ホワイトハウスでハグしたり、ドナルドとファーストネームで親しげに呼んでみたり。危険がいっぱいの日米首脳会談を持ち前の明るさと大胆さで乗り切り、内外で「大成功」と評価を高めた高市早苗首相だが、帰国後に国会論戦が再開されると、妙に歯切れの悪い答弁が続き、不機嫌で投げやりな態度も目立つ。
「世界に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけです」と、歯の浮くような称賛でドナルド・トランプ大統領のハートをわしづかみにした、とまで言われた例の冒頭発言も、その後の評判はあまり芳しくない。
高市首相自身は「渡米する飛行機の中で、徹夜で考えた」と練りに練った表現だとアピールしたが、その真意は「中東の戦争を平和に持っていけるのも、世界経済を改善できるのもトランプ大統領の気持ちにかかっているといった思いを伝えた」のだという。G7の欧州各国のなかにも「国際法違反」を明言する国が出始めているなかで、突出したアメリカ追従の言い回しは、今後の日本の立場を難しくする心配はないのだろうか。
■「情けないが、これが日本の現実だよ」
「もちろん、トランプが始めたイラン攻撃は国際法違反の疑いが濃厚だ。しかし、日本とアメリカの関係を考えれば、それを面と向かって批判することは難しい。確かに、あんな歯の浮くようなお追従を大統領に言うなんて、恥ずかしくて見ていられなかったが、少なくともトランプを怒らせず、無理難題も言わせなかったという点では大成功と言わざるをえない。情けないが、これが日本の現実だよ」
旧知の元外交官は苦々しい表情でそう言ったあと、「ただし」と付け加えた。
「今回の首脳会談はまだ第一ラウンドだ。トランプも、戦闘が長引けば秋の中間選挙で与党共和党が苦戦するのは確実だ。欧州各国が距離を置き始めているなかで、トランプにとって日本への期待はさらに高まり、今後もっと踏み込んだ要求をしてくる可能性もある。その時にどう対処するかが最も厳しい選択になるかもしれない」
■泥沼化の恐れも出てきたイラン戦争
「4週間でカタをつける」「無条件降伏しないと見たこともない攻撃を加える」
そう豪語していたトランプ大統領だが、その強気の姿勢とは裏腹に、戦闘はすでに1カ月を過ぎ、ホルムズ海峡は事実上イランによって封鎖された。
そのトランプ大統領にどこまでついていけるのか。日本の政府内でも先行きが見通せない不安が広がり始めた。第一ラウンドの日米首脳会談では、とりあえず憲法9条を盾にして自衛隊派遣はできないと意思表示をしたが、トランプ氏がいつまでも納得してくれるかどうかは不透明だ。首脳会談の後も、「日本は4万5000人の米兵で守られている。協力しないのは不公平だ」「憲法があっても、何かやってくれるだろう」等々、トランプ氏は、相変わらず子供のような乱暴な発言がやまない。
自民党防衛族のある閣僚経験者は、高市首相は初動を誤ったかもしれないと言う。
「イタリアのメローニ首相はトランプに近いことで有名だが、早々とこの戦争は国際法違反なのでイタリアは参戦しないと宣言した。イラン攻撃の国際法上の評価を避けている日本は、ずるずるとついていくしかない。自衛隊派遣を拒否するには、いまや憲法9条だけが頼り、という皮肉なことになってしまった。トランプに本当に気に入られているのなら自制を促す言い方もできたはずだが、『世界を平和にできるのはドナルドだけ』なんて言ってしまったから、今さらやめてとは言えないだろう」
■ついに高市首相も護憲派に
こうした状況に護憲派のなかからは「憲法9条の制約を高市首相が口にしたことは大きい。
高市首相の改憲への信念は変わっていないようだが、「日米同盟は重要だが、軍事的な貢献には否定的」というのが世論の大勢だと認識しているのだろう。
日米首脳会談の後に行われた報道各社の世論調査からも、そうした傾向が見て取れる。
内閣支持率は、依然として60%~70%前後の高い水準で、日米首脳会談の評価も、おおむね6割以上が「評価する」だ。ただ、自衛隊の中東への派遣の是非を聞くと、△賛成24%、反対67%の読売新聞をはじめ、△賛成18%、反対74%(日経新聞・テレビ東京)△賛成4%、停戦後なら賛成33%、停戦後でも反対49%(毎日新聞)という結果だ。世論の大勢は少なくとも停戦前の自衛隊の派遣には慎重だ。
また、アメリカの攻撃が国際法違反かどうかの評価を避けている政府の姿勢については理解を示す声が多数を占めているが、イラン攻撃そのものについては7割以上が「支持しない」としている。
結局、日米首脳会談では、トランプ大統領を持ち上げたことはともかく、日本としては日米同盟を尊重しながらも、憲法9条の下でアメリカの武力攻撃に協力することはできないと明確にしたことが、国民の多数の支持を得る結果につながったと言えるだろう。
当然のことながら、巨大与党を背景に憲法改正の早期実現にチャレンジしたいと明言していた高市首相にとっては、頭の痛い問題だ。当分の間、停戦が見通せない状況の中で、憲法改正、とりわけ9条に関わる改正を持ち出すのは政治的なリスクが大きすぎる。
■保守派のとまどい
あの高市首相が憲法9条を盾にトランプ大統領の要求を断った、という事実は、これまで憲法改正を掲げる高市首相を支持して来た保守派の間にも複雑な影を落としている。
強硬保守派の論客がそろう月刊誌を見ると、憲法を盾に貢献を渋ったことへの論評は脇に置いて、日米の絆を確認したという点で会談は大成功だったという見出しが躍っている。そして、アメリカのイラン攻撃については、核開発疑惑だけでなく、市民を弾圧しテロ組織を支援してきたイランを非難し、トランプの「力による現状変更」を支持する論調が目立つ。そのトランプと良好な関係を結んだことが外交的な成果だと言う主張だ。
しかしトランプが中東に力を注ぎすて極東への関心が低下すると、結果的に中国や北朝鮮を利することになる。高市首相がトランプに抱き着いて、日米同盟の絆を再確認したことは重要な外交的な成果であることは間違いないが、一方で中国を牽制するための日米の共同歩調という点では懸念も残る。イラン情勢が、泥沼化する恐れも出てきた中では、この事態が長期化することも覚悟しなければならない。
高市首相を支持する岩盤保守層にとって、憲法改正だけでなく、防衛装備品の移転拡大などの保守派が望む政策実現も、見通しがつきにくくなっている。
■仲介役を目指した安倍晋三氏
戦後の日本とイランの関係には特別なものがある。日イラン関係にも携わった元外交官は、日米同盟の下でも、日本は独自の判断でイランとの関係を良好に保ってきたと話す。特に2019年、第1次トランプ政権のアメリカとイランが核開発をめぐって一触即発の危機にあった時に、当時の安倍晋三元首相が単身イランに飛んで、当時の最高指導者ハメネイ師らと会談したことに改めて注目すべきだと話す。
安倍氏はトランプ氏とも事前に話した上でイランとの仲介役を果たそうとした。結局イランの強硬な態度を変えることはできなかったが、それだけイランは日本の国益上重要だったと判断していたのだ。
「世界有数の産油国であるイランは、日本にとって重要な石油供給国です。百田尚樹さんのベストセラー『海賊と呼ばれた男』にも描かれているように、日本人は戦後、イランを支配していた英国の反発を押し切って、イランから原油を買い付け、貧窮していた地元の人々を助けたわけです。日イランはそういう良好な関係にあります。世界最大級と言われるイランのアザデガン油田の開発にしても、日本は権益を保持していたのに、米国のイラン制裁強化で撤退を余儀なくされた。そして日本の代わりを中国企業が穴埋めし、開発契約をイランと結んでしまった。日イラン関係を放置しておくのは、あまりにももったいないでしょう」(『安倍晋三回顧録』中央公論新社)
■したたかな外交が不可欠
安倍氏の言うように、外交には歴史的な知識や複眼的な思考が必要だ。その場しのぎの対応だけでは、いずれ行き詰る。首脳会談では、憲法9条を盾に一度は自衛隊派遣を断ったが、トランプ氏自身はそんな事は関係ないと思っているようだ。アメリカのメディアに対して、「(憲法の制約でできないことがあると)高市首相が言った事は理解しているが、日本はそれでも何かやってくれると思う」と述べている。
トランプ大統領の二転三転する発言に各国が対応に追われ、金融マーケットはその度に不安定な動きが続く。ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、世界経済を揺るがし始めている。
むしろいま必要なことは欧州はじめ価値観を同じくする諸国と協力して国際秩序を取り戻すべきだとトランプ大統領を説得することだ。このままだとアメリカは孤立し、それこそロシアや中国などの台頭を許すだけだという現実を理解させるのである。
トランプ氏との個人的な信頼関係を築いたのであれば、高市首相に求められているのは、そうした長期的な視野に立った「したたかな外交力」ではないだろうか。
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城本 勝(しろもと・まさる)
ジャーナリスト、元NHK解説委員
1957年熊本県生まれ。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡放送局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として自民党・経世会、民主党などを担当した。2004年から政治担当の解説委員となり、「日曜討論」などの番組に出演。2018年に退局し、日本国際放送代表取締役社長などを経て2022年6月からフリージャーナリスト。著書に『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』(小学館)がある。
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(ジャーナリスト、元NHK解説委員 城本 勝)

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