幼いわが子の言語能力を養うには親はどう接すればいいのか。子ども専門の言語聴覚士として30年のキャリアを持つ原哲也さんは「擬音語や擬態語といったオノマトペが豊富な言語である日本語の特徴を上手に使うといい」という――。
(前編/全2回)
※本稿は、原哲也『子どものことばが育つコツ120』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■子どもにとって「楽しいことば」を使う
ことばの入り口として最適なのは「オノマトペ」です。「ブーブー(車)」「ジャー(水)」といったことばをくり返し、少し付け足して「ブーブー来た」「ジャーしてる」と広げていきます。表情やオーバーアクション、身ぶりも添えると伝わりやすくなるでしょう。
幼児(6歳くらいまで)にとっては、会話に集中できる「環境」も大事です。テレビやスマホは注意を奪いやすいので、関わる時間だけでも画面を消すといいですね。
乳児期(0歳児)は、赤ちゃんが発した音(クーイングなど)に「うれしいね」など気持ちのことばで返したり、ゆっくりと抑揚をつけて話しかけたり(マザリーズ)、心地よい音のやりとりを楽しんでください。
遊びや家事で姿勢と呼吸を整え、「声が出しやすい土台」をつくることも大事です。
■食事のときはテレビを消そう
子どものことばの発達には、「大人の関わり方」が大きく影響します。そのときに重要なことは、ひとつには「共同注意」、つまり「子どもと同じものやことがらに親も注目して、ことばを添えること」であり、2つ目は「子どもの能動的な働きかけに対して、親が即座に心地よい応答とことばかけをすること」です。
忙しい日々の中で、「食事の時間」は、親子が顔を合わせてゆっくりと話ができる数少ないひとときです。ぜひ、親子の共同注意の時間、そして、子どものことばに親がていねいに応じる時間にしてほしいと思います。

子どもは「集中できる環境」にあってはじめて、聞こえてくることばをきちんと聞き、自分でことばを紡いで話すことができます。ことばが育つためには、たがいに集中できる環境の中で、親子で話をすることがとても大事なのです。
テレビの音や光が気になる状態では、考えて何かを話すことは難しいものです。それは親も同じで、子どもが何かを話しても、テレビに気をとられていたら子どもの表情や口調に気を配って、ていねいに応答することはなかなかできません。
だからこそ、食事のときはテレビを消しましょう。ささいなことですが、ことばの発達のためにも「環境」はとても大事なのです。
■「イヌ」と教えるより「ワンワン」
あるとき親御さんから、「『ワンワン』よりも、最初から『イヌ』と教えたほうがいいのでは?」と聞かれたことがあります。実は「ワンワン」のような「オノマトペ」を使うことには、大きなメリットがあるのです。
オノマトペには、身のまわりの音や声を表す擬音語(例:ざあざあ・ワンワン・ブーブーなど)、動きや様子を表す擬態語(例:ガーン・きらきら・ニコニコなど)の2種類があります。欧米諸国ではオノマトペは擬音語が多いのですが、日本語には多くの擬態語のオノマトペがあります。日本語はオノマトペが非常に豊かな言語なのです。
子どもとの関わりでオノマトペを使うことには、いくつもの利点があります。
まず、オノマトペを使うと「ことばの意味」が伝わりやすいといわれます。実際、ことばの相談に来る子どもの中には、何枚かのカードを見せて「くるま、どれ?」と聞いても選べないが、「ブーブー、どれ?」と言うと、「これ!」と選べる子がたくさんいます。
これは、ことばを覚え始めの子どもには、「くるま」ということばで車をイメージすることは難しいが、「ブーブー」ならば車をイメージできる、ということを意味します。
ことばをサポートする際の鉄則は、「わかる表現」を使って関わることです。特に2~3歳では、積極的にオノマトペを使い、わかりやすいことばで話してください。
■「まねる」をくり返して、ことばを獲得
オノマトペは、「模倣がしやすいこと」も大きな利点です。「にゃーにゃー」「トントン」「モグモグ」など、同じ音をくり返す、簡単でまねしやすいことばがオノマトペには多いのです。
子どもは、周りの人のことばを「まねる」ことをくり返して、ことばを獲得します。
はじめは簡単な音から、徐々に発音の難しい音や語をまねできるようになります。
ことばをまねすることが少ない子どもでも、まねしやすい「オノマトペ」であればまねができ、ことばをまねる喜びが経験できます。また、オノマトペの音のくり返しやリズムは子どもを惹きつけ、「ことばの記憶」や「発話」をうながすともいわれます。
子どもが最初に覚えることばには、「ワンワン(イヌ)」「にゃーにゃー(ネコ)」「あむあむ(食べる)」「うーうー(消防車)」「かーかー(カラス)」「かんかん(踏切)」「びりびり(破く)」などオノマトペがたくさんありますが、オノマトペの音のくり返し、リズムは、ことばに興味を持ち始めた子どもにとってとても魅力的なのでしょう。

「おさるさん、食べてるね」と、子どもの「言いたいこと」を正しく言語化することは、決して間違いではありませんが、そこでもう一歩進めて、「モグモグ」という、くり返しやリズムが楽しいオノマトペを、ぜひ聞かせてみてください。
■「そお~~~~~っと、置いてね」
オノマトペは、「行動や動作イメージと結びつきやすい」という特徴があります。
動作や状態をことばで説明するのはなかなか難しいものですが、オノマトペを使うと簡単に、視覚的イメージや筋肉や運動に関する情報を伝えることができます。
たとえば、ご飯茶わんを食卓に置いてもらうとき、「壊れないように、ゆっくり、慎重に、静かに置いてね」と言うのと、「そお~~~~~っと、置いてね」では、後者のほうがどう動けばいいかがよく伝わります。
「だるま落とし」のコツもことばで説明すると、説明が長くなって、難しくなってしまい、結局どうしたらいいか伝わらない可能性が高いです。
でも、「ジロジロ、ピタッ、バーーン!」とオノマトペを使うと、「よく見て、トンカチを床につけて、勢いよく打つ」ことがすっと伝わります。動詞が理解できるくらいの年齢になるまでは、このようにオノマトペを用いて説明するのが有効です。
難しい説明ではわからなかっただるま落としのコツが、オノマトペを使ったらよくわかって、うまくできた。これはまさに「ことばで伝えたらうまくいった」経験です。
オノマトペを上手に使って、子どもに「ことばを使うと、いろいろなことが伝えられる」「そうすると、うまくいく」という体験をさせてあげてください。
■犬を見て「にゃ~」と子供が言ったら
あなたが、出汁巻き卵づくりに挑戦して、それを見た家族に「これが出汁巻き卵? ぐちゃぐちゃじゃん。下手だなあ」と言われたとします。
あなたはきっと嫌な気持ちになるでしょうし、ここで「よし、できるまでやってやる!」となる人は稀でしょう。
このように、人の「意欲」を失わせてしまうコミュニケーションはいただけません。めざすのは「意欲を高める」コミュニケーションです。
子どもがことばを覚えるときも、同じです。子どもの「もっと伝えよう、話そう」という意欲を高めるには、「子どものことばを注意深く聞く」「共感と理解に努める」「子どもに合った形で正しいことばで応答する」ことが大事です。
「にゃ~」と言ったとき、「違う」と返されたら、子どもは「否定」されたと思って、しょんぼりしてしまうかもしれません。
一方、「よく見つけたね」と言われると、「見つけて伝えたことを褒めてもらえてうれしい」と思い、好意的に、興味をもって、あとに続く相手のことばを聞きます。その中で、「あれ? 私は〈にゃ~〉と言ったけどパパは〈ワンワン〉って言った。あれは〈ワンワン〉なんだ」と自分で気がつきます。
伝えようとした「気持ち」を大切に。それは、ことばを覚える「意欲」を支えます。

----------

原 哲也(はら・てつや)

言語聴覚士、社会福祉士

1966年生まれ、千葉県出身。
明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業後、カナダに渡り、ブリティッシュ・コロンビア州の障害者グループホームに勤務。帰国後、25歳で東京都文京区の障害者施設職員に。27歳で国立身体障害者リハビリテーションセンター学院に進学、東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科などで研修。29歳から小児・障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市町村で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。年間400件、のべ6000件の相談に対応する。2015年、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPANを創設。2016年、児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」を長野県諏訪市に開所。「子どものことばのプロ」として、おもに幼児期から児童期の子どもの療育、家族の相談対応などを行っている。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法 コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

----------

(言語聴覚士、社会福祉士 原 哲也)
編集部おすすめ