未婚の子を持つ親同士が交流し、わが子の結婚相手を見つけようとする「代理婚活」の実態とはどのようなものか。30代の未婚の2人の息子を持つジャーナリストの石川結貴さんは、実際に「お相手」探しを体験した。
最新刊『ウチの子の、結婚相手が見つからない!』(文藝春秋)より、一部を紹介する――。
■総額150万円かけて20人とお見合いした結果
2020年秋から1年半を婚活に費やした当時34歳の長男は、20人ほどの女性との見合いやデートこそしたものの、それより先には進めないままあえなく撤退した。この間、結婚相談所の入会金や月会費、見合い料、デート代などで総額150万円ほどを、本人いわく「勉強代」として費やした。
当初の息子は結婚相談所が言う「高い成婚率」をそのまま信じ、実績を誇る担当カウンセラーのアドバイスに従い、真面目に婚活に取り組めばいずれ「お相手」が見つかると期待していたようだ。親の私にしても、いかにもキマっているプロフィール写真や見合い時の服装に安心感を覚え、あるいは当人以上に期待していたかもしれない。
ところが現実は「仮交際」(見合い後により親しくなるためのデート)だの「真剣交際」(結婚を視野に入れた1対1の交際)だのと耳慣れない言葉が登場し、毎日のようにデータベースを検索しては「お見合い希望」を出す。相手が了承して見合いになると一流ホテルのラウンジのお茶代を負担し、デートとなったらこれまた一流のレストランを予約するなど聞いてビックリの連続だった。
■なぜ真面目で優しいわが子が評価されないのか
おまけに仮交際では複数人の掛け持ちが許されていたから、自分以外の候補者がいるかもしれない「お相手」に時間とお金を使い、外見を比較されたり、気配りやコミュ力を試されたり。結果「お断り」されて落胆する、そんな繰り返しだ。
いったいウチの子の何が悪いのか。どうしてウチの子ではダメなのよ。そのころの私の心境はそんなふうで、真面目で優しい我が子が評価されない怒りや焦りとともに、何をグズグズやってんの、そう息子の要領の悪さを責めたい気持ちもあった。

フリーランスの立場で数々の仕事を開拓してきた私からすれば、何度見合いをしてもこれといった成果を上げられない息子が情けない。いい歳をした息子の男としての力量のなさに、つい厳しい目を向けたくなったりもした。
私だったらもっとうまくやれるのに、そんな上から目線で初の代理婚活に臨んだのは2022年の秋。そこではじめて年齢や年収、大学名や企業名、親の学歴や職業にまでシビアな目が向けられる現実に愕然とし、自分の思い上がりを猛省した。
■ママ友のLINE画像に、ふと心が乱れる
都合3度の代理婚活は散々な結果に終わり、肝心の息子も「俺には婚活は無理だな」とあきらめた様子。もうひとりの息子である次男は端から結婚する気などないようで、「子ども部屋おじさん」と揶揄される実家暮らしのまま、仕事とオンラインゲーム、男友達とのつきあいで日々を過ごす。
母である私と30代後半の息子2人。それぞれ仕事を持ち、経済的余裕もあり、家事を分担したり、一緒に外食をしたりする。これはこれで気楽な生活だ。子どもが結婚しなくてもよしとしよう。そう割り切って暮らしながらも、ふと心が乱れるときがある。
同じ時代に子育てをしていた仲良しのママ友には、小学生を筆頭に4人の孫がいる。
「孫なんていたってうるさいだけよ」、「お嫁さんから10万円もするランドセルをせびられて、たまったもんじゃないわ」とサバサバ言う彼女だが、LINEのプロフィール画像は4人の孫が定期的に入れ替わる。
七五三の和装、入学式のスーツに新品のランドセル、紅白帽子をかぶった運動会でのVサイン。「うるさいだけ」とは孫がいない私を気遣ってのことだろう、そうありがたく思う一方で、それぞれの人生が違う方向に進んだことに一抹の寂しさを覚えたりする。
■息子の結婚は仕事の実績より嬉しい?
私の担当だった同じ歳の女性編集者と久しぶりに顔を合わせたときには、「デパ地下育ちの一人息子が去年結婚したの」と聞かされた。
出版社の正社員として多忙だった彼女は家事にまで手がまわらず、仕事帰りにデパ地下で総菜や弁当を買っていた。当時はそういう自分を自虐してか、「ウチの子はデパ地下育ち」とよく口にしていたが、立派に成長した当の息子は仕事を通じて知り合った女性と家庭を持ったという。
「結婚式ってあんなに感動するものだったかなぁ? 自分のときより何十倍もうれしくて、披露宴ではダンナと一緒に大はしゃぎしちゃったわよ。やっと親の務めを果たしたと思ったら、柄にもなく泣きそうになったりしてさ」
喜色満面の彼女の意外な一面を見て、それが親というものなのか、数々の仕事の実績よりも息子の結婚のほうが断然大きな喜びなのか、そんな思いがチクリと刺さった。
■「もうやめたほうがいいんじゃないですか」
結婚するもしないも個人の自由。結婚しなくても幸せな人はたくさんいる。そういう理屈は百も承知だ。夫婦の3組に1組が離婚し、子どもがいない夫婦はおよそ1割とされる。

仮に子どもをもうけても、成人までには1人当たり総額2000万円以上が必要とも言われている。結婚したところで将来が約束されるものでもなく、むしろ人生を台無しにするリスクもあり得るだろう。
それでもこのまま気楽な毎日をよしとして、中年になりやがて老年になっていく息子たちを黙って見ているしかないのだろうか。「親の務めを果たした」と笑顔で言った女性編集者を自分に当てはめれば、私にはまだすべきことがあるのではないか、そんな気持ちが拭えなかった。
ウチの子の、結婚相手が見つからない!』(文藝春秋)の取材で知り合った結婚カウンセラーのひとりに、息子の婚活や私の代理婚活などの経緯を伝えて相談してみた。個人経営の仲人型結婚相談所に20年勤務し、親の代理見合いなども手がけ、今はある自治体の婚活支援に携わる岡田晴美さん(仮名・63歳)だ。今後についてアドバイスを求めると、「もうやめたほうがいいんじゃないですか」、そう岡田さんは苦笑した。私は代理婚活に不向きだという。
■代理婚活に向いていない親の特徴とは
「石川さんのように子どもの真面目さや優しさをわかってくれる人を探そうとする親は、代理婚活に向いてないと思います。年収とか家柄とか目先の条件で選別されるのがイヤだとしても、親が関わる以上はそういうものだと割り切るのが大事なんですよ。まして代理婚活ではその場に本人がいないのに、どうやって双方の子どもの人柄がわかるんですか。まずは条件が合う親にどんどんアプローチして、子ども同士の見合いをさせる。
当人同士で会ったとき、話が楽しいとか、ちょっとした気配りがあるとか、実際の人柄なんてそういうことでもなければわかりませんから」
岡田さんの言うことはもっともだが、「見合いをさせる」としてもそう簡単にいくものだろうか。身上書やらアプローチタイムやら、まずは代理の親の判断があり、そこから子どもの意思を確認する。親が「お相手」候補を気に入ったとしても、子どもが承諾しなければ見合いにならない。子どもの「お相手」なのだから、子ども自身の意思を尊重して当然だろう。ところが岡田さんは、そういう発想をする私だから不向きなのだという。
■極論に聞こえて内心引いたが…
目先の条件で選別する割り切りが大事なように、子どもの意見をいちいち気にせず「とにかく一度会いなさい」と押し切れる、そんな親でなければ代理婚活は向かないと言われて驚いた。
「もちろん絶対に無理なタイプとか、生理的に受けつけないっていうなら話は別ですよ。でも、身上書を見てちょっと乗り気になれない、ピンとこないというくらいなら、片目をつぶってでも会えと言ってみる。実際に見合いをしてやっぱりイヤだと言われても、『もう一回会ってから、また考えてもいいじゃない?』とか、うまくかわして次のデートにつなげてやる。それくらいできる親じゃないと、子どもを結婚させられないですね」
極論に聞こえて内心引いたが、つづけて「だいたい石川さんの息子さんには、ちゃんとした意思があるんですか」と問われて言葉に詰まった。
■結婚カウンセラーが語った「本音」
そもそも親に代理婚活をさせるような息子や娘はたいした意思など持っていない、そう岡田さんは言う。いい人がいたら結婚したい、そろそろ結婚してもいいかな、そんな淡い願望はあっても、自分はこういう人と結婚しようとか、あるいは自分は結婚したくないとか、さほどの主体的な意思はない。
本当に固い意思があるのなら、自分の結婚相手は自分で探すから放っておいてくれ、自分は結婚する気持ちはない、そんなふうに主張して親を代理にすることなどないという。
一方で岡田さんが携わる婚活支援の場でも、確かな意思や具体的な結婚像を持つ未婚者は少ない。それこそ「いい人がいたら結婚したい」程度の気持ちで婚活をはじめ、候補者の何人かと見合いはするものの、「しっくりこない」などと言ってやめてしまう。
「私の立場では無理強いできず、ご本人の判断を尊重するしかないんですけど、本音ではそれじゃあいくら婚活してもうまくいかないよと思ってます。だって人と人との関係は、そう簡単にしっくりくる、心が通じ合うようなものじゃないでしょう? 婚活をせずに恋愛結婚した人だって、最初はイヤな人だと思ったけど意外な一面を知って見直したとか、敬遠していた人と何かのきっかけで仲良くなったとか、そういうケースはいくらでもあるじゃないですか」
■条件はいいが親と同居希望の国家公務員
岡田さんの言葉に、その数カ月前に取材したある母親が思い浮かんだ。33歳になる彼女の娘は29歳で結婚相談所に入会、数人の「お相手」と見合いやデートをしたという。見合いをした中には資産があることを自慢して「子どもさえ産んでくれればいい」と言う男性や、趣味に強いこだわりがあってどうにも話が噛み合わない男性がいたりして、「疲れた」と落ち込む娘は8カ月で退会した。婚活を終えたあとはストレスからか脱毛し、職場の人間関係の悩みも重なって一時は鬱のような状態に陥ったという。
そんな娘に「また婚活したらとは言えない」、そう嘆息した彼女の気持ちは痛いほどわかる。
「ほんとに婚活ってむずかしいですよねぇ」などと母親同士で慰め合ったが、そのとき彼女はこうも言っていたのだ。
「娘がお見合いした中に、30代の国家公務員の男性がいたんです。仕事や年収という条件はいいし、なによりすごく優しい人だと言ってました。
ただ、男性は結婚後に親と同居したい、大家族で暮らしたいという希望だったんですね」
■すぐに「お断り」しなければ良かった
娘から見合いの報告を受けた彼女は、「いまどき同居? 大家族? あり得ないよね」と言い、娘のほうも「優しくていい人だけど、さすがに同居はちょっと……」と乗り気ではない様子。すぐに娘から「お断り」をしたが、あとになってその判断は間違いのように思えた。
「同居したいってことは家族仲がよくていい家庭で育った、だからあんなに優しい人だったとも言えるでしょ? タラレバを言っても仕方ないけど、いいご両親やご家族を持った人と結婚したら、むしろ幸せになれたかもしれない。同居するとかしないとか、何もお見合いの場で決める話じゃないし、何度か会ったり、つきあったりする中で相談させればよかったって、そんなふうに思ったんです」
取材のときにはインパクトがあるほかの男性とのエピソードに気を取られ、たいした興味も持たずに「なるほど」などと受け流してしまったが、岡田さんの言葉を受けて振り返ると違う印象になった。
■「不向き」と言われた真意がわかった
「もう一回会ってみたら?」と勧めていたら娘の未来が変わっていたかもしれない、もしやそんな思いがあったのだろうか。同居希望という相手をすぐさま否定し、別の視点から考えなかったことを後悔していたのだろうか。
翻ると、私自身も息子の婚活に別の視点を持っていたとは言い難い。いくら見合いをしてもうまくいかないとき、情けないとか、要領が悪いとか、つい息子を責めるような感情だった。相手の女性から「お断り」されたり、息子のほうから断ったりしたとき、こちらに足りない点はなかったのか、次につなげるためにどうすればいいだろう、そんなふうに前を向かせようとしたことなどなかった。おとなである息子に口出しできないという自制もあったが、そもそも私自身の心が狭く、つまらないプライドに縛られていたのかもしれない。
代理婚活にしてもよくよく振り返ってみれば、真面目なウチの子をどうして気に入らないのか、ウチの子の優しさをわかってほしい、そう親バカ目線で思うばかりで、まずは相手のよさを見つけよう、少しでも歩み寄ろうと努力していただろうか。
代理婚活に不向き、そう言った岡田さんの真意が少しわかった気がした。

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石川 結貴(いしかわ・ゆうき)

ジャーナリスト

家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに書籍の刊行、雑誌連載、テレビ出演、講演会など幅広く活動する。著書に『スマホ廃人』(文春新書)、『毒親介護』(文春新書)、『ジャーナリストルポ 居所不明児童:消えた子どもたち』(ちくま新書)など多数。

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(ジャーナリスト 石川 結貴)
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