※本稿は、和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「生産性を上げるのが何より大事」は勘違い
刷り込み、思い込みのことを、心理学ではまとめて「スキーマ」と呼びます。スキーマとは、簡単にいうと、「物事の認知をするときのパターン」です。
このスキーマによる「とらわれ」をなくすことで、考え方が自由になり、生きるのがラクになる。
逆に言うと、スキーマにとらわれていると、自由な発想の邪魔をすることもあります。
たとえば「椅子は座るもの」というスキーマに縛られていると、「椅子を机の代わりに使ってみよう」というような斬新なアイデアはなかなか生まれません。
さらにいうと、頭がいいとされる人、エリートほど、スキーマに縛られがちです。
これは考えてみれば当然で、高学歴であるほど多くの知識を刷り込まれていますし、過去の成功体験から「うまくいかせたいなら、こうすべき」というパターンも多く身につけています。
もちろんそれは立派なことなのですが、反面、豊富な知識や成功体験にとらわれるかたちで前例主義に陥り、柔軟な対応ができなくなるきらいがないでしょうか。
例えば、政治家や官僚、大企業らが信じている「生産性神話」は、長らく日本を苦しめているスキーマの1つのように思えてなりません。
戦後の日本人は一貫して「生産性を上げれば幸せになれる」と信じてきました。
日本政府もそうです。業務の効率化による生産性の向上こそ日本経済を成長させる、という発想から、経済政策を打ち出しています。高齢者の雇用促進、あるいは女性の社会進出促進も、生産性向上の一環だと言えます。
■日本に今必要なのは、生産よりも、消費
しかし、これは明らかに時代遅れの考えかたです。
バブル崩壊後、日本は30年不況と呼ばれる時代に入りました。この不況が「消費不況」であり、不況の原因はモノの不足ではなく過剰な生産にあると看破したのは、日本でセブン‐イレブンを立ち上げた鈴木敏文さんでした。
たしかに、戦後日本においては生産性向上が急務でした。モノを作れば売れた時代でもあり、生産性が高い会社ほど成長した。生産性神話の誕生です。
ところが、1990年代に入ると、史上初めて生産が消費を上回りました。
それなのに、日本政府も、企業経営者も、なお生産性を上げようと血道をあげています。その上、コストカットのために従業員の給料までおさえる。これではますます消費が縮小し、豊作貧乏はひどくなるばかりです。
日本に今必要なのは、生産よりも、消費です。消費を増やすためには、従業員の給料を上げたほうがいい。もし私が経団連の会長なら「全員の給料を倍にしろ、それでマーケットが倍になるから」と呼びかけることでしょう。
国民も、生産性第一の思い込みを、一度リセットするべきです。
そういえば「アリとキリギリス」の寓話がよく教育現場で使われたのは、生産性神話を刷り込むためのお話だったのかもしれません。アリのようによく働き財産を蓄えておかないと、キリギリスのように餓死するよ。遊んでばかりはいけないよと子どもたちを脅します。
■「働かざる者、食うべからず」の本当の意味
しかし、このスキーマが通用したのは生産性が低くモノがない時代のこと。今のように消費不況の時代では、積極的に遊び、消費をするキリギリスこそ善なのかもしれません。
逆に、生産ばかりのアリは、消費不況の元凶と非難されてもおかしくない。少なくとも冬になっても食べ物が余っているので、キリギリスも餓死はしません。
モノ余りの時代にあっては消費こそ伸ばさないといけない。となると、年金生活者を社会のお荷物扱いする風潮が、どれほど無礼で見当はずれであるのかわかるはずです。生産せずに消費をしてくれる人は、むしろ経済を成長させてくれる神様のような存在だからです。
最後に「働かざる者、食うべからず」の意味を日本人が誤解していることもつけ加えておきます。
この言葉はレーニンが広めたことで有名ですが、レーニンの意図するところは、労働者から搾取して不労所得でラクな生活を享受する資産家たちを戒めるために言ったもので、ひいては資本主義体制を批判するためにこう言ったのです。
やむをえない理由で働けない人や、自分の意志で働かない人を、追い込むような意味で言ったのではありません。
■エリート官僚が「バカになる」思考回路
スキーマによる苦しみから逃れるためにもっとも大切なのは、まずは「自分がどんなスキーマを持っているのか」、意識的になることです。
「自分はこんな決めつけをしているけど、そうとは限らないぞ。
こんな風に「自分の思考グセに気づく習慣」がないと、どんなに賢い人でも、ときに信じがたいほど「バカ」な振る舞いをしてしまいます。
賢い人と言われる人が、どうしてそんなバカなことをするのか。ここにもやはり、スキーマの問題があります。
安倍政権下での財務省公文書改ざん事件においては、エリートである官僚が、あってはならない公文書の改ざんをしました。インターネットの時代にそんなことをしたら、汚名が一生残るとわかりそうなものなのに、なぜそんな悪事を働いたのでしょう。
それは「東大を出て官僚になり、課長になり局長になり、次官になることが人生の成功であり、それ以外は認めない」という、官僚の世界にまん延するスキーマのためではないでしょうか。
それ以外の生きる道を想像することができず、上から命令されるままに、悪事にいたった。その前に、そういった自分のなかの「出世第一主義」のスキーマを自覚し、「こんなことしたら一生汚名が残るし、もしバレて免職になったら再就職も難しいかもしれない」と思えていたら、あんな事件にはならなかったはずです。
スキーマの通りに生きる道しか知らず、その道から外れたら人生の落伍(らくご)者だと固く信じているから、融通が利きません。そのせいで、頭がいいはずのエリートが、バカなことをするはめになるのです。
■精神科の患者はとても生まじめ
ちなみに、精神科にやってくる人も、そういったスキーマに縛られた人たちが多いです。世間のイメージでは、精神科の患者というと、「ちょっと変わった人たち」ではないでしょうか。
しかし現実にはその逆。変人どころか、とても生まじめな人が多いのです。「こうあるべき」というスキーマがとても強力で、まじめで、まわりの目を気にして、自分で自分を責めてしまうような人が、心を病んでやってきます。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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