※本稿は、加来耕三『歴史の一流は「師匠」から何を学んだのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■優秀な石田三成が最後に負けた理由
ここでは、師匠を持ちながら成功できなかった例として、石田三成を取り上げることにします。三成は、豊臣秀吉に「自分と能力が変わらないのは三成だ」と評されるほど、その才能を認められ、若くして引き上げられた人物でした。
それほど優秀な三成が、なぜ最後の最後、関ヶ原の戦いで、徳川家康に完敗してしまったのでしょうか。
その最大の敗因は、三成が師匠である秀吉から、最も重要な「人間関係の心得」というキーワードを学ばなかったことにありそうです。
三成は自負心が強く、ひとりよがりと受け取られる性格を、省(かえり)みることをしませんでした。自分が正しいと信じることは疑わず、正義を掲(かか)げれば誰もが無条件でついて来ると考えていました。
しかし世の中は、正義の心だけで人は動くわけではなく、人の心には私利私欲もあれば打算、感情もあります。
三成には他人の心の機微を知る努力が、著しく足りず、相手の感情に寄り添った物言いをする配慮に、終生、欠けていました。せっかく“人たらし”とまでいわれた秀吉を「師匠」に持ちながら、その極意を継承していなかったのは残念でなりません。
師匠の秀吉は、一介の足軽から苦労して成り上がった人物であり――それ以前の10代では3年間、戦国の世を放浪した体験も持っていました。
■読んだ人が喜ぶように工夫をこらした手紙
一方で、人を押しのけても、前に前に出る自分の性格、思ったことは口にしてしまう性格の長所・欠点も自覚していました。
そのため秀吉は、格下の相手に対しても「あなたのおかげで今の私がいる」と事あるごとに感謝を言葉にして伝え、頻繁に手紙や品物を贈る行為をつづけていました。
手紙には相手を褒める言葉だけでなく、ときには自虐や諧謔(ユーモア)も交え、読んだ人が喜ぶように工夫を凝(こ)らし、性格に応じて書き方を変えてもいたのです。
この秀吉の気くばりは、現代でも通用するに違いありません。
「あの人からのメールは、読むと元気が出る」と思ってもらえれば、信頼関係がますます構築され、いざというときに力を貸してもらえることにつながります。
一方で三成は、理屈を並べて道理を説き、正しいことを言っていれば相手は従うものだ、と思い込んでいました。三成がそう考えてしまった背景には、彼が育った環境も影響していたか、と思います。
10代だった三成が秀吉に出会い、召し抱えられたのは、秀吉が北近江(きたおうみ)三郡(現・滋賀県北部)の領主となった近江・長浜城主時代でした。
当然のごとく三成は、秀吉が織田家の小者から足軽、部将へと苦労して城の主(あるじ)となった過程を、見ていませんでした。
■師匠の強み、極意を学ぶ機会を逸した
秀吉と共に、辛酸(しんさん)を嘗(な)めながら這い上がってきた弟の秀長(当初は小一郎、長秀)とは異なり、三成は織田家や羽柴家(のち豊臣家)の中枢で、すでにある程度整った、秀吉の地位、環境の中で仕官生活をスタートさせています。
とくに秀吉が短期間(約8年)で天下を取ってからは、その側近中の側近である三成に、逆らおうとする人間はほとんどおらず、自分の主張や意見がすんなりと通る状況がつづきました。
その結果、三成は政治は理想を掲げ、大義名分を主張するだけで動かせるとの価値観を持ってしまい、天下人となることで見えにくくなっていた師匠の強み、極意を学ぶ機会を逸(いっ)してしまいました。
周囲は自分を、虎の威を借る狐としてしかみていない、という側面に気がつかなかったのです。あるいは気づいていても、たいしたことではない、と割り切って結論づけてしまっていたように思われます。
■勝手に報告書をあげ奉行の面子をつぶす
石田三成が、師匠である秀吉から人間関係の築き方や気くばりを、まったく学んでいなかったことがわかる挿話を紹介しましょう。
あるとき、城が暴風雨に見舞われました。三成は自分の役目ではないにもかかわらず、夜明けとともに城の内外を見て回り、台風による破損の程度を丁寧に調べ上げ、卯(う)の刻(こく)(午前5時から7時までの2時間)には秀吉に報告書をあげていました。
本来の担当である普請奉行は、夜が明けてから準備を始め、朝食後に動き出したため、秀吉への報告は巳(み)の刻(午前9時から11時までの2時間)になってしまいます。
遅れて普請奉行から報告を聞いた秀吉は、「すでに三成から報告書は来ておるぞ」といい、そのため奉行は面子(めんつ)をつぶされてしまいました。
奉行にしてみれば、自らは何一つ間違ったことはしていないのに、担当外の三成が勝手なスタンドプレーをしたことで、恥をかかされたわけですから、三成に対する怒り、恨(うら)みは半端なものではなかったと思います。
一方の三成は、奉行と競うつもりなどなく、気にかかって仕方がなかったので、つい検分したまでのこと。奉行の怒りを知っても、もし文句があるなら、自分よりも早く役目を果たせばいいだけのことではないか、と考えるのが三成でした。
他人の心情というものを、端(はな)から理解しようとしないのです。
■自分とは異なる考え方を理解できない
また、三成は金銭感覚や仕事への姿勢においても、独特の価値観を持っていました。
「人に仕える者は、主君から与えられた俸禄(ほうろく)(給金)を奉公(ほうこう)に万全を期すため、全部使い切るべきである。使いすぎて借金をするのは愚人(ぐじん)だが、使い残すのは盗人(ぬすびと)である」
これは三成が残した言葉です。
実際に三成は、近江佐和山(現・滋賀県彦根市)に19万石もの石高を与えられながら、実につつましい暮らしをしていました。
彼には贅沢への関心がなかったのですが、世の多くの人は、自分が稼いだお金で美味しいものを食べたり、いい暮らしをしたいと願うものです。その欲求があるからこそ頑張れる人もあり、主君に人生のすべてを捧げるために、彼らは生きているわけではありません。
仕事への達成感、やりがいを生きがいとする三成は、自分とは異なる考え方をする人が、この世の中にいることが理解できませんでした。
三成自身がどう振る舞うかは勝手ですが、他人にも自分と同様に、人生をまるごと主君に捧げろ、そこに生きがいを見い出せ、と迫るのは、いささか無理があったように思います。
■常に感情より論理を優先して言動
さらに三成は、朝鮮出兵から敗れて、帰国したばかりの福島正則や加藤清正に対しても、配慮に欠ける言葉をかけてしまいます。
地獄のような戦場を経験し、心身共にボロボロの状態であった彼らに、三成は「ご苦労様でした。国許に帰って休養してください。一年後には茶会でもやりましょう」と声をかけました。
三成としては、決して二人を軽く扱ったつもりはありませんでした。が、内心、自分こそが朝鮮出兵という大規模な計画を立案・実行し、全国に船舶を手配して、朝鮮との往来に遺漏(いろう)なく、出征将兵や食糧・武器の運搬を果たした。
そして全軍将兵を無事に撤兵させ得た、という自負心があったため、ついそれが言葉使い、表情に出たのかもしれません。
しかし、聞かされた帰還の武将たちは激怒しました。
「おまえは日本でぬくぬくとしていたくせに、生命懸けで戦ってきた俺達へのねぎらいが、その程度のものなのか――」
と。これが、人間の偽らざる生(なま)の感情です。
三成は常に感情より論理を優先して言動をしているため、相手の気持ちに気づくのが遅く、場の空気を読むことができませんでした。
こうした三成の態度や言動も、後ろ盾である秀吉の存命中はなんとか保たれ、表面化することはありませんでしたが、秀吉が亡くなった途端に、周囲の不満は一気に三成へと集中して向けられてしまいます。
■関ヶ原の戦いでも上から目線に説得する
加藤清正や福島正則などの「武断派(ぶだんは)」と呼ばれる猛将たちは、三成の屋敷を襲って殺してしまおうと計画するまでにいたりました。
けれども生命を狙われるような目に遭ってさえ、三成はわが身を省みることができませんでした。
彼らの敵意に対しても、「豊臣家の恩を忘れた人間である」「獅子身中(しししんちゅう)の虫め」といった解釈しかできず、自分に非があるとは微塵(みじん)も思わなかったのです。
三成は正義は常に豊臣家にあり、それに携わる自分に間違いはない、と思い定め、周りの武将も当然そう思っていると考えていました。
そのため諸大名に、関ヶ原の戦いで味方になってもらう際にも、「皆さんも太閤殿下(秀吉)のご恩に報いる時ですよ」と、完全に上から目線と受け取られる説得の仕方をしてしまいました。
その結果、関ヶ原の戦いにおける西軍からは、戦闘を放棄する武将、三成の攻撃命令に従わない武将、さらには裏切って東軍に味方する武将が相次ぐこととなります。
■厳しく指摘してくれる師匠が必要だった
やはり、三成には「そんなひとりよがりの態度では、墓穴(ぼけつ)を掘るぞ。いまのうちに、改めよ」と厳しく指摘してくれる師匠が必要でした。
可能な人物としては秀吉の弟・秀長が挙げられますが、彼は豊臣政権が日本を統一した(北海道と沖縄を除く)翌年に、52歳で病没してしまいました。
日本史上最大の合戦の帰趨(きすう)は、三成の気くばりの欠如によって決まった、といえなくもありません。
----------
加来 耕三(かく・こうぞう)
歴史家、作家
1958年、大阪市生まれ。奈良大学文学部史学科卒業。『日本史に学ぶ リーダーが嫌になった時に読む本』(クロスメディア・パブリッシング)、『歴史の失敗学 25人の英雄に学ぶ教訓』(日経BP)など、著書多数。
----------
(歴史家、作家 加来 耕三)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
