子育て期のイライラはどうすれば改善できるか。乳幼児睡眠コンサルタントの愛波あやさんは「子育て中は睡眠不足になることが多く、それが余裕のなさにつながっていることがある。
特に寝かしつけに時間がかかるとネックになりがちだ」という――。
※本稿は、愛波あや『赤ちゃん超ぐっすり育児 親子でしあわせになる寝かしつけメソッド』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■育児中の睡眠不足とメンタル不調
睡眠が不足すると、人の心は驚くほど揺らぎやすくなります。
最近の研究では、睡眠不足は男女ともネガティブ思考を強め、感情のコントロールを難しくすることがわかっています。特に女性は攻撃的になったり、抑うつ的になりやすいという報告もあります(※1)。
でも、これはママだけでなくパパにも起こり得ます。
複数の研究結果をまとめて、より確かな結論を導くメタ分析を使ったアメリカの小児科による報告では、慢性的な睡眠不足により父親の約10%が産後うつを経験し、生後3~6カ月にリスクが高まり、母親が産後うつの場合は父親のリスクが約2.5倍になると示されています。産後の睡眠不足とメンタル不調は家族の課題なのです(※2)。
※1 Van Dongen, H. P., et al.(2003).The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep, 26(2), 117-126.

※2 Paulson, J. F., & Bazemore, S. D.(2010).Prenatal and postpartum depression in fathers and its association with maternal depression: a meta-analysis. JAMA, 303(19),1961-1969.
■睡眠時間を増やしていくことが大事
一方で、しっかり睡眠がとれている人はどうでしょうか。心に余裕が生まれ、挑戦する気持ちもわき、自己肯定感も高まります。子どもに対しても「できていないこと」ではなく「できていること」に自然と目を向けられるようになり、子どもの心にもポジティブな影響を与えてくれます。
とはいえ、新生児期に親が7~9時間眠るのは現実的に難しいもの。
だからこそ、まずは4時間のまとまった睡眠を目標にしてください。短時間でも連続で眠れると心身の回復につながります。
ただし、4時間睡眠が続くと、認知機能や集中力が大きく低下します。ペンシルベニア大学が、4・6・8時間睡眠の人をそれぞれ14日比較した結果、4時間睡眠群は徹夜に近いレベルに認知機能低下が蓄積し、注意力テストの結果も日々悪化しました。4時間睡眠を確保するのは、現実的な最初のステップです。でも、そこから徐々に睡眠時間を延ばすことが大切なのです。
■イライラするのは性格のせいではない
実は、長時間かけての寝かしつけは、育児の中で見落とされがちな負担です。毎晩寝かしつけるのに1~2時間もかかると、どうしても心の余裕がなくなり、イライラが積み重なります。すると、思わず赤ちゃんに「早く寝て!」と強い言葉を投げたり、夫婦で小さなことでぶつかったりしてしまうこともあるでしょう。
私自身も、バランスボールに3時間乗ってなかなか寝ない長男の寝かしつけをしていたときは、子どもをかわいいと思えず「とにかく寝てよ!」と疲弊していました。でも、このイライラは決してママやパパの性格のせいではなく、睡眠不足と長引く寝かしつけが心をすり減らしているからなのです。
けれども、寝かしつけが短いルーティンでスムーズに終わり、赤ちゃんが安心して眠る生活を想像してみてください。
ママ・パパには気持ちのゆとりが生まれ、自然と笑顔が増えるはずです。そして結果として、子どもにやさしく接することができ、夫婦関係も穏やかに変わっていくのです。
■交通事故を起こしかけた父親の相談
ある日、ひとりのパパから相談がありました。「子どもの寝かしつけによる寝不足で、運転中に事故を起こしそうになりました。夫婦とももう限界かもしれません。お話を聞いてもらいたいです」とのことでした。
このパパはママと交代で子どもの夜の世話をしていましたが、結局どちらもしっかり眠れていなかったのです。心身ともに疲れ切り、さらに夫婦関係にも影響が出ていました。「助けてほしい」という切実な言葉に、私は胸が詰まる思いがしました。
実は、多くのパパが「子どもの寝かしつけでこんなに寝不足になるなんて思わなかった」と驚きます。現代では、パパの育児参加が増えた分、ママだけでなくパパも深刻な睡眠不足に陥っているのです。
睡眠不足は思考力・集中力・判断力を著しく低下させます。
さらに、6時間未満の睡眠不足状態では、交通事故リスクが大幅に高まることが示されています。
■家庭だけでなく社会生活にも悪影響
また仕事のパフォーマンスにも影響するため、家庭生活だけでなく社会生活にも大きな悪影響を及ぼします。さらにパパも「産後うつ」を経験することがあります。つまり、現代は産後のパパのメンタルケアや睡眠の確保も、家庭全体の健やかさに欠かせないのです。
母乳での授乳はママしかできませんが、だからといって「パパがなにもできない」わけではありません。パパにできること、それは寝かしつけです。パパが積極的に寝かしつけに関わることで、ママはまとまった睡眠をとれて、心も体も回復します。ママが十分に休めれば、家庭は自然と笑顔にあふれ、子育てもポジティブな気持ちでできるのです。
ただ、ここでやるべきなのは「赤ちゃんが泣いたときに、パパが毎回夜中に起きる」ことではありません。大切なのは、寝かしつけを夫婦で協力して、なるべく短い時間で赤ちゃんが眠れるように、理想のルーティンをふたりで作っていくことです。寝かしつけが短く済む基盤を作れば、ママもパパも眠れるようになり、夫婦関係も良好になるのではないでしょうか。
■しっかり眠れると家族が平和になる
アメリカで子育てをしていると、パパたちの育児参加率の高さに驚かされます。
ある日、3人の子どもを連れてバーベキューに来ていたパパと話をしていたときのこと。彼は笑顔でこう言いました。
「ねんねトレーニングは最初から夫婦でやったよ。そうじゃないと、自分たちの時間なんて確保できないからね」
その言葉に、私はハッとしました。実際、その家庭ではパパが寝かしつけを担当する日も多く、その間ママはジムに行ったり、スパに行ったり、友達とごはんに行ったりしてリフレッシュしているそうです。彼が言った「子どもがしっかり眠れると家族が平和になる」という言葉は、私の心に深く残りました。
このエピソードは、まさに「睡眠が家族の幸福の土台である」ということを教えてくれます。赤ちゃんの睡眠は、ママやパパのメンタル、そして家庭の雰囲気にまで影響を与えます。だからこそ、寝かしつけはママだけの仕事ではなく、家族みんなで取り組むテーマなのです。
■子どもの脳を育て情緒を安定させる
赤ちゃんがぐっすり眠っているとき、脳の中では目まぐるしい活動が行われています。深い眠り(休息)のノンレム睡眠では、日中に見たり聞いたり、体験したりした情報が整理され、必要なものだけが“記憶の引き出し”にしまわれます。この働きによって学んだことがしっかり定着し、翌日また新しい学びを吸収できる準備が整います。

特に脳の発達段階の時期は、眠っている間に神経同士をつなぐ「シナプス」が作り替えられ、脳のネットワークが少しずつ洗練されていきます。これが、思考力や集中力、創造力の土台となっていくのです。つまり、睡眠は赤ちゃんにとって“脳を育てるトレーニング時間”でもあるのです。
一方、睡眠中でも脳が活動しているレム睡眠では、感情の整理が行われています。この時間がしっかり確保されている子どもほど情緒が安定していることがスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校の研究でもわかっています。
■成長と健康にもおいても睡眠は重要
反対に、夜中に何度も起きて睡眠が分断されたり、睡眠の質が下がると、ささいなことで泣き出したり怒ったりしやすくなり、ストレス耐性も低くなるといわれています。これはママやパパも同じで、夜に何度も起こされることで、感情をコントロールする力が低下します。「眠れないと心に余裕がなくなる」のは、大人も子どもも同じなのです。
そして、赤ちゃんの成長を支えるもうひとつの鍵が、「成長ホルモン」です。このホルモンは入眠直後の深い睡眠中に最も多く分泌され、筋肉や骨を強くし、細胞の修復を助けます。睡眠をしっかりとれている子どもほど身長が伸びやすく、免疫力も高いことがわかっています。
また、睡眠は免疫細胞の働きを整える役割も果たしています。
ぐっすり眠れることでウイルスへの抵抗力が上がり、風邪をひきにくい体が作られます。つまり、睡眠は「毎晩摂る自然の栄養ドリンク」のようなものなのです。
■よく眠ればしあわせの連鎖が生まれる
また睡眠は、赤ちゃんだけでなく、ママとパパの心の健康にも直結しています。
パパが寝かしつけや夜間対応に少しでも関わるだけで、ママの睡眠の質は改善し、気持ちの安定につながることがわかっています。また、パパが育児に積極的な家庭では、ママの産後うつのリスクが25~40%低下するという研究もあります(※3、4)。
パパのサポートによりママがしっかり眠れると心に余裕が生まれ、子どもへの関わりもやさしくなります。そうしたポジティブな循環が、家族全体の幸福感を高めていくのです。
赤ちゃんのぐっすりは、家族のぐっすりへ。家族のぐっすりは、家族のしあわせへ。そのしあわせの連鎖を生み出すのが、睡眠の力です。
※3 Schoppe-Sullivan, S. J., et al. (2008). Maternal gatekeeping, coparenting quality, and fathering behavior in families with infants. Journal of Family Psychology, 22(3), 389-398.

※4 Cabrera, N. J., et al. (2020). Father involvement, father-child relationship, and attachment in the early years. Attachment and Human Development, 22(1), 134-138.

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愛波 あや(あいば・あや)

乳幼児睡眠コンサルタント

日本人初・乳幼児睡眠コンサルタント。国際資格認定機関SSIA代表、Sleeping Smart Japan株式会社代表取締役。0歳からのママスクール『ママの心』講座監修・講師。慶應義塾大学文学部教育学専攻卒業。2014年、乳幼児睡眠コンサルタントの国際認定資格を日本人として初めて取得。これまで累計10万人以上のママ・パパのねんねの悩みをサポート。著書に『ママと赤ちゃんのぐっすり本』(講談社)、『子どものためのベスト睡眠』(KADOKAWA)など。2児の母。

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(乳幼児睡眠コンサルタント 愛波 あや)
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