今年4月から少子化対策の財源確保を目的とした「子ども・子育て支援金」の徴収が始まる。SNSでは「独身税」という俗称で呼ばれ、疑問視する声も多い。
独身研究家の荒川和久さんは「子育て支援は大切だが、これから結婚・出産しようとする『将来の親育て』をないがしろにしては、結局少子化が進むだけだ」という――。
■繰り返される「子有りvs.子無し」論争
XなどSNS界隈で定期的に話題になるのが、「子有りvs.子無し」論争です。
とりわけ、4月から始まる子ども・子育て支援金(※1)をめぐっては、「子どもを産み育てている側こそ社会に貢献している」「未婚・子無しはフリーライドだ」といった声まで見られるようになりました。「生涯未婚は社会のお荷物」という極端な意見すら珍しくありません。
もちろん、その前提にあるのは深刻な少子化、未婚化で、このままいけば50年後の社会保障体制はどうなるのか、という不安に基づいているわけですが、だからといって、「子有りvs.子無し」や「既婚vs.未婚」の二元対立軸を作って、互いに感情的な分断に陥るのは健全ではありません。
そもそもこの論争自体、論点がズレているのではないでしょうか。「子有りか子無しか」「既婚か未婚か」という属性の結果以前に、見るべきは、結婚と出産が経済階級によって分断され始めているという点にあります。
前提として、未婚化の大きな要因は「結婚したいのに結婚できない」という不本意未婚が増えていることによります。1980年代まではこの不本意未婚はほぼゼロでした。結婚を希望する若者は大体結婚できていたわけです。しかし、今や結婚したいと思う若者の半分以上が不本意未婚となっています。

※1:少子化対策の財源確保を目的に2026年4月から始まる制度。

徴収は健康保険や国民健康保険などに上乗せされる形で行われる。毎月の負担額は加入保険や所得で異なり、平均すると会社員で1人あたり約500円、自営業など国民健康保険の加入者は1世帯あたり約300円、75歳以上で1人あたり約200円が見込まれる。
■年収700万未満では家族が待てない
また、結婚したくない若者が増えているという論も、必ずしもはじめからそうだったわけではなく、不本意未婚の結果として「結婚を諦めた」または認知的不協和から「最初から別に結婚なんてしたくなかった」という流れでそうなった場合も少なくありません。
つまりは、若者が結婚したいと思っている時期に結婚できない問題が存在し、その理由の多くは「経済的理由」にあります。
事実、結婚も子どもを持つことも経済階級で決定され始めています。しかも、その傾向はここ10~15年くらいで急激に進行しました。
住宅・土地統計調査より、2013年と2023年とで、各世帯年収別に子のいる世帯の割合を年代別に分けて比較したものが以下のグラフ(図表1)です。
まず、40代から見ると、年収別の割合が減っているのは700万円未満で、もっとも減少幅が大きいのが300万~500万円世帯で▲9pt、30代も同様700万円未満世帯はすべて減少で、300万~500万円世帯は▲16ptと減少が最大になります。20代になると、すべての年収帯で減少している上に、300万~500万円世帯は▲14ptと落ち込んでいます。
このように、どの年代においても、年収700万円未満はすべて減少、もっとも人口ボリュームが多い300万~500万円の中間層帯で最大の落ち込みです。昨今の少子化、出生減、婚姻減とはまさしく20~30代でこの300万~500万円では家族を作ることができない問題であると結論づけられるわけです。
■「結婚=お金の問題」という現実
もちろん、この数値は全国値なので、東京などとの大都市と地方とでは差があります。
過去記事で、各都道府県の中央値でどれだけ未婚があるかを示しましたが、もはやほとんどの都道府県ごとの中央値では結婚できなくなっているという事実があります(参照:このままでは「未婚率70%」の時代が訪れる…日本の若者に蔓延する「子育てはコスパ悪い」という深刻な呪い)。
「金がないから結婚できないなんてことはない」という意見が既婚者から寄せられますが、中央値の年収で結婚できない現実は「結婚は金の問題である」ことを証明するものです。
■「経済階級格差」が固定化されつつある
子どもの数も経済階級によって決定されます。
家計調査より、二人以上勤労世帯の年収別の世帯数と子どもの数(18歳未満)を2013年と2023年とで比較したものが以下のグラフ(図表3)です。
700万円以上の世帯では維持、あるいは増加すら見られる一方で、それ未満ではすべて減少し、低所得層ほど減少幅は大きくなっています。300万円未満では46%減、300万~500万でも3割減です。
これこそが、経済階級上位は結婚ができ、子どもも持てる反面、中間層以下だけが婚姻減・出生減している現実の姿です。いいかえれば、お金がなければ結婚もできないし、子どもを持つこともできなくなった「結婚と出産の経済階級格差」が固定化されつつあるということです。
皮肉にも、それは政府の長年の少子化対策が子育て支援一辺倒でやってきた副作用として表出したと言わざるを得ません。児童手当や保育サービスなど、いわば「子どもを持った後」の支援は拡充されてきましたが、一方で「これから結婚し、子どもを持つ層」に対する支援は相対的に手薄なままでした。
私は、講演などで今までの少子化対策のこの深刻な副作用を「大河の逆説」として説明しています。
■少子化対策の「深刻な副作用」
たとえば、独身子無しの岸と既婚子有りの岸があったとします。
その真ん中に大河があります。誰もが最初は独身の岸にいますが、結婚して子を持つにはその大河を渡って向こう岸の既婚の岸に行く必要があります。
政府は対岸から拡声器を使って「おーい、こっちまで来たらお金がもらえるぞ、こんなにお得なサービスがあるぞ」と言い、予算をかけた充実したサービスを用意して待っています。これが政府の少子化対策です。
さて、独身の岸にいる者は大河を渡らなければなりません。力のある者(経済力ある者)は難なくその大河を泳いで渡れるでしょう。しかし、その力なき独身はどうすればいいでしょう。力ある者が渡河するのを見て、無謀にも自分も飛び込む者もいるかもしれません。ところが、泳げない者が水の中に入った末路は溺れてしまうだけです。
かくして、渡河する力ある者だけが対岸に渡り、渡河後(結婚後)至れり尽くせりのサービスを享受できる一方で、行きたくても行けない不本意未婚は呆然と立ち尽くすことになるのです。
■「予算3倍増→出生数3割減」の皮肉
実は、10年くらい前までは、この大河はせいぜい小川程度のものでした。実際、年収300万円台でも若者は十分に結婚できていたわけです。
にもかかわらず、前述した通り、今では700万円にまでハードルが跳ね上がってしまったのはなぜでしょうか。
それこそ、対岸でのサービスを充実させればさせるほど、その予算を作るために川幅を増やしてしまったようなものだからです。税・社保料などの負担が川幅を増していきます。4月からの子育て支援金もまさに川幅を増やすことになります。
国の子育て支援予算は2007年対比で3倍増の11兆円超にも増大しています。ところが、児童手当など実際に世帯に渡る給付は2兆円程度で増えてはいません。増えているのは就学前児童のための福祉サービスですが、皮肉にもこれを増やすほどに出生数は減少。予算は3倍増で出生数3割減です。そして、その間、国民負担率も増加しています。
子育て支援を否定するものではありませんし、それはそれでやるべきです。しかし、それだけでは効果はありません。投下した費用に対する効果検証もなされないまま、前例踏襲でただ予算を増やすだけの政策は、結局負担を増やしただけで、手取りは減り、さらに子育てにはコストがかかるという意識までも強化して、子育て世帯でさえ「もう一人」と思えなくさせています。
子どものいる家庭では世帯年収700万でも苦しいことでしょう。
すべてが、結婚と出産を困難にしたとも言えるのではないでしょうか。実際、結婚できる年収、子どもを持てる年収があがってしまっているわけですから。
■本当に必要なのは「将来の親育て」
要するに、これまでの少子化対策のやり方では、未既婚関係なく結婚と出産の経済的ハードルを増し、意識のインフレを加速させただけで誰も得をしていません。特に、向こう岸に渡りたくても渡れないという「若い中間層の経済問題」については、今まで認識すらされていませんでした。子育て支援も大事ですが、これから結婚・出産しようとする「将来の親育て」をないがしろにしては、結局少子化は進むだけです。
必要なのは、最初の意図と反して大きくなりすぎた川幅を元に戻す(税・社保料などの負担軽減で手取りを増やす)に加え、それだけでは不十分で、「将来の親」となるべき多くの中間層の若者が置かれている環境の視点に立つことが肝要です。そこの岸辺に立って、必要とあらば、小舟を出す、橋をかけるという具体的なアクションによって、彼らの安心を作ることでしょう。
子育て支援という対岸でのから騒ぎばかりやっているうちに、その支援すべき子どもたちが生まれてこなくなるとすれば、それこそ本末転倒です。そして「将来の親育て」がないままなら、今生まれた子の将来もまた辛いものになることになります。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

コラムニスト・独身研究家

ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。
著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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