うつ病になりやすい人にはどのような特徴があるのか。精神科医の和田秀樹さんは「うつ病になりやすい人に多い思考パターンとして、『不適応思考』がある。
その一つである『完璧主義』が作動すると、完璧にやれない自分に落伍者のレッテルを貼ったり、もう立ち直れないと落ち込んだりする」という――。
※本稿は、和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■うつ病の原因にもなる「不適応思考」とは何か
「不適応思考」という考え方があります。もともとは、「認知療法」といって、うつ病の治療を行うカウンセリングの手法から出てきたものです。
ペンシルベニア大学のグループが、うつ病の患者にカウンセリング的な治療を行う際に、認知療法という方法を生み出しました。そのリーダー格のアーロン・ベックやアーサー・フリーマンは、うつ病になりやすい人に多い思考パターンがあることを発見しました。それが、不適応思考です。
不適応思考の代表的なものに、「二分割思考」、「完璧主義」、「過度の一般化」、「こうあるべき思考」(精神医学的には「かくあるべし思考」)、「自己関連付け」があります。
正確にはうつ病の患者のみならず、広く一般の人に見られる思考パターンなのですが、うつ病の患者には、それが多く見られます。
今では、不適応思考はうつ病にとどまらず、パーソナリティ障害、拒食症・過食症などの摂食障害の人にも多く見られる思考パターンであることがわかっています。
例えば、妻が自分以外の男性と話しているのを見ると、「浮気をしようとしているのか?」と猜疑(さいぎ)心にかられてしまい、ストレスの多い人生を送っている人がいるとします。
一般的には、こう考えるような人は生まれつきの「性格」であり、変えようがないものだと考えられがちです。

■物事の考え方や受け止め方は変えられる
しかし認知療法では、これは「ある種の思考パターンのせい」、「物事の受け止め方のせい」だと考えます。
そして、「人の性格は変えられないが、物事の考え方や受け止め方を変えることはできる」という前提に立ち、思考パターンが変わるように治療をしていくのです。
うつ病患者は「白か黒か」「善か悪か」「敵か味方か」など、物事や他人を完全に2つにわける思考パターン(二分割思考)の人がいるのですが、認知療法では、治療者が「また二分割思考に陥っていますね」などと患者に自覚を促します。
そして、こうした決めつけには根拠がないことなどを説いて、その思考パターンを変えていきます。
自覚することが、不適応思考の抜け出すための第一歩であり、もっとも重要なことだからです。
かつて、精神分析の治療法は、人の性格を変えようとする時代が続きました。しかし、そうした治療法は長く時間がかかるわりに、必ずしもいい結果がともなわないことがわかってきています。
認知療法は、精神分析と比べると早く効果が出て、治療もうまくいくということで、現在では精神療法のトレンドは認知療法に移っています。
■「自動思考」の暴走を、人は自覚しにくい
自動思考の内容は人によって違います。
たとえば、誰かの会話から自分の名前が聞こえてくると、「きっと悪口を言われているに違いない」と思い込んでしまう。
可能性としては、その誰かは自分のことを褒めていたのかもしれませんし、たまたまほかの話題のなかで自分の名前が出てきただけかもしれません。でも、自動思考にとらわれている人は、そういった可能性には頭が回らないのです。

「最近、皆がよそよそしい気がする」「あのとき飲み会の誘いを断ったからだろうか」など、ネガティブな記憶ばかりが再生され、ますます「悪口を言われているに違いない」という思い込みが強化されていきます。この一連の思考は自分では止めたくても止められません。
あるいは、彼女がLINEの返信が遅いというだけで「フラれたに違いない」と思い込む。はた目には「そうとは限らないんじゃない?」「手が離せない用事があるのでは?」と言いたいところですが、本人はいたって真剣です。「そういえば最近冷たい言動が多かった」などと、悪い記憶ばかりが再生されて、やはり止まりません。
悪い記憶が再生されるだけならまだいいのですが、自動思考が怖いのは、行動に移しかねないことです。
「おれを振るなんて、お前が浮気したんだろう」などとキレて彼女に詰め寄りでもしたら、本当にフラれるかもしれません。「フラれたに違いない」という勝手な思い込みから始まった自動思考ですが、最終的にはそのような現実を引き寄せてしまうのです。
自動思考のポイントになるのは、「本人はいたって中立的に考えている気になっているのに、じつは不適応な思考に振り回されている」ということです。
そう、本人は冷静に論理的に考えているつもりなのです。
ところが実際には、脳に「バグ」のようなものが生じていて、じつは最初から答えが固定されてしまっている。「考えているつもりで考えていない」のが自動思考でもあります。

認知療法で、「また自動思考に陥っていますよ」などと指摘をすることで、本人に自覚を促し、思考にとらわれていることを気づかせるような方法がとられるのは、そのためです。患者は、自分1人で考えていると、自動思考でどんどん悪いほうへ悪いほうへと考えが止まらなくなってしまうのです。
■性格のせいというより「思考グセ」の問題
誤解のないように繰り返し言っておきたいのは、「不適応思考」は精神科の患者だけのものではないということです。
不適応思考は、割合や程度の違いこそあれ、一般の人にも多く見られるごくありふれた思考パターンです。また、健康時は正常な思考パターンだが、強いストレスがかかったり心を病んだりすると不適応思考のパターンに変化する、というようなものでもありません。
スキーマと同じように、おもに学校教育が、不適応思考を刷り込んできます。学校教育では、決められた答えを早く出すことが求められるため、ある種の固定した思考パターンを身につけさせられ、その思考パターンを疑う機会も用意されません。
こうした思考パターン、すなわち「思考のクセ」があっても、日常生活がスムーズに回っているうちは困らないのです。とくに日本人の場合、多くの人が不適応思考を持っているため、「そんなの普通」と思われる思考パターンとも言えます。
ところが、いざ、うつ状態になったり、ブラック企業でいじめられたり、といった状況に陥ると、とたんに不適応思考が問題になってくるのです。
たとえば、病気になったらパフォーマンスが落ちるのは当然なのに、不適応思考の一つである「完璧主義」が作動すると、完璧にやれない自分に落伍者のレッテルを貼ったり、もう立ち直れないと落ち込んだりします。
強いストレスを受けているというときに、「男なら我慢しなければならない」という「こうあるべき思考」の不適応思考パターンにはまりこんでいると、ストレスから逃げ出すこともできません。

精神科医の立場からは、うつ病を防止する意味でも、今のうちから不適応思考を修正しておくことをおすすめします。
■「決めつけ」をしないではいられない人たち
ここからは、不適応思考のなかで代表的な「二分割思考」を見ていきましょう。
【二分割思考】「曖昧な状態は、気持ちが悪い。白か黒か決めたい」
たとえば「二分割思考」は、不適応思考のなかでもとくに代表的なものです。
二分割思考とは、なんでも白黒はっきりつけようとする考えのこと。正しいか間違ってるか、イエスかノーか、敵か味方か、善か悪か、などです。曖昧な状態が不安であり、どちらか一方に決めつけないではいられません。
二分割思考が不適応だとされるのは、世の中簡単に白黒つけられないことばかりだから。グレーゾーンのほうが、ずっと多いからです。敵と味方にしてもはっきりつけられるものではありません。
「あいつとは30%ぐらい意見が合わないけど、70%は嫌いじゃないんだよな」などと、グレーな範疇(はんちゅう)にあるのが普通です。
養老孟司先生はベストセラー『バカの壁』(新潮新書、2003年)で、林野庁と環境省の懇談会に出席したとき、そこで出された答申の書き出しに「CO2増加による地球温暖化によって次のようなことが起こる」となっていたので、二酸化炭素が原因で地球温暖化しているという理論はまだそう断言はできないので、「これは“CO2増加によると推測される”という風に書き直してください」と注文をつけたそうです。

すると、たちまち官僚から反論があった、と書いています。官僚というのは、「決めつけ」をしないではいられない種類の人間なのでしょう。
■グレーゾーンに耐える
「子どもを褒めて育てるか、叱って育てるか」も同様です。「ほめて成績が上がる子が7割、叱って成績が上がる子が3割」というデータがあると、じゃあ褒めるのが正解だ、と決めつけがちです。ところが子どもには個人差があり、叱って成績が上がる3割に、自分の子どもが入っているのかもしれないのです。
「子どもは叱るよりも褒めるほうがいい」と、白黒はっきりつけるほうが、人間、ラクに生きられるのはたしかです。いつもほかの可能性を考えながら生きるのは、めんどうくさいでしょう。
でも、それをしないことで、安易な答えにとびついて失敗したり、人に騙されたり、ストレスをためたりします。
ビジネスの現場でも、二分割思考は困りものです。
互いに信頼関係を築き、味方だと思い込んでいた相手に、何か一点気に入らないところがあると、それだけで「あそこはダメだ」「あんな会社とは組めない」となってしまう。その点以外は素晴らしい会社であるにもかかわらず、その一点で全否定してしまうのです。
あるいは、妻や夫が一度浮気をすると、それだけで相手を敵だと思ってしまう人が少なくありません。
一度でも自分を裏切ると、それまでの愛情が憎しみに変わってしまうのです。お互い完全に愛情が冷めきったとは思えないのに、100%味方か、100%の敵しか、ありえないかのようです。
二分割思考とは、見方を変えれば「即断即決」のようでもあり、優れた考え方のようにも思えるかもしれません。しかし、即断即決と「ちゃんと考えずに白黒つける」は違います。グレーゾーンに耐えることができないと、結論を急ぎ、誤った判断を下す恐れがあります。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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