高校野球の春の甲子園大会が実施されている。試合は9イニング制だが、日本高野連は将来的に7イニングへ短縮する案を検討している。
目的は、特に猛暑下の夏の大会における選手の健康管理(熱中症対策、投球数減少)や運営負担軽減だが、賛否が分かれている。元プロ選手で人気YouTuberの里崎智也さんは「高野連は外野の一般の声など気にせずに、『現場の声』を第一に考えてしてほしい」という――。
※本稿は、里崎智也『令和プロ野球ぶっちゃけ話②』(清談社Publico)の一部を再編集したものです。
■「どうして7イニング制がいいと思うんですか?」
7イニング制についての私の答えは、ただひとつだけである。
「どうして7イニング制がいいと思うんですか?」
暑さを理由にしていること自体、「何をいっているんだ」である。毎日の練習も2時間どころではなく、炎天下のグラウンドで朝から晩まで平気で練習をしている高校だってざらにある。
その点を改善せずに、なぜ試合だけ7イニングにするのだろうかという疑問が尽きない。
そもそも、夏の甲子園に出場してくるような学校の選手は暑さでそう簡単に倒れたりしない。普段から練習で鍛えているので、「2時間くらいで終わる試合のほうが楽だ」と考えているはずだし、私自身も高校時代はそう考えていた。
そういうと一部の人からは「昔とは夏の暑さが違う」という反論が出てくる。
たしかに、私の高校時代には猛暑日が2週間続くということはなかったし、気温が35度以上になる酷暑の日が続くようなこともなかった。
けれども、いまの高校野球は上級生、下級生を問わず、水分補給をするのが当たり前だし、コンディション管理も昔の指導者に比べて徹底している。

■「夏の甲子園」は実は涼しいワケ
それに、甲子園は涼しい。
普段はプロ野球の阪神が使用する球場だけあって、グラウンドを離れたところのベンチ裏に行けばエアコンがきいているし、ドリンク類も豊富にそろっている。
私が普段、仕事をしている新聞記者のみなさんからも、
「『甲子園のベンチ裏は涼しい場所だ』って、出場してくる学校の監督さんが口々にいっているんですよ」
という話も実際に聞いている。
攻撃のときは攻撃側の選手たちはベンチに控えているし、スタメンの選手全員がグラウンドに出てくるのは守備の時間だけ、2時間の試合のうちの半分の1時間だけだということを考えると、
「どうして7イニング制がいいと思うんですか?」
という疑問が尽きないのだ。
同時に、私にいわせれば、
「一般向けのモニター調査では7イニング制への賛成が反対を上回ったが、ファンらを対象に高野連ホームページで募った意見では9割が反対だった」
という、この意見がすべてである。
外野の意見ばかり聞いて現場の意見を無視するなんてもってのほかだし、そもそもプレーする肝心の選手たちが「どう思っているのか」を考えれば、おのずと答えはひとつになるんじゃないだろうか。
■「7イニング制の新大会」はメリットだらけ
こう説明しても、「やっぱり夏は暑いんだから、7イニング制がいい」と、さらに反論してくる人もいるだろう。
そこで、私がこれから述べる案を、ぜひ高野連は採用してほしい。
それは、「7イニング制の甲子園大会を新たに創設すること」だ。
同時に、例年行われている夏の甲子園大会は継続させるということが前提である。
時期としては春のセンバツ大会が終わったあとの、全国の都道府県で春季大会を開催しているころである。
この大会は夏のシード権を取るという意味合いがあるから重要だと考えている人もいるかもしれないが、私にしてみれば、「夏のシード権は前年の秋の大会の結果でええやん」と考えている。

だから、この時期はあえて「7イニング制の甲子園大会」と称して開催してみたらいい。この大会に参加するには二つの条件がある。
■「7イニング制の甲子園大会」私案
①部員数の多い学校はAチーム、Bチームに分け、例年の夏の大会にはAチーム、7イニング制の大会にはBチームが参加する。
この場合は両方の大会に参加できないため、Aチームの選手が例年の夏の大会に参加した場合は7イニング制の大会には参加できないこととして、Bチームの選手が7イニング制の大会に参加した場合は例年の夏の大会には参加できないこととする。
②それ以外の、たとえば進学校は、7イニング制の大会か、例年の夏の大会に参加するのか、どちらかを選ぶ。
部員数の多い学校にしてみれば、7イニング制の大会と、例年の夏の大会に参加することで、それまで9イニング制の大会では控えだった部員にもチャンスがめぐってくる。
すると、7イニング制の大会にだって大学、社会人を含めたアマチュア野球の関係者や、場合によってはプロの関係者だって、この大会を見にくるかもしれない。
そこでキラリと光る好素材の選手を発見できれば、「よし、うちの野球部に入ってもらおう」とスカウトされる可能性だってある。
それに、7イニング制を選んだ学校で部員数が少ないところであれば、この大会は春で終わってしまうのだから、そのあとは自分の進学先を見据えて受験勉強に専念できるというメリットがある。
「どうせ以前からある夏の大会に出たって負けるんだから、早めに負けて勉強したほうがいい」
と考えている部員は、普段は口には出さないだけで意外と多いはずだ。
その結果、
「自分たちがいい大学に進学するためにも、春以降は勉強に専念できる7イニング制の大会に参加しよう」
と考える学校や野球部員がいたとしても、おかしな話ではない。
■8つのブロックでトーナメント
それでは、この大会はどうやって勝ち上がっていくのか。

これについても、私が考えた構想がある。
まず、大会そのものは、全国の都道府県で予選があり、決勝を勝って頂点に立った学校が、①北海道、②東北、③関東、④北信越、⑤東海、⑥近畿、⑦中国・四国、⑧九州のそれぞれ八つのブロックのなかでトーナメントを行う。
そうして、①から⑧の頂点に立った各1校が甲子園球場に集まって、ここから7イニング制の甲子園大会が始まるというわけだ。
これなら、大会そのものが4日程度で終わるし、ペナントレースが始まっている阪神にも影響をおよぼさない。
極端な話、この大会が甲子園で開催されている期間だけは、阪神が関東遠征に出て巨人、ヤクルト、DeNAあたりと対戦しているのだっていい。
これなら、7イニング制の大会を開催するのは可能となるわけだ。
■弱小校が強豪校に勝てるチャンスがある
考えてみてほしい。
夏の甲子園とは別のかたちで7イニング制の大会をつくれば、横浜や大阪桐蔭といった強豪校のAチーム、つまりレギュラークラスの選手は7イニング制の大会には出ないと考えるのが普通だろう。
そうなると、ワンチャンスとなるが、「横浜や大阪桐蔭といった野球強豪校に勝てるかも」というチャンスだって生まれてくるかもしれない。
その結果、「7イニング制のほうが甲子園に出るチャンスはあるかもしれない」と考える学校も出てくるかもしれない。
ここでは、どうしても「かもしれない」という仮定の話が多くなってしまう。そうして7イニング制を選ぶ学校が多ければ、7イニング制の大会を実施すればいいし、もし7イニング制を選ぶ学校がほとんどなければ、従来の9イニング制のスタイルの大会を継続すればいい。

ここまで考えてあげるべきだろう。
もし私が進学校で野球をやっていたら、間違いなく「7イニング制の大会に出場しよう」といっている。
従来の大会に出場したところで甲子園出場は夢のまた夢だし、何度も申し上げるが、たとえワンチャンスだけでも甲子園に出場できる可能性があるとすれば、9イニング制の従来の大会より、レギュラークラスの選手を9イニング制の大会に送り出した野球名門校の実力が落ちるであろう7イニング制の大会のほうだ。
たとえば、東京や大阪はもとより神奈川、埼玉、千葉、愛知あたりだと、甲子園に出場するまでには1回戦から戦ったとして、8度勝たなければならない。
仮に2度、3度勝ったとしてもAシード、Bシードの強豪校と対戦することになれば、そう簡単には勝てないと普通なら考えるはずだ。
■早めに受験勉強に専念できる
それなら、少しでも甲子園に出場できるチャンスがある7イニング制の大会に出場し、惜しくも途中で敗退してしまっても、そのあとは受験勉強に専念できるのだから、こちらを取ったってメリットはある。
よく6月下旬くらいになると、最後の夏にベンチ入りできなかった3年生部員が他校と「壮行試合」のようなことを行っている学校があるが、この場合は練習試合であって真剣勝負ではない。
一方で、7イニング制の大会は真剣勝負である。
だったら、後者の大会に出場したほうが、彼らにとってもより真剣度が増し、随所で熱いプレーが繰り広げられるんじゃないかと思うのだ。
■7イニング制議論で忘れられている選手の視点
高校野球への注目度については、夏はとにかく高い。
炎天下の甲子園でプレーしていることを朝の情報番組で取り上げ、野球をやったことのない識者に聞くものだから、
「こんな暑いなかプレーするなんて、熱中症で倒れたりしたら、大変なことになりますよね」
などとコメントし、夏の甲子園反対論者がワンサカ現れてしまうのがオチだ。
それなら、もっと現場の指導者や選手たちの声に耳を傾け、「やっぱり9イニング制でやりたい」というのであれば、それを止める権利は大人にはないはずだ。

高校野球は、このようにいわれてしまいがちだが、
「それでは、ほかのスポーツはどうなんですか?」
ということも聞いてみたい。
■サッカーも真夏8日間で6試合
2024年、高校サッカーのインターハイは7月27日に始まり、8月3日に決勝戦が行われた。決勝に進出した鹿児島の神村学園と埼玉の昌平は8日間で6試合も戦っている。サッカーはハーフタイムの10分以外は、つねにグラウンド上を走り回るスポーツだが、その危険性について、識者がとやかくいっているなどということは、少なくとも私は聞いたことがない。
もし熱中症や痙攣の心配をするのであれば、五回裏終了時に設けられているクーリングタイムを見直すべきだ。
足が攣った、具合が悪くなったといわれるのは、クーリングタイムが終了してからの六回以降に多く発生しているとも聞く。
何度も述べているが、甲子園球場のベンチ裏が涼しい一方、短い時間ながらもそこにとどまり、一気に冷えた体を灼熱のグラウンドに身を投じれば、なんらかの異変が起きてもおかしくない。
それだったら、監督や部長なりの大人の指導者がクーリングタイム中の過ごし方についてもっと勉強し、選手たちに対策を講じさせるほうがよっぽどいいと考えている。
一方で、私が提案したような7イニング制の大会をつくって一度、実施してみるのはアリなんじゃないかと考えている。
そのうえで、全国の都道府県でどのくらいの数の学校が参加の意思を表明するのかを把握してみるのもいいだろうし、ひょっとしたら、3分の1くらいは「ぜひ参加したい」と挙手してくれるかもしれない。
そのうえ、甲子園球場はプロ野球の阪神のホームでもあるから、長期にわたっては無理でも、1週間程度であれば、たとえシーズン中であっても、調整可能なんじゃないかと思える。
高野連も、外野の一般の声など気にせずに、「現場の声」を第一に考えてしてほしい。
大切なのは野球をやったことがない一般の人たちの声ではない。プレーする選手たちなのだ。
今後も慎重に議論を重ねるだろうが、そのことだけは忘れないでほしいというのが私の願いである。

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里崎 智也(さとざき・ともや)

野球解説者

1976年、徳島県生まれ。鳴門工高(現・鳴門渦潮高)、帝京大を経て、1998年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズを逆指名。2014年に現役を引退。2019年にYouTubeチャンネル「Satozaki Channel」を開設。著書に『非常識のすすめ』(KADOKAWA)など。

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(野球解説者 里崎 智也)
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