高市政権下で日中関係は改善するのか。国際政治学者の舛添要一さんは「保守派・タカ派というイメージで高支持率を維持している高市首相と、日本に対する強硬姿勢を強める習近平政権が歩みよるのは難しいだろう」という――。

※本稿は、舛添要一『中国の逆襲 習近平の戦略』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■習近平政権は崩壊寸前?
高市首相の台湾有事関連発言を巡り、日中関係が悪化の一途を辿っている。中国人の日本への渡航や留学の自粛を求めたり、日本映画の公開、各種の民間交流が延期されたりしている。2025年11月19日には、中国は日本産水産物の輸入を停止した。日中関係は、今後どのように展開するのであろうか。
一部の論者によると、習近平体制は今にも崩壊しそうで、その弱体ぶりを隠蔽するために国外に敵を作り、国民の目を向けさせているという。今の対日強硬姿勢もその一つだとか。しかし、現地を見聞し習近平政権幹部と付き合い、中国からの訪日視察団に対応している私は、その指摘には肯(がえ)んじない。
まず、習近平体制は盤石であり、崩壊する兆(きざ)しなどまったくない。習近平がかつて勤めた福建省の側近軍幹部を汚職容疑で粛清できたのは弱さではなく、強さの表れである。
■14億人を総動員しての対日攻撃
また、不動産不況が中国経済に重くのしかかっているが、それでも経済成長率は5%前後で、国民の生活は豊かであり、相対的に日本人のほうが貧しくなっている。実際、中国で接待されたお返しに、日本で中国人を接遇する時に、対等以下の対応しかできずに恥をかくことが多くなっている。
AI(人工知能)などの先端技術で日本が後れを取っていることは周知の事実である。
今回、高市首相の発言に対して、あらゆる宣伝手段を駆使して対日攻撃を展開しているのは、習近平直々(じきじき)の指示だからである。要するに、習近平が怒っているのである。こうなると、外交部レベルで対応できる課題ではない。中国の官民すべてを総動員して、対日攻撃が開始されているのだ。
習近平は、なぜ高市首相の発言に怒っているのか。
それは、面子(メンツ)を潰されたからである。中国人は面子を大事にする。
■高市首相の投稿に「猛烈な抗議」
2025年10月31日から11月1日(以下、本章で年表記がないものはすべて2025年)にかけて、韓国の慶州でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開催された。会期中の10月31日、高市首相は習近平と会談した。約30分間、友好的な雰囲気で行われ、両国が「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築することで合意した。
続く11月1日、高市首相は台湾代表の林信義元行政院副院長(副首相)と挨拶し会談した。
この時は、中国側から何の批判もなかった。台湾はAPECのメンバーであり、日本の首相が台湾代表と会談するのは問題ないし、石破茂前首相も会談している。
しかし会談後、高市首相はそれを写真つきでSNSに上げ、「日台の実務協力が深まることを期待します」と記している。この、SNSで拡散したことが習近平を刺激したのである。
しかも、別の投稿で、林信義を「総統府資政(上級顧問)」と呼んでおり、それも批判の的(まと)になった。中国は、「猛烈な抗議」をする旨の報道官談話を発表した。
■「一つの中国の原則に反する暴挙」
そして、中国外交部は、「『一つの中国の原則』に反し、台湾独立勢力に重大な誤ったシグナルを送るものであり、その性質と影響は悪辣だ」などと非難し、「日本側に厳正な申し入れと強い抗議を行った」ことを明らかにした。
習近平にしてみれば、高市首相との会談をセットすることで厚意を示したのに、その直後に台湾代表と会談し、それをSNSで拡散したことは許しがたい暴挙であった。まさに面子を潰されたのである。
いっぽう、台湾外交部(外務省)は「中国には干渉する権利はない」とし、「中国がいわゆる『一つの中国原則』を盾に、台湾と日本の正常な交流を批判する行為は、APEC全加盟者の平等な参加という核心原則に著しく違反している」と批判した。
中国は、あらゆる手段を動員して日本を批判することを決定する。
11月18日、日本の外務省の金井正彰アジア大洋州局長が訪中し(ただし、この訪中は定期的なもので事前から予定されていた)、中国外交部の劉勁松(りゅう・けいしょう)アジア局長と会談したが、事態は沈静化していない。

■中国メディアによるイメージ操作
会談の終了後、両局長が移動する様子が放映されたが、中国の劉局長が両手をズボンのポケットに入れた横柄な態度であるのに対し、日本の金井局長は頭を下げて沈痛な面持ちの素振りだった。
これは、中国の優位性を中国国民に誇示することを目的とした中国側のイメージ操作であり、日本国民が嫌悪感を抱くことを気にしていない。今回、中国のメディアはいっせいに日本批判を展開しているが、そうしなければ最高指導者の不興を買うからである。
その後、日本映画の『クレヨンしんちゃん 超華麗! 灼熱のカスカベダンサーズ』と『はたらく細胞』の公開が延期となった。すでに公開され大好評の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の打ち切りを懸念する声もある。浜崎あゆみのライブなど、さまざまなイベントも中止や延期に追い込まれている。
東京の上野動物園の双子のパンダ、シャオシャオとレイレイが、2026年1月下旬(貸与期限は2月20日)に中国に返還された。これで、日本にはパンダが不在となるが、その後、中国からパンダが貸与される予定はない。
■発言を撤回できない高市政権の事情
中国は高市首相の発言の撤回を要求しているが、日本政府はそれに応じる気はない。具体的には、従来の政府見解を見直さないとして、11月25日には「存立危機事態に該当するかは、個別具体的な状況に即して持ち得る全情報を総合して客観的かつ合理的に判断する。政府見解は完全に維持しており、見直しや再検討が必要とは考えていない」という答弁書を閣議決定している。
ただ、これは事実上の高市発言の撤回である。
なぜなら、この発言は岡田克也議員の質問に対して、「戦艦を使い、武力行使をともなえばどう考えても存立危機事態になり得る」と答弁したものであり、明らかに「従来の政府見解」とは乖離しているからだ。
このように事実上の発言撤回であるが、中国はそれを認めようとはせず、中国外交部の報道官は、翌日の会見で、「まったく不十分だ。ごまかすような手口を使うべきではない」と批判し、あくまでも撤回を求め続けた。
しかし、高市首相がそれを受け入れれば、政権はもたないだろう。高市首相の70%という高い支持率は、首相が保守派・タカ派であり、「毅然として中国に立ち向かっている」イメージがもたらしているからである。
日中政府間では今も水面下で解決の糸口を見つける努力が続けられていると思うが、高市首相の高支持率、習近平の国内締め付け路線を考えると、合意に至る道は険しいだろう。

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舛添 要一(ますぞえ・よういち)

国際政治学者、元東京都知事

1948年、福岡県生まれ。1971年に東京大学法学部政治学科卒業後、同大学法学部助手。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンで外交史を研究。東京大学教養学部助教授を経て政界へ。2001年に参議院議員初当選後、厚生労働大臣、東京都知事を歴任。著書に『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『現代史を知れば世界がわかる』、佐藤優氏との共著『21世紀の独裁』など。


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(国際政治学者、元東京都知事 舛添 要一)
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