※本稿は、和田秀樹『手放す勇気』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■年間200人以上の死に立ち会ってわかったこと
私は、高齢者専門の総合病院に長い間勤務していました。
在院している方の平均年齢は85歳くらいでしたから、年間200人以上の方がその病院で亡くなり、死は特別なものではありませんでした。何しろ2回当直勤務をすると、1回はだれかの死に立ち会います。
決して手放してはいけないものは「いのち」ですが、絶対にしがみつけないのも、やはり「いのち」です。
もしも、死について考えるなら、死生観を持つことが大切です。
死生観=人生観そのもので、「自分がどんなふうに生き、どう死んでいきたいか」をこれから残された日々の中で考えていくことです。
私は、これまでに一度、死を覚悟したことがあります。
数年前、血糖値が急に上がり、1カ月で体重が5kgも減少したことがありました。膵臓がんが疑われ、多くの検査を受けました。もし末期の膵臓がんであれば、残された人生はわずかです。
■いのちを延ばすより、自分らしく生きる
そのときに決めたことは次のことです。
「膵臓がんだった場合、治療は受けない」
なぜなら、治療をすれば体力が落ちて、やりたいことができなくなると思ったからです。
がんは、何の治療もしなければ、比較的死ぬ寸前まで動ける病気です。動けるうちは、好きな旅行もでき、美味しいものを食べる体力もまだあるはずです。
「延命治療はせず、人生の最期までなるべく長く元気で過ごし、好きなことをやりたい放題やって死んでいく」
これが私の死生観であると、はっきりとわかりました。
もしも心安らかに旅立ちたいなら、楽しい思い出をたくさんつくることです。
身体が元気なうちに、そして心がやる気に満ちているうちに、これまでしようと思っていたけどできなかったことや、「いつか」「そのうち」と思っていたことに悔いなく挑戦してください。
いのちを延ばすことよりも、自分らしく生ききることのほうがずっと大事なのですから。
■「ピンピンコロリ」で死ぬのは絶対に嫌
死生観を持つことが大事とお伝えしましたが、あなたはこれからどんなふうに生きて、どんなふうに死にたいですか?
元気に長生きして、コロリと亡くなる「ピンピンコロリ」が理想的な死に方だという方も多いかもしれません。でも、私は「ピンピンコロリ」で死ぬのは絶対に嫌です。
できることならピンピンコロリではなく、死の準備ができる「がん」で死ぬほうがいいと考えています。
多くの方がピンピンコロリがいいという理由は、5つ考えられます。
1、寝たきりになりたくないから
2、苦しみたくないから
3、長期の介護になって家族に迷惑をかけたくないから
4、寝たきりよりも、自分らしく最期まで自立した生活を送りたいから
5、世の中的にそれが「理想の死に方」のようにいっているから
元気に長生きして寝たきりにならず、周りに迷惑をかけることもせず、最後まで自分の好きなものを食べ、やりたいことをやってある日、突然、死を迎えるというのは、たしかに理想な死に方かもしれません。
しかし、私はピンピンコロリは嫌です。
なぜならピンピンコロリは、いわば突然死だからです。
突然、予期せぬ形で死を迎えることになって、家族に「さよなら」の言葉も、「いままでありがとう」という感謝の気持ちを伝えることもできません。こんな死に方は嫌です。
ピンピンコロリは、残された家族が「最後に一緒に過ごす時間」や「お別れをいう機会」が持てないため、心理的な区切りがつきにくい傾向があります。
看病や看取りを経ずに突然の別れになるため、死別を受け入れることに時間がかかり、現実を受け止めるプロセスが難しくなるのです。
■心筋梗塞で死ぬ人はがんで死ぬ人の12分の1
一見ポジティブで理想的な死に方のように語られますが、社会的・制度的な視点から見ると、
“都合のいい理想”としての側面も存在します。高齢者の長期入院や要介護期間が短くなれば、国・自治体の財政負担は軽くなるのですから。
メディアや行政の啓発で、「ピンピンコロリこそ理想の死」といったメッセージが強調されると、病気になったり介護が必要になることは理想的ではない、あるいは「自己管理の失敗」のようなイメージを植えつける危険性もあります。
では、「ピンピンコロリ型の死」はどのようなものなのでしょうか。
・急性心筋梗塞――動脈硬化が進行して、冠動脈にできていたプラークが冠動脈を完全に塞いでしまい、心筋に血液が届かなくなって心筋が壊死してしまう状態。
・脳出血・くも膜下出血――脳の血管が破れて脳内に出血する。
・不整脈・心室細動――心臓の電気信号の乱れにより、ポンプ機能が突然停止する。
・大動脈瘤破裂――動脈の壁が破れて大量出血を起こす。
・肺塞栓症(エコノミークラス症候群など)――血の塊(血栓)が肺に詰まり、呼吸停止に至る。
しかし実際、ピンピンコロリで亡くなるのは、思いのほか難しいのです。
ピンピンコロリとがんで死ぬ場合を比較してみると、日本の場合、典型的な突然死である心筋梗塞で死ぬ人は、がんで死ぬ人の12分の1しかいません。
この12分の1に入るのは至難の業です。
思いっきり脂っこいものを食べてメタボの典型のお腹ぽっこりになっても、なかなかこれを達成することはできません。
■「したいこと」「食べたいもの」を手放さない
健康診断でコレステロール値や血圧が高いと、医者はすぐに「薬を飲みなさい」「下げないと動脈硬化が進んで心筋梗塞のリスクを高めます」と脅します。
しかし、心筋梗塞のリスクは減るかもしれませんが、がんのリスクはむしろ増えるのです。
なぜならコレステロール値が高いほうが、免疫力が高く、がんになりにくいことがわかっているからです。
糖尿病の場合、薬で数値を下げると低血糖を起こしやすくなり、心不全などの合併症リスクが高まることが知られています。
血圧は、年を取れば自然に高めに推移され、降圧剤を飲むと活力が奪われて頭がぼんやりして転倒リスクが上昇します。
医者のいいなりにならず、「自分のしたいこと」「食べたいもの飲みたいもの」はどうか手放さないでください。
私はいままで集めたワインのコレクションを、死ぬまでにぜひとも味わって死にたいですし、もしもがんが見つかったら公表して、知り合いを集めてワインの栓を開けようかな、などといろいろ考えています。
突然ではなく、こんなふうに楽しく、なだらかに死ねたらいいな、と考えています。
これが私自身の「あなたはこれからどんなふうに生きて、どんなふうに死にたいですか?」の答えになります。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。
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(精神科医 和田 秀樹)

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