正しい休み方とは何か。元マッキンゼーでOECD職員の星歩さんは「どれだけ忙しい時期でも、完全な『燃え尽き』を防ぐためには、これだけは守るという最低ラインを決めておくといい」という――。

※本稿は、星歩『世界基準の仕事術』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■「休む=怠けること」は大間違い
「休むことに罪悪感がある」。この感覚を持つ日本人は、決して少なくありません。「周りに迷惑をかけたくないから」「自分だけ休むのは気が引けるから」と言って、有給休暇をため込んでしまう。
ようやく休みを取っても、結局、仕事用携帯を開いてメールをチェックし、緊急ではないけれど、返信してしまう。こうした光景は、もはや日本の職場では日常化しているかと思います。そしてその裏には、「休む=怠けること」という無意識の価値観が根強く存在しています。
戦後の高度経済成長期から続く日本の労働文化は、「勤勉」「努力」「責任感」という美徳の上に築かれてきました。しかし、その一方で、「仕事をしていない自分には価値がない」という思い込みを無意識のうちに植えつけてしまったのです。
仕事のメールを夜中に確認し、対応してしまうのは、「ちゃんとやっている自分」でありたいという、誠実さゆえの習慣かもしれません。けれども、その「まじめさ」が度を超えると、休んでも頭が休まらない「休み下手」の状態に陥ります。これは単なる時間管理の問題ではなく、「心のオン・オフを切り替える力」の欠如です。

■休養は「トレーニングの一部」
日本では、周りのために働くことは美徳とされても、「自分のために休む」ことは、まだまだ十分に肯定されていません。しかし、休むことは決して周りに迷惑をかける行為ではなく、むしろそれは、自分をリセットし、周りによりよく貢献するための行為です。
周りから頼まれた仕事に「NO」と言えず、どんどん抱え込んでしまう。良い人でありたいがために、すべてを引き受けてしまう。気づけば、「今日中に終わらせなければならない仕事」が山のように溜まり、帰れなくなってしまう。
しかし、人は疲労がたまると、集中力・判断力・創造力・共感力が確実に落ちます。集中力が切れ、仕事の効率が落ち、ミスが増え、イライラしやすくなる。それは周りに迷惑をかけることと一緒です。
一流のアスリートほど、休養を「トレーニングの一部」として大切にしています。筋肉が成長するのは、鍛えているときではなく、休んで回復しているときです。人の脳もまったく同じです。情報を整理し、アイデアを再構築するのは、働いている最中ではなく、休んでいる時間なのです。

よく休める人ほど、よく働ける。しっかり休む人ほど、長く成長できる。つまり、自分を大切にすることは、周りを大切にすること。そして、正しく休める人ほど、組織や社会にとって必要とされるようになるのです。
■休み下手から抜け出すための5つのポイント
1.「意識的にオフの時間」をつくる
休みの日に、頭の中から仕事のことを完全に消し去るのは、正直なところ難しいものです。それでも大切なのは、「何となく休む」のではなく、自分の意志で「オフの時間」をつくることです。
たとえば、
・夜20時以降は仕事のメールを一切見ず、翌朝まとめて確認する。

・週末の午後は「自分のための時間」として、カレンダーに予定を入れてブロックする。

・1年に1度は、スマホやパソコンから完全に離れる「デジタルデトックス休暇」をとってみる。

こうした「小さなオフ」を積み重ねることで、心と体のスイッチの切り替えが自然にできるようになります。重要なのは、「完全に離れる」ことを目指すのではなく、「自分の意志でオンとオフを切り替える感覚」を身につけることです。

この切り替えができるようになると、しっかり休めるようになるので、仕事に戻ったときの集中力や創造力が格段に高まります。


2.「自分に合う休み方」をデザインする
人によって、「心身の回復」に適した「休み方」は異なります。静かな時間を1人で過ごすことでリラックスできる人もいれば、友人と会って会話を楽しみ、刺激を受けることでエネルギーを取り戻す人もいます。
重要なのは、「世の中で良い」と言われる休み方を真似することではなく、「自分に合った休み方」を知り、それを意識的にデザインすること。自然の中で過ごす、美術館を巡る、友達とおしゃべりする、家族と料理をつくる、何もしないで空を眺める。
どんな過ごし方であっても、「自分にとって心地よい」と感じられるなら、それがあなたにとっての理想の休み方です。
■週に1回は「早く帰る日」を設定する
3.「習慣」として定着させる
「休み下手」から抜け出すために、いきなり長期休暇を取る必要はありません。まずは、「休むこと」を日常の中に組み込むことから始めるのです。
たとえば、
・昼休みを1時間しっかり確保するために、カレンダーに「ランチブロック」を入れる。必ず1時間は席を離れ、頭と体をリセットする。

・午後3時になったらコーヒーブレイクを取る。外に出て少し歩き、新鮮な空気を吸う。
こうした「小さな休み」を意識的に挟むだけで、集中力や気持ちのリズムが変わり始めます。

さらに、「休む」ことを習慣のトリガーに変えるのも効果的です。
たとえば、
・疲れを感じたら5分外に出る

・どうしても眠気に襲われたときは、15分の昼寝をする。
休むタイミングを具体的な行動ルールとして決めておきます。
そして最後に、チーム全体で「休む文化」を可視化することも重要です。
たとえば、
・週に1回は「早く帰る日」を設定する。自分で「○曜日は18時に退社する」と決め、予定としてカレンダーに登録。それをチーム内で共有し、「お互いに休みやすい雰囲気」をつくる。

・有給休暇の消化目標をチーム単位で設定し、個人ではなく「チーム全体で〇%使い切ろう」と共有する。

・休暇を取ったメンバーの話をチームチャットや定例会で「○○さんが○○に行ってきました」と軽く紹介することで、「休む=称賛される行動」という意識が根づく。
上司が率先して休暇を取り、共有することで、さらに文化として定着していく。
■睡眠時間6~7時間以下は「非常事態」
4.休めないときの「最低限ルール」を持つ
誰にでもどうしても忙しい時期はあります。重要なのは、「忙しいから全部あきらめる」のではなく、これだけは守るという最低ラインを決めておくことです。

・睡眠時間だけは削らない:最低でも6~7時間は確保すると決め、それ以下になる働き方は「非常事態」と認識します。夜遅くまで作業する代わりに、翌朝の開始時間を遅らせるなど、調整する発想を持ちます。

・食事は抜かない:忙しいと、つい食事を後回しにしがちですが、空腹は集中力と判断力を大きく下げます。完璧な食事でなくても構いません。おにぎり1つ、スープ一杯でも何か食べることを優先します。

・週に一度は何もしない時間をつくる:予定を入れない時間を、あらかじめカレンダーに確保します。この時間は「生産性ゼロでいい」と自分に許可を出すことが大切です。
このような最低ラインを決めておくと、完全な「燃え尽き」を防ぐことができます。
■「休み方」と「生き方」を変える小さな習慣
5.休みを振り返る習慣を持つ
休みは取るだけではなく、振り返ることで、自分に合う休み方の精度が上がっていきます。
休みの後に、次の3つを振り返るだけで十分です。
・何をしているときに、一番リラックスできたか

・逆に、休みのはずなのに疲れた行動は何だったか

・次の休みでは、何を増やし、何を減らしたいか
これをメモに残したり、頭の中で整理したりするだけで、「自分に合う休み方」が少しずつ見えてきます。
そんな小さな習慣の積み重ねが、あなたの「休み方」を変え、やがて「生き方」そのものを変えていくのです。


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星 歩(ほし・あゆみ)

OECD職員

神奈川県横浜市生まれ。2014年、慶應義塾大学経済学部に入学。大学在学中、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」の給付生としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校に1年間留学。卒業後、新卒3人枠の1人として、外資系コンサルティング会社キャップジェミニに就職。2021年、フランスに校地を置く経営大学院のINSEADに入学。MBA取得後、日本人として初めて、マッキンゼーのパリオフィスにシニアコンサルタントとして入社。2024年、フランスのパリに本部を置く国際機関、OECD(経済協力開発機構)に転職。現在に至る。本書が初の著。

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(OECD職員 星 歩)
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