未婚の子を持つ親同士が交流し、わが子の結婚相手を見つけようとする「代理婚活」の実態とはどのようなものか。30代の未婚の2人の息子を持つジャーナリストの石川結貴さんは、実際に「お相手」探しを体験した。
最新刊『ウチの子の、結婚相手が見つからない!』(文藝春秋)より、4人の親が複雑な胸中を語り合う場面の一部を紹介する――。
■代理婚活で結婚した人は、どれくらいいるのか
代理婚活の「二次会」参加者

Yさん:50歳の息子を持つ父親

Sさん:43歳の娘を持つ母親

Tさん:41歳の娘を持つ母親

ジャーナリストの石川結貴さん
未婚の子どもを持つ親同士が対面し、我が子の見合い相手を探す代理婚活交流会。
独特の熱気に包まれた交流会場から二次会の席に移動したのは、私を含む4人の親だ。
それぞれが「お相手」探しのむずかしさを語り合いながらも、一方では「お相手」に対する希望条件を持ち、家同士の釣り合いまで気にしたりする。
もしかしたら彼らを不快にさせるかもしれないと思いつつ、私は胸に浮かんだ疑問を口にした。
「私は今日の交流会がはじめてだったので、詳しいことはわからないんですけど……」
3人の視線が集まる。それぞれの表情を探りながら、思いきってつづけた。
「みなさんとても熱心に取り組まれているご様子でしたけど、代理見合いや親の交流会でお子さんが結婚したという方はどれくらいいらっしゃるんですか」
悪い方向に話が流れるかと身構えたが、予想に反してYさんは滑らかに言った。
「たくさんいますよ」
だから代理婚活をつづけているんだ、そう言わんばかりの強い響きがした。
「何人いるかと言われても、正確な数はわかりませんが……」
Yさんはそう前置きして説明をはじめた。代理婚活事業を展開する業者は複数あるが、一部の業者は定期的に開催案内や会報などを送ってくる。そこには〈これまで数え切れないほどのご縁がまとまりました〉、〈たくさんの親御様から、お子様のご成婚のご報告、お喜びの声をいただいております〉、そんな挨拶文とともに子どもの挙式写真や親からの礼状が掲載されているという。

■参加者の心を揺さぶる「成婚例」とは
「あれを見ると、またがんばろうって気になりますよね」
「正直うらやましいなって思ったり、どうしてウチはうまくいかないんだろうって落ち込んだりもしますけど、親御さんからのお手紙を読むとグッときちゃいます」
SさんとTさんも口々に言い、業者からの会報に掲載されていた成婚例、参加した親からの礼状に話が及んだ。Sさんはその一部をスマホで撮影、アルバムに保存しているという。「参考になれば」と画像の共有を勧めてくれたが、当の文面には〈あきらめた〉とか〈お断りした〉という言葉が並ぶ。一見すると失敗例のようだが、結果的にはうまくいったという内容だ。
たとえば〈何度参加してもご縁がなくあきらめた〉という母親は、これが最後と思って参加した交流会で息子を持つ母親と話が弾み、子ども同士の見合いが叶った。すると2人は意気投合、たった半年で挙式し、〈これ以上の喜びはありません〉と綴っていた。
別の母親は娘に結婚の意思がなく、ずっとひとりで生きていくのだろうと半ば覚悟していた。交流会で離婚経験のある息子の母親と身上書を交換したが、相手の過去が気になっていったんは断った。その後、別の交流会で先の母親と再会し、ものは試しと当人同士を引き合わせたところ交際に発展。〈このたび無事に入籍を済ませました〉という報告とともに、〈1年前は娘に幸せが訪れるとは予想もしておらず、夢のようです〉と喜びを述べていた。
■「誇大表現」のように思えたが…
おそらくSさんは礼状を記した母親に自分を重ね合わせ、何度となく読んできたのだろう。くじけたり、断ったり断られたりしながらも成婚できたという内容は、確かに親の心を揺さぶる。

一方でそうした成婚例が〈数え切れないほど〉などと謳う業者には、恣意的なものが感じられた。広告媒体でありがちな〈コレさえ飲めば元気100倍〉といったキャッチコピーと同様に、客観的証拠に基づかない誇大表現のように思える。
実際、Sさんが共有を勧めてくれた親の礼状は一部を切り抜きしたような文面だ。親はどの交流会に何回参加したのか、子どもの年齢や居住地、職業などの具体的情報は記載されておらず、挙式写真も「ぼかし」が入るなど加工されている。個人情報保護という点はあるにせよ、実際どれほどの成婚例があるのかは判然としない。
「業者だってビジネスですから、きれいごとを並べる、大げさに宣伝するという点はあるでしょう」
Yさんは私の懸念を見透かしたように言い、「でもね」とつづけた。
「私はいろんな交流会に出て、代表やスタッフとも話したことがあるんです。確かに何人が結婚したという数字は示されなかったし、そういう意味では信憑性がないと言えますけど、だからって怪しげなものでもありません」
■明確な数字や割合を示せないワケ
代理婚活と一口に言っても、その運営方法は業者によって違う。今日のような交流会では親同士の話し合いや身上書交換の場が作られるだけ。その後に親がどうするか、あるいは子ども同士がどうなるか業者は関与しない。子どもの挙式写真や礼状を送る親はいるにせよ、むろん義務ではないから各自の自由だ。すると何人が結婚できたのか、主催した業者には明確な数字がわからない。

中には親が交流会に参加したことをきっかけに、子ども自身が積極的に婚活に取り組むようになり、知人からの紹介や結婚相談所への入会を経て成婚したケースもあるという。先の礼状のように一度は断った相手と別の交流会で再会し、その後に子ども同士が見合いをして無事に結婚というケースもある。そんなふうに業者は交流会後の状況を直接把握できないため、参加した親のうち何人の子どもが結婚した、そういう割合を示せない。
「私が以前の交流会で親しくなった親御さんは、息子さんにご縁がない、断られてばかりだからとやめちゃったんですよ。でもそれから一年後くらいだったかな? 息子さんは転勤先で出会った女性と恋愛結婚したらしいって、別の親御さんから聞かされて。そういう人も含めたら、うまくいった人は多いんじゃないかと思います」
■親たちが求めているのは「期待や希望」
Yさんの言葉に深くうなずいたSさんが、身を乗り出すようにして話し出した。
「私も何人かの方から、お子さんにご縁があったという親御さんの名前を聞いてます。どういうお相手と結婚したのかはっきりしたことはわからないけど、交流会に出るとそんな噂話も耳に入りますね」
YさんやSさんの話を聞くにつれ、明確な数字や具体的割合を求めていないような気がした。何人とはわからなくても、とにかく結婚できた子どもはいる。親の代理婚活をきっかけに子どもが意欲を持ち、別の方法で婚活をはじめてうまくいった。あきらめかけたところに、思いがけないご縁を得た親子がいる。そういう期待や希望がなにより大切だとすれば、むしろ割合などは知りたくないのかもしれない。
仮にその数字が厳しいものであるならば、希望は失望に変わってしまう。
「親ががんばればうまくいくって、そう単純な話じゃないだろうけど、何もしなければそれっきりじゃないですか。私の息子なんていい歳だし、冷静に考えれば正直無理かなってあきらめもありますよ。ただね、自分が動けるうちはやってみよう、やるだけやってダメならしょうがない、そういう気持ちでいたほうが救われるんです。交流会ではおめでたい話が聞けたり、こうして親同士が知り合ったりできるわけだから、それはそれでいい場だと思いますね」
■「自分がやれるうちはやらなきゃ」
希望や期待の一方で現実も見据えながら、Yさんは自分なりの代理婚活への向き合い方を話した。
「ウチは私より主人のほうが……」
今度はTさんが意味ありげな苦笑を浮かべた。
「娘が独り身のままじゃ死んでも死にきれない、母親の責任でなんとかしろって言うんです。こんな歳になっても結婚できないのはおまえの育て方が悪かったんじゃないか、母親なんだから縁談をまとめなくてどうするってガミガミ言われちゃって……」
夫から迫られるTさんは、自分でも自分を責めるところがあるという。主婦や嫁として汲々と生きてきた自分の姿から、娘は結婚に臆するようになったのではないか。子どもを産み育てるという女の幸せを、もっとしっかり伝えるべきだったのではないか。そのうちなどと考えず、早くから縁談を勧めたほうがよかったのかもしれない。ひとしきり沈んだ面持ちで吐き出すと、気持ちを切り替えるように声を高めた。

「私もYさんと同じように、自分がやれるうちはやらなきゃと思います。私が交流会に行くのをやめたら、主人だけじゃなく娘だってもうダメだとあきらめちゃうかもしれないでしょ」
■わが子を説得する「手紙の書き方」まで教わる
そうそう、と同調したSさんが意外な成り行きを明かした。
数年前の代理婚活交流会でSさんとYさんの妻は意気投合、互いの子どもの見合いを画策した。結果的にはYさんの息子との見合いが叶わなかっただけでなく、以前の娘は代理見合いや交流会で探した「お相手」を勧めてもたいして乗り気にならなかった。
奥手だからダメなのか、それとも親が探した相手ではイヤなのか、不安が募ったSさんは三年前、ある業者の「親御様向け相談会」に出向いたという。当の業者の母体は結婚相談所、相談会に出向いた親たちにアドバイスする一方で子どもを入会させるよう勧められた。
「親は子どもの幸せのためなら、お金を惜しまないところがあるでしょ? だからまず相談会で親の悩みを聞き取ったり、やる気を引き出したりするんですよ。そのあとで『お子さんのために婚活費用を出してあげましょう』って勧誘されるんです」
相談会では結婚相談所への入会を説得するための「親から子どもへの手紙の書き方」、そんなレクチャーまであった。あなたの将来を心配しているとか、なんとか結婚してほしいとか、そういう親の思いはかえって子どもの重荷になる。だからあえて「あなたの結婚」には触れず「私の結婚」、つまり親自身が結婚したときの気持ちや結婚後に実感した幸せをしたためるのだという。
■40代の娘が「お母さん、行ってきて」と言うように…
さらに親子一緒に受けられる婚活カウンセリング、期間限定のキャンペーンの紹介があった。カウンセリングでは当人の性格診断や婚活の進め方などのアドバイスを受けられ、キャンペーンは入会金半額、契約日から2カ月間は月会費無料、そんな内容だ。
Sさんは資料を持ち帰って娘に見せ、併せて自身の結婚や家庭生活の経験を綴った手紙を渡して入会を勧めた。その後に親子一緒のカウンセリングも受けたという。
「あのとき娘は40歳直前でしたね。カウンセラーから婚活するなら1日も早く動かなくちゃダメだって言われたり、いろんな成婚例を教えられたりすれば気持ちも動くじゃないですか。娘も納得して、その場で私が契約金を払ったんですけど、とにかく本人がやる気を出してくれてホッとしたんです」
結婚相談所ではプロ仲人と称する担当者が月に10人の男性の身上書を娘に、一方で娘の身上書も同数の男性に送り、双方を仲介するシステムだった。年齢や職業、趣味などが異なる男性を比較検討できるメリットはあったが、反面では「お相手」候補を絞るのがむずかしい。返事を先延ばしするうちに先方から断られることがつづいて、娘は半年もせずに退会したという。
「せっかく結婚相談所に入会したのに残念でしたけど、実は娘の気持ちが劇的に変わったんです。身上書を見るだけじゃ細かいことまでわからないし、自分でお相手を探してみたらいかに大変か実感したみたいなの。それからは『お母さん、行ってきて』って言うようになったんです」
■親に勧められたレールに乗るほうがラク
お母さん、行ってきて。その意味がすぐにはわからなかった。それでも私以外の親たちは、すっかり飲み込めている様子だ。
「そういうお子さんも結構いらっしゃるって聞きますよ。自分でお相手探しをするのはいろいろ迷うし、直接お断りされたりすると傷つきますものね。親が交渉役になれば先方のお人柄やご事情もわかりやすいし、親に勧められたレールに乗ってしまったほうが子どもだって楽な面もあるでしょうから」
Tさんの説明でようやく理解できたが、同時に今日一番の驚きと困惑が広がった。子どものほうが親に代理婚活を頼む、レールに乗ったほうが楽、そしてそういう子どもが結構いるとは思いもしなかった。
子どもといっても30代や40代のいいおとなだ。親の代理婚活に反対したり、嫌悪感を持ったりしてもおかしくない。渋々ながら応じるようなケースはあるにせよ、「行ってきて」と親に委ねるとは私の理解を超えてしまう。
「お嬢さんとお母さんの関係はいいですねぇ。お相手のリストや身上書を一緒に見て、相談するっていうじゃないですか。お見合いが決まったときもお母さんが同行する方は多いって聞きますしね。ウチみたいに男同士じゃむずかしい、せめて家内がいてくれたらって思うんですよ」
なんら疑問など含まない、むしろ羨むような口調でYさんが言った。
■代理婚活というより「親主導婚活」
親子一緒に、親子で相談、親が同行――、まるで「お受験」のような言葉が並ぶが、つまりは代理婚活も似たようなものだろうか。あれこれと子どもの世話を焼き、共闘し、一緒に喜んだり落ち込んだりしながら結婚という名の合格を目指す。うまくいかない、むずかしいと嘆きつつ、一連の努力が生きがいになっている気配さえ感じた。
そもそも「やるだけやってダメならしょうがない」とか、「やれるうちはやらなきゃ」とか、その言葉が誰に向けられているかと言えば我が子ではなく自分なのだ。息子が婚活したけどダメだったから仕方ない、娘がやれるうちはやってほしいではなく、もしも自分の納得や満足を求めているのだとすれば、代理婚活というより親主導婚活と言ったほうが正確かもしれない。
「そろそろお開きにしましょうか」
Yさんの発声で時計を確認すると、すでに2時間近くが過ぎていた。慌ただしく伝票を確認し、「お会計もタブレット?」、「自分の代金だけ払うってどうするのかしら?」、そんな会話とともにレジでの個別精算を済ませファミリーレストランをあとにした。別れ際、母親同士が「お話しできて楽しかったです」、「また会いましょう」と月並みな挨拶を交わすと、Yさんが割って入った。
「次回なんてないに越したことはありませんよ。誰かとのご縁がまとまれば、もう交流会に来ないでしょ?」
その言葉どおり、もう交流会に来なくて済むのならいいだろうが、少なくとも私は「誰かとのご縁がまとまる」予感はしなかった。そしてそういう現実がつづいたとき、私もまたやれるうちはやらなきゃと、代理婚活を生きがいにするのかもしれなかった。

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石川 結貴(いしかわ・ゆうき)

ジャーナリスト

家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに書籍の刊行、雑誌連載、テレビ出演、講演会など幅広く活動する。著書に『スマホ廃人』(文春新書)、『毒親介護』(文春新書)、『ジャーナリストルポ 居所不明児童:消えた子どもたち』(ちくま新書)など多数。

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(ジャーナリスト 石川 結貴)
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