社内の情報共有は、どこまで効率化できるか。元マッキンゼーでOECD職員の星歩さんは「マッキンゼー・パリオフィスでは、会議のスクリプトのような議事録は決して書かない。
もし会議に来られなかった人がいたら、その人に関わる部分の要約と次のアクションをメールとチャット以外の方法で伝える」という――。
※本稿は、星歩『世界基準の仕事術』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■日々の業務から見えてくる、徹底した「効率化」
私が見てきた中で、マッキンゼーでは、非常に質の高い成果物を短期間で納品しなければならないため、効率化を徹底化しており、いかなる無駄も排除しようとします。以下の実例を基に、業務効率化の方法を見ていきたいと思います。
議事録は書かない
少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、議事録を作成することはほとんどありませんでした。
前職、日本でコンサルタントとして働いていたときは、毎日のように議事録を書いていたのを覚えています。日本ではフォーマットもしっかり決まっており、かつ誰が何を言ったかなど、会議で話し合われたすべての内容を記録します。
議事録作成、そしてそのレビューに毎日のように時間を使い、それが目的になってしまっているように感じました。
一方、マッキンゼー・パリオフィスでは、会議のスクリプトのような議事録は決して書きません。要は会議で決まった決定事項と次のアクションがわかれば良いので、それだけを書き留めます。
会議では、それぞれが自分のためにメモを取ります。全員に決定事項を共有する必要がある重要な会議でない限り、わざわざ内容を整理して全体に共有することは基本的にしません。

それよりも、次のアクションを取ることを優先し、効率の良い人はもう会議中に次のアクションを取って終わらせてしまう人もいます。そのくらいみんな忙しく、時間がとても貴重です。
もし会議に来られなかった人がいたら、電話でその人に関わる部分の要約と次のアクションを伝え、その人のために特別にメールにまとめたりはしません。書けば書くほど時間が取られてしまうため、口頭での共有で十分な場合は電話で済ませます。
今では、生成AI機能を使って、文字起こし機能(トランスクリプト)をオンにしておけば、自動で議事録を取ることも可能です。そういった自動化できることは、できる限り自動化するのが基本です。
■電話にすることで、返信を待つ時間も省ける
メールは最小限
メールも圧倒的に前職より少ないことに気づきました。日本では平均、毎日100件以上のメールが届いていたのを覚えています。まずメールを読むだけで、朝の30分は潰れていました。
少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、基本的にメールは必要最低限に抑えようとします。わざわざメールに書く必要のないことは、チャットでメッセージを送ったり、あるいは電話でことを済ませます。
特にメールを書く時間の余裕のないパートナーは、小さい要件も電話で済ませていました。
パートナーのオフィスで一緒に仕事をしていたとき、彼は電話をし終わると、またすぐ次の人にかけ、横にいる私とはほとんど会話をする暇もないほど、ずっと電話漬けでした。
電話にすることで、メールを書く時間を節約できるだけでなく、返信を待つ時間も省くことができるのです。
もう1つの特徴は、CCに入れる人は最小限にすることです。日本ではあまり関係ない人でも「参考情報(FYI)」という形でみんなに送る傾向があると、少なくとも前職では感じましたが、マッキンゼー・パリオフィスでは本当に関係ある人にしか送らず、後々情報共有が必要になったときにまとめて転送します。そうすることで受信箱が必要のないメールで溢れてしまうことを防いでいます。
■8割方自分に関係ない話題の会議は不要
会議は最小限
日本でコンサルタントとして働いていたとき、あるプロジェクトの週次会議で、ありとあらゆる人が参加した結果、毎回50人を超える大規模なものに発展したことを覚えています。
マネジメント会議でも、「この人を呼ぶなら、あの人も」と、雪だるま式に参加者が増え、プロジェクトにほとんど関係のない人までが会議に参加していました。
一方、少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、会議は最小限です。本当に必要な人しか参加しません。自分の担当するワークストリームが決まっているため、それ以外のワークストリームの会議には参加しないのが原則です。
必要な情報があれば、その都度、担当者に直接確認し、無駄な会議に参加しないことが徹底されていました。そのため、8割方自分に関係ない話題の会議に参加する必要はないのです。

ショートカットのプロ
私が見てきた中では、マッキンゼーのコンサルタント全員がものすごい速さでスライドをつくっていました。急なクライアントとのミーティングが入っても、30分の準備時間でミーティング用のスライドをつくってしまいます。
なぜここまで高速に仕上げることができるのか。1つには、ショートカットを巧みに使いこなせていることが挙げられます。文字の大きさを変える、箱の位置をそろえるなど、すべてショートカットで対応します。
また、マッキンゼーでは、マッキンゼー専用のパワーポイントとエクセルが存在します。コンサルタントが頻繁に使う動作をマクロで定義し、たとえばこの箱とこの箱を入れ替える、マッキンゼーの表紙を挿入するなど、クリック1つでできてしまいます。
■スライドのデザイン改善を専門にしたチーム
ナレッジ管理(知識管理)
マッキンゼーでは、「KNOW」というマッキンゼー専用のナレッジ管理のサイトがあり、そこで他のチームが作ったスライドをダウンロードすることができます。たとえば、「生成AIのユースケース」と検索すればそれに関するスライド資料がたくさん出てきます。最新の資料がわかりやすく整理・管理されており、ドキュメントタイプでも検索することができます。
このように成果物のアセット化、ナレッジ管理を徹底化しており、これも効率化の大きな一役を担っています。
徹底的な分業体制
コンサルタントの業務の1つとして、情報収集やリサーチ、スライドのビジュアル化がありますが、これらの業務は、専門に扱うチームで対応されます。

たとえば「CCN(Client Capabilities Network)」と呼ばれるリサーチを専門にしたチームがあり、「フランスのIT技術者の平均コスト」を知りたければ、CCNチームがデータを準備してくれます。
また、毎日のスライドづくりで大変助かるのが、「VG(Visual Graphics)」と呼ばれる、スライドのデザイン改善を専門にしたチーム。
どんなに自分のスライドが汚くても、VGチームがマッキンゼースタイルの綺麗なスライドに直してくれます。このように、コンサルタントが本来の仕事に専念できるようにサポート体制が整えられており、コンサルタントが必ずしも行う必要のない仕事は他のチームが担当する分業体制が確立されています。
■目的に立ち返り、全体像を一歩引いて見る
優先順位付けのプロ
コンサルタントの毎日は、まさに「時間との戦い」です。朝から晩までミーティング、クライアントへの報告準備、分析、スライド作成……。気づけば、To-Doリストは常に30項目を超えています。しかし、すべてを完璧にこなすことは不可能です。
だからこそ、何を「今すぐやるべきか」、何を「後回しにできるか」を見極める力が求められます。
そんなとき、まずしなければならないのは、「目的に立ち返る」ことです。今、誰のために、何を達成しようとしているのか、どのタスクが、最終的なクライアントの意思決定に一番影響を与えるのか。その問いを自分に投げかけ、全体像を一歩引いて見てみます。

そのうえで、最優先に処理すべきは、「クライアントの成功に最も直結するもの」、さらにその中で「最も緊急性があるもの」です。こうして、クライアントへの価値と緊急度の二段階で優先順位を決めるのです。
生成AIは積極的に活用
ChatGPTが話題になった当初、社外秘情報を入力しないことを条件に、生成AIの使用を積極的にコンサルタントに薦めていました。
その後、社外秘情報も扱えるように、「Lilli」と呼ばれる、社内用の生成AIツールを早々に開発しました。「Lilli」のすごいところは、社内のナレッジ管理システムと統合されており、回答に使われた社内資料を参照してくれます。
「Lilli」を使うことで情報収集と初期ドラフト作成の時間を大幅に短縮できます。マッキンゼーでは、このように業務効率化に役立つ新しいツールに関しては積極的に導入、使用を奨励しています。
■仕事量でもスピードでもない
業務効率化の本質――最小の労力で最大の成果を出す
マッキンゼーで徹底されている業務効率化の本質は、「たくさん働くこと」でも「スピードだけを追い求めること」でもありません。共通しているのは、最小の労力で最大の成果を出すために、何に時間とエネルギーを使い、何を手放すのかを、常に意識的に選び続けているという点です。
議事録を詳細に残さないのも、メールを最小限に抑えるのも、会議の数を絞るのも、ショートカットやテンプレート、生成AIを積極的に使うのも、すべて目的は同じです。
「人が人にしかできない、本当に価値のある仕事に集中するため」。そのために、機械に任せられること、仕組み化できること、なくしても支障のない作業は、容赦なく削ぎ落としていきます。

この考え方は、外資系コンサルティング業界に限った特別なものではありません。日本の職場においても、
・議事録は「決定事項と次のアクション」に絞る

・メールのCCを必要最小限にする

・会議の目的を冒頭で必ず明確にする

・知識や情報を価値ある資産として蓄積・活用する

・優先順位付けをしてから作業を開始する

・テンプレートやショートカット、AIを積極的に使う
といった小さな工夫を積み重ねるだけで、仕事の密度は変わっていきます。
効率化とは、「何に自分の時間を使うのか」を、主体的に選び取る姿勢そのものです。忙しさに流されるのではなく、自分の時間とエネルギーをどこに投下するのかを自分で決める。
その積み重ねが、結果として成果の質を高め、評価を高め、キャリアの選択肢を大きく広げていくのです。

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星 歩(ほし・あゆみ)

OECD職員

神奈川県横浜市生まれ。2014年、慶應義塾大学経済学部に入学。大学在学中、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」の給付生としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校に1年間留学。卒業後、新卒3人枠の1人として、外資系コンサルティング会社キャップジェミニに就職。2021年、フランスに校地を置く経営大学院のINSEADに入学。MBA取得後、日本人として初めて、マッキンゼーのパリオフィスにシニアコンサルタントとして入社。2024年、フランスのパリに本部を置く国際機関、OECD(経済協力開発機構)に転職。現在に至る。本書が初の著。

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(OECD職員 星 歩)
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