還暦を過ぎても、生き生きとしている人は何をするといいか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは「高齢者が、大学の公開講座などで目的なく勉強を続けていると、“老害”になってしまう。
街の図書館に行くのにも注意が必要だ」という――。
※本稿は、佐藤優『還暦からの人生戦略』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■目的のない学習は結局続かない
いくつになっても学習し続けることはもはや当たり前になってきた感があり、生涯学習はそれほど特別なものではなくなりました。学習意欲を持ち、学び続けることはその人の人生を豊かにし、また社会全体のためにもなります。
自分の得意な分野を深掘りする、あるいは若いころ苦手だった分野や事情があって進めなかった分野の勉強をする。学ぶ目的も、学び方も人それぞれでしょう。まず還暦後に自分が何を、どう学ぶかを明確にすることがポイントです。
ただし学問や教養というものは、目的があるほど身につきやすい。外国で仕事をするために英語を習うのと、単に余った時間で漠然と英語を習うのとでは、身につき方に大きな差が出るのは当然でしょう。
さらに、そこに年齢という条件が加わります。はっきり言えば、還暦を迎えてイチから語学を習っても身につく可能性は限りなく低いと考えますが、何をするかは人それぞれ。
勉強すること自体が楽しいのであれば、それだけでも意味はあります。

生涯学習に近い言葉にリカレント教育というものがあります。これは、キャリアをアップさせたり、仕事を替えたりする際に必要な知識や資格を身につけるための教育のこと。
社会人になってから仕事を一度中断したり、仕事をしながら勉強したりする。キャリア構築という明確な目的を持ったうえでの学び直しです。欧米では当たり前になっていますが、日本ではまだまだ浸透していません。
■勉強自体が趣味で楽しいならそれでいい
一方の生涯学習はもっと広い概念で、キャリアと必ずしも連動せず、自分の関心を深掘りし、生きがいを持つことができる学び全般のことです。
趣味やスポーツ、芸事などの学びも含まれています。いわゆる教養を深めたい、知識を増やしたい、勉強すること自体が楽しいという学び方です。
リカレント教育というと現役世代が多く、生涯学習というとリタイア組が余暇を利用して学ぶというイメージが強い。しかし、今後は還暦を超えても生涯現役として働き続けるということであれば、リカレント教育が必要になる場合も増えてくると考えます。
どのような学び方が正しいということはありません。私個人としては、なにより作家として著作物を生み出すことが仕事であり、そのための勉強がすべてです。

とはいえ、学んで新しい知識を取り込むことが自分にとって大きな喜びであることは、学生時代からまったく変わっていません。
勉強自体が趣味で楽しいという人は、勉強し続けるのをやめるべきではないでしょう。
■学びを必要としている若い人を邪魔しない
大学の公開講座などでは、リタイア後のシルバー層の人たちが目立ちます。なかには明確な目的があって勉強している人もいますが、仲間と会ってコミュニケーションをとるために参加しているという人もいます。
公開講座もセミナーも定員があります。明確にシルバー層に向けたものであるなら別ですが、必要に迫られて学ぼうとしている若い人たちに割って入って、彼らの学ぶ機会を奪うことがないように配慮する必要があるでしょう。
また、年配の参加者のなかには授業中に自分アピールをして周囲に認められようとする人もいます。長時間質問をしたり単なる自慢話を繰り返したりと、まさに勉強の邪魔です。
若い人たちはそういう高齢者を見て、自分も還暦後はああなるのかと幻滅してしまう。いろいろな意味で彼らにとってマイナスの作用を及ぼすわけです。
実際、セミナーや講座によっては毎回顔を出すベテランがいて、まるで自分が主役であるかのように威張っている人物もいます。
言葉はきついかもしれませんが、そうなるとまさに“老害”です。
どうか、そのような在にならないよう気をつけてください。自分は大丈夫と考えている人がほとんどかもしれませんが、仲間ができたり、コミュニティができたりして常連がいるようなセミナーや講座だと、知らない間にそんな厄介な存在になってしまう危険性があります。目的なく勉強を続けている場合、こうした状況に陥る可能性があるので気をつけましょう。
■安易に図書館を利用するのは考えもの
その意味で、街の図書館に行くのにも注意が必要です。本との出会いを求めるのではなく、単に時間をつぶすために行くのだとしたら少し寂しい。
私自身は、還暦をすぎてからの読書は暇つぶしではなく、しっかりした学ぶべき目的や対象があって、それを深掘りするものであってほしいと思います。
正直、図書館で漫然と新聞を読んだり、文庫本を読んだりしている高齢者グループというのは、あまり前向きな感じがしません。特にどこも悪くないけど病院に行って時間をつぶしている高齢者と本質的に変わらない。
開館と同時に自分の読みたい新聞や座りたい場所を確保するため高齢者同士で揉めるなど、誰も見たくない光景です。
そもそも、書籍は自分でお金を出して買った方が身につきます。人間は現金な存在ですから、お金を出して買うと、しっかりと元をとらなければと思いしっかり読みます。語学などの学習でも教材や受講料に高いお金を払うので、必死になるという部分があります。

なにより自分の書籍なら、読みながらアンダーラインを引いたり自分の考えを自由に書き込んだりできる。すると理解度が劇的に変わってきます。
■テーマがあるなら大学の図書館こそ活用すべき
図書館とは、まだお金のない若い人がおもに行く場所であり、金銭的に余裕のある高齢者は、出版文化を支える意味でも書店で書籍を購入してもらえればと思います。
高齢者が図書館に行くのは市販されていない古い文献や新聞のバックナンバーを調べるとき、あるいは一冊数万円するような高価な本を読むときです。
その意味では、近くにある大学の図書館がおすすめです。今は大学の図書館は多くが地域に開かれています。一般の図書館にはない専門書や稀覯(きこう)本がたくさんある。自分が真剣に勉強したいというテーマがあるなら、大学の図書館こそ活用すべきです。
大学の施設はOB、OGに対して基本的に好意的なので、自分の出身大学ならなおのことおすすめです。そういう施設を効果的に活用しましょう。
あとは、地域のコミュニティセンターなども勉強するには意外に有効な空間です。図書館よりは人が少なく、利用スペースもけっこう余裕がある。

実際に行ってみると学生や社会人などが勉強スペースとして活用しています。地域によってさまざまな公共施設があるのでチェックしてみるといいでしょう。
■余裕があれば自習室やレンタルオフィスを
勉強するのにいいのは自習室です。図書館の読書室は意外にザワザワしていて、集中しにくいことがあります。
しかも昨今のコロナ禍であれば、できる限り大勢が集まる場所は避けたいもの。はっきりした目的のある人なら、お金がかかることがモチベーションにつながります。
最近の自習室はラウンジや個別ボックス、会議室などの施設が組み合わされたものが多い。平日限定の会員であれば、都心でも月額5000円くらいから利用できます。
ただし、金額が安いものはパーティションで仕切られた机が並んでいるだけということもあり、集中しづらいという人もいるでしょう。月額1万5000円から2万円くらいになると、ボックスタイプでより集中できるものがあります。
私は出張で京都に行くことが多いのですが、学生から教えてもらった自習室をよく利用しています。学生の街ということもあり、これが非常に集中できる。

自宅とは別に自分の部屋を持つことについては前述しました。自分だけの空間と場所確保することで、自分自身にもまた夫婦の関係にもプラスの効果がある。
ワンルームマンションとまではいかなくても、ちょっとした勉強スペースがあればいいという人は、このような自習室を借りるのもひとつの方法でしょう。
もう少しスペースがほしければ、レンタルオフィスを借りる手もあります。たとえば新宿のパークタワーの30階にある施設では、月額2万円程度からスペースを借りることができ、会議室やオフィス機器などを利用することができます。
オフィスとして活用することもできるので、勉強はもちろんですがビジネス利用もできる。リタイア後に何かスモールビジネスをしたい、独立した仕事スペースがほしいという人は、このようなレンタルオフィスも視野に入れるとよいでしょう。

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佐藤 優(さとう・まさる)

作家・元外務省主任分析官

1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で国策捜査の裏側を綴り、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)
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