部下から慕われる上司の共通点は何か。人材育成コンサルタントの竹野潤さんは「マネジャーは職場の飲み会の席で部下から聞かせてほしいと言われない限り、昔話は絶対にしないくらいの心構えでちょうどいい。
自分の体験から教訓を部下に伝えるにしても、日常の育成の場面で伝えていくべきだ」という――。
※本稿は、竹野潤『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■「毎週1時間」より「毎日3分」の会話を
「毎日3分間」だけ会話するマネジャーと、「毎週1時間」の会話をするマネジャーなら、あなたはどちらに好感を抱きますか? おそらく前者の「毎日3分間」だけ会話するマネジャーを選ぶ人が多いのではないでしょうか。
たまにエレベーターで会うだけ、でも会うと必ず声をかけてくれる人に対して、好感を抱いた経験があると思います。何度も接するうちに好きになっていく心理的現象のことを「ザイアンス効果」、または「単純接触効果」と呼びますが、これはマネジャーと部下のコミュニケーションにも当てはまります。
みなさんは「マネジャーは話が長いからなぁ」と部下から思われていないでしょうか。私も意識して話は短くしているつもりですが、つい長く話してしまった時はよく反省しています。
マネジャーとして部下に伝えたいことが山ほどあるのは分かります。しかし、マネジャーの話が長いというだけで、チームが悪循環に陥るおそれがあります。
というのも、マネジャーの話が長いと、部下は「マネジャーと話す時は時間を取られるから、声をかける前に一定の時間を確保する必要がある」と考えるようになるからです。部下も自分の仕事を抱えて忙しい中、マネジャーに報告に来ます。
■話が長いだけでチームが悪循環に陥る
時間を確保しなければならないと考えると、「今日は忙しいから明日でいいか」という感情が働き、マネジャーへの報告が遅くなってしまいます。

そして、部下の報告が遅いと、マネジャー側も「なんでもっと早く報告しないんだ」と思うようになり、マネジャーと部下の関係性が悪化していきます。結果として、チームの風通しは悪くなります。
話を聞く部下の集中力の面からも問題があります。話の長いマネジャーに話しかけられた部下には、「つかまった」という意識が働きます。こうなると、部下は「集中してマネジャーの話を聞こう」とはなかなか思えません。部下に伝えようとマネジャーが一生懸命話しても、部下の頭にはなかなか入らないのです。
「マネジャーの話は長くても3分で終わる」との意識が部下にあれば、マネジャーが「今ちょっといい?」と声をかけても「いいですよ」となりますが、「10分は取られるな」という意識があると、「すみません、今はちょっと……」となってしまい、コミュニケーションをとる機会も減ってしまいます。
部下によってコミュニケーションにバラつきが出るという問題も生じます。営業のチームであれば、一人の部下と長く話している間に他の部下が外出してしまうと、対話の機会も減ってしまいます。すべての部下と均等に対話することは困難ですが、1on1ミーティングを定例化することで、部下によるコミュニケーションの偏りは、一定程度解消することができます。
■1回の対話で3分の1しか伝わらない
有名な「エビングハウスの忘却曲線」によると、人の記憶は20分後には42%が脳から消え、1日後には74%忘れてしまう、と言われています。
マネジャーは、一度伝えれば部下は理解してくれると思いがちですが、そんなに甘くはありません。
みなさんも「何度同じことを言わせるんだ!」と言いたくなることがよくあると思いますが、それは当たり前の話なのです。
「自分が部下に伝えたいことは、1回の対話で3分の1しか伝わらない」と私はいつも自分に言い聞かせています。だからみなさんも、3回同じことを繰り返して言えば、自分の伝えたいことはだいたい部下の頭に入っていく、と考えてください。そうすれば「何度同じことを言わせるんだ」という苛立ちも、少しは収まるのではないでしょうか。
「人が集中して話を聞けるのはせいぜい1分程度」とも言われます。人の話を聞いている途中で、気が付いたら他のことを考えていた、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
だからマネジャーは、部下の集中力が保たれている間に伝える、できれば1分以内に伝えるという意識を持つようにしましょう。
1分を意識すれば、長くても3分以内に収まるようになります。3つ4つ伝えたいことがあったとしても、一度に伝えることはせず“ブツ切り”にしてください。
そうすれば、コミュニケーションをとる回数も自ずと増えます。「長さ」ではなく「回数」を重視したコミュニケーションを、是非意識していただきたいと思います。
■「飲みニケーション」は部下育成の場である
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、「飲みニケーション」という言葉が使われる機会も随分と減ってきました。
ここ数年の間に入社してきた新入社員たちは、コロナ禍の中で成人を迎えた人たちなので、そもそも「リアル飲み会」の経験自体が少ない世代でもあります。
「目上の人にビールを注ぐ時はラベルが上」とか、「お開きの時は何本締めがどうのこうの」とか、昔よく言われた、いわゆる“体育会系飲み会ルール”などは、個人的にはどうでもいいと思っています。
しかし私は、「飲みニケーション」自体は極めて有意義な部下育成の場だと考えています。参加者の年齢や好みを考えたお店の選び方、メンバーの席の配置、目上の人にどのタイミングで挨拶してもらうかなど、飲み会を通じて若い人たちが学べることは、たくさんあります。
一方で、先輩社員の方は、飲み会で気を付けなければならないことがあります。それは、後輩社員に対する“武勇伝”です。特にマネジャーは要注意です。
マネジャーは、武勇伝を語ることで、無意識に自分の“威厳”を保とうとしがちですが、マネジャーの武勇伝は、若手部下にとってはかなり昔のエピソードです。
マネジャーにしてみれば、昨日のことのように鮮やかに脳裏によみがえってくるエピソードも、部下たちは当然知る由もありません。「へえ~、そうなんだ」と思って聞いてくれるならまだしも、「時代が違うよ」「知らんし……」と思いながら、あなたの話を聞いている部下もいるはずです。
■マネジャーの自慢話で“まずい酒”に
そういう私にも、飲み会で武勇伝を語る悪いクセがありました。ただ単に私に気を遣って話を聞いてくれる健気な部下の姿に、私は「部下が興味を持って聞いてくれている」、と勘違いしていました。
そのことにはっきりと気が付いたのは、ある時の私の上司との飲み会でした。
ひたすら自分の武勇伝を勇ましく語る上司の姿に、私は強烈な眠気と闘いながら、「これはキツイな……」と思い、自分の部下に対する飲み会での接し方を猛省しました。
確かに、自分が経験した出来事から学んだことを、次の世代に伝えていくことは大切なことです。しかし、マネジャーは自分の体験をそのまま語るのではなく、その中にある普遍的なエッセンスを抜き出し、できるだけ今の時代に適用できるよう、アレンジして伝えなければいけません。それも、飲み会の席ではなく、日常の部下育成の場面で伝えていくべきです。
飲み会の席ではアルコールも入っています。気持ちも大きくなり、価値あるエピソードも、ただの自慢話になりがちです。せっかくの美味しいお酒も、マネジャーの自慢話で“まずい酒”に変わってしまいます。
■部下との飲み会は「労いの場」
マネジャーは「部下から聞かせて欲しいと言われない限り、昔話は絶対にしない!」くらいの心構えでちょうどいいのです。おそらく、部下からそう言われることは、まずありませんが……。
「飲み会は残業代が出ますか?」と新入社員から聞かれた、というエピソードがあるくらいですから、若い人たちは「仕事終わりの飲み会はつまらない」と考えているのかもしれません。「今どきの若者は……」と嘆く前に、先輩社員も飲み会での自分たちの接し方を見直すべきです。

マネジャーのみなさんは、部下との飲み会は「労いの場」と考えてください。飲み会の場でも、部下の話に耳を傾けながら、普段では見られない部下の一面に目を向ける姿勢を示せば、あなたと部下の関係はより一層良くなっていくはずです。

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竹野 潤(たけの・じゅん)

人材育成コンサルタント

三井住友海上火災保険株式会社 三重支店部長。日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラー。1on1ミーティングプロフェッショナルコーチ。1972年生れ、兵庫県姫路市出身。1995年に三井海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に入社。2015年札幌でマネジャーに昇進するも、マネジメントスタイルが固まらずわずか2年で異動。会社人生最大の挫折を味わう。次の赴任地では部下と対話することの大切さに着目し、5年間で延べ400回を超える1on1ミーティングを実践。傾聴を基本スタンスとしたマネジメントスタイルを確立して部下のエンゲージメントを高め、業績全国No.1のチームを作り上げた。マネジャー在任期間8年で辞めた部下は1人もいない。
モットーは「上司・部下ともに仕事を通じて成長し人生を豊かにする」。

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(人材育成コンサルタント 竹野 潤)
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