お金を着実に貯める方法はあるのか。明治大学教授の堀田秀吾さんは「貯蓄を習慣化する仕掛けについて複数の実証研究が行われている。
アメリカのデューク大の研究では、金色のコインを用意することで、効果が目に見えて表れた」という――。
※本稿は、堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc. 世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「金色のコイン」で達成感アップ
貯蓄はマラソンのようなもの。「走り出す」よりも「走り続ける」ほうがずっと難しい。最初の数日はやる気で乗り切れても、疲れた日や予定外の出費があると、つい崩れてしまいます。だからこそ、続けるためには「意志」ではなく、気持ちが自然に動く仕掛けが役に立ちます。
デューク大学のアクバスらは、ケニアで低所得層を対象に、貯蓄を促すためのいくつかの仕掛けを用意したのですが、その中で特にユニークだったのが「金色のコイン」です。
この実験では、金色のコインを配布し、試行期間の入金を週ごとにコインを使って記録してもらいました。目的は入金の可視化です。記録用の物体が手元にあることで、思い出しやすくなりますし、「自分はちゃんとやっている」という達成感を目に見える形で味わってもらえるわけです。その効果は、なんと何もしない場合の2倍を超えたのです。
■スタンプカードのように集めたくなる
ポイントは、貯金額の大きさではなく、「できた回数」に焦点を当てること。
金額が少なくても、続けたという事実が目に入ると、人は自分を前向きに評価しやすくなります。すると、参加者たちはこのコインを見るたびに「明日もやろう」という気持ちが湧き、貯蓄の継続率がアップしたのです。まるで子どもの頃のスタンプカードのように、「集めたい!」という心理が働いたわけです。
コインが増えるほど「ここまで積み上げたのに、やめるのはもったいない」と積み上げたものを失いたくない気持ちが生まれ、自然と浪費に対するブレーキの役割を担います。
そのほか、友人や家族に「毎週これだけ貯めます!」と宣言する「誓約」も効果的でした。どちらも、人間が持つ「言ったからにはやらなきゃ」「見えているからやらなきゃ」という心理を上手に利用しています。誓約は、サボりたい日に背中を押してくれますし、可視化は「今週はここまで進んだ」と進捗を確認できるので、次の一歩が決めやすくなります。
ポイントは、高額を一気に貯めるのではなく、「小額でもコツコツ続ける」こと。金色のコインのような「ご褒美」や進捗の可視化は、小さな成功体験を積み上げ、「自分にもできる」という自信を育ててくれます。自分に合う形で、手元の財布やスマホに「続けた証拠」を残す。これだけで、貯蓄は“気合い勝負”から“続く仕組み”へ変わっていきます。
ひとことアドバイス

机の上や冷蔵庫の扉など、目に入る場所に「貯金の証し」を置きましょう。


視覚の力は、三日坊主を防ぐ最強の味方です。

出典:Akbas, M., Ariely, D., Robalino, D. A., & Weber, M. (2016). How to Help the Poor to Save a Bit: Evidence from a Field Experiment in Kenya (IZA Discussion Paper No. 10024). Institute for the Study of Labor (IZA).
■貯蓄が続かない人には「縛り」が必要
私たちは日々「今」を楽しみたい気持ちと「未来」のために節約したい気持ちの間で揺れ動いています。特に貯蓄は、必要だとわかっていても、誘惑に負けてしまいやすいもの。疲れている日ほど「今日くらいいいか」と自分に甘えて、後から自己嫌悪になることもあるでしょう。
そんななか、フィリピンを対象としたハーバード大学のアシュラフらの実証研究が示す「コミットメント貯蓄」は、自分の意志の弱さを逆手に取り、自らに「縛り」をかけることで貯蓄を実現する有効な方法として注目されています。
この研究では、フィリピンの地方銀行の顧客を対象に、自由に引き出せない貯蓄口座(SEED口座)を提供しました。利用者は「いつまで引き出さない」「いくら貯まるまで引き出さない」といった制限を自分で選び、あえて〝使えない状態〟をつくります。
すると、縛りを設けたグループは1年後には対照群と比べて平均で約8割も貯蓄額が増えました。誘惑に勝とうとするのではなく、誘惑に負けにくい環境を先に用意するだけで、結果が大きく変わったのです。
■「お金を使うかどうか」を悩まずにすむ
重要なのは、このコミットメント貯蓄が誰かに強制されるような「自分を責める縛り」ではなく、自分で設計する「優しい縛り」だという点です。
人は、手元にお金があると「使う理由」を見つけるのが上手です。反対に、最初から触れない場所に置いておくと、「使うかどうか」を毎回悩まずに済みます。
迷う回数が減るだけで、貯蓄はぐっと続きやすくなります。
参加者は貯蓄目標を具体的に決めたうえで引き出し制限をかけ、自分に合った方法でリスクを管理しました。たとえば、「急な出費が心配」という人は、生活費用の普通預金は別に確保しつつ、余裕分だけをSEED口座に移す。こうすれば、困ったときの安全網を残したまま、誘惑に負けやすいお金だけを遠ざけられます。生活が回る範囲で“ちょうど良い不自由さ”をつくるのがコツです。
「貯めたいけど、つい使ってしまう」という人は、まずは、ボーナスや臨時収入の一部だけを「一定期間引き出さない口座」に移す、あるいは積み立てを始めたら半年だけ解約しないと決める。そんな小さな工夫でも、目標がぶれにくくなります。取り組みやすいコミットメント貯蓄を取り入れられれば、将来に向けた安心と充実感を手に入れる一歩になるはずです。
ひとことアドバイス

意志の力に頼るより、環境を先に味方につけましょう。

未来の自分のために、引き出せない口座をつくることが、最強の節約術です。

出典:Brune, L., Gine, X., Goldberg, J., & Yang, D. (2011). Commitments to save: A field experiment in rural Malawi (World Bank Policy Research Working Paper No. 5748).
Ashraf, N., Karlan, D., & Yin, W. (2006). Tying Odysseus to the mast: Evidence from a commitment savings product in the Philippines. The Quarterly Journal of Economics, 121(2), 635–672.
■鍵を持っていない箱と、鍵を持っている箱
先ほどご紹介したデューク大学のアクバスらの研究では、ケニアの家庭を対象に「お金を安全に貯めるための2種類の箱」を使った実験が行われました。銀行口座を気軽に使えない地域もあるため、日常の中で「貯める仕組み」をどうつくるかが切実な課題だったのです。
そこで研究者たちは、家庭内でも使えるシンプルな道具で、貯蓄行動がどう変わるかを確かめました。
ひとつはロックボックス。これは物理的に鍵がかかっていて、鍵は利用者ではなくプログラムの担当者が保管します。お金を引き出したいときは、その担当者に箱を開けてもらわなければなりません。つまり、衝動的にお金を使おうと思っても、すぐには使えない仕組みです。
今日の気分で開けられない、というだけで「一晩寝かせる時間」が生まれます。この時間差があると、欲しい気持ちが落ち着き、「本当に必要だったかな」と冷静になれることが多いのです。
もうひとつはセーフボックス。こちらも鍵付きですが、鍵は利用者自身に渡されます。「開けよう」と思えばいつでも開けられるため、ロックボックスに比べて縛りはゆるやか。それでも、「箱を開ける」ほんの少しの面倒くささが、意外と大きな心のブレーキになるのです。
■節約の敵は「お金をすぐに使える環境」
結果としては、どちらの箱も「ただ家に現金を置いておく」よりは確実に貯蓄額を増やしたのですが、縛りの強かったロックボックスは、より大きな効果を発揮しました。

「鍵をかけた」という心理的なハードルに加えて、「鍵を持たない」という物理的なひと手間が、より強力に無駄遣いを防いだのです。言い換えると、節約の敵は「浪費したい自分」より「すぐ使える環境」だったということです。
この研究が示しているのは、「意志の力だけに頼らず、環境で自分を助ける仕組みをつくる」ことの重要性です。貯金用の口座に引き出し制限をつける、定期預金にする、解約に手間がかかる商品を選ぶ……そんな「小さな壁」が、長期的な資産形成を支えてくれます。
たとえば、普段使いの口座と貯蓄口座を分け、貯蓄側はキャッシュカードを持ち歩かない。あるいは、給料日に自動で別口座へ移し、引き出すには手続きが必要な状態にしておく。こうした工夫は、根性を鍛えるのではなく、迷いを減らし、衝動が落ち着く時間を確保するための方法なのです。
ひとことアドバイス

「すぐに使えない環境」をあえてつくることは、未来のあなたを守る優しいセキュリティです。

出典:(既出)Akbas, M., Ariely, D., Robalino, D. A., & Weber, M. (2016). How to Help the Poor to Save a Bit: Evidence from a Field Experiment in Kenya (IZA Discussion Paper No. 10024). Institute for the Study of Labor (IZA).

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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)

明治大学教授

シカゴ大学大学院言語学部博士課程修了、オズグッドホール・ロースクール修士課程修了・博士課程単位取得退学。心理言語学、法言語学、コミュニケーション論を専門とし、学術的な知見を「今日から使える知恵」に翻訳することをライフワークとし、著書は70冊を超える。56万部を突破した『科学的に証明された「すごい習慣」大百科』(SBクリエイティブ)のほか、『科学的に元気になる方法集めました』『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』など、科学の力で日常を変えるシリーズは累計137万部を突破。NHKラジオ「ラジオ深夜便」レギュラー・パーソナリティをはじめ、ラジオ・テレビ・新聞・雑誌・WEBなど多彩なメディアで、専門家としての視点を発信中。


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(明治大学教授 堀田 秀吾)
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