日本のマンガは世界で評価されているが、果たして今後もマンガ大国であり続けられるのか。出版ジャーナリストの飯田一史さんは「『子ども・若者のマンガ離れ』が静かに進行している。
『マンガ大国』はその足元から瓦解が始まっているのではないか」という――。
■「子ども・若者のマンガ離れ」は静かに進行
マンガの市場規模は2020年代にはコミックスとマンガ雑誌、電子コミックの合計が約7000億円前後と過去最高レベルに達しているから、マンガ読書が低調になっていると思っていないひとも多いかもしれない。しかし「子ども・若者のマンガ離れ」は静かに進行していると思われる。
出版業界人以外はすでに忘れているが、マンガ市場は2004年まではコミックス単行本よりもマンガ雑誌のほうが大きかった。つまり、かつてのマンガはコミックスより雑誌を中心に読まれていたわけだ。
■マンガ雑誌が読まれなくなっている
ところが雑誌の1カ月間の平均読書冊数は激減している。最盛期には高校生でも月に10冊以上読んでいたが、2025年には1.0冊まで激減。不読率(1冊も読まない人の割合)は77.7%にも達した(全国学校図書館協議会「学校読書調査」より)。
大人以上に、子どもにとって雑誌は縁遠い存在になった。
■健闘しているのは「コロコロコミック」のみ
日本では、長期で経年比較できるマンガ読書に関する調査はあまりない。したがってコミックス単行本の読書動向に関してははっきりしたことは言えないのだが、マンガ雑誌に関しては、学校読書調査で「ふだん読んでいる雑誌」について小中高生に尋ねているから、経年比較ができる(ただし2019年まで。2020年は調査が実施されず、2021年からは雑誌名を尋ねる調査項目が廃止された)。

日本の出版市場において市場規模がピークに達した1996年と調査最終年である2019年で、各学年で1位になった、つまりもっともよく読まれた雑誌(マンガ以外も含む)と、各学年でその雑誌を何人が読んだかを比べてみよう。
なお、調査対象者の人数がそもそも異なるため、2019年のほうは実数のあとに1996年と調査対象者が同数だった場合に補正した数字も示しておく(小数点以下の端数は四捨五入)。
・1996年

調査対象者は小学4~6年生4249名、中学1~3年生3941名、高校1~3年生4253名に実施

小4男「コロコロコミック」371名 女「りぼん」349名

中1男「週刊少年ジャンプ」433名 女「Myojo」313名

高1男「ジャンプ」487名 女「SEVENTEEN」187名
・2019年

調査対象者は小学4~6年生3461名、中学1~3年生2570名、高校1~3年生3479名に実施

小4男「コロコロ」236名 女「ちゃお」130名 →補正後 男290名 女159名

中1男「ジャンプ」27名 女「nicola」55名 →補正後 中1男41名 女84名

高1男「ジャンプ」44名 女「Myojo」26名 →補正後 高1男54名 女32名

小4男子に対する「コロコロ」の影響力は健闘しているが、女子では少女マンガ誌トップでも読者数が半減、中1、高1男子の「ジャンプ」読者はほぼ10分の1だ。その後も雑誌の読書率・冊数は減少しているから、さらに減っていると思われる。
■マンガを読む割合は2~3割
なお、大人のマンガ読書率は1985年の毎日新聞社「読書世論調査」では全体で20%程度。その後も読書世論調査では「漫画本」の利用率を尋ねているが、2019年に調査終了するまで大きくは変わらず、おおむね16歳以上全体では不読が7~8割で推移していた。
つまり日本においては高校生以上の全世代平均ではマンガを読む割合は2~3割である。
内訳を見ると、10代の時点ではマンガの不読率は4~5割だが、加齢とともに読む割合はだんだん下がっていき、40代で7割程度、50代で9割程度、60代以上は9割以上読まない、という結果だった。
■小中高生のマンガ読書率が低下
調査方法や調査対象となる母集団のえらび方が異なるため参考程度にはなるが、いくつかのマンガ読書に関する調査を並べると、おそらく日本では小中高生のマンガの読書率はかつてより下がってきている。
全国学校図書館協議会「学校読書調査」の1985年と1995年の調査を比べると、1995年時点ですでに減少傾向が見られる。
そのあとはベネッセ教育総合研究所と東京大学の調査になるが、2023年の段階で紙のマンガの読書率は小学生68%、中学生60%、高校生49%で、1985年と比べると小中高いずれでも20ポイント以上、読まれなくなっている。
■「デジタル版」も読まれていない
いやいや、雑誌で読まなくなっていても、スマホで読んでいるだろう、と思うかもしれない。
おそらく大人はそうなっている。だが日本では子どものマンガ読書のデジタルへの移行はあまり進んでいない。
これは韓国と比較すると如実にわかる。韓国の「国民読書実態調査」では時折、漫画・ウェブトゥーン(縦スクロールコミック)の読書調査も実施しているが、これを見ると日本の子どもよりも韓国の子どものほうがデジタルコミックの読書率が高い。(ただし日本と韓国でやはり調査方法が異なる点には留意が必要だ)
日本では電子コミックの読書率は小学生15%、中学生35%、高校生49%。韓国ではウェブトゥーンの読書調査率は小45%、中69%、高70%と、韓国ではデジタルコミックのほうがむしろ広く読まれている。
また中高生に関してはすでに日本より韓国のほうがコミック読書率が高い。
■「大人向けの作品」ばかり供給してきた
なぜこのような違いが生じるのか。
日本のデジタルコミック市場は課金率・額の高い大人向けの作品を中心に成長した。そのため、決済手段をもたない、または少額しか決済できない小中高生は軽んじられている。だから若年層向けのマンガの供給自体が少ない。
小中高生が読むようなマンガがそもそもウェブ上に少ないのだから、当然、若年層は読みに来ない。

また、マンガアプリの利用推奨年齢は、大抵、15歳以上または18歳以上に設定されている。
マンガアプリの本格的な台頭は2013~2014年からだが、小学生向けのウェブマンガ誌「週刊コロコロコミック」は2022年になってようやく始まった。
これではかつてのように未成年がさかんにマンガを読んでくれるはずがない。
■韓国では「ウェブトゥーン」が大人気
一方、韓国のウェブトゥーンは、1990年代末に「エッセイトゥーン」と呼ばれる、作家の分身を登場させた「身辺雑記」というか、詩ともエッセイともつかない作品群が支持された。それをきっかけに、2000年代初頭にはNAVERやダウムといったポータルサイト(日本で言えば「Yahoo! JAPAN」のようなサービス)が、ウェブトゥーンサービスを手がけるようになる。
ポータルサイトは主にウェブ広告で収益を稼ぐために、無料でとにかく幅広い読者に読まれる作品が重宝された。そこではエッセイトゥーンに加えて、チュソク『ココロの声』をはじめとするギャグマンガ、キアン84のようにコメディ作家であり芸能人化してテレビやYouTubeで注目される作家などが人気を博した。日本で定番化している学習マンガ『つかめ!理科ダマン』も、ウェブトゥーン『離さないで!精神線』のスピンオフ作品だ。同作は「小統領」、つまり「小学生の大統領」と形容されるほどに低年齢の読者に支持された。
その後、2010年代以降にウェブトゥーンの課金システムが整備されてロマンスファンタジーやアクションがよく売れるようになり、映画やドラマの原作企画としてロマコメ(ロマンスコメディ)やヒューマンドラマ、ホラーなどへの注目も高まった。
しかし今でも無料で読まれるギャグ、コメディ、エッセイジャンルも併存している。また、韓国ではNAVER Webtoonは今でも無料でおそらく9割以上の作品を読むことができる。
だから、お金のない若年層もカジュアルに読んでいる。
つまり韓国ウェブトゥーンは「閲覧無料で幅広く読まれる作品」「よく課金される作品」「映像化向きの作品」の3階建てになっている。
一方、日本のデジタルコミック市場はこの1階部分が弱く、だから子どもが入ってきづらい。
「日本はマンガ大国」「マンガを軸にしたIP展開で外貨を稼ぐ成長戦略を」などと言われている。だが、小さいころからマンガに親しんでいなければ、作家になろうと思う人の数も減る。作家になっても読者の数が少なければ生業(なりわい)として成り立たない。
その負のスパイラルが静かに進行しており、足元から瓦解しかけている、と筆者は思う。

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飯田 一史(いいだ・いちし)

出版ジャーナリスト・ライター

1982年青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌やライトノベルの編集者を経て、独立。マーケティング的視点と批評的観点から出版産業、読書調査、子どもの本、マンガ、ウェブ小説、ウェブトゥーン等について取材、執筆している。
著作に『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社)『いま、子どもの本が売れる理由』『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)『作文ぎらいのための文章教室』『ウェブ小説30年史』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)など。

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(出版ジャーナリスト・ライター 飯田 一史)
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