※本稿は、雑誌「プレジデント」(2026年4月17日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
代表選考プロセスに独特の仕組みを取り入れたわけ
日本維新の会は2026年2月の衆議院議員総選挙を受けて「代表選挙を実施するか否か」の投票を行い、その結果、代表選挙は実施せず吉村洋文代表を続投させると決めました。維新の代表選考は自民党など他の政党とは異なる独特のプロセスを踏みますが、わかりにくいところもあります。橋下さんが維新の代表時代にこの仕組みを取り入れた狙いとは?
■Answer
創業メンバーが去った後の「大混乱」を防ぐ制度設計
今回の総選挙の結果はご存じの通り、自民党の歴史的圧勝。野党は軒並み苦戦しました。実は維新も議席数でいえば横ばいです。ところが党としての結束力はむしろ強まり、国政への関与も順調に進んでいます。単に「議員数を増やす」ことを至上目的とせず、政策実現を可能にするための戦略を、コツコツと積み上げてきた結果だと僕は考えています。
その背後には、以前にも論じた「組織のブランド力」があります。「自分たちは何を目指す存在か」が明確な組織、すなわち自分たちのブランドや看板をきちんと意識している組織は、政党も企業も軸足がしっかりしています。
でも、そういう組織が戦略に沿って目標を達成しようとしているさなかに、リーダーの地位を巡って党内抗争が起きたとしたらどうでしょう。
自民党が典型ですが、直近の選挙結果が思わしくなかったから、というような短期的な理由で「党首は辞めるべきだ」という党内世論が巻き起こり、その世論に押される形で党首が「選挙結果の責任を取る」と任期を残したまま辞任し、党首選挙に突入してしまう。そういう事例が多いですよね。
考えてみてほしいのは、そこで言う“責任”って、いったい誰に対する責任なのかということです。僕に言わせれば、少なくとも「国民に対しての責任」じゃない。正しくは、「党内に対する責任」ですよね。せっかく派閥に祭り上げてもらったのに、選挙で求められた結果を出せなかった。その意味での“責任”です。つまりは、ただの内輪の権力闘争。国民は選挙のたびに党内の派閥争いに付き合わされているというわけ。
実際、石破茂前首相のときもそうでしたよね。参議院選挙後に盛大な「石破おろし」の工作が始まり、石破さんは耐えに耐えたものの1カ月もしたら辞任。その間、国政は止まり、国民はずっと自民党内部のグダグダの“首のすげ替え”劇に付き合わされた。
しかし、先進諸国でこんな無様な交代劇を繰り返している国なんてありませんよ。どこの国のトップリーダーも、そう簡単に“責任”を放り出したりはしません。外交行事のたびに「またリーダーが変わったのか」と思われてしまう。そんな国は日本くらいです。
百歩譲って自民党のような巨大組織であれば、しょっちゅうリーダーが入れ替わっても、組織が壊滅することはないでしょう。盤石な体制ができあがっているから、ある意味、首をどれだけすげ替えようとも、組織は続いていく。
でも、弱小野党があれをやっていたら自滅しますよ。もちろん維新もそう。それまで頑張って積み上げてきた組織のブランド力も、リーダーの看板も失いかねない。それを地で行ってしまったのが、総選挙後の中道改革連合だったのではないでしょうか……。
■国会議員も一般党員も「一人一票」
さて、本題です。選挙のたびにドロドロの権力争いにならないようにするため、僕が考案したのが、維新独自の代表選考プロセス。
それは維新に限った話ではありません。組織というのは本来、派閥が生まれやすく権力闘争が起きやすい構造をはらんでいる。政党や企業、官僚組織、どれもみな同じです。
もちろん権力闘争そのものが悪いわけではありません。それぞれ理想や政策が異なれば、推すリーダーも違ってくる。独裁体制でもない限り、適切なタイミングで組織の新陳代謝が進むのは、むしろ望ましくもあります。
しかし、選挙のたびに内紛が常態化するのはさすがにどうか。政治家の本来の仕事は、「国民の平和、社会の安寧、経済の向上」の実現のはず。それが「誰をリーダーに据えるか」にエネルギーの大半が注がれてしまっては本末転倒です。
では、維新の代表決定プロセスはどういうものか。
維新の代表には固定化した任期というものはありません。総選挙や統一地方選挙などの大型選挙の実施後45日以内に、「代表選挙を実施するか否か」を特別党員(国会議員・地方議員など)による党内投票で決定します。そして「実施しない」となれば現代表が続投、「実施する」が多数を占めれば、正式に代表選挙が行われます。
いわば2段階方式のこのルールの大きな特徴は3つあります。
① 代表の任期を固定せず、大型選挙のたびに代表選挙の可否を問う
② 代表選挙には現代表も出馬できる。つまり現代表の“解任”ではない
③ 代表選挙では特別党員も一般党員も対等に「一人一票」を持つ
維新の代表には固定した任期がないうえ解任規定もないので、原理的に「石破おろし」のような混乱は起きません。代わりに大型選挙ごとに代表選挙の可否を問う投票が行われ、これが事実上の信任投票になるのです。
代表選挙に入れば「一人一票」の制度が生きてきます。自民党など他の政党では一般党員や地方議員に比べ国会議員票の重みが圧倒的に大きいのに対し、維新の代表選挙では一般党員も国会議員も票の重みは同じです。だから国会議員が離合集散して多数派工作を行う、いわゆる派閥闘争とは無縁でいられるのです。この国会議員の多数派工作の象徴が、秩序なき飲み食いや金の配り合い、ザ・永田町スタイルです。
■最悪の事態を想定して設計したルール
このようなルールづくりには「立法事実」の分析・検討が欠かせません。そのルールがあることで何を正せるのか、そのルールがないとどうなってしまうのかという具体的・合理的な根拠です。特に「将来起こりうる最悪の事態」を想定し、それを回避するのが一番の目的です。
自民党をはじめ他の政党では、選挙結果を受けて党首を引きずり下ろそうとする勢力と、留まろうとする現党首や執行部との間で不毛な権力闘争が生じがち。また、党首職に任期があり解任規定もある場合は、解任を巡ってこれまた不毛な権力闘争になる。
維新のリーダー選びは、こうした最悪の事態を避けるように考えて設計しました。代表選挙を行うことになっても、それは現代表の解任ではありません。現代表も立候補して党内の民意を問うことができますから。ゆえにメンバーは代表選を「実施する」に気兼ねなく投票できるのです。これが現執行部に牙を向くことになる解任への投票なら、ペーペーのメンバーは皆、気兼ねするでしょう。
どんな人も失敗はするし、判断を誤ることもあるでしょう。
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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 写真=時事通信フォト)

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