面白い人生を生きるには何をすればいいか。医師の和田秀樹さんは「自分が頭のなかで考えていることに縛られないためには、実験して試してみることだ。
私はこれまで700~800冊の本を書き、そのなかにはベストセラーになった本もあるが、どの本も実験だと思って書いている」という――。
※本稿は、和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「負けた後の方策」を準備しておく
悪いことが起きないよう「予防」に熱心になるのが日本人は好きです。
結果として「予防してるんだから、悪いことが起きるはずがない」というスキーマが強くなります。すると実際に悪いことが起きたときの備えに頭が回らず、いざというときに大きなストレスを抱えます。
いわば「うまい負け方を知らない」のが日本人の特徴とも言えます。逆に、「うまい負け方」を知っている人は、負けたあとの方策を考えています。「次善の策」を選び、またすぐに前へ進めるのです。
私の著書には、しばしば妻が登場します。妻と私では、意見が大きく異なります。子育ての考え方も違いました。
妻は、学生時代は人気者、「勝ち組体質」で育ってきたせいか、子どもが学校で仲間外れにされているのを知ったとき、どうすればいいかわからず、パニックになりました。

いっぽう、いじめられっ子で育ってきた「負け組体質」の私は、「仲間はずれになるぐらいがちょうどいいんだ」と、落ち着いていられました。
ただし、仲間はずれのままでは辛いので、仲間はずれにならない世界を探そうと、中学の受験塾に通わせることにしました。今、上の子は弁護士として活躍し、下の子は医師になっています。私は仕事が忙しく、子どもたちに勉強を教える時間はとれませんでしたが、生き方や価値観は教えたつもりです。
過去に成功を積み重ねてきた人間ほど、負け知らずな人間ほど、自分はうまくいくのが当たり前だと思い込んでいます。受験で成功した人も、ビジネスで成功した人も、自分が一番正しいと思い込んでいます。でも、それだとうまくいかなかったとき、別の道を選べず、パニックになってしまいます。
これを避けるには、普段から「悪いことが起きたらどうするか」を考えておくことです。
「負け」が襲ってきたとき、次善の策があれば、パニックにならずに済みます。
■「人生は実験なんだ」と考える
昔、『受験は要領』(ゴマブックス)という本に、理科の実験の授業なんかに出る必要はない、そんな時間があるなら昼寝をするか、数学の答えでも覚えていろ、と書きました。
このときは、ケチョンケチョンに非難されたのですが、今も私の意見は変わりません。日本の理科の実験室で、実験精神がつくとはとても思えません。

なぜかというと、子どもにケガをさせないようにと、決められた手順で実験をやらせるだけだからです。
大学ですらそういうことが多いそうです。つまり実験する前から答えがわかっているわけで、これでは実験とは言えません。お料理教室と同じです。
「このやり方で成績が上がらないなら、このやり方で試してみよう」という経験こそが実験です。AでダメならB、BでダメならCとやるのが、実験なのです。
これができるなら、実験室である必要もありません。
煎(せん)じ詰めれば、生きることそのものが実験です。勉強のできない子が受験テクニックをあれこれ試してみたり、モテない人がモテるためにあれこれ試すのも実験です。実験室でやることだけが実験だと思っているのは、学校の先生だけで十分です。
人生は実験である――。そう思うと、思い込みを捨てて、新しいチャレンジをする勇気も湧いてこないでしょうか。

たまには失敗をすることもあるでしょう。でも失敗するのは構わない。大惨事にならない失敗の仕方を学べますし、失敗した後の対処の仕方も、学べるからです。
実験と思うからこそ、失敗に対する備えができるとも言えます。
■バクチと実験の区別をつけないと大やけどに
「勝つに決まっている」のは実験ではないですし、負ける心づもりもしておく必要があるのです。
投資家もそうですが、「負けるつもりがない」まま投資をするのが一番危険です。いざ負けたときに、立ち直れないほどのダメージを負うからです。
恋愛で大やけどするのも同じ理屈です。フラれないと信じ込んでいるからこそ、フラれて大ショックを受けるのです。
「人生は実験なんだ」と思っておけば、そうそうショックは受けません。うまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれない。実験と考えるなら、あえて全財産をかけるようなマネもしないで済みます。

ただし、なんでもやってみろとは言いません。バクチと実験の区別がつかないと、大やけどをします。
ユニクロの柳井会長の本にあるように、人生は「一勝九敗」です。9敗しても、負けを小さく抑えられるなら大金持ちになれるかもしれない。逆に1敗でも、負けが大きければ、バブル崩壊時のお金持ちのように、破産しかねません。
「ここで負けたらこのぐらいのダメージを負う。これならリカバリーができる」といった損得計算を忘れないでおきましょう。
リカバリーできないほどダメージを負いかねないのが博打であり、リカバリーできるものが実験です。バクチまがいと言われがちな仮想通貨ビットコインも「これぐらいなら損してもOK」と思える額で手を出すなら、実験の範囲だと思います。
■実験で「失敗してもこの程度か」と思える
試しに会社をサボってみる。好きな異性に声をかけてみる。上司に反論してみる。

どんなことでも結構ですが、「失敗したらどうしよう」と足がすくんだときは「失敗したら、どんな損を被るか」を計算してみましょう。
リスクも計算ができている人は、思い切った実験ができます。「失敗してもこの程度か」と思うと、腹をくくれるのです。
「上司に反論する」のも、会社員にしてみれば1つの実験です。煙たがられるかもしれませんし、異動させられるかもしれません。嫌がらせをされるかもしれない。
それでも、就業規則に違反しているわけでもないですから、最悪でもクビにはならないでしょう。
それに、同じ上司のもとで一生働くわけでもないのです。「失敗しても、その程度の損」だと読んでいれば、あれこれ試す気になれるのです。
■和田秀樹が本をハイペースで書き続ける理由
私が本をたくさん書くのも、実験の1つです。
私はこれまで700~800冊の本を書き、そのなかにはベストセラーになった本もありますが、「この本は確実に売れる」と思って書いたことはほとんどありません。どの本も実験だと思って書いているからです。

親切心からなのか、「和田さんはたくさん本を書きすぎているから、大きく売れないんですよ」と言われたことがあります。
量よりも質を重視して、1冊1冊を丁寧に作れば売れるというのですが、私は「なるべく多く打席に立つ」ことでヒットを狙うタイプ。あまり売れなかった本もなかにはありますが、10万部、20万部のヒットにも2年に1度くらいは恵まれています。
人間は、成功体験があったり、学歴が高かったり、よく勉強している人ほど、自分の頭のなかで考えたことに縛られ、現実が正しく認識できなくなります。そのままでは、変わりゆく現実についていけません。実験して、試してみないことには、現実がわからないのです。
私が本を書くのもそのための実験です。自分が頭のなかで考えていることに、縛られたくないのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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