■1990年代半ばからはじまった「援助交際」ブーム
法律や条例には、必ずといってよいほど“ほころび”がある。不備や矛盾、抜け穴のことだ。
そのほころびに乗じて生まれた「JKビジネス」は、悪行に法整備が追いついていないことをいいことに風俗業界を荒廃させた。
JKビジネスは1990年代半ばからはじまった「援助交際(=援交)」ブームの流れを汲む。援交とは売春の隠語であり、「エンコー」や「ウリ」といった派生語まで生まれた。
NTTが提供していた「0990」ではじまる電話番号を利用した情報料代理徴収サービス「ダイヤルQ2」を使い、「援助交際クラブ」と称し、少女を使って管理売春をしていた業者が摘発された。1994年のことだ。
――これが援交という特異な現象をあぶり出した発端となる。東京・渋谷センター街などの繁華街でたむろしていた10代の家出少女たちを囲い管理売春をさせていた組織の存在が浮上、マスコミが大きく報道したことで少女たちに裸を換金する概念が浸透しはじめる。
■「援助交際」が流行語大賞にノミネート
援交は少女らの脳裏に深く潜行し、1996年、援助交際が流行語大賞にノミネートされるなど、女子高生が使用済みの制服や下着をショップを介して売った「ブルセラブーム」とあいまって、少女売春が社会現象にまでなった。
伝説的ミニコミ誌『中大パンチ(※)』が牽引した昭和の女子大生ブームを尻目に、平成の主役は日焼けした素肌にルーズソックスを穿いた女子高生たちだった。
※中大パンチ 女子大生のヘアヌードを掲載して「素人女子大生」ブームを生んだ伝説のミニコミ誌。ライター兼コラムニストのえのきどいちろうと、企画編集プロデューサー兼ゴーストライターで『磯野家の謎』(東京サザエさん学会編)、『THEゴルゴ学』(ビッグコミック特別編集プロジェクト編)等のヒットを世に送り出した杉森昌武が学生時代に創刊した。
当時、援交をしていた女性はこう語る。
「ブームといっても、まだ援交してる子は少なかった。だから10万とか払ってくれるオヤジとかザラでした。当時はケータイ電話がそこまで普及していなかったから、『テレクラ(※)』や路上での『声かけ』がウリの手段でした」
※テレクラ テレフォンクラブの略。電話を介して女性との会話を斡旋する店。通称テレクラ。
■ケータイの普及により援交が拡大
援交の歴史は、コミュニケーションツールの進化とともに歩んできたといっても過言ではない。時代が昭和から平成に変わると、ポケベルやケータイ電話が登場。固定電話の時代が終わり、ケータイの普及とともに人知れず買春客とつながれる土壌が整い、援交市場は急速に拡大する。
1999年には、NTTドコモの「iモード」サービスがはじまり匿名掲示板や出会い系サイトが出現しはじめ、さらに個人売春が容易になる。
まだ出会い系サイトの法整備が進んでいなかったのだ。女子高生はサイトを介して買春客との接触を繰り返し、路上で待ち合わせてそのままラブホテルへ、援デリ業者(※)を介さず個人で売春するようになった。
※援デリ業者 援助交際をデリヘルのように組織化した違法風俗店業者。
そのときまさに援交していた、当時16歳の少女の証言だ。
「相場は最後まで(本番行為)で5万くらい。理由は、遊ぶカネやブランド物を買いたかったから。周りの友だちはみんなやってたから、割とフツーのことでした」
そう話す口調が、なんとも軽いのだ。売春なんてたわいもないもの、といったら言いすぎか。少女らのモノサシで測れば、誰もがウリと背中合わせであったに違いない。
少女が続ける。
「罪悪感とかなかったよ。それよりお金を稼いでみんなと遊ぶこと、同じ時間を過ごすことのほうが大事だった」
■「出会いカフェ」の隆盛
出会い系サイトを通じての援交は、2003年の法整備により徐々に下火になっていくが、2002年、代わりに「出会いカフェ」が隆盛し、再び援交市場は活気づく。
出会いカフェとは、表向きは男女の出会いの場を提供する店だが、裏では援交の交渉の場として機能――自然、援交目的の女子高生らが群がった。
当局が、いくら規制や摘発を繰り返しても、カネに魅せられる少女は一定数いるものである。それは買春客も、しかり。
名古屋や横浜の人気出会いカフェ店「ナナカフェ」には、女子高生だらけの「18歳以下部屋」まで登場した。
カラダを売る女子高生――リスクを承知で買う大人――媒介ツールだけが変わっても時代は続く。
「相場は下がった。でも一発ヤレば3万くらいはもらえたから、出会い系より稼げた。ほら、店舗型のため、出会い系より数が稼げるから。月に? うーん、100万いかないくらいは簡単に稼げたよ」(出会いカフェでウリをしていた女子高生)
ほどなくナナカフェは摘発され、出会いカフェから女子高生が締め出される。そしてその後の援交市場は、2008年ごろからJKビジネスに移行しつつあった。
■「人身売買の温床」とアメリカから揶揄される
JKビジネスは2014年、「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補になった。
ときを同じくしてアメリカ・国務省がまとめたレポート「人身売買に関する年次報告書」で、性目的の人身売買(援助交際)の温床だと揶揄(やゆ)された。
現役女子高生世代を使い、マジックミラー越しに下着を見せる。ストリップまがいのショーや本番もさせる。職業安定法や興行場法など風営法以外での摘発を重ねながらも「JKリフレ(※)」や「JKお散歩(※)」などに形を変えながら、熱気は増していく――。
※JKリフレ リフレクソロジーの略称。ここでは現役女子高生世代による簡易マッサージを指す。
※JKお散歩 女子高生と一緒に街を「散歩」するサービス。
そしてJKビジネスの歴史をひもとくと、はじまりは東京・秋葉原(あきはばら)にあった足踏みリフレ店「JKリフレ アキバ踏んデレ女学園 体育の時間」であることがわかった。(編注:経営者の藤倉氏は筆者の友人であり、また、筆者の記事を参考にビジネスを思いついたと証言)
■JKビジネスに「捜査のメス」
新たな歴史をつむぎ続けているJKビジネスの変革期は、振り返れば業界に大規模な捜査のメスが入った2013年1月27日のことだ。
警視庁少年育成課は、18歳未満の女子高生らに個室マッサージをさせたとして、労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)容疑で、東京・秋葉原や池袋などのJKリフレ店計17店舗を一斉に捜索する。
JKリフレ店の摘発は、これが全国で初だった。秋葉原8店、池袋4店、新宿3店、渋谷と吉祥寺の各1店が捜索され、警視庁は働く100人以上の女性を保護し、うち18歳未満が76人もいたという。
この一斉捜索により翌月7日、18歳未満の女子高校生らに個室マッサージをさせていたとして、同課はJKリフレのマッサージ店4店の店長や経営者が労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)容疑で摘発した。
逮捕された東京・秋葉原「Furiru」店長は「他店が儲かっていたのでやろうと思った」と供述した。
ひるがえって驚くべきは当時の過熱ぶりだ――。
2011年ごろは十数店舗ほどしかなかったものの、その後に急増。この一斉摘発があった2013年ごろには秋葉原を中心に都内に約100店舗まで膨れ上がり、また客たちも殺到していた。
人気の秘密は、ホンモノの女子高生が簡単なマッサージをしてくれることもさることながら、ハグや添い寝などのオプションサービスにあった。
■AKB48の握手会で起きた事件
2014年5月24日、岩手県滝沢(たきざわ)市で行われた「AKB48」の握手会において、メンバーの川栄李奈(かわえいりな)と入山杏奈(いりやまあんな)が手などを負傷した。
事件が発生したのは、AKB48のCDに封入されている参加券があれば誰でも参加できる「全国握手会」と呼ばれるイベントだった。そこに男が現れ、ノコギリを取り出してふたりを切りつけたのだ。
マスコミ各社は警備の不手際を指摘し、それに呼応するように運営側は警備員を増員するなど対応策を打ち出した。
■未成年との“ふれあい”がビジネスになる
かつて秋葉原でリフレ店を営んでいた某オーナーは言う。
「AKBの握手会をヒントに、未成年との“ふれあい”がビジネスになると思い、ハグやおんぶのオプションを導入したんだ」
彼だけではない。前出の藤井(編注:仮名。
「初期のAKB48劇場でのコンサートでは短い制服姿で激しくターンさせるなどもう、パンチラし放題でした。また客もそれを目当てに来ているようだった。
もちろん見せパンだろうけど、この偶発的なパンチラがマジックミラー越しに女子高生の生態を見せる商売のヒントになりました」
AKB商法をヒントにしたというJKビジネスは2011年以降、大きく増殖していった。他店との差別化の流れもあって、オプションサービスも流行する。
だが、先にも記したように、2012年以降のJKビジネスのサービスはハグやおんぶなどの「単なる接触」ではなく、ティーンが性サービスをする「裏オプ」に変わっていく。大枚叩けば少女との個人交渉で手コキや本番までできるなど、さらに過激化するのだ。
■「ウチにいた子が『SKE48』に加入したんですよ」
このころ働いていた少女は、ビジュアル系バンドの追っかけをする“バンギャ”や、旧ジャニーズ事務所のタレントの追っかけをする“ジャニオタ”が大半を占めた。
某スカウトマンは、JKビジネス店が隆盛した背景について、ホストやスカウトマンのなかにバンギャやジャニオタと親和性の高い連中がおり、「ヤツらがバンギャやジャニオタを使ってひと儲けしようと考え増殖させたから」と加えた。
AKB商法を模倣しただけだったはずが、実際にアイドルの卵も働いていた。それは有名風俗ビル、名古屋「チサンマンション」の「女子高生無料休憩所」(のちに「なりきりアイドル」と屋号を変更)でのことだ。
同店に2013年春、はじめて足を踏み入れた。
店長らしき男から示された紙には「女子高生見学/30分3500円」「JK会員との毎日握手会/1人1分200円」「女子高生リフレ/30分3600円」と記されている。
システム表に偽りなし。6畳間に群れる少女たちをマジックミラーなしで「見学」し、「握手会」と称したふれあいで選び、別室へ移動してリフレを受ける。
帰り際、男が誇らしげに言った。
「ウチにいた15歳と17歳の子がふたり、『SKE48』(秋元康が総合プロデュースを手がけるAKB48グループのひとつ)に加入したんですよ」
■JKビジネスに感じる罪悪感
取材を通じてこれらの事象を見続けてきた筆者は、ある意味、JKビジネスの「生みの親」でもあったことになる。
罪悪感――そんな言葉がギュウギュウと胸をしめつけ、悲しく、苦しい。開き直りではなく、むしろ、憐(あわれ)みを含む、懺悔(ざんげ)に似た思い。
なにげない一言を引き金にはじまり、凶暴・凶悪化したJKビジネスに対して、少なからず罪の意識があるのだ。
かつて私は、ツイッター上にて、名指しではないが「あの人は経営者だからJKビジネスの取材に長(た)けている」と、暗に揶揄されたことがある。
私からすれば、買わせているのも買う舞台を広めているのもお前――要は「マッチポンプ」だと言われているのに等しかった。
だがそれについては、ここで明確に否定しておく。私は、JKビジネスの、経営者でもスタッフでもない。
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高木 瑞穂(たかぎ・みずほ)
ノンフィクションライター
1976年生まれ。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』『東日本大震災 東京電力「黒い賠償」の真実』『覚醒剤アンダーグラウンド「日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男」』(彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)、『日影のこえ』(共著、鉄人社)ほか。
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(ノンフィクションライター 高木 瑞穂)

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