アメリカ・イスラエルとイランの交戦が続いている。国際法に詳しいニューヨーク大学アブダビ校客員教授の髙橋宗瑠さんは「国際法の観点では、日本はすでに『中立国』の立場を失っている。
在日米軍基地がイラン攻撃に利用されている以上、日本は戦争に加担しているとみなされる」という――。
■日本はすでに「中立国」ではない
3月19日の日米首脳会談後、胸を撫で下ろしている日本人は多いであろう。会談の数日前、アメリカのトランプ大統領が唐突に日本などを名指しにして、軍艦を出してホルムズ海峡の船舶護衛をするよう要求し始めた。それだけに、トランプ氏が高市首相に猛烈な圧力をかけるのではないかと懸念されていた。高市氏は少なくともその場ではうまくかわし、切り抜けることができたように見える。
ANNの世論調査(3月21日、22日実施)で86%が「支持しない」と回答するなど、日本の圧倒的大多数がアメリカ・イスラエルのイラン攻撃に反対しており、不当な戦争を始めた両国の支援に自衛隊を出すことなど、国民が納得しないであろう。中東の石油に大きく依存している日本ではあるが、「アメリカの勝手な戦争に巻き込まれたくない」というのが、すなおな国民感情と思われる。
一方、多くの日本人はイラン攻撃を他人事のように見ていると感じる。しかし、国際法では、日本はすでに戦争に巻き込まれており、中立国の地位を失っているとさえいえる。米軍基地に国土を提供して、それらの基地がイラン攻撃に利用される以上、日本はアメリカの攻撃に加担している。
■「イラン攻撃」の法的根拠はゼロ
まず、国際法の視点で考えると、アメリカ・イスラエルの攻撃の法的根拠はゼロで、正当性は全くない。日本の高市首相はじめ、アメリカの同盟国の多くの首脳はトランプ氏の怒りを恐れているようで明言しないが、アメリカ・イスラエルの行動の違法性は歴然としている。

国際連合(国連)憲章では、武力行使(および威嚇)は明確に禁止されている。国際法は長く欧米列強国の道具として使われてきた側面が強く、他国を征服して一方的に併合することを認めてきた歴史がある。それだけに国連憲章の武力禁止条項は国際関係において革命的とさえ言えるもので、二つの世界大戦という惨事を経験してきた国際社会が、戦争に明確にノーを突きつけたものと言える。
国連体制下で唯一武力行使が許されるのは、安全保障理事会(安保理)が決定した場合である。安保理だけが国際安全保障に対する脅威を正式に認定して、加盟国にその共同対応を命令する権限を持っている。安保理のお墨付きをもらわない限り、武力は許されない。
■ブッシュ大統領の「イラク侵攻」より酷い
ブッシュ大統領時、イラク侵攻を計画していたアメリカは安保理に訴えかけた。パウエル国務長官は安保理で「証拠写真」を貼った大きなパネルを持ち出して、他国を懸命に説得した。それらの「証拠」はどれも眉唾物で、結局ブッシュ政権が国際社会の意を無視してイラクを侵略したのは、周知の通りである。しかし、国際機関に対する努力があったのは、否定できない。
それに対して、ことあるごとに国連を侮蔑し続けるトランプ大統領(およびイスラエルのネタニヤフ首相)は、国連のお墨付きをもらうための努力を一切していない。それどころかイランとの交渉中に奇襲攻撃をかけて、それが(多くのアメリカ人が「日本人は信用できない」という主張の根拠としてきた)真珠湾攻撃に似た戦術とトランプ氏は誇りを持っているようである。

国際法では安保理が決定した以外の武力行使が禁止されているが、唯一の例外として自衛、俗にいう正当防衛がある。無論正当防衛とさえ言えばなんでも許されるものでなく、判例などで認められてきた要件がある。必ずしも他国に実際に攻撃されるまで待つ必要はないが、他国による攻撃は明白で、なおかつ急迫したものでなければいけない(必要性)。また、自衛権行使として使った武力は事態に適して相応なものである必要がある(均衡性)。
■トランプ大統領の主張は「無理筋」
ケースバイケースの判断になるので方程式といったものはないが、攻撃の命令がなされて、今にもミサイルが発射される状況や、相手の軍隊がこちらに向かって進軍しているイメージである。なお自衛権はいつまでも続くわけでなく、やはり安保理が決定を下すまでの間だけ続くものとされる。
今回の攻撃についてのトランプ政権の説明は猫の目のように変化しており、いまだに不明瞭であるが、正当防衛のつもりかも、と説明されることもある。曰く、イランは核兵器や長距離弾道ミサイルを開発中であった、あと数週間でそれらが利用できるという急迫した事態であった、という説明である。
今までの経緯を見ても「イランは核兵器をゲット寸前」というトランプ氏の主張には説得力がなく、イランの核施設を査察してきた国連原子力機関もそれを否定している(なおイラン政府は、核兵器開発を一貫して否定している)。仮に本当にイランが核兵器を開発できたとしても、それで他国を攻撃するという根拠はない。すなわち急迫性があるとは到底言えず、経済制裁などで十分に対応できたはずである。
■世界から見た「参戦国」の基準とは
ちなみに、アメリカ・イスラエルは多くの民家や病院、研究施設や電力発電所など民間施設を攻撃しており、多くの民間人の犠牲をもたらしている。
これらも国際法ではレッドカードであるが、議論の本筋から逸れるので、本稿では詳しく言及しない。
それでは、アラブ首長国連邦やサウジアラビアといった湾岸諸国などを巻き込んだイランの反撃には、正当性はあるか。他国に戦線を広げるのはとんでもないと考える日本人は多いと思うが、イランが一貫して、「湾岸諸国を無差別に攻撃しているのでなく、米軍基地が目的」としていることに注目する必要がある。イランのその言葉が本当であれば、自衛権行使として認められるのであろうか。この辺りは、少し複雑である。
もしも湾岸諸国にある米軍基地からアメリカがイランに対して攻撃をしているのであれば、イランがそれらに対して反撃するのはなんら問題ない。それどころか、米軍基地から攻撃がなされたら基地提供国はもはや中立国と言えず、参戦国とみなされても仕方がない。
■湾岸諸国が米軍に禁止したこと
自分たちが煽りを食うのは容易に予想できたことなので、湾岸諸国は一貫して外交による解決を主張して、アメリカ・イスラエルにイラン攻撃をやめさせようとしてきた経緯がある。それにもかかわらず何の相談もなく攻撃を開始したアメリカ・イスラエルに対して、不満を隠さない。
また、これが極めて重要であるが、湾岸諸国はそれぞれ、自国にある基地から攻撃することを米軍に禁止した、と発表している。すなわち、「米軍基地はあるが、それらはイラン攻撃に関与していないから、わが国はイラン攻撃に加担していない」という論法である。
現行の国際法では、外国の軍事基地に国土を提供しても、その基地が直接攻撃に関わらない限り、提供国は攻撃に加担したことにならない。
国際法の決まりには、戦線が拡大されないようにするなどの理由があるが、そもそも多数の外国に軍事基地が設置できる大国に有利にできていることは、否定できないであろう。
たしかに、その基地が攻撃に直接参加していなくても、提供国は間接的に攻撃に関与しているという議論は十分できると思われる。しかし、現行国際法では、米軍が基地を使わないという要請に従っている限りであるが、湾岸諸国の言い分は正しい。
■横須賀や沖縄からイランを攻撃している
法的には正しいが、湾岸諸国が実際イランから攻撃を受けていることに変わりはない。自分たちが止めようとした戦争にアメリカ・イスラエルが突進して、湾岸諸国がとばっちりを受けている。
アメリカ製の迎撃ミサイルでかろうじて大きな被害を受けずに済んでいるが、高価な迎撃ミサイルが早くも品薄になり、アメリカがその補充を渋っているという報道さえある。アメリカも生産が追いつかず、限りある数をイスラエルに優先的に回しているということである。湾岸諸国が米軍基地の提供を真剣に検討し直す段階に来ているかもしれない。
ホルムズ海峡を通る石油のことばかり憂慮して、戦争を対岸の火事と考えている日本人は多いであろう。しかし、国際法では、日本はすでに中立国の地位を失っている可能性がある。すでに米軍は日本の基地からイランを攻撃しているのであり、日本は湾岸諸国よりはるかに加担の度合いが強いと言えるのである。
まず、アメリカの軍艦が多数ペルシア湾近辺におり、イランにミサイルを撃ち込んでいるが、そのうちの何隻は横須賀が母港である。
さらに3月中旬、米軍は沖縄駐屯の海兵部隊および佐世保が母港の強襲揚陸艦を湾岸に派兵した。すなわち攻撃に使われている戦力の一部が日本の基地から出発しているのであり、基地を提供している日本は攻撃に加担していることになる。
■アメリカをあてにできない現実
もちろんイランは地理的に遠いので、今すぐに日本が攻撃されることはあるまい。しかし、アメリカ・イスラエルが一方的に始めた戦争に巻き込まれている湾岸諸国の今の状況を、日本人はしっかり見据えるべきである。
「駐日米軍は日本を守っている」と呑気に考えている日本人は多いが、日本の米軍基地はどれも米国の世界戦略に組み込まれている。中東など、日本が決して望まないアメリカ(またはイスラエル)の戦争にいつでも使われる可能性があり、戦争に加担したとして、日本も引き摺り込まれる危険があるのである。その場合、はたしてアメリカが本当に守ってくれるであろうか。湾岸諸国を見ていると、それはもはや「絶対」ではなく、「希望」という域に入っているように思う。
それは今、トランプ氏という無謀者がアメリカの大統領であるからと考える人は少なくないであろう。しかし、断言するが、「トランプ現象」は決して一時的なものではない。政策がトランプと類似している大統領が今後も選出される可能性は、いつでもある。アメリカはもはや長期的パートナーとして、あてにできない。
日本はその認識の上で、今後の防衛施策を考える必要がある。

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髙橋 宗瑠(たかはし・そうる)

ニューヨーク大学アブダビ校 客員教授

1968年生まれ。早稲田大学卒業。英国エセックス大学大学院にて法学修士号(国際人権法)取得。アムネスティ・インターナショナル国際事務局、国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表、ビジネス・人権資料センター駐日代表、大阪女学院大学大学院教授などを経て、2025年8月からアラブ首長国連邦にあるニューヨーク大学アブダビ校客員教授。専門は人権、国際法、中近東、難民問題など。著書に『パレスチナ人は苦しみ続ける なぜ国連で解決できないのか』(現代人文社)、『Human Rights and Drug Control: the False Dichotomy』(Hart Publishing)などがある。

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(ニューヨーク大学アブダビ校 客員教授 髙橋 宗瑠)
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