違法スカウトグループ「ナチュラル」幹部の摘発が相次いでいる。彼らはどうやって歌舞伎町を舞台に勢力を伸ばしたのか。
ノンフィクションライターの高木瑞穂さんによる『ルポ 風俗の誕生』(清談社Publico)より、その実態をご紹介する――。
■歌舞伎町で「ぼったくりキャバクラ」が横行していた
2015年の5月に入っても歌舞伎町では依然、ぼったくりが横行していた。その様がマスコミに取り上げられ、「民事不介入」とする警察の対応の是非を問うなど社会問題になる。そこへ、ある噂が舞い込む。
(一斉摘発があるぞ!)
歌舞伎町をぼったくりキャバクラの摘発情報が駆け巡ったのである。2015年5月半ばのことだ。
そのタイミングで、一斉に正規店に鞍替え。名義人をクビにしてもとの代表に戻し多くは難を免れた。
同年8月に警視庁が「廃業した」と発表した28店は、単に名義人を替えただけだったのだろう。先の6月に東京都ぼったくり防止条例違反容疑で逮捕されたキャバクラ6店舗は、摘発情報を知らずか、知るもタカをくくったか、そのまま営業を続けていたことになる。
■「マジ、バカだよね」
この事態を見続けていた藤田(編注:歌舞伎町で外販を生業にする40歳男性)が、次のように振り返る。
「歌舞伎町全体でやっていたシノギでした。
あれほど街全体に広がった背景には、名義人などを用意するコーディネーターがいたのでは、と思います。摘発された6店については、みんな笑っていました。『マジ、バカだよね』って」
こうして警察の介入によりぼったくりキャバクラは衰退し、歌舞伎町は平穏を取り戻す――。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。歌舞伎町で培ったこのスキームが、ヤクザ組織Fらにより東京・新橋、名古屋・栄、札幌・ススキノなどに転用されたのだ。
そして、ぼったくりの入り口となるキャッチたちの多くも、新たな漁場へと大移動する。
しかし外販は歌舞伎町にとどまり続けた。いま10グループ、約500人の外販がいるが、藤田は、直後にいまも続くホスト・バブルが到来したとし「それに伴走するようにして月100万くらいなら安定して稼げる外販・バブルも起きました」と当時の外販の状況を話した。
■国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」
時代は前後するが、外販史を語る上では、「ナチュラル」の存在についても記さなければならない。
ナチュラル、国内最大規模のスカウトグループである。彼らの名称は、好事家ならずともテレビ報道などでいちどは見聞きしたことがあるだろう。
そう、先の「改正風営法」が施行されて以降、ソープランドやヤクザとの関わりを問われての逮捕が相次いでいる、あの集団だ。

街で声をかけてスカウトした女性を、風俗店やキャバクラなどに違法に斡旋(あっせん)。東京、大阪、名古屋など全国で活動し、「スカウトバック」と呼ばれる紹介料を店側から得る。メンバー数は1000とも1500ともいわれている。
■怒ったヤクザによる「ナチュラル潰し」に発展
そのナチュラルがX(旧ツイッター)を中心として一躍有名になったのは2022年6月。歌舞伎町に怒号が飛び交い、多数のヤクザがスカウトの男性を追いかけ回して暴行を加える「スカウト狩り」動画の流出だった。
事情をよく知るヤクザの男は「ナチュラルが同業のライバル会社のスカウトを次々と引き抜いたことが原因だった。ライバル会社が抗議をするも、聞く耳を持たず、ついにはライバル会社のケツ持ちとの話し合いに。
ナチュラルが『引き抜きはやめない』と楯突(たてつ)いたため、怒ったヤクザによる報復、つまりナチュラル潰しに発展した」と振り返る。
藤田は取材のなかで、このナチュラルの外販への流入を明かしていた。スカウト集団として悪名高いナチュラルだが、“スカウト”だけではなく“外販”も生業としていたのだ。
――ナチュラルが外販をはじめたのは、いつごろからなのか。
「バックの吊り上げ競争が起こった2013年ごろからです。
時間帯が日の出から昼までの、朝ホストの女引きとして入ってきたのがはじまりです。知らない人間が立っていたので、仲間に聞いたら、『ナチュラルっていう会社のヤツら』で『“スカウト”と“外販”を同時にやってる』と」
――“兼業”は一般的なものなのか。
「ケツ持ちから『どっちもやっていいよ』と言われていたというから、かなり特殊です。通常なら、兼業するにしても、“スカウト”と“外販”とで、それぞれ別々のケツ持ちを用意しなければいけません」
――そうしたルールを無視してのこと。やはりトラブルになった。
「はい。聞けば、話し合いをしたが埒(らち)が明かない、と。既存の朝ホストの外販は、スカウトをメインとする組織Bがケツ持ちしていたので、なし崩し的に規律が破られたのでしょう」
■「なんでお前らがスカウトやってるんだ」
その後の動向を探るべく、いまも現役で外販をする木村郁弥(きむらいくや)(仮名/40代)に話を聞いた。木村は言う。
「ナチュラルが夜ホストの外販をはじめたのは、いまから2年前のことです。それまではスカウト行為をするなかで女の子が『ホストに行きたい』となれば、僕ら夜ホストの外販に流して(パスして)バックだけをもらっていました」
ナチュラル流入の証拠というか、藤田の証言を補強するものとなった。朝ホストのキャッチ行為だけではなく、夜ホストもはじめたのが2023年ごろからだと理解していい。

ナチュラルが大手を振って外販をはじめた引き金は、某巨大外販グループの“スカウト参入”だった。
(なんでお前らがスカウトやってんだ。なら、俺らも外販やるぞ)
ナチュラルと某巨大外販グループが言い争うなか、夜ホストへのナチュラル流入は、この返す刀で発した一言で幕を開けた。
■協力関係を築いてきた
そもそもここ歌舞伎町で両者は長年、お互いの強みを生かして協力関係を築いてきた。だが、このころからシマ割りや利権が形骸化した。
この一件が、キャッチ行為の現場を混沌(こんとん)とさせた面は否めない。
木村は「男引きが女に積極的に声をかけたり、スカウトがホストやキャバクラに客を紹介したり、僕ら女引きも消極的だけど男をキャバクラに案内したり」と放埒(ほうらつ)な内情を明かしつつも、こう話す。
「でも、それでも、それぞれ強み(利権)が違います。だから実際は対立していません。お互いに協調しあっています。実入りは半分になるけど、多くは客を流し(パス)あってバックをもらっているのです」
ちなみにキャッチ行為のバック率は、以下のとおり。
・ぼったくり系(キャバクラ、バー)は50%

・ギャンブル系(インカジ(※)、裏スロ(※)、本バカラなど)は売り上げの30%
直に案内すれば総取りだが、つかまえた客をパスしても半金がバックされる取り決めだ。

※インカジ インターネットを使った違法賭博店「インターネットカジノ」の略。

※裏スロ 違法に営業されているパチスロ店。

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高木 瑞穂(たかぎ・みずほ)

ノンフィクションライター

1976年生まれ。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』『東日本大震災 東京電力「黒い賠償」の真実』『覚醒剤アンダーグラウンド「日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男」』(彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)、『日影のこえ』(共著、鉄人社)ほか。

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(ノンフィクションライター 高木 瑞穂)

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