■アメリカとイランが送り合う「無理難題」
アメリカの対イラン軍事攻撃から約1カ月、事態はいまだ終結の兆しが見えない。当初3月31日から予定していたトランプ大統領の訪中も、5月中旬へ先送りされることがホワイトハウスから発表された。
戦争は早期に終結するとの青写真を描いていたトランプ大統領。対中戦略や国内での求心力回復に注力するためにも、イランとは早々に決着をつけたいという焦りに駆られている。
3月24日、トランプ大統領はパキスタンの仲介を通して、イランに15項目の停戦計画案を提示した。停戦計画案では、主要核施設の解体または大幅な無力化、ウラン濃縮の停止、保有する濃縮ウランの国外搬出・除去、弾道ミサイル計画の制限または放棄、ヒズボラやフーシ派、ハマスなど代理勢力への支援停止、ホルムズ海峡の全面的な開放などをイランへ要求した。
これらに対する見返りとして、アメリカは核関連制裁の緩和と民生用核エネルギー計画への監督付き支援を挙げた。
しかし、この要求はイランにとって国家主権の放棄に等しく、到底受け入れられるものではない。イラン側は、アメリカからメッセージが送られてきたことは認めつつも、交渉を行っていることについては否定した。その上で、アメリカ側の要求を一切拒否し、逆に5項目の要求を突きつけた。
再び戦争を強いられない不可侵の制度化、賠償金の支払い、ホルムズ海峡におけるイランの主権の完全な承認、親イラン組織を含む地域全体での戦闘終結、侵略行為と暗殺作戦の完全停止がアメリカへの要求だ。
■トランプの「時間設定」が意味すること
賠償金の支払いやホルムズ海峡主権の承認など、こちらもアメリカにとって受け入れ難い「無理難題」である。両者は国際社会に向けた正当性を誇示しながら、出口のない水掛け論へと沈み込んだ。
原油価格の高騰を避けるためにも戦争終結を急ぎたいトランプ大統領は、3月22日、イランに対しホルムズ海峡を48時間以内に開放しなければ「イランのエネルギー施設」や「発電所」を攻撃すると警告していた。その後、24日には5日間の期限延期、26日にはさらに10日間の延期を発表した。
同時に、米国防総省が陸軍の精鋭部隊第82空挺師団の派遣命令を出し、第31海兵遠征部隊を強襲揚陸艦「トリポリ」に乗せてイランへ急行させている。第82空挺師団はパラシュート降下による緊急展開を担う、米軍でも特に機動力の高い部隊として知られる。
トランプ大統領が時間設定する場合は、ろくなことが起きない。イラン側は、トランプ大統領が交渉すると見せかけることで油断を誘い、イラン本土への上陸部隊を集結させる時間稼ぎをしているのではないかと不信感を募らせている。
今後、アメリカやイスラエルが攻勢を仕掛けようとも、イランが白旗をあげて停戦することは考えにくい。アメリカ側が優位な形で見切りをつけても、争いの長期化は避けられないだろう。
■「革命の輸出」という罠
そもそも、なぜアメリカはイランと争う必要があるのか。
現在のアメリカ・イスラエル対イランの衝突を、単なる「核開発」や「航行の自由」を巡る局地的な対立と見るのは拙速だ。この対立の本質は、1979年の建国以来、イランのイスラーム体制が国是として掲げてきた「革命の輸出」という現状の国際秩序に対する変更工作にある。
アメリカが核問題やホルムズ海峡の航行の自由と並べて突きつけた「代理勢力への支援停止」という要求は、イラン政府にとって単なる政策変更ではない。
1979年、イランはパフラヴィー朝の王政を倒し、シーア派宗教学者が国家を治めるイスラーム体制を築いた。そのイスラーム革命の理念と体制モデルをイラン国外にも広げ、特に抑圧された人々のための普遍的な運動として位置づけて、中東のパワーバランスを根本から覆すことを画策した。そして、この理念をイラン革命防衛隊、特にその精鋭部隊である「コッズ部隊」を通じて具体化させてようとしてきたのである。
1982年、革命防衛隊は内戦下にあったレバノンでヒズボラを結成し、シリアのアサド政権やパレスチナ自治区でイスラエルに抵抗運動を行うハマスへ支援を行い、「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを築いてきた。抵抗の枢軸はイランの力による現状の国際秩序変更のフロントラインとして機能した。
■レバノンがイランの「操り人形」になったワケ
革命防衛隊はハーメネイ最高指導者の後ろ盾も得て、イラン国外で軍事活動のみならず、建設事業や貿易など経済活動も行う軍産複合体として成長した。国外に革命の輸出を進めることで存在感を発揮し、国内での予算獲得枠の拡大をも正当化してきた。
その後、ヒズボラはイランの支援を受けて成長し、内戦が続くレバノンで草の根運動的な慈善活動も並行して行ったため、現地で一定の支持を獲得した。ヒズボラ出身者もレバノン国政に進出し、ヒズボラはレバノン国家の中の国家と評されるほどの存在感を見せるようになった。
こうしてイランは正規国家の外側にヒズボラという独自の軍事・政治・社会サービス網を作ることで、国家の一元的主権を弱め、レバノンの実質的な支配権を手に入れたのである。
■中東に散らばるイランの代理勢力
1981年、バーレーンでは、過激派組織「バーレーン解放イスラーム戦線」がイランをモデルにしたイスラーム体制を築くことを目指し、バーレーン政府にクーデターを起こす事件が発生した。クーデターは未遂に終わったが、「バーレーン解放イスラーム戦線」はイラン国内に拠点を持ち、シーア派宗教指導者ハーディー・モダッレシーの下にイラン情報機関や革命防衛隊の訓練・資金支援を受け、2000年初頭まで活動を続けた。
現在、紅海航行の安全を人質にとるイエメンのフーシ派も、イランから軍事・技術・資金面で支援を受けて育ったイランの有力な「代理勢力」だ。2024年の国連専門家報告では、フーシ派戦闘員が偽造パスポートでイラン、レバノン、イラクへ移動し、革命防衛隊の軍事訓練を受けていたと指摘されている。
また、フーシ派創設者フセインの父バドルッディーンは、イランの宗教都市コムでイスラーム学を学んだと言われ、昔からイランのシーア派宗教学者との交流があったとアラブ紙でもたびたび指摘されている。
一方、イランは国際テロ組織アルカイダとの繋がりも指摘されている。2009年、米財務省によるとアルカイダのムスタファ・ハミド氏がイランを経由して移動し、イラン国内で革命防衛隊に匿われ、活動を行っていたという。
ムスタファ・ハミドは、エジプト出身で1980年代の対ソ連アフガニスタン戦争にもアラブ義勇兵として参加した。その後、アルカイダに加入し、古参メンバーとして主にアルカイダとイラン政府の主要な仲介役を務めた。1990年代には、ビンラディンとイラン政府を仲介し、アルカイダ戦闘員がイラン国内を安全に通過できる「回廊」の確保に尽力したと言われる。
■核問題が解決しても中東は“泥沼”になる
こうしてイランは、周辺国の内戦、親イラン勢力、テロ組織を利用して静かな力による現状変更を繰り返してきた。
トランプ大統領はイスラエルとアラブ諸国の関係改善を目指す「アブラハム合意」を2020年に仲介した。一方、サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化の見返りにアメリカとの独自の防衛協定を望んできた。こういった動向はイランに対する脅威を見据えた結果だ。
3月24日、ニューヨークタイムズは、サウジアラビアのムハンマド皇太子がイランとの戦争を継続するようアメリカに働き掛けたと報じた。サウジアラビア政府は否定しているが、報道が事実であれば、中東諸国がイランの革命の輸出の脅威を深刻に受け止め、その解決を望んでいる証拠と言える。
革命の輸出はイラン現体制の国是であり、革命防衛隊の存在意義そのものだ。現在のイラン体制が続き、モジタバ最高指導者のもと革命防衛隊がさらに影響力を増していく中では、イランの革命の輸出は今後もさらに続いていくだろう。
仮に核開発の問題が解決されようとも、革命の輸出でイランの力による現状変更が続く限り、イランを最終的に屈服させたことにはならないのである。
3月28日、イエメンのフーシ派は、イスラエルに向けてミサイルを発射し、イラン戦争への参戦を発表した。ホルムズ海峡に続き、スエズ運河にも通じるバベルマンデブ海峡の「封鎖」の危機にも突入しようとしている。トランプ大統領は、開戦前には起こり得なかった新たな危機を自ら生み出し、これまで「革命の輸出」が築き上げてきた泥沼に陥り始めている。
中東に多くのエネルギーを依存する日本にとって、イランをめぐる争いは今後も大きな悩みの種となっていくだろう。
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野村 明史(のむら・あきふみ)
拓殖大学海外事情研究所准教授
王立サウード国王大学教育学部イスラーム学科卒業(サウジアラビア王国)。拓殖大学大学院国際協力学研究科安全保障専攻博士後期課程修了。博士(安全保障)。拓殖大学海外事情研究所助手、助教を経て、2023年より現職。デジタルハリウッド大学客員准教授。中東情勢の現状分析とイスラーム政治思想の研究を主に行っている。外務省主催の会議などに参加してイスラーム過激派対策やイスラーム教育にも取り組んでいる。
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(拓殖大学海外事情研究所准教授 野村 明史)

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