イラン発のエネルギーショックを受けて、肥料市場が危機的な様相を強めている。当初は、トウモロコシに利用される窒素肥料である尿素の価格が急騰した。
その理由は、イランのみならず、湾岸諸国の広範囲で、産油施設や精製施設が破壊されてしまったことにある。そうした施設が復旧しないことには、ホルムズ海峡の封鎖が解かれたとしても、エネルギーや肥料の供給は回復しない。加えて、エネルギー価格が高騰したため、輸送コストはかなり増大するから、肥料価格は高騰を余儀なくされる。
そう考えた需要家の間で肥料の取り合いが生じており、価格の上昇にはすでに弾みがついている。例えばドイツのニーダーザクセン州の場合、代表的な窒素肥料である硝酸アンモニウムカルシウムの価格が1カ月で15%も上昇したと、3月20日付のユーロニュースが報じている。当然、肥料価格の高騰で、その輸入額も激増することになる。
実際、2022年に生じたロシア発のエネルギーショックの際も、原油価格の高騰に後ズレして肥料価格が高騰し、ヨーロッパの肥料の輸入額が激増した(図表1)。こうしたコストの増大が、後の激しい食品インフレの大きな要因となっている。この悪夢が、ヨーロッパで蘇りつつある。程度の差はあれ、日本も同様の事態に陥ると懸念される。
■あまり進まなかった肥料の脱ロシア化
かつて欧州連合(EU)は、輸入肥料の3割をロシアに、1割を隣国のベラルーシに依存していた(図表2)。しかしウクライナ侵攻を巡ってEUとロシアの関係が破綻、EUが肥料の脱ロシア化を図ったことで、2022年にはロシアからの輸入額が全体の20%程度に、またベラルーシからの輸入額が1%程度にまで急減することになった。
しかし、その後は横ばいで推移しており、肥料の脱ロシア化はあまり進んでいない。EUは肥料の脱ロシア化を進めるために、2025年7月からロシア産肥料に対する関税を6.5%から14%に引き上げ、さらに3年後までに100%にする措置を発動した。対するロシアは、肥料の輸出先の多角化、特に新興国シフトを進めると明言している。
こうした状況の下で、イラン発のエネルギーショックが発生し、肥料危機が生じた。現実的な観点に立てば、ロシア産肥料に対する関税の引き上げを延期することが望ましい。計画では、2026年半ばまでにトン当たり40から45ユーロの追加関税が課される方針だった。しかし現状に鑑みれば、この措置を発動する余裕などEUにはない。
それでも、EU執行部がロシア産肥料に対する関税の引き上げを進めるならば、各国の国民のEUに対する不満が爆発すること必至である。むしろ関税を元の6.5%に戻すか、撤廃してもいい状況であるが、それではEUが掲げてきた肥料の脱ロシア化の旗を降ろすことにつながりかねないため、14%のまま据え置くのが関の山かもしれない。
ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長らEU執行部は、今回の苦境に際して、果たしてどのような判断を下すのだろうか。
■それでも脱ロシア化を進めるのか
ウクライナ侵攻を巡りロシアと決定的な対立に陥ったヨーロッパには、business is businessという実利的な視点が欠けている。経済安全保障の名の下に、ロシアとの経済関係までも悪化させなければ、そもそもロシア発のエネルギーショックも限定的だったし、今回のイラン発のエネルギーショックの悪影響もまた軽くて済んだだろう。
つまりロシアとの経済関係を維持していれば、ヨーロッパは中東に過度に接近することもなかったし、中東に接近していたとしても、ロシアからもエネルギーや肥料を十分に調達できたはずだ。ヨーロッパという巨大プレイヤーの需給が安定していれば、肥料のグローバルな需給均衡が大いにガタつく事態を防ぐことにつながったと考えられる。
イラン発のエネルギーショック、それと同時に起きている肥料危機がヨーロッパに問いかけるもの――。それはこのような状況を受けても、経済安全保障の名の下に脱ロシア化を進めることの是非ではないか。老獪であるはずのヨーロッパは、良くも悪くも物事の白黒をつけない知恵を有していたはずだが、近年はそれを忘れ去ってしまったかのようだ。
エネルギーショックと、それに伴う肥料危機が生じたことで、ヨーロッパの物価は再び上昇が加速する可能性が高くなっている。こうした環境の下でも、ヨーロッパは肥料の脱ロシアの取り組みを進めるのか。そしてそのコストを、各国の国民に転嫁していくのか。
■多角化の名の下にリスク分散に失敗
経済安全保障の名の下に、特定の国に対する輸入依存度を引き下げることがグローバルに叫ばれている。それ自体は正しい見方だろうが、一方で政治的な判断を優先し過ぎると、かえって経済的な苦境に陥ることが多い。経済安全保障が抱える一種のジレンマであるが、ヨーロッパの肥料の脱ロシア化の取り組みは、そのジレンマを表す好例といえる。
つまりヨーロッパは、経済安全保障の観点から脱ロシア化を進めた結果、イラン発のエネルギーショックであり、それに伴う肥料危機の悪影響を強く被るに至った。結局のところ、ヨーロッパはリスク分散に失敗した。business is businessの観点からロシアとの関係を維持していれば、ヨーロッパはイラン情勢の悪影響を軽減できただろう。
日本は湾岸諸国のみならず、イランとの関係も伝統的に良好である。今回のイラン情勢に対して、アメリカに過度に肩入れすれば、中東全体との関係が拗れることになりかねない。日本の経済安全保障を考えれば、こうした展開を回避しなければならない。この点、多方面に配慮した現実的な外交が展開されることが、切に求められる。
ロシアとの関係も同様だ。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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