■代官山なのに“100円均一”が最も活況
前編では、代官山の駅前空洞化を見てきた。駅周辺に点在する空きテナント、人を呼び込めないフォレストゲート、通過されてしまう駅。だが、同じ駅前に、対照的な光景があった。
「代官山アドレス」だ。
2000年に開業したこの複合施設の中を歩くと、意外な光景が広がっていた。目に飛び込んできたのは、子供たちの姿だ。ベビーカー専門店、子ども向けの体操教室、子ども服のショップ――。かつて「ファッション感度の高い街」として知られた代官山のイメージとはかけ離れた、「子育て感度」の高さがそこにはあった。
訪れているのも、若者やカップルより子ども連れのファミリーが圧倒的に多い。
なかでも最も活気があったのが、100円均一ショップの「セリア」だ。
代官山アドレスで動いている経済は、外部から観光客を呼び込むものではない。「ここに住む人」の日常に根ざしたものだ。
■町全体を覆う「ファミリー化」
代官山アドレス周辺を歩きながら、周囲を見渡してみた。施設の近くにはタワーマンションが複数そびえ立ち、公園ではファミリーが思い思いに時間を過ごしている。子ども連れの多さは施設内だけの話ではなく、街全体に及んでいる。
代官山はもはや「買い物をしに行く街」ではなく、「住んで、そこで完結する街」へと変わりつつあるのではないか。
その仮説を裏付けるのが、人口データだ。行政区分「代官山町」のデータを確認すると、総人口は2007年まで微減傾向にあったが、2008年から2025年にかけて一貫して増加し続けている。前編で紹介した通り、この時期に代官山駅周辺の地価は約2倍に跳ね上がった。
■データから読み解く「代官山の変化」
データが示す人口回復の裏側には、偶然ではない3つの段階がある。
①2000年代後半~2013年:「ファッションの街」としてのピーク
この時期、世帯数は微増するものの、子ども人口の比率は減少傾向にあった。2000年の代官山アドレス竣工により、居住地としての基盤は整い始めていたが、街を訪れるのも、住むのも、依然として来街者が中心だった。
「CouCou(クゥクゥ)」や「pupi et mimi(プピエミミ)」といった雑貨店が話題を集めたのもこの時期だ。代官山が「ファッションの街」としての来街者による消費で回っていた最後の黄金期だったと言えるだろう。
②2013年~2018年:住民層の静かな入れ替わり
転機は2013年、東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転開始だ。来街者にとって代官山は「各停しか止まらない通過駅」へと変わった一方、住民にとっては「新宿・池袋・横浜へ直結する利便性の高い駅」へと生まれ変わった。同じ出来事が、来街者と住民で逆の意味を持った。
この利便性の向上と呼応するように、「ザ・パークハウス代官山」(2013年)、「THE CONOE代官山」(2016年)、「代官山ザ・ハウス」(2018年)など、高級マンションが相次いで竣工した。共働き世帯やパワーカップルが定住する動機と受け皿が、この時期に一気に揃った。
その一方で、雑貨ブランド「SWIMMER(スイマー)」の代官山本店は2014年に、その姉妹店「chocoholic(チョコホリック)」の代官山本店、「CouCou(クゥクゥ)」と「pupi et mimi(プピエミミ)」の代官山店は2016年に閉店している。
■「遊びに行く街」から「住む街」になった
③2019年~現在:「住む街」への定着と商業のズレ
その後、子ども人口は高止まりし、地域への定着が進んだ。アパレル需要の低下、交通網の広域化、住宅供給の継続――。これらが重なり、代官山は住宅地としての人気をじわじわと高めていった。
この時期にも「代官山らしい店」の閉店が続いた。1994年開店のインテリア雑貨店の「ASSEMBLAGE(アッサンブラージュ)」が2020年に26年の歴史に幕を下ろしたのは、この流れの帰結だろう。現在の活況の担い手が「セリア」「ミスタードーナツ」「ベビーカー専門店」といった生活密着型テナントに集約されているのも、必然といえる。
■フォレストゲートが宙に浮く理由
代官山アドレスが住民の生活に根ざした施設として着実に機能している一方、同じ駅前に立つフォレストゲート代官山の立ち位置は、改めて見ると、際立って曖昧だ。
商業施設としてみれば、テナントの数も回遊性も物足りない。観光地としてみれば、「ここでしか体験できない」という特異点に乏しい。2000円前後のランチと4000円台のビュッフェの店が同居し、どの客層をメインターゲットに据えているのかが見えにくい。
地元住民向けに振り切るには代官山アドレスという先行者がいて、外からの来街者向けに振り切るには代官山T-SITEという圧倒的な存在がある。
フォレストゲートが開業した2023年は、代官山が「ガラガラ」と騒がれていた時期と重なる。街の再起を担う施設として期待を集めたはずが、結果的にはかつての「おしゃれな代官山」のイメージにも、現在進行形の「生活密着型」の需要にも、どちらにも応えきれていない。
この「どっちつかず」の違和感は、施設単体の問題ではない。今の代官山そのものの縮図なのかもしれない。観光地化にも生活拠点化にも振り切れないまま、街は移行期の真っ只中にある。その歪みが、駅前という一等地にもっとも直接的に表れているのではないだろうか。
■代官山は「変化の途上」にある
いまの代官山は、ガラガラでも廃墟化しているわけでもない。駅前の空きテナントは確かに存在する。だが代官山アドレスには子育て世代が集い、代官山T-SITEには国内外から人が訪れ、ログロード周辺では街歩きを楽しむ人の姿が絶えない。
問題は街全体の活力ではなく、その活力が「どこに」「誰に」向いているかだ。
かつて代官山は、全国から人を呼び込む消費の目的地だった。
駅前の空洞化は、その移行期における歪みの表れだ。かつての来街者を前提とした商業モデルが限界を迎え、増加した新たな住民層の需要にまだ追いついていない――その狭間に空きテナントは生まれている。
フォレストゲートが体現する「どっちつかず」の違和感は、施設の失敗ではなく、街全体が抱える移行期の象徴だ。
代官山はまだ終わっていない。むしろ次の姿を模索している途中なのだ。駅前の空きテナントは、衰退の証拠ではなく、「来街者の街」から「住民の街」へと脱皮しようとする、その過程の痕跡である。その脱皮が完成したとき、駅前がどんな顔を持つのか――それが、代官山という街の次の問いになる。
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杉浦 圭(すぎうら・けい)
街歩きライター
街歩きを趣味とし、全国各地を巡り歩いてその街ならではの魅力を発見することをライフワークとする。旅行メディアでライターとしても活動し、旅行者の視点を交えながら、街の魅力を多角的に伝えている。東洋経済オンラインや、現代ビジネス、ジモコロなどに寄稿している。
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(街歩きライター 杉浦 圭)

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