格がかなり高騰してしまっている今、投資目的で買う難易度は高く、また合理性は極めて乏しい。この令和バブルが崩壊することがあるとしたら、それは東京都心におけるタワーマンション市場からの外資撤退から始まり、不動産価格の下落を引き金に需要が一気に冷え込む、という形で起こるだろう。
値上がりしている間は楽しく踊っている彼らの中に、いつかババを引く者が現れ、そこからは阿鼻叫喚となる事態は、いつ起こってもおかしくないのだ。

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小林 大祐(こばやし・だいすけ)

不動産投資家・実業家

1976年生まれ。富士ゼロックス関連会社を経て、富士ゼロックス本体(現・富士フイルムビジネスイノベーションジャパン)に勤務。27歳のときに兼業で起業し、現在に至る。創業から約20年間、金・コネ・知識のない状態から事業と投資を積み上げ、総資産37億1000万円、純資産25億円、借入12億円、機動的資金8億円を構築(2026年1月時点)。現在は、不動産事業を中心に、資産保有設計、医師向け在宅療養支援診療所の開業・運用支援などを手がけ、グループ会社7社を経営している。自身の資産構築の実践経験をもとに、機動的資金5億円以上の超富裕層を対象として、相続税対策から資産の最大化、事業承継までを一気通貫で設計するファミリーオフィスおよび資産管理会社の運用代行を主な事業とする。YouTubeチャンネル「不動産アニキの非常識な投資学」は登録者数10万人を超え、不動産投資を中心に、資産形成の実践的な考え方や国際情勢に対する独自の視点が注目を集めている。

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(不動産投資家・実業家 小林 大祐)
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