渋谷の大規模再開発が最終段階を迎え、かつて「若者の街」と呼ばれた歓楽街は大きく変貌を遂げた。人気サイト「東京DEEP案内」管理人の逢阪まさよしさんは「大規模再開発と外国人観光客の急増により、いまの渋谷はかつてのアイデンティティを失いつつある」という――。

■渋谷は「金太郎飴のような街」になってしまった
ここ最近の東京はというとどこもかしこも大手のデベロッパーが手を加えて、超巨大な複合商業施設をバカスカ量産しまくり、蓋を開ければ“金太郎飴”のようになってしまった感がある。これもひとえにデベロッパー各位が銭儲け主義に走るばかりで、採算性しか見ていないので、資本力のある企業しか参入できず、条件に合致するテナントといえば決まり切ったチェーン店ばかり。だから中身のないモールが続々と誕生してしまい、街の魅力をかえって削ぎ落としてしまっているのではないか。
さて、そんな中で近年めっきり良い評判を聞かなくなってしまった街と言えば、かつて“若者の街”だなんてレッテルが貼られていた山の手副都心の一大繁華街「渋谷」である。
ここ10年と少しの流れを振り返れば、その期間中で最も街自体が“変質”したのは渋谷ではないかと思うくらい、“別物”になってしまった。
■変な画一感が出てきてしまっている
特にこの10年以内に開業した大規模複合商業施設を挙げると、渋谷駅に直結する一等地に出来た「渋谷スクランブルスクエア」(2019年開業)、さらにその南側にそびえる「渋谷ストリーム」(2018年開業)、加えて渋谷駅南西側の一帯には「渋谷サクラステージ」(2023年開業)と、一気に駅周辺の一等地が超高層ビルに取り囲まれた空間へと姿を変えてしまった事がわかる。最新式のビルとはいえどれもナントカの一つ覚えみたいなバリッバリのガラス張りの建物で、変な画一感が出てきてしまっている。これには一部から批判の声が出ても不自然でないように思う。ちなみにいずれも東急グループがデベロッパーとして参加している。
そればかりではない。渋谷の中でもとりわけ人々のくつろぎの場として重要なはずの「宮下公園」も一変した。かつてと比べ綺麗になったのは何よりだが、公園の階下をごっそり商業施設で覆い被せてしまい、公園というよりもビルの屋上庭園みたいな空間になってしまっている。
せめて芝生の広場でも作って、そこに行けばどこでもレジャーシートを広げて自由に休憩できるようにしてくれたら良かったのに、あまり座れるスペースもない。階段だけで行くのは辛いし、商業施設のエレベーターを使って行き来するのも面倒だ。公園のようで公園ではない。これでは本末転倒である。
■新しくできた商業施設も苦戦中?
渋谷駅前から外れるが、原宿駅方面にJRの線路沿いのファイヤー通りを北上していくと、代々木体育館の手前(岸記念体育会館があったところ)に東急不動産が手掛けた「代々木公園 BE STAGE」という商業施設が現れる。
2025年に出来たばかりのところだが、ここも場所が人々の動線から外れているせいもあって、のっけからテナントが苦戦しているとも聞く。最近の東急グループは不動産ビジネスのセンスが欠落してしまったのだろうか。
■「東横線の直通運転」で変わってしまった
ちょっと昔に遡(さかのぼ)れば、渋谷というのは人々が集まる“一大繁華街”としての貫禄が充分にあった。新宿、池袋と肩を並べる山の手三大副都心の一つ、そう位置づけられていたはずだ。
その最たる象徴的な光景は、東急東横線がかつて地上にあった時の渋谷駅の駅舎だ。東横線ユーザーはどこから電車に乗ろうと否応なしにこの駅で降ろされ、渋谷の繁華街へと散っていった。
それが2013年3月16日以降、新たに開業した地下ホームでの運用に切り替わり、東横線を走る全ての電車が地下鉄副都心線との直通運転を始めるようになった。
この日を境に、渋谷は単に“通り過ぎるだけの街”に変質してしまったと当方は見ている。
少し電車に乗れば新宿、池袋に行ける。そっちに行った方がヨドバシもあるしサンシャインシティもあるし……ということで、ショッピングを楽しみたい人なんかは余計に渋谷に行く理由が無くなった。
■「外国人観光客の増加」で変質した
渋谷が変質を遂げたもう一つの要素は「外国人観光客の増加」である。
東横線渋谷駅が地下化した2013年には約1036万人だった外国人観光客が2025年にはなんと約4268万人にまで増えている。12年間で約4倍に増えたということだ。
外国人観光客達の興味を引く対象は渋谷駅前のスクランブル交差点。あれだけ人でごった返しているのに誰一人としてぶつからない。どうなってるの? そんな疑問を胸にこの交差点にやってきては思い思いに記念撮影したりはしゃいだりしている。
■外国人観光客とのトラブルも発生
外国人に渋谷の街を喜んでもらえるのもいいことだが、一方ではスクランブル交差点を横断中に外国人観光客の子供が“ぶつかりおばさん”にタックルされて吹き飛ばされるなど、通行人との間に笑えないトラブルも発生している。
増えすぎた外国人に一部の人間が苛立ちを露わにして敵意を向けるなんていうことも珍しくはない。ハチ公前広場はいつ行っても外国人だらけだし、新宿や池袋ほど各種商業施設が集積しているわけでもないのに無意味に人でごった返している、そんな渋谷をわざわざ訪れるまでもない、そう判断する人も増えている。

■昔の渋谷は「猥雑な空間」だった
もっと昔に遡ってみよう。当方が初めて渋谷の地に降り立ったのは今から19年前、2007年の事だ。まだそれほど外国人観光客の姿もおらず、スクランブル交差点の周辺を見ても日本人しか居なかった。この頃はフリーハグが一大ブームになっていて、渋谷の駅前にも「FREE HUGS」と書かれたプラカードを掲げた学生風のお姉ちゃんがニコニコしながら立っているのが目に入った。
昔の渋谷は決して洗練されたオシャレな街でもなんでもなく、外国人を喜ばせるための街でもなく、路地に入れば小汚いラブホテル街やらストリップ劇場、風俗店なんぞがひしめき合って、猥雑(わいざつ)という言葉そのものの空間でもあった。道玄坂小路だとか百軒店だとか、素人はまず近づくこともない一角もたくさんあった。
円山町まで行けば、東電OL殺人事件のあったアパートとか、ホテル街なんかも未だにある。とにかく怪しい街だったが、だからこその人間臭さを漂わせていた街でもあった。東京の繁華街ならではの情緒、坂道になった細い路地裏を歩くカップル。人と人が惹かれ合う街、二人はどこへ向かうのか……。そういった想像を搔き立てる部分があった。
■厚木や埼玉のヤンキーがたむろしていた
道玄坂のあたりとかをウロウロしていても、外国人よりも多かったのが、国道246号線を伝って厚木あたりからそのまま出てきたのかなと思うようなヤンキーの車だったり、埼京線に乗って埼玉から流れてきたような、とっぽいヤンキーの集団であった。

そうした集団が10月末頃になると各々にオバケの仮装をしてやってきて、地元商店街のエライさんもマジギレする街頭迷惑ハロウィンパーティーに興じたりもする。またはワールドカップみたいなサッカーの大きな試合が始まるとなぜか渋谷に集まって集団観戦し始めるファンの集団も現れたりしてカオスに。
■渋谷のアイデンティティが失われつつある
“渋谷名物”となっていたハロウィンの馬鹿騒ぎは2023年以降実質的に「禁止」の措置が取られ仮装集団の数も減少しているというが、今も無くなってはいない。
2020年のコロナ禍に加え、2022年10月に韓国ソウルで起きた梨泰院雑踏事故のこともあって、世間の目はこうした馬鹿騒ぎに対して数段厳しくなった。
ハロウィンの雑踏を傍から見ると「ああ、確かに渋谷って若者の街なんだなあ」と思ったりもするが、そこに秩序が無くなってしまうと何が起きるかわからない怖さがある。そうした無秩序を許してしまう空気が渋谷の街から“普通の人”を遠ざけてしまっているのかも知れない。
そして冒頭で触れた、渋谷の街を埋め尽くす、金太郎飴的な駅前大型複合商業施設のテナント群に至る。渋谷がもはや何を目指し、何をしに来る街なのか、アイデンティティが失われつつある。東京でしか見られない人間社会を観察しにやってくる場所だ、というのが渋谷に対する評価だったのだが、近年の変容でそれすら怪しくなってしまった、というのが最近の印象である。渋谷の街が持っていたはずの“吸引力”はどこに行ってしまったのだろう。

----------

逢阪 まさよし(おうさか・まさよし)

「東京DEEP案内」管理人

日本各地に残るディープな街並みをテキストと写真で紹介する人気サイト「東京DEEP案内」管理人。現在は有料noteに移行して発信を続けている。
著書に約4万部を売り上げた『「東京DEEP案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街』(駒草出版)などがある。

----------

(「東京DEEP案内」管理人 逢阪 まさよし)
編集部おすすめ